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胸腺腫について

胸腺腫はリンパ球を作っている胸腺の腫瘍です。胸腺には他の腫瘍も発生しますが、胸腺腫はリンパ球の生成に重要な役割をしている胸腺上皮細胞の腫瘍で、胸腺腫のなかにはたくさんのリンパ球があるのが特徴です。下の写真は胸腺腫の顕微鏡写真で黒く丸く見えているのがリンパ球です。このリンパ球は腫瘍ではなく正常のリンパ球です。リンパ球のまわりに腫瘍化した胸腺上皮細胞があります。

胸腺腫の22.4%に重症筋無力症を合併しており、また重症筋無力症の患者さんの24%に胸腺腫の合併がみられます。このように両者には因果関係があると考えられます。胸腺腫が重症筋無力症を引き起こす原因となると考えられます。

胸腺腫は肺癌などどくらべると転移しにくい比較的良性の腫瘍で、5年生存率も約80%あります。

これは当教室の前任の正岡昭先生のつくられたステージ分類で世界中で用いられている標準となっているものです。

ステージ 5年生存率(%)
I 披膜につつまれているもの
組織学的に披膜浸潤がないもの
81.5
II 縦隔胸膜、脂肪に浸潤
組織学的に披膜浸潤がある
85.3
III 肺、心膜、横隔神経、腕頭静脈、上大静脈など隣接臓器に浸潤 79.8
IVa 胸腔、心嚢等に播種 48
IVb 血行性あるいはリンパ行性転移

胸腺腫のなかでも披膜(胸腺腫をつつんでいる膜)につつまれて、周りの臓器に浸潤(進展)していないもの(ステージ1)および浸潤が、胸膜にとどまっているもの(ステージ2)はまず確実に手術で治ると考えられます。

周りの臓器に浸潤しているもの(ステージ3)や、胸膜にばらばらと散らばってひろがっているものや、リンパ節や血行転移のあるもの(ステージ4)は手術で取りきれないことがあります。ステージ3のうち、浸潤の程度の軽いものは、手術でとりきれる可能性が高いので手術が第1選択です。上大静脈や、大動脈などに浸潤しているものは術前に化学療法または放射線療法を行った上で手術すれば化学療法の効果のあるものは取りきれる可能性があります。この場合は人工血管などを使うことがあります。

胸腺腫があるとどうして重症筋無力症になるのかはまだわかっておらず、われわれの最大の研究課題です。現在までの我々の研究を総合すると胸腺腫で発育するリンパ球は、通常の胸腺で発育するものと異なり自己抗原に反応するリンパ球が除去されることがないのでこれが自己免疫疾患発生に寄与していると考えています。

胸腺腫を合併した重症筋無力症患者さんの重症筋無力症は胸腺と胸腺腫をとれば胸腺腫のない人と同様改善しますが、その程度は胸腺腫のない人に比べ少し劣ることが多いです。その理由はよくわかっていません。

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