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シクロスポリン、プログラフについて

シクロスポリン、プログラフの作用(すこし難しいお話)

これら2つの薬剤は構造が異なり、投与されたときに体の中の細胞の中で結合する蛋白も異なる(シクロスポリンはシクロフィリン、プログラフはFKBP)のですが、最終的に作用するところは同じで、カルシウムによって制御されているカルシニューリンという蛋白を抑制し、結果的にNFATという一群の転写因子(遺伝子から蛋白を作る指令をだすもの)を抑制すると考えられています。同じ免疫抑制剤のステロイド(プレドニン)はやはり転写因子のNFカッパBというものを抑制すると考えられています(ステロイドはT細胞だけでなく、いろいろな細胞でいろいろな働きをするため、副作用も多様です)。NFATのTの字はT細胞のTで、シクロスポリン、プログラフはある程度T細胞特異的に働き、T細胞によるIL-2などのリンフォカイン(細胞を増殖させたり、B細胞に抗体を作らせたりするもの)産生を抑制することにより、免疫抑制剤として働きます。

副作用について

これらの薬には共通して腎機能障害という副作用があります。もちろん免疫を抑制するため、ウイルスなどの感染に弱くなります。全身性ヘルペスやステロイドパルスを併用するようなときはカリニ肺炎などに十分注意が必要です。その他高血圧、高血糖、手足の震え、シクロスポリンの多毛など上にあげたような副作用があり全く安心して使える薬ではありません。これらの副作用を防ぐため薬の血中濃度を定期的に測らなくてはなりません。

妊娠とシクロスポリン、プログラフについて(大事なお話)

シクロスポリン、プログラフは最終的にNFATという転写因子を抑制します。ところで遺伝子をこわすことにより、ねずみでこのNFATの働きを全くなくしてしまうことが可能です。このようなねずみは、心臓の弁や血管がうまく作られなくて子供が生まれない(胎児で死んでしまう)ことが知られています。シクロスポリン、プログラフが充分効果を発揮すると、このようなねずみと同様な状態になると考えられるので、この薬を飲んでいる間は妊娠しないことが大事です。もちろん非常に少ない量ではこのような効果は少ないと考えられます。腎臓移植の患者さんなどでシクロスポリン、プログラフを飲んでいて出産した例はたくさんありますが、実際は特定の奇形が多いという報告はありません。男性が飲んでいてパートナーが妊娠したときに関するデータはほとんどありません が、胎児が成長する初期に主として影響があると考えられるので、報告されている心奇形に関してはまず大丈夫であろうと考えています。

多くの薬は実は妊娠中は要注意という注意書きがあり、それでもたいては大したことはないだろう、ということで投与されることが多いのですが、シクロスポリン、プログラフに関しては上記の作用機序から 、高濃度になれば、かなり確実に胎児の発達に影響を与えるだろうと考えられます。厚生省により妊婦には禁忌(投与してはいけない)とされています。我々のところではシクロスポリン、プログラフを女性に投与するときは妊娠しないことを条件にご理解願った上で投与しています。 なお乳汁移行があり授乳もさけるべきとされています。

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