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そもそもなぜ重症筋無力症になるのか

この答えはじつはまだ得られていません。われわれはこれを解明するために日夜研究しています。現在までにわかっていることをお話しすると、胸腺腫のある重症筋無力症の患者さんは胸腺腫でのT細胞分化が正常胸腺とは異なるため、自己抗原に反応するT細胞が成熟してしまうので、いろいろな抗原に対する抗体を作ってしまい、その一部として抗アセチルコリン受容体抗体が産生されるため重症筋無力症になると考えられます。骨髄移植のあとに重症筋無力症になる人があるのですが、似たようなメカニズムによると考えられます。

胸腺腫のない重症筋無力症の患者さんはどのような原因で重症筋無力症が発症するのかは現在のところ不明です。胸腺の異常(胚中心形成)が発症の原因か結果かすらもわかっていません(私は結果ではないかと考えているのですが)。重症筋無力症の原因抗原であるアセチルコリン受容体が胸腺にあるかどうかもまだ議論があります。

ウイルス等が感染し、それに対する免疫反応が起き、それがたまたまアセチルコリン受容体に反応することで重症筋無力症が起きるという説が根強くあります。もしそうだとすると、特定のウイルスとの関連があるべきですし、免疫学的に考えると特定のHLAとの関連があるはずです。また大きなアセチルコリン受容体分子のなかでも特定の部位に対する抗体が多くみられるはずです。これらのことはいずれも実際の患者さんではみられませんので、ウイルス等による交叉抗原による発症は免疫学的にみて考えにくいと思います。

これらのことを決定的に解明する実験は難しく、研究はゆっくりとしか進んでいません。しかし、着実にいろいろなことが明らかになっていますので、いずれある程度の結論が得られることでしょう(われわれが研究している間に起きてほしいものです)。

もし原因がはっきりしても、(それがウイルスによるといったことでもない限り)治療は現在とそれほど変わるとは考えられません。アセチルコリン受容体に対する免疫反応だけを抑制することを私はアメリカで研究していましたが、これは大変難しく、実現は難しいと思います。したがって、有効な副作用の少ない免疫抑制剤が出現することが望まれます。これは十分可能性があり、サイクロスポリンによる治療効果が良いことからもこの分野に期待を持っています。

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