年報第14号(平成19年9月)

1.挨拶 医学研究科長 郡健二郎


 実験動物研究教育センター2006年度年報の発刊にあたり、1年間円滑に運営してくださったことに対しまして、センター長の白井智之先生およびセンター主任の三好一郎先生はじめスタッフの皆様に心より感謝申し上げます。
 昨年度から本学が独立行政法人化され、センターの経費がさらに節減という厳しい状況のなか、感染症対策や漏水対策をはじめ、様々な問題に適切に対処していただき、着実に実績をあげられていることに心よりお礼申し上げます。
 さて、平成18年6月1日から「動物の愛護及び管理に関する法律」(動物愛護管理法)が施行され、動物実験計画書の立案から作成・提出、実験の実施、報告書の提出に至るまで「3Rの原則」(代替法の活用:Replacement、使用数の削減:Reduction、苦痛の軽減:Refinement)の遵守がより重要になりました。このように実験動物をとりまく周辺状況は厳しくなりますが、医学の発展のために動物実験は欠かすことができません。本年もさらに多くの秀れた研究が本医学研究科でなされ、すばらしい成果をあげ世界に発信することにより、社会に貢献していただきたいと思います。
 ところで先日、ある学会が東京ディズニーランドの隣のホテルで行われ、懇親会に突然ミッキーとミニーが登場しました。会場にいた一同は、昼間の厳しい学術集会とはうって変わり、老若男女を問わず、みな笑顔で見入っていました。研究に用いるマウスにも同様の気持ちで接したいものです。
 実験動物研究教育センターのさらなる発展と、本医学研究科の研究成果の向上は車の両輪です。今年も円滑かつ効率的な運用をしていただき、業績を重ねていただきますよう関係の方々に心よりお願い申し上げます。


2.年報の発刊にあたって センター長 横山信治

 4月から実験動物研究教育センターのセンター長をお引き受けすることになりました。前任の白井教授はセンター長の仕事を長く続けられ、その任務に精通しておられましたが、今回私は初めてのことで、不慣れ故何かと不手際もあるかと予めお詫び申し上げます。しかし、センターの運営自身は、三好センター主任を先頭とするスタッフの「獅子奮迅」の働きにより、おそらく全国の大学の中でも有数の優れた状態で行われていると思います。私の仕事は、直接運営に携わる方々と利用者の方々の双方に、こうした努力のし甲斐のある環境を整えてゆくことでありましょう。こういう施設は、このような努力があればあるほど利用者にはその有り難みが感じられなくなる、つまり順調に運営されているのが当たり前であるという感覚になりがちです。しかし、最近の大学・研究期間が直面している様々な困難の中で物事がスムーズに運ばれているとすれば、その陰にどれほどの努力、時間とエネルギーが費やされているのかを、利用者の諸氏には是非ご理解いただきたいと思います。
 現在センターが持つ問題はいくつかあります。そのうち長期的に見て最大のものは財政問題です。法人化に先立つ数年前より、市の予算削減に対する様々な対応を行って参りましたが、法人化後の今日経費の切りつめは限界に近づいており、何らかの抜本的対処が必要になりつつあります。もう一つは、昨年の「動物愛護法」改訂に伴う大学としての対処です。この問題は大きく分けて二つあります。まず、動物実験の管理体制について「法人」としての大学が直接責任を持つ必要性がでてきたこと、つまり各施設の運営や全学で行われているあらゆる動物実験のあり方に責任を持つ全学規模の機関(多分予算も含め)が必要になったことです。次に、国の動物実験のガイドラインの遵守が厳しく求められることになる点です。これには三つのRとよばれる要素、すなわち「どうしても動物を用いなくてはならない、代替法では目的が達成できない理由があること(replacement)」「使用する動物の数を出来る限り削減すること(reduction)」「出来る限り動物に苦痛を与えないこと(refinement)」について実験プロトコールでの明確な記述が要求されています。これを守って頂くことが、本学の科学研究の基盤の維持発展にとって本質的に重大な事項であることを、是非ご理解いただきご協力をお願いしたいと思います。
 実験動物研究教育センターは、医学研究科の研究インフラの中でも、ハード・ソフトの両面で、決定的に重要な役割を果たしてきているのは言うまでもありません。これからもその重要性は増すことこそあれ低下することはあり得ません。皆様のご理解とご協力でその役目が果たせるよう、どうぞ宜しくお願い申し上げます。


3. 利用状況

(1)各分野月別登録者数
(2)年間月別搬入動物数(SPF、コンベ)
(3)各分野月別搬入動物数
●マウス
●ラット
●ウサギ
●スナネズミ、イヌ、ブタ、モルモット
(4)各分野月別延日数飼育動物数
●マウス
●ラット
●ウサギ
●スナネズミ、モルモット


4.沿革

昭和25年4月 名古屋市立大学設置
昭和45年3月 医学部実験動物共同飼育施設本館完成[昭和45年5月開館]
昭和54年3月 医学部実験動物共同飼育施設分室完成[昭和54年7月開館]
昭和55年3月 医学部実験動物共同飼育施設別棟完成[昭和54年7月開館]
昭和55年4月 第一病理学講座 伊東信行教授が初代施設長に就任
平成元年4月 医学部動物実験施設に名称を変更
平成3年4月 小児科学講座 和田義郎教授が第二代施設長に就任
平成3年5月 新動物実験施設改築工事起工
平成4年11月 新動物実験施設完成
平成4年12月 安居院高志助教授が施設主任に就任
平成5年3月 新動物実験施設開所式
平成5年4月 第二生理学講座 西野仁雄教授が第三代施設長に就任
平成5年5月 新動物実験施設開所
平成9年4月 第一病理学講座 白井智之教授が第四代施設長に就任
平成9年5月  医学部実験動物研究教育センターに名称を変更
平成14年4月 医学研究科実験動物研究教育センターに名称を変更
平成14年9月 安居院高志助教授が北海道大学教授として転出
平成15年4月 宿主・寄生体関係学 太田伸生教授が第五代センター長に就任
平成15年4月 三好一郎助教授がセンター主任に就任
平成17年4月 実験病態病理学 白井智之教授が第六代センター長に就任
平成19年4月 生物化学 横山信治教授が第七代センター長に就任


5.構成

センター長 横山信治(併任、生物化学教授)
センター主任(特任教授) 三好一郎
衛生技師 宮本智美
業務士 西尾政幸
飼育委託 株式会社ラボテック
ビル管理委託 日本空調システム株式会社


6.平成18年 行事

1月11日 センター主催新年会
2月23日 平成17年度 第6回講習会
4月14日 平成18年度 第1回講習会
4月24日 平成18年度 動物実験委員会
5月25日 平成18年度 第2回講習会
6月5日 平成18年度 第1回運営委員会
6月12日 平成18年度 第1回運営協議会
7月12日 平成18年度 第3回講習会
7月29日 センター主催講演会

特別講演 山崎英俊(三重大学大学院医学研究科ゲノム再生医学講座 再生統御医学分野)
     「神経堤細胞と器官形成」
トピックス 二上英樹(岐阜大学生命科学総合研究支援センター 動物実験分野)
     「動物愛護法の改正及び研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針に関して」
一般講演
1. 食餌制限ラットにおける下顎骨・脛骨骨密度の加齢変化と修飾要因
2. F344/Nラットにおける加齢に伴う歯牙咬耗の判定
3. 60日齢ラット下顎骨からうかがえること
4. ロシアハタネズミの出生後における大臼歯の萌出過程
5. Histopathology of inner ear in the joggle mutant mouse and its gene mapping on chromosome 6
6. 沖縄で発見されたアルビノ様野生スンクスの遺伝様式と系統育成
7. 癌型Rasとp53機能喪失の協調による多形型横紋筋肉腫の発生
8. 中枢神経,神経提細胞特異的な癌型N-Ras発現による神経線維腫症病態モデルマウスの作製
9. Pur-1遺伝子領域を導入したコンジェニックラットにおける蛋白尿発症
10. LECラットの放射線高感受性の原因遺伝子の同定の試み
11. ヒメコミミトガリネズミCryptotis parvaの米国からの導入
12. Pasteurella pneumotropica感染の傾向と対策

9月26日 実験動物感謝式
9月28日 平成18年度 第4回講習会
11月6日 平成18年度 第5回講習会
12月4日 平成18年度 第6回講習会


7.研究成果

 名古屋市立大学大学院医学研究科実験動物研究教育センターを使用し得られた研究成果のうち、2006年中に公表された論文をまとめた。ここには原著のみを掲載し、総説、症例報告、学会抄録等は割愛した。


8.編集後記

 昨年6月1日から施行された改正動物愛護管理法に基づき,環境省より「実験動物の飼養・苦痛の軽減に関する基準」が,関係各省から動物実験の実施に関する基本指針が,さらに日本学術会議からのガイドライン等が出揃ったことを受け本学でも機関内規程を策定中です。動物実験の基本3R(Replacement及びReduction,Refinement)の明示に加え,動物実験実施者・飼育者に対する教育訓練,および,適正に自主規制されているか自己評価・検証することにより,動物実験の正当性・必要性・透明性を高めることが重要になります。当センターでは,利用者の教育訓練および情報開示の姿勢を明確にする観点からホームページを改訂致しました。センターを初めて利用するにはどの様にしたらよいか,あるいは遺伝子組換えマウスを搬入するにはどの書類が必要かなど具体的な利用法から,微生物モニタリングの結果,緊急のお知らせ,センター運営報告(年報)など,可能な限り判りやすく情報を提供し続けたいと考えております。情報源として日常的にご覧頂くことが目標ですので,ご意見やご要望などお問い合わせを歓迎しております。
 設備や備品の経年劣化が重要な克服課題になりつつある当センターですが,研究科のみならず全学を上げてその機能維持・拡充にご尽力頂いており心より感謝申し上げます。センタースタッフ一同,適正な動物の飼育管理およびセンター運用を通して,時代や必要性に応じた研究支援を継続することにより期待にお応えし,本医学研究科・本学の研究活性化に参画する決意です。今後とも宜しくお願い申し上げます。

(三好一郎)