一般講演 9
Pur-1遺伝子領域を導入したコンジェニックラットにおける蛋白尿発症

松山睦司,加藤一夫,黒田 誠
藤田保健衛生大学医学部病理部,藤田保健衛生大学衛生学部病理教室

 目的: BUF/Mna系ラットは蛋白尿を100% に自然発症させる突然変異ラットである。 遺伝学的検索によって,この系の蛋白尿発症には2個の感受性遺伝子が関与していることが推測された(Nephron, 54:334,1990)。 リンケージ解析によって,その内1個は第13染色体に局在していることが明らかになり,Pur-1と命名した(Mamm. Genom., 9:886, 1998)。 Pur-1遺伝子は分子マーカー D13Mgh2 - D13Rat13 ミ D13Mgh3 ミ D13Mgh4 ミ D13N1 - Syt2の領域に局在していることが推定された。 このBUF/MnaのD13Mgh2 - Syt2 領域を保有していることを確認しつつ,退交配をACI/NMsで14回,WKY/NCrjで15回繰り返した後,兄妹交配を行って,コンジェニックラットACI/NMs-Pur-1/Pur-1およびWKY/NCrj-Pur-1/Pur-1系ラットを得た。 今回,これらの系におけるPur-1の機能発現としての蛋白尿発症が認められるか否か? を検索した。
 方法: 7-21週令のACI/NMs-Pur-1/Pur-1(雄60匹,雌54匹), ACI/NMs(雄90匹,雌51匹), WKY/NCrj-Pur-1/Pur-1(雄72匹,雌65匹), WKY/NCrj(雄174匹,雌135匹)およびBUF/Mna(雄67匹,雌65匹)を使用し,水および飼料CMFを自由に摂取させた。代謝ケージに1匹ずつ24時間収容し,尿を採取した。 尿を遠心分離後,日立7070型自動分析機を用いて上清中の総蛋白およびクレアチニン量を測定した。
 結果: 体重当たりの24時間尿中排泄総蛋白量は,雄で,ACI/NMs-Pur-1/Pur-1 60±19 mg/kg BW, ACI/NMs 44±16 mg/kg BW, WKY/NCrj-Pur-1/Pur-1 43±10 mg/kg BW, WKY/NCrj 40±12 mg/kg BWおよびBUF/Mna 70±34 mg/kg BW,雌で,ACI/NMs-Pur-1/Pur-1 16±12 mg/kg BW, ACI/NMs 14±11 mg/kg BW, WKY/NCrj-Pur-1/Pur-1 13±9 mg/kg BW, WKY/NCrj 8±4 mg/kg BW,BUF/Mna 129±89 mg/kg BWであった。 ACI/NMs-Pur-1/Pur-1雄で蛋白量がACI/NMs雄に比し有意に高く,WKY/NCrj-Pur-1/Pur-1雌で蛋白量がWKY/NCrj雌に比して有意に高かった。 そして蛋白/クレアチニン比では,雄のACI/NMs-Pur-1/Pur-1およびWKY/NCrj-Pur-1/Pur-1が雄のACI/NMsおよびWKY/NCrjに比し高かった。
 結論: これらの結果からBUF/Mna系ラットの蛋白尿発症は第13染色体に局在するPur-1遺伝子領域によって統御されていることが実証された。