一般講演 2
F344/Nラットにおける加齢に伴う歯牙咬耗の判定
西島和俊1,田中 愼1,伊藤美武2

1)国立長寿医療センター・加齢動物育成室
2)愛知医科大学・動物実験センター

<目的>
高齢者の口腔管理は,ADLやQOLの維持の上からも長寿医療や長寿科学が目指すところである。適正な口腔を有し,口腔機能を維持する事は,循環器障害や認知症を含む多くの老年病を防止できると言われている。ここにげっし目実験動物がどのように貢献できるかは,期待はされていても,にわかには判断できない。例えば,老若のラットで下顎骨だけを比較しても,歯牙う蝕や咬耗(切歯と臼歯),歯周病,下顎骨の形状と硬さ,下顎頭の形状と硬さなどに違いがうかがわれる。歯牙に生ずる最も単純な加齢変化,咬耗は,ヒトへの外挿モデルを考えた際,正常な老化,ないしは生理的な老化の指標とできる可能性がある。しかし,歯の形状が動物種で異なることもあって,ラットにおける適当な判定基準はなかった。そこでNILS Aging Farmで育成された加齢F344/Nラットの上下顎骨を用い,スコア判定基準をヒトで用いられるBrocaのindexをもとに考案し,加齢変化の特定を図った。
<方法>
1から38月齢までの雌F344/Nラット(平均生存月数は27.4から28.9月)で上下顎の晒骨標本を作成し,臼歯の咬耗を以下の基準によりスコア判定した。
0:咬耗なし,1:咬頭の先端の咬耗,2:咬頭の咬耗,3:咬頭の消失,4:歯冠の消失
<結果および考察>
咬耗は月齢を重ねるとともに進行し,12月齢までは急速に咬耗が進行し,咬頭がほぼ消失した(スコア3)。18月齢から30月齢までは咬耗の進行は緩徐で,35月齢以上では再び急速に進行した。これらの3つの相はラットの成長・成熟,加齢,老化に相当するように見られた。口角の左右で咬耗の進行に差は無かったが,第1臼歯(M1)では上顎より下顎で,第3臼歯(M3)では下顎より上顎でより進行した咬耗が観察された。このような部位差の原因はまだ不明であるが,ラットの咬合様態を反映している可能性が考えられた。そこで,ヒトでも認知機能との関連が示唆される機能的な咀嚼との関連解明をも目指し,晒骨標本だけでなく,アリザニンレッドS染色標本や軟X線撮影所見なども併用した解析を進めている。