一般講演
ロシアハタネズミの出生後における大臼歯の萌出過程

高草木 彩1, 2,織田銑一1,子安和弘2,3,花村 肇2,3
(1名大院・生命農・動物生産1,2愛院大・口研・生体材料,3愛院大・歯・解剖2)

【目的】ハタネズミ(Microtus)属は一般に強い草食性を示すことから,草食家畜のモデルとして開発され,多くの研究が行われてきた。さらに近年では歯科領域においても研究されてようになっている。マウスやラットなど齧歯目の切歯では歯根が作られず生涯伸び続ける(常生歯)ため,これを利用した歯の再生医学研究,発生学研究が行われている。ところが大臼歯ではマウス・ラットの場合,歯根が形成されて歯の発生が完了してしまう。ハタネズミ属の大臼歯は歯根が作られないため,再生医学分野における歯の再生モデルとして注目されるようになっている(Tummer and Thesleff, 2003)。今回,我々は,繁殖性に優れた特質をもつロシアハタネズミの実験動物化を行ってきたが,この動物を用いて,大臼歯の生後の萌出過程を観察したのでその結果を報告する。
【材料・方法】名古屋大学大学院生命農学研究科において2000年から飼育繁殖されているロシアハタネズミMicrotus rossiaemeridionaris(Microtus levis, Miller 1908)に関して,出生後0日齢から55日齢までの幼若齢個体および亜成体個体88頭を用い,上・下顎の第一〜第三大臼歯で萌出時期を含む歯の発生過程を観察した。各大臼歯の歯肉から口腔への萌出時期は,肉眼観察ならびに実体顕微鏡での観察によって決定した。さらにマイクロフォーカスX線CT(μCT)装置(島津SMX225CT)を用いた観察により,歯の石灰化状態を観察し,石灰化されていないものについてはアリザリン・レッドSによる骨染色をほどこして歯肉から萌出していない未石灰化大臼歯の歯胚観察を行った。
【結果】ロシアハタネズミの大臼歯の歯肉から口腔への萌出時期は,肉眼観察と顕微鏡観察によって生後7日齢の個体に認められ,20日齢の個体では完了していた。μCT装置による石灰化過程の観察では,5日齢からは歯と顎骨のはっきりした石灰化像が筋組織と区別して認められた。アリザリン・レッドSによる染色では,すでに0日齢の個体において大臼歯歯胚の石灰化が認められていた。
【考察】ロシアハタネズミ大臼歯歯胚の石灰化はすでに胎生期に始まっていることが予想され,出生後の石灰化の進行プロセスはアリザリン・レッドSならびにμCTによる観察によって詳細な観察が可能であることが示された。これによりハタネズミが大臼歯の発生および再生実験の動物モデルとして有用であることが示唆された。0日齢の個体でも大臼歯歯胚の石灰化が認められたため,今後は胎生期の歯胚形成のプロセスについて観察を行う予定である。
【謝辞】本研究の一部は文部科学省のハイテク事業(平成14年度〜19年度,愛知学院大学)の援助によって行われた。