一般講演 10
LECラットの放射線高感受性の原因遺伝子の同定の試み
増田和彦1,安居院高志2,宮本智美1,三好一郎1

1 名古屋市立大学大学院医学研究科実験動物研究教育センター
2 北海道大学大学院獣医学研究科実験動物

【目的】LEC(Long-Evans Cinnamon)ラットとは,1984年に北海道大学で,ロングエバンス系クローズドコロニーからシナモン様の毛色を基に確立された近交系ラットである。このLECラットは,先天性銅代謝異常を呈するウィルソン病のモデル動物として有名であり,その原因はAtp7b遺伝子の部分的欠損であることが既に報告されている。また,それ以外に,T細胞分化異常や電離放射線に対して高感受性を示すなどたいへんユニークなラットである。放射線高感受性については,マイクロサテライトマーカーを用いたquantitative trait loci(QTL) 解析から,主要なQTL(xhs1)が第4染色体上に存在することが明らかにされている(T. Agui et al. Mamm. Genome 11, 862, 2000)。そこで我々はこの原因遺伝子を同定することを目的に研究を行った。

【結果及び考察】我々はまずこのQTL(xhs1)周辺の遺伝子の中から原因遺伝子の候補として32個の遺伝子を選択しそれらについて検索を行った。検索した32個の遺伝子の中で,DNA結合核タンパクをコードする遺伝子であるNp220(Zfml: Zinc finger, martin like)のエクソン部分にLECラットにおいてアミノ酸変異(トレオニンからアルギニン)を伴う1塩基変異が見つかった。そこでその変異がLECラットの放射線高感受性を引き起こす原因かどうかを調べるため,LECラット由来線維芽細胞に正常なNp220 cDNAをトランスフェクトするin vitroレスキュー実験,さらには正常Np220 cDNAを導入したトランスジェニックラットを作製しin vivoレスキュー実験を試みた。しかしながらいずれにおいてもレスキューを確認することはできず,したがってNp220遺伝子のこの変異は放射線高感受性の原因ではないと判断した。