一般講演 1
食餌制限ラットにおける下顎骨・脛骨骨密度の加齢変化と修飾要因
伊藤美武1, 3,篠原 淳2, 3,佐藤秩子3,田中 愼1, 4,山田史郎2, 3

1)愛知医科大学動物実験センター
2)愛知医科大学歯科口腔外科
3)愛知医科大学加齢医科学研究所
4)国立長寿医療センター 加齢動物育成室

【目的】食餌制限により寿命の延長したラットの骨密度の加齢変化とその修飾因子を検討し,骨密度の加齢変化に関わる病的老化の抽出を試みた。
【材料および方法】ドンリュウ系・雄ラットを用い,3週齢より実験期間を通してBSの清浄環境下で個別に飼育した。実験群は自由摂取群(AL群)と制限群(DR群)の2群とし,AL群はDR群より1週間前に実験を開始した。先行して開始したAL群の1週間ごとの摂餌量から1日平均摂取量を計算し,その60%量を同週齢のDR群ラットの給餌量とした。給餌飼料は蛋白源として植物性蛋白のみを含有し,DR群では制限に応じてビタミン・ミネラル含有量を増量した特注飼料を毎日計量,給餌した。検索対象は各群5匹とし,1,12,24,29(各3匹),33(DR群のみ)か月齢時に定期屠殺した。咬筋,前脛骨筋は湿重量を測定し,定法によりHE染色を施し,組織学的検索に供した。下顎骨(下顎枝部,歯牙・骨体部,下顎頭部),頸骨(上関節部,骨体部,下関節部)の骨密度をそれぞれ部位別にDXA法により測定した。
【結果および考察】頸骨(全体)の骨密度はAL群で12か月,DR群では遅れて24か月より緩やかに低下し,特に上関節部に著明な低下が観察された。この骨密度低下の傾向は脛骨に付属する前脛骨筋重量減少(萎縮)の推移と極めて良く一致した。一方,下顎骨(全体)骨密度と咬筋重量には加齢に伴う低下はみられなかった。また,前脛骨筋には筋変性症の障害の程度(AL群>DR群)が24か月より強く観察され,筋の萎縮に加え骨への負荷の低減が伺われたが,骨密度と同様にこれらの変化も終生運動する咬筋にはみられなかった。一般に骨密度は加齢と共に低下すると考えられているが,実際は対象とする骨の別とそれに付属する筋肉の変性・萎縮の程度,栄養環境要因,運動量など,多くの要因が複合的に影響した結果であると考えられた。