一般講演 12
Pasteurella pneumotropica感染の傾向と対策

宮本智美,三好一郎
(名市大・院医・実験動物研究教育センター)

 当センターでは1年に3回定期的に微生物モニタリングを実施している。昨年,広範囲に渡るPasteurella pneumotropica(Pp)感染事故が発覚し,対応措置としてエンロフロキサシン投与による治療および清浄化を行ったので経緯など実例を示して報告する。
【感染事故の経過】当センターが建設された翌年,1994年以来定期的に実施している微生物学的検査の対象は,公私立大学実験動物施設協議会の微生物モニタリング指針に準じて,マウス12項目,ラット15項目である。これまでに発生した感染事故は,主にネズミ盲腸蟯虫(1994-1996)で,さらに微生物カテゴリーBに分類される重篤な例は,1994年と2004年のMHV感染のみである。他には,微生物カテゴリーCのPpの感染がラットの一飼育室で報告された。従来,当センターのモニター法は各ラックで囮動物を飼育するだけであったが,検出率の向上を目的に2004年9月より全ケージの汚染チップ・糞便等を囮動物のケージへ混入する事により,感染源が積極的に囮動物に反映されるようにした。また,時期を同じくして,これまでA社に委託してきた微生物検査を2005年度よりB社へ変更したところ,直後の微生物モニタリングでPpの感染が明らかになった。ネズミ盲腸蟯虫以外の過去の感染事故が1飼育室に限定されていたのに比較して,今回のPpはマウス飼育室の7飼育室中6飼育室,ラットの全飼育室という予想外の広範囲な感染であった。しかしながら,セカンドオピニオンとしてC社にPpの検査を依頼したところ,Pp陽性であったラット5飼育室のうち,2飼育室だけがPp陽性を示した。
【パスツレラ菌の駆除】Ppは,多くの場合不顕性感染であるが,マウスではまれに膿瘍,結膜炎,肺炎,子宮炎,流産などを発症することが報告されており,特に免疫不全動物では重篤な症状を示す。近年,Ppの駆除にエンロフロキサシンの経口投与が有効である事例が多くの施設で報告されていることから同様に治療を試みた。エンロフロキサシン(商品名;バイトリル10%液・飲水添加用)をマウスは170mg/Lにラットは400mg/Lになるよう飲用水で希釈したものを給水瓶にて,1週間の投与中止期間を挟んで4週間さらに2週間の連続投与するサイクルを1クールとした。また,この期間は,1週間に2回給水瓶を交換した。その後の定期モニタリング検査で,継続的に陰性を示す治療効果の顕著な3飼育室と,投与を繰り返しても駆除できない1飼育室に分かれた。感染が継続している飼育室が他の飼育室と異なるのは,ケージ内飼育匹数が多い点である。
【考察】今回のPp感染では原因・経路は依然として不明のままであるが,作業導線および適正な飼育環境の遵守等の一般的な飼育管理に加え,封じ込めあるいは薬剤による治療,複数の検査機関での微生物検査等の総合的措置が,然るべき対策のひとつであると考えられた。