一般講演 11
ヒメコミミトガリネズミCryptotis parvaの米国からの導入
―齧歯目・ウサギ目以外の哺乳類の輸入とその経緯―

○城ヶ原貴通1, 5,子安和弘2, 5,Orin B. Mock3,河合達志4, 5,花村肇2, 5,織田銑一11名古屋大学大学院生命農学研究科動物生産科学第1研究分野,2愛知学院大学歯学部解剖学第二講座,3Department of Anatomy, Kirksville College of Osteopathic Medicine,4愛知学院大学歯学部歯科理工学講座,5愛知学院大学口腔先端科学研究所)

 「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」が改訂され,2005年9月1日から施行された.以後は哺乳類および鳥類に属する動物の輸入には,輸出国政府発行の衛生証明書の提出が義務づけられ,とくに齧歯目・ウサギ目では,死体にもその輸入に新規の規制が設けられた.本法制定の結果,実験動物であるマウス,ラットであっても,その生体を輸入する際には,輸出国の衛生証明書だけでなく,所定の書類の提出が義務づけられている.本法が施行されて,まもなく一年が過ぎようとしており,マウス・ラットをはじめとした齧歯目動物の輸入を,仲介業者を通して行った研究者も多いことかと思う.しかしながら,齧歯目・ウサギ目以外の動物の輸入については経験が少ないと思われる.そこで本年5月に,我々は,Cryptotis parvaをアメリカ合衆国より輸入したので,その事例について報告する.
 Cryptotis parvaは食虫目トガリネズミ科トガリネズミ亜科に属し,体重3-6.5g,全長69-89mm,尾長12-22mmであり,スンクスが属するトガリネズミ科ジネズミ亜科とは系統的に異なる.Cryptotis parvaはConawayにより1950年代に飼育繁殖が試みられ,その後Mockにより実験室系統として確立された.その起源は,1966年にMockらが捕獲した32個体を始まりとし,1970年代に野外個体を数回捕獲導入した繁殖群である.しかしながら,実験動物としての認知度は低く,その論文数もScopusという検索サイトで検索したところ,スンクスの1割程度(約80)であった.
 輸入の方法については,大きく分けて3つの方法が考えられる.(1)全ての手続きを自ら行う,(2)日本の仲介業者ならびに輸出国の仲介業者を通す,(3)日本の仲介業者のみを通す,である.なお今回のCryptotis parvaの輸入は,諸般の事情により(3)を選択した.食虫目に属する動物の輸入には,マウス・ラットのような齧歯目動物の輸入とは求められる書類も,問題も異なっているように見受けられた.提出書類は,Health Certificate, InvoiceおよびAir Waybillの3種類なので提出書類数については齧歯目と同様であったが,Health Certificateの書式が異なっていた.哺乳類に該当する動物(齧歯目・ウサギ目以外)を輸入する際に最も大きな問題点としては,その動物が属する目(Order)を仲介業者に理解してもらうことであった.今回,我々は日本クレア?を介しての輸入であったが,食虫目の輸入経験が無く,食虫目という動物を理解してもらうまでに苦労した.つまり,Health Certificateの書式を日本クレア?から送付してもらったが,齧歯目や食肉目用書類が送付されてきた.当初は,日本クレアから齧歯目用の書類で進めて下さいとの説明を受けた.しかし,輸入の1週間前にこの書類では許可を出せないとの指摘を厚生労働省から受け,作成し直すこととなった.Invoiceについては,輸入元の担当者に適当な書式で作成して頂くだけであり,Air Waybillについても,事前に提出して欲しいとの連絡を日本クレア?から受けていたが,実際は輸入当日でも問題はなかった.
 今回の輸入を通して,齧歯目ならびにウサギ目以外の哺乳類に属する動物の輸入については,仲介業者にその動物の属する目(Order)を知ってもらうことが最も重要であると感じた.その事が,その後の書類手続きならびに仲介業者とのやり取りが順調に進むかどうかの決め手になると思われた.
 現在我々は,輸入したCryptotis parvaを名古屋大学大学院生命農学研究科内にある動物舎で実験動物名パルバ(PARVA),系統名Cpjとしての育成を試みている.今回の発表では,輸入の経緯と教訓および飼育方法についても紹介する予定である.
 なお,本プロジェクトはジネズミ亜科(スンクスやジネズミ)と異なるトガリネズミ亜科に属する実験動物の確立をめざしたもので,研究の1部はハイテクリサーチプロジェクト(愛知学院大学大学院)の一環として企画され,その援助を得て実施しているものである.