お知らせ      沿革    会則    研究会活動    フォトギャラリー     事務局      リンク
 

2006年7月例会
特別講演

トピックス

・一般講演

1. 食餌制限ラットにおける下顎骨・脛骨骨密度の加齢変化と修飾要因

2. F344/Nラットにおける加齢に伴う歯牙咬耗の判定

3. 60日齢ラット下顎骨からうかがえること

4. ロシアハタネズミの出生後における大臼歯の萌出過程

5. Histopathology of inner ear in the joggle mutant mouse and its gene mapping on chromosome 6

6. 沖縄で発見されたアルビノ様野生スンクスの遺伝様式と系統育成

7. 癌型Rasとp53機能喪失にの協調による多形型横紋筋肉腫の発生

8. 中枢神経,神経提細胞特異的な癌型N-Ras発現による神経線維腫症病態モデルマウスの作製

9. Pur-1遺伝子領域を導入したコンジェニックラットにおける蛋白尿発症

10. LECラットの放射線感受性の原因遺伝子の同定の試み

11. ヒメコミミトガリネズミCryptotis parvaの米国からの導入―齧歯目・ウサギ目以外の哺乳類の輸入とその経緯―

12. Pasteurella pneumotropica感染の傾向と対策


3. 60日齢ラット下顎骨からうかがえること
 

田中 愼1,西島 和俊1,伊藤 美武2
1国立長寿医療センター・加齢動物育成室2愛知医科大学・動物実験センター)

[目的]
動物モデルをたずね,開発する上で,指標として注目すべき形質を定め,その変化を捕捉することは重要な課題である。加齢変化のように,げっし目実験動物では比較的実積が少ないものでは,特に重要であるが,形質を定めることも,その加齢変化を追究することも容易ではない。
そこで,わが国での生存性からしか知られていない,近交系ラット‘F344’群の亜系統差(Tanaka et al., 2000)に着目し,特定の組織から,どの程度の事ができるかを検討している。今回は,下顎骨に注目し,さまざまな指標設定と比較を試みた。

[材料と方法]
 雄のF344/DuCrlCrljとF344/NSlcを60日齢前後で購入し,それぞれ‘F344’の2大亜系統の代表とし,F344/DuあるいはF344/Nとして,下顎骨を晒骨標本とし,下顎骨を観察している。今回は,右側の下顎骨に注目し,その形態・骨特性・臼歯の抜け落ちと咬耗について比較した。

[結果]
 形態:下顎骨の13部位で高さと長さ(奥行き)を万能投影機で影を測定し,結果を主成分分析にかけた。3つの主成分を抽出して比較したところ,大きさに関わると判定された主成分(PC)1で有意差が見られ,F344/Duが大きかった。
骨密度:DXAで臼歯を含めたまま下顎骨を測定したところ,骨塩量・骨面積・骨密度,そして骨塩率の何れでも有意差が検出された。体重と下顎骨の重量も含め,何れもF344/Duが大きかった。
臼歯の抜け落ち:第三臼歯が標本作成中に抜け落ちる確率では,有意差が検出されF344/Nで高かった。
咬耗:4段階で咬耗スコアをとったところ,有意差が検出されF344/Nで高かった。

[考察]
設定した4つの指標は有効に亜系統差を検出した。臼歯の抜け落ちを除いて加齢個体への応用を図っている。
咬耗を除き,60日齢前後の比較では概してF344/Duが有意に大きく,早かった。この頃は成長期で,これらの亜系統では成長の速度に差のあることがうかがわれた。寿命では,F344/Duの方が長いことが知られており,成熟や成長の遅さが長寿命に結果するという示唆とは一致しなかった。示唆が誤りか,F344/Nに獲得ないし修飾形質があるのかは十分に検討されねばならない。骨塩率が低いF344/Nで咬耗が既に今回の日齢で進んでいたのは興味深い一致だった。
しかし,この日齢での明確な差は,実験に使用する際に注意を要することと,亜系統差の大きさを提示しると考えられた。これらをもとに,実験に供する際には十分な注意が使用系統の選択にあっては必要であることが明示できた。

[結論]
 F344の2大亜系統間では,60日齢前後で比較すると下顎骨の4つの特性の総てに有意差があった。日齢の違いによる検討も必要だが,亜系統差には注意して実験に供するべきであろう。

Keywords : F344 group, Inbred strain of rats, Mandible, Substrain difference.

 

2006年7月例会プログラムへ戻る