ゲノミクスは大量の遺伝子情報を俯瞰することで、真理を見出す典型的なEvidence-driven study(証拠主導型研究)である。先入観なく集めた幅広いデータを対象にすることから、客観的で信頼性の高いアウトプットを導き出し、また思わぬ発見に繋がることも多い。この10数年DNAマイクロアレイを用いたトランスクリプトミクスや質量分析計を用いたプロテオミクスは、様々な難治性疾患の原因遺伝子や診断マーカー分子群の同定に繋がった。実験動物学の領域においても疾患モデル動物の病態評価や遺伝子改変動物の表現型解析にゲノミクスの手法は必須の手法となっている。この教育講演ではまずゲノミクスとはどういった学問・考え方なのかを御紹介したいと考えている。
ゲノミクスは大量のデータを生み出す。私は長年の様々な研究者との共同研究において成功例の裏で、大量のデータを前にただ呆然と立ち尽くす失敗例も数多く目の当たりにした。うまくゲノミクスの技術を活用し、利用するには、個々」のアプローチの特徴を充分に理解する必要がある。そこで教育講演の中ではゲノムデータと上手に付き合っていくための研究デザインのコツも御紹介できればと考えている。
最後に、近年次世代シーケンサーやマイクロ流路系に代表される新たな解析ツールが実用化され、ゲノミクスも新たな局面に移行しつつある。そこでこれら最新の技術を紹介しながら、今後ゲノミクスがどういった方向に向かうのか?実験動物分野にどういう影響をもたらし、どう共存すべきなのかを考えていきたい。
最近の主な文献)
Nat. Immunol. 12(5), 450-459, 2011; Immunity 33(19), 71-83, 2010;
Sci. Transl. Med. 2(17), 17ra9; Nat. Cell Biol., 11, 1427-1432, 2009;
Nat. Immunol., 10(8), 872-879, 2009; J. Exp. Med., 205(8), 1807-1817, 2008,
Physiol. Genomics 33(1), 121-132, 2008
URL: http://www.med.nagoya-cu.ac.jp/animal.dir/animalweb/dcem/index_ncu.html
e-mail: ktmr@med.nagoya-cu.ac.jp
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