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2011年7月例会
・教育講演
「モダンゲノミクスの成果と展望−如何に使いこなすか?-」

・緊急特別講演
「東日本大震災の経験-震災後の対応と被災状況」

・トピックス
「動物実験を取り巻く最近の情勢」

・企業・製品紹介

・一般講演
1. スンクスの脳におけるGnRH2ニューロンの局在

2. マウス副腎重量とX層の形態

3. ICRマウスの特徴を有するヘアレスマウスに関する基礎的研究

4. 動物実験における動物の安楽死について −生命尊厳のための最後の動物福祉−

5. 化学発癌モデルで解ること解らないこと・遺伝子改変発癌モデルで解ること解らないこと

6. セラミド細胞内選別輸送タンパク質 (Ceramide transfer protein; CERT)はマウス個体発生に必須である

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6. セラミド細胞内選別輸送タンパク質 (Ceramide transfer protein; CERT)はマウス個体発生に必須である
 

久野雅広1),○宮本智美2),平林義雄3),三好一郎1)2)
名古屋市立大学大学院医学研究科1)病態モデル医学分野,2)実験動物研究教育センター,
3)理化学研究所 脳科学総合研究センター

 セラミド細胞内選択輸送タンパク質(Ceramide Transfer Protein:Cert)は,セラミド(N-アシルスフィンゴシン)を小胞体からゴルジ体へ特異的に輸送する分子としてスフィンゴ脂質の合成過程で重要な機能を持つと考えられている。しかしながら,Cert活性を欠損する培養細胞の解析では,グルコシルセラミドの量に変化はなく,スフィンゴミエリンの量が低下する程度で顕著な異常が観察されていない。セリンパルミトイル転移酵素やグルコシルセラミド合成酵素の欠損は,双方共にマウスに胎生致死を示すが,後者は培養細胞の生存に影響しないなど,スフィンゴ脂質合成過程初期の重要な機能の欠損は,培養細胞と個体レベルでの実験結果にばらつきが見られることから,Certの意義およびスフィンゴ脂質合成系への影響,さらにその機能を明らかにするために個体レベルでの検証が必要である。本研究では,Certコンディショナルノックアウトマウスを樹立し,Certの欠損がスフィンゴ脂質合成を介してマウス個体発生にどのような影響を与えるか解析を試みた。
 まず,Cre/loxPシステムにより任意の発生段階や組織(細胞)でCert遺伝子エクソン5を欠損する標的遺伝子組換えマウスを樹立した。次に,標的遺伝子組換えマウスと野生型マウスの体外受精により作製した前核期受精卵の前核にpCAG-Creプラスミドを顕微注入することによりCertノックアウトヘテロ接合体(CertKOHt)を作出,系統化した。CertKOHt同士の自然交配により得られた新生仔は,野生型あるいはCertKOHtで,Certノックアウトホモ接合体(CertKOHm)は胎生致死の可能性を示した。CertKOHtメスが妊娠し難いことから,体外受精で作出したCertKOHt雌雄間で再び体外受精を実施し,胎齢7.5日から11.5日の胚,合計110個を経時的に観察した。野生型あるいはCertKOHtと比較して,CertKOHmの胚は,胎齢7.5日では大きな相違はないが,胎齢8.5日から成長が停滞し形態的異常が認められ,胎齢10.5日から11.5日の間に致死を示した。エクソン1-2あるいはエクソン4-5, エクソン8-9に特異的なTaqManプローブを用いてリアルタイムPCRを行い,各々の遺伝型の 10.5日胚でCert遺伝子の発現を比較した。CertKOHmではエクソン4-5は検出されず欠損が確認された。一方,野生型と比較して,エクソン1-2あるいはエクソン8-9の発現は,CertKOHtが各々約80%と60%,CertKOHmが各々約40%と35%であり,エクソン5の欠失によるCert遺伝子の転写抑制が示唆された。
 以上のことから,CertおよびCertによるセラミド輸送はマウスの個体発生に必須であり,特に明確な機能ドメインをコードしないエクソン5がその機能発現に重要であることが判った。本マウスは,Certおよびスフィンゴ脂質の機能の解析を発展させる新たなモデルになるものと考える。

 

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