平成20年度 第1期



 今日、科学技術は大きく進歩し、私たちはその恩恵に浴しています。科学の進歩は日進月歩であり、かつて学んだ知識は古く役立たないものがあります。また、身の回りには多くの情報が氾濫して、どれをどう自分の生活に生かしていくべきか、戸惑うことが多々あります。
 本オープンカレッジでは、本学の基礎・臨床分野が蓄積している最新の研究情報を、市民の皆様にわかりやすく解説いたします。皆様には、自己研鑽と再学習の場としてとらえ、日々の生活を実りあるものに、また、将来の生活設計のために役立てていただければ幸いです。

開講科目と期間  No.1 薬が薬になるまで〜薬剤の臨床開発の現場 5/28〜7/16
  No.2 脳の病気と最先端治療 5/30〜7/18
時間は18:30〜20:00の90分授業で週1回、全8回で構成。
受講者は原則として8回を通して受講をお願いします。

募集定員:各科目とも80人 (科目単位で募集し、複数科目受講も可)
受講料:各科目とも8,000円 開講初日にお支払いいただきます。
応募対象:教育・保育・福祉関係者、医療関係者、行政自治体関係者、企業
関係者等幅広い社会人及び一般市民(学生・大学院生の聴講可)
応募受付期間:  平成20年5月1日〜5月16日
応募方式往復はがき または,E-メール
受講申込み記入事項:(往信の表・裏)




上記はがきと同様に応募申込み事項−項目−をご記入ください
 
選考方法応募人数が定員を大幅に超えた場合は、応募動機も参考にしながら抽選することがあります。
選考結果: 平成20年5月23日までにお知らせします。
問い合わせ先名古屋市立大学医学部事務室 オープンカレッジ担当
〒467-8601 名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1 TEL:(052)853-8077

2008年 第1期講座概要

  科目No.1 薬が薬になるまで〜薬剤の臨床開発の現場          
     コーディネーター 横山信治教授  

 新しい薬剤の開発とその実用化は多くの病気を治し我々を苦痛から解放します。病気に苦しんだ経験を持つものは誰しもそれを望まないものはいないでしょう。しかし同時に、新しい薬には必ず未知の副作用が隠されており、これは常に大きな社会問題となります。一方では「日本では外国で使われているすばらしい新薬が未だに使えない」という声があがるかと思えば、他方では「問題のある薬剤の副作用を隠して急いで承認するのはけしからん」という声になります。当たり前のことですが、新薬には必ず「実験台」になる患者さんが必要です。自分はモルモットにはなりたくないが新薬の恩恵には与りたい、というのは殆どの方々の身勝手ではあるが自然な要求でもありましょう。この問題は薬剤に限らず新しい治療法や検査法にまつわる科学と倫理の矛盾の宿命に他なりません。このシリーズでは、こうした宿命を抱えた新薬の開発が実際にどのように行われるのか、世界と我が国に於けるその実像を、臨床現場の医師・薬剤師から製薬業界で臨床開発の最前線にある担当者、さらには国の新薬評価許認可機構の中枢での経験を積んだ研究者など、その現場に携わる多くの講師の方々に語っていただきます。そのなかから、現在の世界規模で行われている薬剤の開発の姿とその考え方について、皆さんの理解が少しでも広がり深まるよう願っております。

5月28日(水) 薬の臨床開発とは:生活習慣病薬の例など
医学研究科 生物化学 教授 横山信治   
 薬剤の開発には、大変な労力と時間、費用がかかります。とりわけ大変なのは「臨床試験」と呼ばれる段階です。新しい薬剤には、必ず最初に「実験台」になるボランティアや患者さんが必要であり、これは「人体実験」そのものですが、新薬が世に出るには、これを避けてとおることは出来ません。これには、科学的方法論と倫理的問題の克服が不可欠です。まず最初に、薬の臨床開発の一般的方法を概観し、こうした問題を提起します。

6月4日(水) 名市大病院臨床試験管理センターの活動
附属病院 臨床試験管理センター 副センター長 小池香代   
 名古屋市立大学病院では、新薬の開発に積極的に参加すべく、臨床試験管理センターを設置し、多くの活動を行っています。その仕組みを解説し、活動の内容を紹介します。ボランティアとして新薬の開発に参加することに多くの方が興味を持っていただけるよう、期待しています。

6月11日(水) レギュラトリーサイエンスと医薬品医療機器総合機構−産官学の役割−
順天堂大学 臨床薬理学 教授 佐瀬一洋   
 日本の医薬品医療機器の開発に関する国の機関は、独立行政法人となった「医薬品医療機器総合機構」が行っています。我が国の薬剤開発、とりわけ「臨床試験」は長年質量ともに立ち後れ、これが薬害などの問題と無関係とは言えないとの批判を受けていました。1990年代の始めから、こうした状態への国際的圧力もあり、10年ほど前に「医薬品医療機器総合機構」が発足、その質量の改善と近代化に取り組んでいます。薬剤の開発には、産業界、学界、行政が、科学的行政という視点から協力しあうことが必要になります。

6月18日(水) 我が国初の大規模臨床試験 -MEGA Study-:高脂血症治療の意義を確かめる
イーピーエス株式会社臨床研究推進センター、シニアマネージャー 蔵中勝   
 高コレステロール血症を治療すると、本当に動脈硬化症の予防はできるのか?これを確かめるのは容易なことでは有りません。そのためには何千にも方に一定のルールに従って何年も薬を服用していただき、その間に何人の方が心筋梗塞などの発病があるのかを、服用しないグループと比較しながら記録して行くのです。これには厳密な科学的方法があり、これを守らないと信頼できる結論が得られません。我が国ではこういう「大規模臨床試験」は無理なのではないか、と長い間敬遠されてきました。ようやくこれをやり遂げた「プロジェクトX」の実話です。

6月25日(水) 販売後の安全性をどうみていくのか?−予測対応型の安全対策−
アストラゼネカ日本支社 安全管理マネージャー 吉田茂   
 新薬の臨床試験では厳密な副作用の検証が行われます。しかし、これに参加する患者さんやボランティアは数が限られ、本当の副作用の監視はこれが市場に出てからが重要です。しかし、一般的には、この監視は現場の臨床医や薬剤師などに任され、全体でのその発症率は、推定の域を出ません。これを科学的に行うには、厳密な方法論に基づく計画をたて、一定の期間全ての処方に対してこれを追跡調査するという膨大な作業が必要になります。そんなことが出来るのか?我が国初のその経験をお伝えします。

7月2日(水) コクラン共同計画:系統的レビューとは何か?
八事病院精神科 医師 大森一郎   
 世界中では多くの優れた臨床試験が行われています。こうした、いわば「薬の効果の科学的証拠」を評価し、信頼できる結果のデータベースづくりの国際的取り組みが「コクラン共同計画」といわれるものです。イギリスの国民保健サービスの一環として始まったもので、臨床試験の評価を国際標準になりつつあり、薬剤の効果についての科学的情報を世界が共有するための重要な動きになっています。

7月9日(水) 患者さんが支える抗がん剤開発
医学研究科 腫瘍・免疫内科学 准教授 飯田真介   
 抗ガン剤の開発も、勿論現密な科学的評価に基づく開発が行われます。しかし、その対象となる病気が重大であるが故に、他の分野の薬剤開発には無い特徴がいくつか挙げられます。その中でも、「患者さんと一緒に開発に取り組む」という側面が強く求められ、多くの成果が挙げられてきました。名古屋市立大学での経験も織り交ぜながら、抗ガン剤の臨床開発について、お話しします。

7月16日(水) 世界の薬剤開発と日本
シミック株式会社 社長 中村和男   
 薬剤の開発には、科学としては国際的で国境がなく世界の研究成果は、人類が等しく享受するべきものですが、一方では、国毎の許可認可の制度が異なり、それぞれの制度の下で様々な開発の方法がとられています。しかし、世界は全体としては、科学的成果の共有という方向に動いており、外国での臨床試験の結果を許可認可の資料として受け入れる国が増えています。しかし臨床試験には高い科学的「質」が要求され、これを満たす国は限られることも事実です。臨床試験を巡る最近の世界の現状や動きを概括し、今後の方向を探ります。


  科目 No.2 脳の病気と最先端治療  
  コーディネーター 山田和雄教授  

 脳の神経細胞は、酸素やグルコース不足で容易に死にます。また、一度死ぬと再生しません。これが従来、脳の病気が治療困難と言われてきた理由です。しかし21世紀に入って、科学技術の進歩が著しく、不治と言われてきた脳の病気が治療可能となっています。このオープンカレッジでは、脳動脈瘤、脳梗塞、パーキンソン病、良性脳腫瘍、悪性脳腫瘍、うつ病、低髄液圧症などに焦点を絞って、最先端治療の実際を分かりやすく解説いたします。

5月30日(金) 脳の病気の種類と治療の動向 (総論)
医学研究科 脳神経外科学 教授 山田和雄   
 最近のコンピューター・テクノロジーやバイオテクノロジーなど科学技術の 進歩には目を見張るものがあります。医学・医療の世界でもこれらを応用した新しい診断技術、治療技術が患者に著しい恩恵をもたらしています。なかでも脳の病気は「治りにくく、一度かかるとおしまい」と思われていましたが、これらの新しい技術の導入によって、治療に変革が起こっています。この総論では脳の病気の概説を行うとともに、なぜ従来の治療法から新しい治療法に変わってきたのか、どのような技術革新が変革のきっかけになったのか、新しい治療法と医療倫理の関係は、などの分析と問題提起を行いたいと思います。

6月6日(金) 脳の病気を血管の中からカテーテルで治療する
医学研究科 脳神経外科学 准教授 間瀬光人   
 脳や脊髄の血管の病気(動脈瘤,動静脈奇形,硬膜動静脈ろう)や頭頚部動脈の動脈硬化などを血管の内側から治療します.たとえば脳動脈瘤の治療では,直径約1mmのマイクロカテーテルを足の付け根の動脈から脳の動脈瘤内にまで進め,瘤内にコイルを詰めます。開頭術が困難な深いところにある脳動脈瘤の治療では一層威力を発揮します。また頚動脈が動脈硬化で細くなった場合にはステントで広げて脳梗塞を予防します。血管内治療は頭を切ったり脳に触る必要がありませんので,非常に患者さんへの負担が少なく,これまで手術が困難であった高齢者や種々の全身合併症を持った患者さんにも積極的治療の道を開きました。日々進化している分野ですが,現時点での最新治療について紹介します。

6月13日(金) 脳の血管が詰まる病気と血栓を溶かす薬
医学研究科 神経内科学 准教授 山脇 健盛   
 脳卒中は日本人の死因の第3位ですが,高齢者の障害や寝たきりの原因としては最も多く社会問題にもなっています.脳卒中は大きく,脳の血管が詰まる病気(脳梗塞)と,脳の血管が破れる病気(脳出血,クモ膜下出血)に分けられ,なかでも脳梗塞は,脳卒中のうち7?8割を占めています.
 脳梗塞は,血栓(血のかたまり)が脳の血管を詰まらせることにより発症し,治療薬として,脳梗塞発症から3時間以内に投与して血栓を溶かす薬(血栓溶解薬)が平成17年にわが国でも認可されました.しかしこの薬が使えるのは,脳梗塞全体の2-3%に過ぎず,最も大事なのは予防することです.本講演では,脳梗塞の病態,最新治療,予防についてお話いたします.

6月20日(金) パーキンソン病の最新治療
医学研究科 脳神経外科学 病院准教授 梅村淳   
 パーキンソン病は最初に英国のJames Parkinson医師により報告された運動障害を主症状とする進行性の神経疾患である。人口1000人に1人とその頻度は比較的高い。脳の研究が進歩したのはパーキンソン病のおかげと言われるほどその病態についてはよく研究されている。その結果、多くの神経難病の中で最も治療法が進歩した疾患の1つである。昔は診断されると約5年で寝たきりになると言われていたが、今は内科的治療(薬物治療)に加えて外科的治療(脳深部刺激療法)を駆使した治療が行われるようになり、多くの患者さんはほぼ安定した状態で天寿を全うできるようになってきた。本講義ではパーキンソン病治療の歴史と最新治療、将来展望について解説する。

6月27日(金) 最先端の脳腫瘍手術
医学研究科 脳神経外科学 病院准教授 相原徳孝   
 脳腫瘍は、頭蓋骨の内側に生じるできもの(腫瘍)です。良性のものから悪性のものまで、さまざまな種類があります。どの腫瘍の手術にも共通することとして、(1)頭蓋骨の一部を切除する必要があること、(2)周囲には、神経や血管があり、これらを損傷すると、後遺症を残す危険性があることが挙げられます。切除する頭蓋骨の範囲が少なくするためには、ニューロナビゲーションシステムや神経内視鏡の応用があります。神経の同定や機能の評価には、電気生理学的モニターや覚醒手術を応用し、手術後の機能障害を回避することが可能です。さらに、新しいMRIの撮像方法(拡散テンソル画像やb-FFE)や高性能CTによる3D画像の導入により、より安全な手術が可能となってきていますので、これらについて解説します。

7月4日(金) 電気ショックでうつ病を治す
医学研究科 精神・認知・行動医学 講師 東 英樹   
 電気ショック療法は日本でも精神疾患の治療法の一つとして行われてきたが、患者さんからの同意がえられていないなどの問題もあり、積極的に行われてきたわけではない。しかし、近年、麻酔科医による呼吸循環管理のもと、けいれんをおこさない、修正型電気けいれん療法(ECT)がおこなわれている。さらに健忘の副作用の少ないパルス波治療器の使用が認可され普及している。これまでにうつ病への有効性が主に報告されており、当院のこころの医療センターでは、患者さんの同意のもと、薬の効果があまりみられないうつ病の患者さんにECTを保険診療で施行している。

7月11日(金) 脳の機能を調べながら脳腫瘍を摘出する
医学研究科 脳神経外科学 講師 谷川 元紀   
 神経膠腫(グリオーマ)は、脳腫瘍の中でも発生頻度の高い腫瘍ですが、これは脳実質内に発生し浸潤性に増殖します。そのため摘出術はその侵された脳自身を切除することになります。腫瘍および周辺部に言語野や運動野などの機能野の存在が疑われる場合には、術中に覚醒下に脳機能マッピングを行ってその機能野を同定することで、その保存と腫瘍の最大限の摘出を実現させます。このような特殊な治療法が必要となる疾患とその方法の詳細、さらに最近我々が世界に先駆けて取り組んでいる前頭葉機能マッピングについてお話致します。

7月18日(金) 脳脊髄液が漏れる病気とその治療
医学研究科 脳神経外科学 学内講師 西尾 実   
 髄液漏という疾患は脳神経外科術後には一定の割合で存在します。この術後の二次性のものとは異なり、主に脊髄神経根部付近からの軽度の髄液漏が原因となって、起立性頭痛をはじめ、眩暈・ふらつき等多彩な症状を引き起こしている病態が認識されるようになりました。それにより苦しんでいる人々がかなり多くいるということ、ブラッドパッチ療法が有効であるということを当院では数多く経験しております。近年マスコミ紙上を賑わしているこの髄液漏は相対的な髄液減少に着目して「脳脊髄液減少症」と称されます。現在、この疾患について種々の研究がなされておりますが、この疾患の病態、現状、治療方法について解説致します。




 お車でのご来場はご遠慮下さい。
 名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1 
   

 医学研究科研究棟11階 講義室A 
北出入口(病院側から来られるとき)または正面玄関から入って
1階ロビーよりエレベータで11階へおあがりください。          
これまでの開催講座
  2005年前期講座(7月〜10月)
  No.1 環境と発がん・がん予防
  No.2 脳とこころを元気に−脳の活性化と環境−
  2005年後期講座(11月〜2006/2月)  
  No.3 生活習慣病の怖さ
  No.4 日常生活とアレルギー:その予防と対策  
  No.5 漢方医学・医療を学ぶ
  2006年第1期講座(6月〜7月)  
  No.1 環境と脳,その障害と機能活性化          
  No.2 感染症は身近に
  2006年第2期講座(9月〜10月)  
  No.3 病気の自然史-医療における男と女の違い
  No.4 最先端の癌治療について学ぶ
  2006年第3期講座(11月〜2007/1月)  
  No.5 遺伝子医療
  No.6 知っておきたい消化器病の基礎と臨床  
  2007年第1期講座(6月〜7月)  
  No.1 光を用いた最先端医療に挑む
  No.2 メタボリック症候群と周辺疾患            
  2007年第2期講座(9月〜10月)  
  No.3 薬と健康
  No.4 ライフサイクルとメンタルヘルス            
  2007年第3期講座(11月〜2008/1月)  
    No.5 アンチエイジング−美しく老いる
    No.6 健康寿命を延ばす−寝たきりにならないために  



お茶の水女子大学 公開講座−化学・生物総合管理の再教育講座−