久野雅広1,2,宮本智美2,平林義雄3,三好一郎(1,2名古屋市立大学大学院医学研究科 1病態モデル医学分野,2実験動物研究教育センター,3理化学研究所 脳科学総合研究センター)
[目的]
Ceramide transfer protein(CERT)は,脂質セラミドの小胞体-ゴルジ体間輸送を担うタンパク質としてスフィンゴ脂質の合成過程で重要な機能を持つと考えられている。しかしながら,CERT活性を欠損させた細胞レベルの解析では,グルコシルセラミドの量は変化がなく,スフィンゴミエリンの量が低下するだけで期待されたほどの異常が見られなかった。スフィンゴ脂質,特にスフィンゴ糖脂質合成過程の最初のステップであるセラミドにグルコースを転移するグルコシルセラミド合成酵素を欠損させた培養細胞は問題なく生存するが,マウスは胎生致死を示した例もあることから,個体レベルでのCERTの意義に関して検証する必要がある。今回,様々な発生段階あるいは臓器でCERTの機能を解析するためにコンディショナルノックアウトマウスの作製を試みた。
[材料と方法]
マウスCERT遺伝子は13番染色体上にあり,18のエクソンによりコードされている。Cre-loxPシステムを利用して組織・時期特異的にCERT活性を欠損させる目的で作製したターゲティングベクターは,エクソン5の5’側363残基上流および3’側2404残基下流にloxP配列,さらに,その間のエクソン5の3’側314残基下流に約2kbpのFRT配列に挟まれたネオマイシン耐性遺伝子(PGK-Neoカセット),また,両側のloxP配列からそれぞれ約6kbp(5’側)及び,約4kbp(3’側)のホモロジーアームを配置した全長約14kbpから成る。サザンブロット解析によって標的遺伝子組換えが確認されたES細胞を桑実胚に注入しキメラを作製し,その子孫から組換え遺伝子を伝達するCert-Targetedマウスヘテロ接合体を選抜した。次ぎに,Cert-Targetedマウスヘテロ接合体の精子とC57BL/6マウスの未受精卵から体外受精によって作製した前核期受精卵の雄性前核にpCAG-Creプラスミドをマイクロインジェクションし,偽妊娠メスに移植して得られた子孫の中から,CreリコンビナーゼによってloxPに挟まれた配列が削除されたCert-knockoutマウスヘテロ接合体を選抜した。
[結果と考察]
現在,得られたCert-knockoutマウスヘテロ接合体を掛け合わせ,ホモ接合体を作製中である。今後は,胎生致死などの顕著な表現型を示すか検証し解析を進めていきたい。また,組織特異的あるいは時期特異的にCERTを欠損したマウスを作製し,その機能,更に生成物であるスフィンゴ脂質の意義の解明を試みたい。
2009年9月例会プログラムへ戻る
|