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2013年7月例会
・講演
「実験動物の系統差を用いた疾患感受性遺伝子同定の試み」

「動物実験を取り巻く最近の情勢」

・一般講演
1. ミニブタ3系統の大腿骨

2. 適切な疾患モデル動物に関する考察 ―多発性嚢胞腎症モデル動物を例としてー

3. コモンマーモセットの生存性

4. Wntシグナル活性化が胃上皮細胞および胃癌細胞に及ぼす影響

5. 動物福祉に配慮した加齢・老化モデル動物の飼育環境のあり方について−国立長寿医療研究センター新実験動物施設棟の紹介−

6. ob/obマウスの2型糖尿病進行に対するプロポリスの抑制効果 -腸管膜脂肪組織における免疫細胞の役割-

7. 遺伝子改変肺がんモデルマウスと系統差を用いた発癌感受性関連遺伝子探索システムの作製と解析

8. ピューラックスによる浸漬消毒についての検討


Wntシグナル活性化が胃上皮細胞および胃癌細胞に及ぼす影響
 

平田 暁大1、山田 泰広2、富田 弘之3、塚本 徹哉4、山本 昌美5、二上 英樹1、原 明3
1岐阜大学 生命科学総合研究支援センター 動物実験分野、2京都大学 iPS細胞研究所、3岐阜大学大学院 医学研究科 腫瘍病理学分野、4藤田保健衛生大学 医学部 病理診断科、5日本獣医生命科学大学 獣医学部 獣医保健看護学科 病体病理分野

 ヒトの胃癌において、Wnt/β-cateninシグナルが高率に活性化していることが報告されている。しかし、その活性化が胃癌の発生・進展にどのように寄与しているか、詳細に検討されていない。
 そこで、我々は、ドキシサイクリンの投与により(Tet-on system)安定型β-cateninの発現を誘導可能なβ-catenin inducibleマウスを用いて、マウスの胃上皮細胞において、β-cateninを強制的に発現させ、Wnt シグナルの活性化が細胞増殖および分化に及ぼす影響について解析した。ドキシサイクリンを5日間投与したマウスの胃底腺および幽門腺においてβ-cateninの核・細胞質への蓄積が認められ、峡部から胃小窩にかけて細胞増殖マーカーであるKi-67陽性の小型細胞が著明に増加した。さらに、Alcian-blue-periodic acid-Schiff (AB-PAS) 染色により、胃小窩における粘液産生の著明な減少が認められ、β-cateninの発現により表層粘液細胞への分化が抑制されることが明らかとなった。また、Real-time PCRにより、Wntシグナル標的遺伝子の発現亢進とともに、胃上皮細胞の分化マーカーの発現減少および幹細胞マーカーの発現亢進を認めた。
 続いて、β-catenin inducibleマウスで得られた所見が胃癌組織に外挿できるか検討するため、N-methyl-N-nitrosourea (MNU) 投与によりマウスに誘発した腺胃腫瘍を組織学的に解析した。マウス腺胃腫瘍において、β-cateninが核・細胞質に蓄積した腫瘍細胞が限局して観察された。β-cateninの蓄積のみられない領域では腫瘍細胞は明瞭な分化傾向を示し、PAS陽性の粘液を豊富に産生する部位では、腫瘍細胞は増殖能を失っていた。一方、β-cateninの蓄積した領域では、粘液産生は著明に減少し、腫瘍細胞の増殖能が維持され、また、腫瘍細胞はβ-catenin inducibleマウスで増殖した小型細胞に形態的に類似していた。
 さらに、ヒトの胃癌について検討したところ、β-cateninが核・細胞質に蓄積した早期胃癌では、粘液の産生は抑制され、腫瘍細胞は腫瘍全域で増殖能を維持していた。
 以上より、正常および腫瘍化した胃上皮細胞において、Wntシグナルの活性化により未分化性および増殖能が維持されることが明らかとなった。