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2013年7月例会
・講演
「実験動物の系統差を用いた疾患感受性遺伝子同定の試み」

「動物実験を取り巻く最近の情勢」

・一般講演
1. ミニブタ3系統の大腿骨

2. 適切な疾患モデル動物に関する考察 ―多発性嚢胞腎症モデル動物を例としてー

3. コモンマーモセットの生存性

4. Wntシグナル活性化が胃上皮細胞および胃癌細胞に及ぼす影響

5. 動物福祉に配慮した加齢・老化モデル動物の飼育環境のあり方について−国立長寿医療研究センター新実験動物施設棟の紹介−

6. ob/obマウスの2型糖尿病進行に対するプロポリスの抑制効果 -腸管膜脂肪組織における免疫細胞の役割-

7. 遺伝子改変肺がんモデルマウスと系統差を用いた発癌感受性関連遺伝子探索システムの作製と解析

8. ピューラックスによる浸漬消毒についての検討


ミニブタ3系統の大腿骨
 

田中 愼

 実験動物の骨特性からは、性差・亜系統差・系統差はもとより種差も特定できる可能性があります。しかし、動物の体躯での大きさの違いは、このプロファイルでの比較の大きな障害となっています。骨情報を得る、最も基本的な方法として、Dual-energy X-ray absorptiometry (DEXA) 測定法があり、基礎研究分野はもとより、臨床・予防医療の分野でも広範に利用されています。しかし、このDEXA法では骨塩量(Bone Mineral Contents, BMC)が今日基礎研究と医療の分野で用いられる何れの方法より正確に測定できるとされていながら、機能指標として重視される骨密度(Bone Mineral Density, BMD)を決定できません。同一個体についてであれば追試は可能ですが、個体間はもとより体躯の異なる個体(動物)間での比較は全く不可能です。これは、DEXA法が算出するBMDは、BMCを骨がX線をさえぎった面積(Area, cm2)で除したもので単位がmg/cm2だからです。BMCが骨の容積で除されmg/cm3となるのであれば、本来の密度(Density)ないしはこれに近いものが算出されます。そこで、μCTやpQCTなどでは、骨の容積が空間イメイジから演算されるようになりましたが、これらの機器では特定の大きさの骨しか測定できず、体躯の大きさによる違いを打開することは出来ませんでした。ために、併せて大きさの異なる骨をDEXA法で測定し、これに左右されることなく比較できる指標の開発から試みました。
 骨研究者の間では、ホルマリンに脱灰作用があると注意し、アルコール固定や保存が薦められていながら、晒骨標本を測定し、これで保存するといった習慣はほとんど定着していませんでした。解剖学では、骨学を晒骨標本で行うことが習慣であるので、骨重量(Bone Weight, BW)を指標に加えることは、妥当且つ容易なことでした(Tanaka et al., 2006)。また晒骨標本とすれば、大腿骨なら同じ機器で、マウスからヒトまで測定できることもわかりました。併せて、マウスのような小さな動物では、椎骨が測定限界以下となったり、骨周囲の柔組織がノイズとなること(Tsujio et al., 2009)なども見出しました。十分に脱脂して作成した晒骨標本の重量は再現性が良いことから、DEXA法が正確に検出するBMCをBWで除し、骨塩率(Bone Mineral Ratio, BMR)を算出したところ骨の大きさによる違いをうまく是正することが出来、0.5周辺の値となりながら、種差も検出しているようでした。実際、F344ラット群の下顎骨では、/Duと/Nの間で亜系統差を検出しました(Tanaka et al., 2006)。そこでこれらの指標の広範な利用を目指し、三系統のミニブタで、性や年齢の違いに注目し大腿骨特性を比較しました。
材料:Göttingen ミニブタ(オリエンタル酵母、リタイア♀2、4YOA)、 Clawn ミニブタ( JFCI Clawn 研究所、リタイア♀♂各2、4.5YOA、若齢♂3、1.5YOA)、 Micro miniミニブタ(富士マイクラとSLC、リタイア♀3、3YOA、若齢♀2、0.4YOA)。方法:既報のように、解剖し、大腿骨を摘出し、オートクレーブで処理した後、可能な限り周囲の組織を取り除いて0.5%パパイン溶液に浸し、37℃で一晩培養して骨標本とし十分に脱脂し、晒骨標本とした。
結果と考察:何れの系統でも、大腿骨は、脱脂でBWは減少しましたが、BMCは変化せず、BMRは増加しました。指標に左右差はありませんでした。
Göttingen:体重が大きい個体の大腿骨は必ずしも高いBW・BMC・BMRではありませんでした。
Clawn:リタイア雌雄での性差は明確ではありませんでしたが、体重が低かった若い雄で何れの指標も高値で、5歳前後と2歳以下の年齢差と体重差は、骨特性との逆相関が注目されました。
Micro mini:BW・BMCは若い個体であ明らかに低値でしたが、BMRは近い値で年齢や体重と正の相関がうかがわれました。
 BW・BMCでは、Göttingen とClawnの若い雄を除けば、ほぼ体重と年齢に相関するようでした。しかし、Göttingenでは全く相関せず、Clawnの若い雄では逆となりました。Clawnでは、先ず骨を成長させた後体重だけを増すように見え、最も高いBW・BMC・BMRでした。体重が小さいMicro miniではBMRが小さく、Göttingenではこれが不明とミニブタの大腿骨特性には年齢や体重による違いだけではなく、系統に固有の個性があるように見えました。野生のイノシシからの家畜化、家畜ブタからの矮小化を骨特性から検討すると新たな解釈を得られるかもしれません。

Reference
Tanaka S, Kuwahara S, Nishijima K, Ohno T, Nagaya M, Nakamura Y, Sumi Y, Miyaishi O, Aoyama H, Goto N.
Comparison of rat mandible bone characteristics in F344 substrains, F344/Du and F344/N.
Exp. Anim., 55, 415-418, 2006.
Tsujio M, Mizorogi T, Kitamura I, Maeda Y, Nishijima K, Kuwahara S, Ohno T, Niida S, Nagaya M, Saito R, Tanaka S.
Bone mineral analysis through dual energy X-ray absorptiometry in laboratory animals.
J. Vet. Med. Sci., 71,1493-1497, 2009.