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2013年7月例会
・講演
「実験動物の系統差を用いた疾患感受性遺伝子同定の試み」

「動物実験を取り巻く最近の情勢」

・一般講演
1. ミニブタ3系統の大腿骨

2. 適切な疾患モデル動物に関する考察 ―多発性嚢胞腎症モデル動物を例としてー

3. コモンマーモセットの生存性

4. Wntシグナル活性化が胃上皮細胞および胃癌細胞に及ぼす影響

5. 動物福祉に配慮した加齢・老化モデル動物の飼育環境のあり方について−国立長寿医療研究センター新実験動物施設棟の紹介−

6. ob/obマウスの2型糖尿病進行に対するプロポリスの抑制効果 -腸管膜脂肪組織における免疫細胞の役割-

7. 遺伝子改変肺がんモデルマウスと系統差を用いた発癌感受性関連遺伝子探索システムの作製と解析

8. ピューラックスによる浸漬消毒についての検討


コモンマーモセットの生存性
 

田中 愼

 今回は、下記の論文を紹介しがてら、広範な医科学研究への利用に資することを目的にコモンマーモセットの生存性やその解釈などについて報告します。
 実験動物中央研究所は、真猿での実験動物が必要であるという安東洪次のわが国の実験動物近代化運動の一環としての指摘に基づき、臨床を視野に入れた基礎的な医科学研究への貢献を目指し、安定供給が可能な、コモンマーモセットの自家繁殖に着手しました。これを全くの手探り状態から実践されたのが本会の会員でもいらっしゃった、日本クレアの齋藤亮一先生です。川崎市高津区野川で育成されたファームは、岐阜県八百津町との間を二往復しながらも着実に拡大し、国内でのさまざまな研究に利用され、特性の開発も進んできました。2012年2月15日には、日本マーモセット研究会が発足し、定期的な研究発表会も持たれていますし、TG系統も育成されています。脊髄損傷の再生医療モデルとしての成果にも注目が集まっています。この度、齋藤先生が再度コロニーと共に八百津へ戻られましたので、皆様の研究への取り込みについても近くでご対応いただけます。是非ともご検討いただけるとありがたく思います。特に齋藤コロニーと言うと人工哺乳法の開発はもとより、高齢個体の作出に優れていますので、再生医療を含む医科学のみならず、真猿の加齢研究に貢献が期待できます。
 齋藤先生からいただいた詳細な個体記録の中から先ずこの動物の生存性に注目しました。精緻な飼育管理体制・態勢の成果としてコモンマーモセットは人工飼育環境下において性差なく当初予測されていたよりはるかに長い20年と言う寿命を有することが特定できました。体重が同等ということで、よく比較されるラボラトリーラットが最長で60月齢(5年)、通常30月齢(2.5年)であることと比べると8倍の長さとなるのに対し、カニクイザルやニホンザルなどの同種動物の約半分であることが判明しました。この20年の寿命の中で、80%にあたる16歳まで繁殖可能であり、黄体の形態がげっ歯目型であることも特定でき、ラットやヒトなどよりも生殖寿命の比率が長い可能性もうかがわれました。
 この分類学的な位置にいるコモンマーモセットの寿命が20年であることは、2.5年、5年、10年、20年、40年、80年と寿命の進化が倍々と進んだという可能性とよく一致し、生物学的にもこの動物の重要さを更に増すものと考えられました。

Reference
Life span of common marmoset (Callithrix jacchus) at CLEA Japan breeding colony. Nishijima K, Saitoh R, Tanaka S, Ohsato-Suzuki M, Ohno T, Kitajima S. Biogerontology (2012) 13:439−443.