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PDT(光線力学的療法)
 光線力学療法(photodynamic therapy, PDT)は加齢黄斑変性(age-related macular degeneration, AMD)に対する治療法のひとつです。海外ではすでに多数例の実績があり、有望な治療法として日本への導入が待たれていました。そのPDTが2004年5月に日本国内でもようやく認可され、施行が可能になりました。名古屋市立大学では中部地方で最初にPDTを導入し、以後症例が増えつつあります。

 PDTというのは光によって活性化される特殊な薬剤(光感受性物質)を全身投与し、その後に患部に光を照射して光感受性物質を活性化させることにより、患部のみに効率よく薬剤の効果を発現させる手法です。AMDの治療では網膜下に発生した脈絡膜新生血管(choroidal neovascularization, CNV)を閉塞・消退させることが治療の大きな目標となりますが、同時にCNV上あるいはCNV周囲の網膜をいかに傷害せず、網膜機能を温存できるかが重要です。たとえば通常の光凝固ではCNVの閉塞は得られますが、網膜へのダメージも強いため中心窩近くのCNVには使用できません。このような観点からみるとPDTは非常に有利な治療手段といえます。

 AMDに対するPDTではverteporphinという光感受性物質が用いられます。verteporphinはCNVに選択的に集まる性質をもっているため、より効率のよい治療が可能です。治療の手順はverteporphinを点滴静注し、その15分後にCNVを含む病変部に健常網膜には無害な非発熱性のレーザーを照射するだけです。3ヵ月後の判定で治療効果が十分でない場合には再治療を行います。

 海外での臨床試験(TAP study)ではPDTはAMDによる視力の低下を少なくとも24ヶ月有意に抑制しました。また日本国内で行われたPDTの臨床試験(JAT study)では、PDT施行例の施行後12ヶ月までの平均視力は施行前と比べ改善しました。視力改善例の割合は施行例の2割程度ですが、通常AMDでは視力は徐々に低下していきますから、これは大変すばらしい成績と言っていいと思います。

 さて、いいことずくめのPDTのようですが、問題もないわけではありません。まず副作用としてverteporphin注射後の一時的光過敏症があります。そのため、verteporphin治療5日間(特に最初の48時間)は直射日光などを避けていただく必要があります。そのほかの副作用ももちろん多数報告されていますが、これまでの報告では重篤な副作用はそれほどありません。次に治療回数の問題があります。一度で十分な治療効果を得られる場合もありますが、たいていは複数回の治療を必要とします。JAT studyでは平均2.8回の治療を必要としました。もっともこれもマイルドな治療ゆえの問題点ですので仕方ない面もあります。また、治療費も問題で、1回の治療に使用するverteporphinの薬価が約19万円、レーザー照射の手技料が約18万円とかなり高価なものになってしまいます。もちろん保険の適用は受けられます。最後に治療の適応ですが、PDTは他の方法と比べかなり適応の広い治療法だとは思いますが、進行しすぎた病変など、無効な症例や適応外症例も多く存在し、万能の治療というわけではありません。

 ともあれ、PDTが動き出したことはAMD患者さんにとっては大きな希望を与える出来事ではないでしょうか。