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胸腔鏡手術について

昨今の外科医療の中で、最もホットな話題の治療法が内視鏡手術であります。胸部臓器に対する内視鏡手術(胸腔鏡手術)は、他診療科(消化器外科・産婦人科・泌尿器科など)の内視鏡手術と同様に術後合併症が少なく、患者のQOL低下を最小限にとどめる手術として多くの病院で行われ、気胸や縦隔疾患などの良性疾患をはじめ、末梢型早期肺がんなどに広く用いられています。

私も1995年以来この手術を行ってきましたが、2002年4月より局所進行肺がんなどを含め、およそ手術適応になる疾患全てを対象に、積極的に胸腔鏡手術を導入してきました。その結果、現在までに全手術の91%(原発性肺がんにおいては、最近5年間で97%)を胸腔鏡手術で完遂しました。具体的な方法は、1 cm前後のポート創2〜3カ所と3〜5 cmのアクセス創1カ所を用いた、肋骨に影響を及ぼさない、モニター視野下での手術でありますが、この手術により、創長だけでなく肋骨への影響が最小限にとどめられ、術後QOL低下の防止に繫がっていると考えています。

我々の成績を世界で最も先進的な胸腔鏡手術を行っているDuke大学の成績と比較しますと、Duke大/我々の施設で、開胸手術への移行率は4.6%/1.7%、在院死亡率が2.0%/0.2%、合併症発症率が30.0%/23.6%、と申し分のない成績を示すことができました。術後合併症については、開胸手術の約1/3に減らすことができ、術後QOLの点でも大幅に向上させることができたと考えています。また、原発性肺がんに関する成績を術後5年生存率(他病死も含む)で示しますと、病理病期 IA: 92%、IB: 76%、IIA: 56%、IIB: 40%、IIIA: 51%、IIIB: 19%であり、他施設の開胸手術と同等以上の成績を示すことができました。

従来、肺がんに対する胸腔鏡手術の適応は、臨床病期I期の早期がんだけが対象であると言われてきました。つまり、進行がんは胸腔鏡手術ではなく、開胸手術で治療すべきとのコンセンサスが存在していた訳であります。その理由は、胸腔鏡手術が危機的出血に対応できないなどの安全面での不安や、未熟な手技による腫瘍細胞遺残などの腫瘍学的な懸念が含まれていたからであります。

私どもはこれまでに約1,800例の胸腔鏡手術を行い、肺がんにおける胸腔鏡手術のシェアは、昨年1年間で100%を達成することができました。肺がんに対する難易度の高い胸腔鏡手術として、片肺全摘後の患者に肺葉切除1)を成功させたのを皮切りに、残肺摘除術2)、肺動脈形成術3)、肺門型肺がんに対する手術4)、気管分岐部切除と再建術5)を世界で初めて発表し、さらに片肺全摘患者の肺葉切除に関しては革新的な技術改善6)についても報告してきました。このような背景から、私は進行がんに対する胸腔鏡手術の安全面での不安や腫瘍学的な懸念を払拭できると考え、2002年4月より全ての肺がんに対して胸腔鏡手術を行うよう挑戦してきました。

こうした成果の一部が、アメリカ胸部外科のトップジャーナルであるAnn Thorac Surgの2014年3月号7)に掲載されました(図1)。進行肺がんに対する胸腔鏡手術の成績は、2011年に腫瘍学の権威であるAnn Surg Oncolに初めてRoswell Park がんセンターの成績8)が掲載されましたが、私どもの論文がその2報目となり、胸部外科学のジャーナルでは初めての掲載であります(表1)。このAnn Thorac Surgへのacceptが判明した直後に、Lung Cancer Management (前ハーバード大学教授Sugarbaker DJ編集長)というジャーナルから総説論文9)の依頼があり、「Advances in the Use of Video-Assisted Thoracoscopic Lobectomy in Lung Cancer: Sleeve Bronchoplasty and Arterioplasty」を2014年の夏に発表しております。

図1表1

今後は、進行肺がんに対する胸腔鏡手術をさらに極め、その術式開発や医療安全での臨床研究も推し進めてゆきたいと考えています。また、基礎研究として、胸腔鏡手術による免疫機能(感染・腫瘍免疫)に及ぼす影響を検討し、同手術の長所と短所を明らかにして、安全な適応と手技を確立するとともに、Thiel cadaverを用いた胸腔鏡手術の適応拡大に関する検討も併せて行ってゆく所存であります。

諸先生方におかれましては、肺がんを疑う患者がおられましたら是非ご紹介いただきますよう、何卒よろしくお願いいたします。また、外科医療に興味をお持ちの方におかれましては、是非一度医局へご連絡いただければと思います。医局員一同、お待ち申し上げております。

引用文献

  1. Nakanishi R, et al. Surg Laparosc, Endosc & Perc Tech 2007;17:562-564
  2. Nakanishi R, et al. J Thorac Cardiovasc Surg 2008;135:945-946
  3. Nakanishi R, et al. Interact Cardiovasc Thorac Surg 2008;7:996-1000.
  4. Nakanishi R, et al. Surg Endosc 2010;24:161-169.
  5. Nakanishi R, et al. J Thorac Cardiovasc Surg 2013;145:1134-1135.
  6. Nakanishi R, et al. J Thorac Cardiovasc Surg 2013;146:724-725.
  7. Nakanishi R, et al. Ann Thorac Surg 2014;97:980-985.
  8. Hennon M, et al. Ann Surg Oncol 2011;18:3732-3736.
  9. Nakanishi R, et al. Lung Cancer Management 2014;3:287-295.

2015/11月作成 文責 中西

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