目や耳を通して入ってきた情報のうち、注意の向けられた情報は短期記憶として取りこまれる。この情報を繰り返し学習することによってその情報は、海馬が中心となって短期記憶から長期記憶へと固定され、最終的に大脳皮質へと貯蔵・保持される。貯蔵・保持された記憶は、想起と再貯蔵を繰り返して再固定されながら活用される。また、貯蔵・保持された記憶は、想起と新たな記憶の上書きにより、元の
記憶とは別の記憶として貯蔵・保持される(記憶の消去)。
1992年Silvaらによってαカルシウム/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII(CaMKII)遺伝子のノックアウトマウスが作製され、このマウスの解析から、個体レベルでは記憶学習障害が、細胞レベルでは長期増強(long-term potentiation;LTP)障害が認められ、CaMKIIが記憶学習に重要な分子であることを示された。この報告は脳神経科学研究において、遺伝子組換えマウスが極めて強力なツールであることを提示したと言えるが、学習記憶形成の各プロセスでは多種多様な分子が関与していると考えられ、いつ、どの分子が、どのように関与しているのか、を明らかにすることが大きな課題である。しかしながら、単純なノックアウトマウスでは遺伝子発現を阻害する時期や場所を自由にコントロールすることができないため、その詳細な解析は不十分であった。一方今日までに、作用点や薬理作用が明らかにされている化合物は多数報告されている。
本研究会では記憶におけるCaMKIIの役割について、CaMKII変異マウスを用いて解析した結果の紹介、さらには、表現型を示す「閾値」を遺伝子発現量と化合物の投与量・投与ルート・投与時期とでコントロールしながら行った解析、具体的にはCaMKII変異ヘテロ・ホモマウスとNMDAレセプターアンタゴニストとを組み合わせて行った解析結果を紹介する。
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