評価レポート
平成23年度評価委員会 評価報告書
1. 経緯
- 平成20年4月 医療系学部連携早期体験学習を1学年前期に導入(早期体験に並行して、学生チームによる課題研究「自学名市大を知る」を実施)
- 平成21年9月 「医療系学部連携チームによる地域参加型学習」が、平成21年度大学教育・学生支援推進事業【テーマA】大学教育推進プログラムに採択。医療系学部連携教育委員会を発足し、地域参加型学習支援センターを設置。「地域参加型学習」を実施するための24地域を選定し、地域の協力者との連携体制を整備。
- 平成21年度1学年学生有志を対象に「地域参加型学習」をテーマとする活動(平成22年度に向けた予備調査)を24地域で実施。
- 平成22年3月26日 「医療系学部連携チームによる地域参加型学習」平成21年度 評価委員会を開催。
- 平成22年4月 医薬看連携早期体験学習を医学部、薬学部薬学科、看護学部1年生に対する正規の通年教養教育科目として開始し、その中で「医療系学部連携チームによる地域参加型学習」を24地域で実施。
- 平成23年3月19日「医療系学部連携チームによる地域参加型学習」平成22年度評価委員会を開催。
2. 平成22年度の評価委員会で挙げられた課題
- 学習目標の明確化とその達成のための教員の関わり方。学生の視野を拡げつつかつ医療につながる方向性をどうやって出していくか。
- 活動レベルのチーム間の格差とチーム内の学生間の格差への対応。
- 学習効果の評価、教育研究としての展開。新しく導入したピア評価などの活用と、教育法の研究としてのアピール。
- 活動のための学生の交通費への対応。大学がマイクロバスや宿の借り上げで対応できる遠隔地担当学生と徒歩で訪問できる近隣地域担当学生に対して、公共交通機関を利用する必要のある中間地域担当学生だけが交通費を自己負担しなければならず不公平が生じている。
3. 各課題に関する平成23年度の活動
1) 学習目標の明確化とその達成のための教員の関わり
- 学習目標の明確化
- 医療系学部連携教育委員会で地域参加型学習の目標を検討し、本カリキュラムの学習成果(educational outcome)として次の3つの能力(competency)の習得を掲げた。
- 課題解決型学習能力の修得 (初年次導入教育): 地域社会のニーズの発見と、「学生なればこそできる」課題の解決ができる。
- プロフェッショナリズムの基盤形成: 医療のプロフェッショナルとしての基本的な態度、行動がとれる。
- チームワーク能力の習得: 医・薬・看護学部混成チームの一員としてチーム力の向上に貢献できる。
- 各outcome competenceに対する評価方法を設定した。
- 課題解決型学習能力の修得 (初年次導入教育)
- ポートフォリオ(総括的評価)
- 課題研究ポスタープレゼンテーション(形成的評価1回、チーム表彰)
- プロフェッショナリズムの基盤形成
- 出席(無断欠席は不可) (総括的評価)
- プロフェッショナリズムとコミュニケーション能力ピア評価(形成的評価 4回)
- チームワーク能力の習得
- チーク力評価尺度(形成的評価4回)
- 課題解決型学習能力の修得 (初年次導入教育)
- 医療系学部連携教育委員会で地域参加型学習の目標を検討し、本カリキュラムの学習成果(educational outcome)として次の3つの能力(competency)の習得を掲げた。
- 教員による指導・管理体制の充実
- 医療系学部連携教育委員会を毎週水曜日の午前中に開催
- 学生チームに各地域活動毎に、課題研究(地域参加型学習)計画書を提出させ、医療系学部連携教育委員会で審査・承認(活動の目的の明確性と、それを実現しうる計画であることを審査。殆どのケースで見なおしや修正を指示)。
- 年間3回の地域参加型学習進捗状況報告会(全体会議)の実施。
- 活動成果ポスター発表会
- 成果(2011活動成果 地域活動プロダクトCD)
- 平成23年度の地域参加型学習のテーマは、表1の通り。
- 殆どのチームで医療や健康増進に関する活動を行った。
- 研究としての要件を備えた社会的意義のある課題への取り組みも増えてきた。
担当地域 | 内容 | |
---|---|---|
A | 昭和区桜山商店街 | 商店街の方々の健康促進(夏祭りで生活習慣病の発表) |
B | 向陽高校 | トイレのにおいの原因究明(換気量の実測と生徒アンケート) |
C | 名古屋市瑞穂保健所 | 高齢者の健康増進とQOLの向上(実態調査) |
D | 渥美病院 | 渥美病院祭における発表(塩分過剰摂取予防対策) |
E | 豊川市民病院 | 脳卒中ノート (地域の脳卒中患者ケア支援) |
F | 桜山中学校 | 中学生への応急処置講習会(捻挫、熱中症、AED、毒虫、起震車) |
G | 菰野厚生病院 | 医療と町民の関わり方(医療に対する住民の意識調査) |
H | 松栄小学校 | 地域における健康と防災(アンケート調査、保険便りによる啓蒙) |
I | 豊根村 | 豊根村の薬事情と緊急時の課題(処方薬に対する認知度の調査) |
J | 蒲郡市民病院 | 蒲郡市民病院について(地域病院に対する市民と医療者の意識) |
K | 篠島・日間賀島 | 篠島・日間賀島における暮らしと医療(食生活と骨密度) |
L | いなべ総合病院 | 乳がん検診啓発運動(検診率の調査と啓発活動) |
M | あいち健康の森 | 市民への健康促進の方策に関する研究(健康祭に対する調査と提言) |
N | 大同病院 | 市民への結核についてのアンケート実施へ向けて(調査計画の立案) |
O | 足助病院 | 足助地区から学ぶ地域医療(健康講座と住民への聞き取り調査) |
P | 知多厚生病院 | 介護保険制度の認知度と対策(介護保険に対する認知度の調査) |
Q | 瑞穂区汐路小学校区 | 汐路小学校区での活動(祭、コミセン活動への協力) |
R | 瑞穂区御劔小学校区 | 御劔学区での少子高齢化対策と高齢者の声(地域活動への参加) |
S | NTT西日本東海病院 | NTT西日本東海病院と商店街との新たな交流(地域連携への協力) |
T | 上矢作病院 | 地域医療は住民こそ主人公(訪問看護、医療者へのインタビュー) |
U | 尾西病院 | 地域に根差した医療(活動への協力と医療者へのインタビュー) |
V | 旭労災病院 | 糖尿病と発達障害(患者指導、保護者指導への協力) |
W | 精神保健福祉センタ- | 大学生の抱える悩み・意識(学生の精神衛生に関するアンケート調査) |
X | 博物館・瑞穂通商店街 | 瑞穂通商店街の方々との交流(夏祭での健康ブース、合唱への協力) |
2) 活動レベルのチーム間の格差とチーム内の学生間の格差への対応
- チーム力評価尺度により、7月、9月、11月、1月に各チームの状況の把握を行った。
- 問題のありそうなチームに対しては適宜、担当教員による指導を行った。
- チーム状況の自己評価(目標・活動の達成度)の推移と平均を図1に示す。
[図1]チーム力評価尺度による各チームの達成度の推移
Team-work rating scale:I-1、I-2、I-3の全項目の平均値
Within team SD of individual contribution: 各チーム内のII scoreの標準偏差(チーム内のメンバー間の活動ばらつき)
3) 学習効果の評価、教育研究としての展開。
新しく導入したピア評価などの活用と、教育法の研究としてのアピール
- 平成23年9月15-16日に、本学医学部が当番校として「国内医科大学視察と討論の会」を開催。その中で、地域参加型学習を紹介。H22年度の受講生が自分たちの活動成果をポスター発表した。学生の地域における体験学習は多くの医療系大学、学部で実施されているが、医・薬・看護学部の密接な連携による授業である点、地域との連携による参加型学習である点で他の大学にはない取り組みとして高く評価された。また、同様な試みを計画している大学から多くの質問や問い合わせがあった。
- 平成24年1月21日(土) 地域参加型学習活動成果ポスター発表会を実施。地域の協力者の他、地域医療に取り組んでいる医師などの参加もあった。中日新聞による取材があり、記事が掲載された(図2)。
中日新聞第24899号2012年(平成24年)1月22日(日曜日)
[図2]平成24年1月21日(土)地域参加型学習 課題研究成果ポスター発表会
4) 活動のための学生の交通費への対応
- 上矢作、豊根村、足助、渥美などの遠隔地につては、大学がマイクロバスや宿の借り上げで対応した。
- 商店街、学校などの近隣地域担当学生は、交通費を必要としなかった。
- 名古屋市内や名古屋市近郊で交通機関の利用が必要とする地域の担当学生は交通費を自己負担した。
- 学生からも負担の公平性に対する疑義が寄せられているが、大学として多数の学生に対して授業やゼミなどで必要な交通費を支給または援助する適切な方法がなく、対応を検討中である。
4. 平成23年度の活動実績と評価 (括弧内はH22年度)
1) 参加学生 249名 (240名)
- 医学部95名 (95名)
- 薬学部71名 (66名)
- 看護学部83名 (79名)
2) 活動地域 24地域
- 地域コミュニティー 商店街2、学区2
- 学校 小学校1、中学校1、高校1
- 健康・福祉施設 瑞穂保健所1、精神保健福祉センター 1、あいち健康の森1
- 山間地・離島 山間地3(豊根村、上矢作町、足助町)、 島嶼(篠島、日間賀島)
- 一般病院10
3) 活動回数
- グループの活動回数 計351回 (344回) 平均15回/グループ (14回/グループ)
- 現地訪問回数 計143回 (90回) 平均6回/グループ (4回/グループ)
4) 成果の発表等
- 国内医科大学視察と討論の会 平成23年9月15-16日
- 課題研究成果ポスター発表会 平成24年1年21日午前
- 地域参加型学習シンポジウム 平成24年1月21日午後(図3)
[図3]地域参加型学習 課題研究成果ポスター発表会とシンポジウム
5) 地域に対するアンケート調査
- 対象24地域 46名 (38名) 有効回答34名(74%) (30名(79%))
- 結果(そう思う+ある程度そう思う)
22年度 | 23年度 | |
---|---|---|
学生は積極的に参加している | 73% | 91% |
地域の活性化に有効である | 60% | 73% |
医・薬・看3学部での活動には意義がある | 93% | 94% |
「地域参加型学習」の趣旨を理解している | 97% | 94% |
運営体制・大学の対応は十分である | 83% | 82% |
6) 学生に対するアンケート調査
- 対象249名 (240名) 有効回答244名(98%) (239名(99.6%))
- 結果(そう思う+ある程度そう思う)
医学部 | 薬学部 | 看護学部 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
H22 | H23 | H22 | H23 | H22 | H23 | |
学生は積極的に参加できた | 81% | 94% | 90% | 86% | 82% | 81% |
地域の活性化に有効である | 70% | 79% | 69% | 79% | 58% | 85% |
医・薬・看3学部での活動には意義がある | 86% | 93% | 92% | 94% | 96% | 96% |
「地域参加型学習」の趣旨を理解している | 77% | 87% | 85% | 87% | 73% | 94% |
大学の対応は十分である | 66% | 87% | 75% | 82% | 45% | 83% |
5. 平成24年度以降の計画
- 文部科学省大学教育・学生支援推進事業【テーマA】としては今年度が最終年度となる。
- 平成24年度以降は本学の自己予算(理事長裁量経費)により、地域参加型学習支援センターを維持し、平成23年度と同様の規模で内容の充実を図るべく医療系学部連携教育委員会で準備を進めている。
- 地域参加型学習の新たな候補地域(テーマ)として、①笠寺病院、②地域の介護・福祉機能を中心とする鳴子団地再生プロジェクトを検討中。
- 平成23年度の学生チームの1つが取り上げたテーマから、「大規模災害時を想定した患者の処方薬認知度調査」を、各チームの自由課題に加えて、全チーム共通学習課題として各担当地域で実施する計画を検討中(公的研究助成申請中)。
6. 総括
本年度は医薬看連携早期体験学習に「医療系学部連携チームによる地域参加型学習」が正規カリキュラムとして導入されて2年目の実施であり、かつ平成21年度から始まった文部科学省の大学教育・学生支援推進事業【テーマA】としての最終実施年度となった。地域参加型学習は平成21年度の試行を含めて3年間の取り組みによって、年次毎に内容の充実と運営の体制の整備が進められ、本学の正規授業科目として定着したと言える。この取り組みについての学外での発表を通じ、授業に対する他大学から高い評価が得られ、また本学を受験しようとする受験生からもこの授業への期待や受講希望の声が聴かれる。
平成23年度の取り組みとして、[1]本カリキュラムにおける達成目標(educational outcome)の明確化とそれに対する学習評価システムの導入、[2]医療系学部連携教育委員会による学生チームの地域での活動計画の詳細なreview systemの導入、[3]対外的な取り組みの成果の積極的な発信が行われた。これらの効果として、[1]授業の目的や意義に対する学生の認識が深まり、多くのチームで医療系学部に相応しくかつユニークで独創性のある活動テーマが増えてきた。
今後の課題として、文部科学省による支援事業の終了にともない、継続のための予算、およびさらなる発展のための資金の獲得が必要であり、そのために教育研究としてのアピールも重要であると考える。また、地域での活動のための交通費等の学生による負担について公平性を保つための措置の導入が必要である。
最後に、平成21年度文部科学省の大学教育・学生支援推進事業【テーマA】として行われた本取り組みは、支援推進事業の主旨に一致し、事業に期待される十分な成果を上げたものと判断する。
以上