年報第18号(平成23年10月)

1.挨拶 医学研究科長 藤井 義敬

 動物実験というともう20年以上も前にアメリカのサンディエゴでラットの実験をしていたときのことを思い出します。シビレエイの電気器官から取り出して純化したアセチルコリンリセプターをラットに注射して抗体を作らせると、そのラットが重症筋無力症になる、というモデルです。私はそのラットのリンパ節から取り出したT細胞を使っていろいろ実験をしていました。その頃は3Rなどという概念もなく動物保護団体のこともほとんど気にしていませんでしたが、研究費も気にすることなく、沢山のラットを使っていました。私のやっていたような実験は,人間では行えないので,ラットを使用して生体の反応を見るしかなくReplacementは不可能なのですが、必要最小限のラットですませよう(Reduction)とは思っていました。それは沢山ラットを使うとそれだけ後の実験が大変だからです。実際は不十分な数の実験では差があっても有意となりにくく、その場合は論文にならないためにかえってラットの無駄遣いになります。実験計画が大事だ、ということでしょう。その他にアセチルコリンリセプターに毒をくっつけて重症筋無力症のラットを治療する実験をしていましたが、これはアイデア倒れで(これは私でなくボスのアイデアでした、念のため)うまく行きませんでしたので、すごく沢山のラットを無駄に昇天させました。昇天、と言えばラットを昇天させるのにあのころは頸椎の脱臼をしていましたが麻酔処置が適切でなく,全くRefinementとはかけ離れていました。これからはばらばらにした細胞を使って薬の効果を見たりして動物を使わずにすませる方法もでてきそうです。
 ラットの世話をしていた気の良いお兄ちゃんとは必要上よく話をしましたが、とても分かりにくい英語だったです。でもこの人達のおかげで動物実験は可能になっています。あらためて名市大の実験動物研究教育センターの縁の下で力をだしていただいているセンターの方々に厚く感謝申し上げます。


2.年報の発刊にあたって センター長 三好一郎

 実験動物研究教育センターは竣工以来20年を経過し,経年劣化により維持運営の観点から様々な危険性が目に見えるようになってきましたが,機能不全に陥ることなく日常業務をこなしております。1年の間,幸いにも大きな事故を起こすことなくセンターを維持できましたことは,利用者の皆さまをはじめ,医学研究科はもとより本学の関係諸氏の皆様のご協力並びにご支援の賜でございます。ここに厚く御礼申し上げます。しかしながら,相変わらず細かな漏水事故はありますし,何よりも,マウスの飼育スペースの不足は切実な問題として未解決であり,お詫び申し上げます。
 さて,今年3月11日に発生した東日本大震災のような自然災害には如何に準備しておけばよいのか,改めて大きな課題に直面しております。災害対策マニュアルをHPに掲載しておりますが,まず基本原則は,災害発生時には身体の安全を確保し,避難することが第一です。もし,災害規模が小さいと判断できれば,初期消火等の対応や動物の収容確認等を行うことになります。勿論,可能であれば関係各所への連絡も重要になります。また,少し落ち着ければ,周囲の住民の生活環境の保全,逆に貴重な動物資源の確保も視野に入ります。しかし,あくまで,利用者の皆様,飼育管理に携わる皆様の身体の安全と,避難を最優先として下さい。
 一方,実験動物飼育保管施設には備えが必要です。残念ながら,我々が住むこの地域では,早晩かなりの確率で大規模の震災が来ることが予想されております。例えば,東北大学の動物実験施設では,マウス・ラットの飼育棚242台のうち転倒は2台のみで済みました。これは,先の宮城沖地震を契機(この時は38台が転倒)に飼育棚が壁や床,天井等に固定され,また,ケージ落下防止装置が装備された事が効果を示し,最大級の地震にも堪えられたものと考えます。その他にも,実験設備等,例えば顕微鏡,および,ボンベ類,実験器具,書籍棚等の耐震補強の徹底も必要です。一方,飼料や飲用水,飼育に関連する消耗品などの備蓄も考えなければなりません。東北大学や福島医大の施設の対応をお手本にして,消耗品の備蓄や装置・備品の転倒防止策などの準備に臨みたいと考えておりますが,結局,ある部分は資金のお話になってしまいます。ここでも,医学研究科並びに本学の関係諸氏の皆様のご協力並びにご支援をお願い申し上げます。
 私ども(教職員の他,飼育管理会社やビルメインテナンス会社の社員)センターに勤務する者は,動物実験を通して教育研究に貢献するために,本学動物実験規程を遵守し愛護に基づき科学的・倫理的に機能する実験環境を提供することが使命です。センターの円滑な運用には,コンプライアンス加えて,様々な手続きが必要になる事例が多く,今後もHP等によりご案内する所存ですので宜しくお願い申し上げます。


3. 利用状況

(1)各分野月別登録者数
(2)年間月別搬入動物数(SPF、コンベ)
(3)各分野月別搬入動物数
●マウス
●ラット
●ウサギ
●ハムスター、ブタ、モルモット、マーモセット
(4)各分野月別延日数飼育動物数
●マウス
●ラット
●ウサギ
●モルモット、マーモセット


4.沿革

昭和25年4月 名古屋市立大学設置
昭和45年3月 医学部実験動物共同飼育施設本館完成[昭和45年5月開館]
昭和54年3月 医学部実験動物共同飼育施設分室完成[昭和54年7月開館]
昭和55年3月 医学部実験動物共同飼育施設別棟完成[昭和54年7月開館]
昭和55年4月 第一病理学講座 伊東信行教授が初代施設長に就任
平成元年4月 医学部動物実験施設に名称を変更
平成3年4月 小児科学講座 和田義郎教授が第二代施設長に就任
平成3年5月 新動物実験施設改築工事起工
平成4年11月 新動物実験施設完成
平成4年12月 安居院高志助教授が施設主任に就任
平成5年3月 新動物実験施設開所式
平成5年4月 第二生理学講座 西野仁雄教授が第三代施設長に就任
平成5年5月 新動物実験施設開所
平成9年4月 第一病理学講座 白井智之教授が第四代施設長に就任
平成9年5月  医学部実験動物研究教育センターに名称を変更
平成14年4月 医学研究科実験動物研究教育センターに名称を変更
平成14年9月 安居院高志助教授が北海道大学教授として転出
平成15年4月 宿主・寄生体関係学 太田伸生教授が第五代センター長に就任
平成15年4月 三好一郎助教授がセンター主任に就任
平成17年4月 実験病態病理学 白井智之教授が第六代センター長に就任
平成19年4月 生物化学 横山信治教授が第七代センター長に就任
平成20年12月 病態モデル医学 三好一郎教授が第八代センター長に就任


5.構成

センター長 三好一郎(併任、病態モデル医学分野 教授)
衛生技師 宮本智美
業務士 西尾政幸
飼育委託 株式会社ラボテック
ビル管理委託 日本空調システム株式会社


6.平成22年 行事

1月29日 平成21年度 第10回動物実験規程講習会
2月16日 平成21年度 第11回動物実験規程講習会
3月24日 平成21年度 第12回動物実験規程講習会
3月25日~3月31日 オートクレイブ更新工事
4月16日 平成22年度 第1回動物実験規程講習会
5月18日 平成22年度 第2回動物実験規程講習会
6月  8日 平成22年度 第1回動物実験委員会
6月18日 平成22年度 第3回動物実験規程講習会
7月  8日 平成22年度 第1回運営委員会
7月13日 平成22年度 第1回運営協議会
7月21日 平成22年度 第4回動物実験規程講習会
8月19日 平成22年度 第5回動物実験規程講習会
9月15日 平成22年度 第6回動物実験規程講習会
9月28日 実験動物感謝式
11月  1日 平成22年度 第7回動物実験規程講習会 (基礎自主研修)
12月10日 平成22年度 第8回動物実験規程講習会


7.研究成果

 名古屋市立大学大学院医学研究科実験動物研究教育センターを使用し得られた研究成果のうち、2010年中に公表された論文をまとめた。ここには原著のみを掲載し、総説、症例報告、学会抄録等は割愛した。