成果レポート

ニュースレター

Vol.1    2010年1月号

文部科学省平成21年度大学教育・学生支援事業
    名古屋市立大学「医療系学部連携チームによる地域参加型学習」説明会
日時:平成21年11月5日(木) 19時00分 - 21時00分
会場:キャッスルプラザ 4階 鳳凰の間
 内容
  1. ごあいさつ
    西野仁雄 理事長
  2. 大学側スタッフの紹介
    研究科長、AMECメンバー
  3. 取り組みについて ~趣旨、計画、ゴール~
    取り組み責任者 医学研究科 早野順一郎教授
  4. 地域における学生教育の紹介
    知多厚生病院 宮本忠壽院長
  5. 地域における学生教育への提案
    いなべ総合病院 水野章院長
  6. 総合討論
  7. 今後の予定
 1.ごあいさつ

ごあいさつ
西野理事長ごあいさつ

はじめに西野理事長の挨拶があった。地域医療のマインドをもった、専門性を追求できる医療人を育てていきたいことが強調され、そのために地域の先生方のご助力・ご指導を頂きたいとの趣旨であった


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 2.大学側スタッフの紹介

続いて大学側スタッフの紹介があった。白井医学研究科長・水上薬学研究科長・山田看護学部長の紹介と挨拶が行なわれた。さらに、“AMEC”(医療系学部連携教育委員会、Allied Medical Education Committee)と名づけられたこのプロジェクトのコアメンバー7名が紹介された。


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 3.取り組みについて 趣旨、計画、ゴール

取り組みについて 趣旨、計画、ゴール
取り組み関する説明

取り組み責任者である医学研究科の早野教授より、本プロジェクトの趣旨・計画・ゴールが説明された。内容は以下の通り。

本プロジェクトの目的は第1が医療人教育に対する社会の要請に応えること、 第2に学生と地域との間の親和性を醸成すること、さらに地域のニーズを知るための基盤を作ることにある。

地域での体験学習や臨床実習は多くの大学が取り入れ、地域基盤型学習と呼ばれている。こうした従来型の地域基盤型学習では、 見学や体験が主体で、地域医療マインドや健全なキャリアビジョンの形成にまで踏み込んでいる例は少ない。

本事業では「地域参加型学習」という用語を導入した。これは地域のニーズの発見と、 学生なればこそできる課題解決を学習テーマとする学習を意味している。 地域の実際のニーズを基に地域の人たちと共に活動するという、学生の地域活動への参加と、 地域が参加する医療人育成である。 これを、医薬看の学部を超えたチームに、さらに学年間の縦のつながりを導入し、 学生の主体的な活動を中心として継続的に行う。

具体的には医薬看3学部約240名の学生を24の学部混成グループに分け、 活動地域は一般病院、山間部や離島、名古屋市内の3種類からそれぞれ別の特定の地域とする。 病院と地域との関わりを軸に、学生が地域でのニーズを見つけ、 課題解決に向けて地域・病院と連携して主体的な活動を行なうことを企図している。 学生がその地域で、ある役割を担うように活動できることが望ましい。

すでに同様な形式を本年度の教育に導入したが、学生の主体的な活動は、 期待以上のパーフォーマンスを発揮している。彼らの主体性を尊重し、 彼らの能力を引き出して頂ければと願っている。

中心となるのは、医療系学部連携教育委員会(Allied Medical Education Committee)、 通称AMECで、事務員を3名置き、地域や学生グループとの連絡調整を行う。

期待される成果としては、地域医療に対する親和性と責任感の醸成、 チーム医療のための職種間連携能力の育成、健全なキャリア形成に対するビジョンの形成、 大学と地域との連携による医療人育成システムの構築、 地域医療と教育・研究活動の双方に資する潤沢な人材の育成が挙げられる。 本事業が目指すゴールは、この事業の地域の「教育文化」としての定着である。


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 4.地域における学生教育の紹介

地域における学生教育の紹介
知多厚生病院 宮本院長

地域における学生教育の紹介として、知多厚生病院の宮本院長より講演が行なわれた。内容は以下の通り。

知多厚生病院は南知多の美浜町の北に位置する病院である。20診療科、病床数266床、職員約400人、医師30人、さらに付属施設として篠島に診療所がある。

地域住民との交流を積極的に行なっている。 JAと連携し、それぞれの事業やノウハウ、マンパワー、施設も提供しあって、 保健・医療・福祉を包括した社会サービスを提供している。 コールセンターを置いた健康ネットワークも構築しつつある。

最近、新しい外来診療棟が建設された。 医師会・行政・JA・厚生連などと緊密な連携をとりつつ、総合性と専門性の両方を兼ね備えたセンターとし、 地域住民が必要とする保健・医療・福祉を総合的に提供したいと考えている。 生活支援部門として健康管理支援センター・母子支援センター・生活改善センターを、 また地域医療・福祉、医療と福祉が連携したセンターを作った。 地域の医師会とともに、協力しあって救急医療も行なっている。

「世界健康半島をめざして」をスローガンに、保健・医療・福祉を総合した取り組みを行い、 地域との連携で患者中心の医療、あるいは助け合い協同組合の精神で社会保障の実現を目指し、 知多半島のいろいろな医療資源を有効活用し、地域全体で地域医療を育てていかねばならないと考えている。

付属施設として篠島に診療所がある。 離島の診療所というイメージではなくて、街の診療所に近い患者数がある。 ここでは医師の臨床研修が行なわれている。

今年度前期、市大医療系学部1年生の地域参加型学習がこの篠島診療所で行われたので、紹介したい。 医学部が4人、薬学部が3人、看護学部が3人のグループであった。 5月16日に知多厚生病院に来訪してもらい、地域医療について講義を行った。 6月14日には、篠島を紹介訪問ということで、区長さんより篠島の歴史、現状・行事について説明を受け、島全体を見学した。 8月20日には篠島診療所を見学し、アンケート調査を行なった。

診療所では患者さん達とアンケートを通じて非常に一生懸命対話していたし、 海南病院2年目の研修医の健康講座の見学し、研修医と篠島での診療について情報交換した。

学生の感想としては、「患者の多さに驚いた」、「診療所と当院の連携に非常に興味を覚えた」、 「地域医療を支えるには地域の連携が重要であることを実感した」などがあった。 アンケートからは「診療時間を増やしてほしい」、「いろいろな診療科あるいは総合医に来てほしい」などの患者の感想を得ていた。 感想の中でもすばらしいと思ったのは、調査を行う中で「僕ら学生が取り組むことのできる課題を見つけたい」と彼らが言ってくれたことである。

将来地域医療を担う医療者を育てるのは、地域全体の責任だと考える。 住民も含め、地域全体で考えていかなくてはいけない。住民の医療に対する理解を得るためにも、 医療系学部連携チームでの活動は非常に有用だと思う。全人的な医療を実践するには、チーム医療が重要であり、 早い時期から地域で医療者間の連携をとりながらの活動が、非常に肝要だと考えている。


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 5.地域における学生教育への提案

地域における学生教育への提案
いなべ総合病院 水野院長

地域における学生教育への提案として、いなべ総合病院の水野院長より講演があった。内容は以下の通り。

いなべは風光明媚で自然のすばらしい地域である。名古屋からは車で1時間程度で、意外に近いところにある。

いなべ総合病院は昭和28年に前身の病院ができ、平成14年9月に新病院ができた。 この地域には自治体病院がなく、急性期一般病床を持っている病院は当院と、隣の日下病院の326床である。 人口7万の人たちをうまく振り分ければ回っていく環境であり、 当院が「いなべ市立病院」の代わりをするという役割を期待されはじめている。

地域に根ざす取り組みを重ねて医療機関のイメージを作ってきた。 常に行動して地域との連携を保ち、弛まぬメッセージを発信することで、 最近は地域と双方向性のある関係を維持してきている。

病院をうまく利用して頂き、地域の住民の方々とコミュニケーションをとることが、 その人たちの健康管理を担うということに直接つながる。

このために様々な活動をしている。各老人会などへの講演を行うほか、 今年からは行政の予算で地域住民への市民健康講座(健康推進講演)・健康相談を行なっている。 JAの農業祭や院内の病院祭では健康チェックや健康相談活動もしている。

地域のボランティアの皆さんに支えられる病院として運用をしている。 クリスマス会や病院祭などの病院行事、大規模災害訓練、AEDの訓練など、地域住民と一緒に行なう行事も進めている。 訪問看護が支える在宅医療、行政健康福祉部が中心となって行なう特定健診の住民健康指導、 こうしたことから、接点を1つずつ増やしてきた。禁煙外来も奏功している。

こうした点を踏まえて考えた場合、学生に対する地域参加型学習のテーマとして、以下のものが挙げられる。

地域住民の健康管理の啓発活動があり、これは浸透させていかなくてはならない。 うまく健康管理ができるような活動も考えられる。健診を進めることも重要だが、 異常所見があった場合に精密検査・二次受診をきちんとうけるような地域住民教育もある。 在宅医療、大規模災害訓練、AED講習なども考えられる。

禁煙を成功させるための「禁煙支援マラソン」も考えられる。 生活習慣、特定健診の生活習慣病予防、その指導なども想定される。うまく利用して問題を抽出して、 対策を講じていけるようにお手伝いできれば、と考えている。

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 6.総合討論

総合討論
総合討論

準備状況と今後の予定についての補足(早野教授より)


  • 今年度は、医薬看1年生約240名が24グループに分け、 4月から7月までの間、「自学名市大を知る」というテーマでグループ研究を行った。 この学生グループを冬休み、春休みに地域に訪問させ、活動を開始させたい。
  • 2009年12月12日土曜日に、ワークショップを開催し、地域の代表と学生グループが会って話し合う機会を設ける。
  • 2010年4月以降は2年生となった学生が同じグループの1年生に活動内容を伝え、1年生が実質的な活動を行なう。

続いて、総合討論が行なわれた。討議・確認された事項は以下の通り。

  • 時間の確保について
    遠方の病院も多く、地域の活動は夕方以降や土日に行なわれることも多い。 カリキュラムの時間内だけでなく、休日・休暇中も含めて活動することにより学生の時間を確保する。 これまでも篠島や豊根村を担当した学生はこの形で活動した。事前に地域担当の方に相談し、 調査期間・内容を学生グループで検討した上で訪問し、効率よく活動している。
    本年度については正規のカリキュラムではないが、3月までに1,2回程度訪問することを想定しており、 これは主に冬休みや春休みの期間になる。
    来年度については金曜日の午前中を3学部とも、前期すべて空けている。 その間グループのミーティングを行い、準備や調査計画をまとめる。 実際には、夏休み・冬休み・春休みに地域に訪問し、成果は年度末のポスター発表や、ホームページで随時発表する形をとる。
  • 大学教員の関わりについて
    担当教員を決めて対応できる体制を作っており、教員が一緒に訪問することもあるが、 学生グループだけが行く場合もある。地域側から人が付いて学生と一緒に活動することも歓迎する。
  • カリキュラムの実行期間・受入れ期間について
    来年度の正規カリキュラムについて、コマ割上は前期になっているが、 実際に学生が活動するのは、特に遠隔地に関しては休みの時間を利用する (注:その後正式に通年カリキュラムとなり、ポスター発表会も年度末に行なう予定)。 フィールドワークの日数は施設による。金曜の午前中の受入れも各病院の対応に任される。
    各種行事の活動の機会が土曜日・日曜日中心であれば、平日である必要はない。 計画の打合せを綿密にお願いしたい。連絡先の電話番号やメールアドレスを頂き、 日程や時間、活動の中身などの調整を進めていただきたい。
    学生のグループ10人の都合がいつも合うわけではなく、学生の中でも役割分担ができてくる。 病院の担当者との間のコミュニケーションや、交渉も学習課題であり、社会のルールや礼儀とかも是非ご指導頂きたい。
  • 学生のモチベーションを引き出す手段について
    病院側の自主性に任せるもので、枠を決めているわけではない。 病院が考えている企画に学生を参加させる方法、逆に地域のサークルを紹介する程度とし、 一定のルールの下で病院で自由にしてもらう方法、 学生に前もって勉強してきてもらって課題を見つけるという方法などが考えられる。 実際に数年前から、学生がルールを守った上で病院に出入りし、 そこで学生が課題を見つけるというやり方で、いろいろな活動が行なわれている例がある。 その病院の考える「地域」に学生を触れさせてもらえればよい。
  • 保険について
    途中の事故等に関しては学生の傷害保険にはいっており、その傷害保険に準じた補償となる。 行き帰りの時間帯などを含め、無理のないようお願いしたい。
  • カリキュラムの評価基準、提出物等について
    来年度から年度の終わりにポスター発表会を行なう。 教員が評価し、また学生も相互評価し、ある程度の基準を満たさないと合否にかかわる。 最優秀ポスターを選んで表彰も行なう。これまでの例では学生グループのパフォーマンスは期待以上のものがある。
    地域に活動を拡大したときには、ホームページにも発表する。 教員だけでなく地域の方にもチェックして頂き、各地域での名市大の学生の活動成果をどんどん公表していく。
    さらに、成果を病院や地域のイベント時に、発表する機会を与えて頂ければ、 地域の方々や病院のスタッフの方々からの評価や、ご意見、ご指導を頂く機会になる。 総合的に学生の活動を評価する。
    実際のフィールドで携わる人たちの評価というのが大事で、その評価がモチベーションとなる。 地域の方々の、評価への参加方法も検討する。
  • 学会発表・論文発表等の指導について
    12月の名市大医学会では2グループが地域活動の成果を発表する。 年次を経るに従って高学年も活動に加わるようになれば、地域医療に貢献できるレベルになりうる。
    これまでの例でも、入学1年目に医療に関わる授業が殆どない中で、 このカリキュラムだけは実際の医療に触れる機会ということで、 「これがあったので大学に来る意欲が得られた」と言う学生もいる。彼らの意欲はかなり高い。
    地域で学会・論文発表の指導を行ったりすることも歓迎する。 地域からもそうしたことに伴う諸費用を病院側で負担してもよいという意見があった。
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 7.今後の予定

最後に、西野学長から参加者に対してお礼の挨拶があった後、今後の予定について早野教授から説明があった。

  • キックオフワークショップが12月12日(土)に行なわれる。1グループあたり学生代表3名、地域代表1,2名を想定。グループで地域活動の企画立案をし、全体討論のなかで、実際に今年度に行う活動や、来年度以降に向けた活動の具体案を策定する。
  • その後3月までに現地視察など、実際の活動を行なう。AMECで活動状況を把握し、計画の妥当性や倫理性などを検討する。
  • 来年4月には、新1年生が入学し、新2年生から活動の引き継ぎや指導を受けた上で新1年生がメインの実行部隊になる。

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