第5号(平成10年5月)

1.年報発刊に寄せて 医学部長 和田義郎

 実験動物研究教育センターの平成9年度年報の編集が着々と進んでいると承って、時間の経過の速さに今更ながら驚いている次第です。丁度1年前に平成8年度年報の原稿を書いていたわけですが、その頃のことがまるで2,3か月前の出来事の様に思い出せるのです。そのとき私は年報の序文の中で、医学研究における動物実験の重要性について述べました。医学の長い歴史を通して今も輝きを失わない偉大な業績には、多くの場合その裏付けとなる豊富な動物実験のデータが有るのです。これから将来にわたって成し遂げられる新しい研究でも同じでしょう。むしろ実験上の手技が難しくなったり、環境条件の維持や調整にも万全の配慮がなされた“より高度の実験”が求められる時代となりました。実験動物に対しても愛護の立場を忘れず、(1)無用の実験や不必要に動物に苦痛を与えるようなことは避ける、(2)動物の飼育環境の改善を図る、等々の配慮が必要です。これからも動物実験が円滑に行われ、実験の目的が達成出来るように、若手研究者諸君のご研鑽を祈って止みません。
 昨年から名称が変更された実験動物研究教育センターですが、ウィークデイは勿論のこと休日も夜遅くまで照明が灯って研究が行われている活気に溢れた研究施設です。日頃運営や研究指導に当たって居られる白井教授と安居院助教授はじめスタッフの方々に心からの敬意を表します。


2.年報の発刊にあたって センター長 白井智之

 本年報は1997年度の当センターの利用状況、実験動物に関わる諸活動及び研究業績をまとめたものです。本年も当センターを利用して多くの研究が行われ、その成果が論文として発表されました。これだけの研究成果が当センターを利用することで成し遂げられ、少しでも世の中のために役立っているとすればセンター長として大変うれしく思うところです。これには、研究者各位の努力はもちろんでありますが、当センター関係各部局の皆様のご理解とご努力、教職員並びに業務に直接携わっておられる職員の皆様の努力の賜物と心からお礼を申し上げます。年報の作製は、施設の利用状況、諸活動、研究成果を整理し、評価と反省の材料とするとともに、次なる新しい目標を検討する上で大変意義あることです。また、各研究成果は、実験動物の尊い命の犠牲の上に立って得られたものであるという自覚と、感謝の念を今一度新たにしていただく上でも重要な意味をもちます。開所5年を経過しようとしていますが、昨年名称が動物実験施設から実験動物研究教育センターに改められ、研究と教育に充実した施設としてより一層気を引き締めて稼働しています。2名の大学院生がすでに研究に携わっており、昨年は医学部学生の基礎配属には2名のM4の学生が6週間にわたって安居院助教授のもとで研究に参加してくれました。遺伝子導入動物の開発作成にも積極的に関わっており、動物を飼育する単なる施設から名実ともに研究と教育に重点を置いた身のある施設として変貌を遂げています。昨年度からは定年退職された業務士に代わって衛生技師が着任し研究と教育のセンターとしてより充実したと思っています。もちろん動物飼育施設としての運営と環境の維持・改善に関しましてもより一層の努力をおしまない所存です。本センターの健全な運営と発展は必至であります。今後とも運営協議会の各位をはじめとする皆さまのご協力を戴きますようお願い申し上げます。


3.特別寄稿 整形外科学講座 柴山元英

アメリカの動物実験

 私は整形外科よりアメリカ、フィラデルフィアのアルゲーニ大学に派遣され、神経生物学教室で脊髄損傷の研究を解剖学的、行動学的にラットを用いて行いました。その時に感じた動物保護運動の高まりを中心に書きます。
 最近はまず実験を始める前にかなりの厚さの計画書を作り学内の動物委員会に提出します。これはとんでもない大仕事です。その承認をもらって初めて実験を始めることができます。この計画書には、実験の計画はもちろん、痲酔や実験後のネズミの痛み止め、抗生物質など薬剤の種類、量までも書き込みます。もし委員会がその実験は動物に残酷だと判断したら変更または中止をを求められます。僕が3年前にアメリカに行き実験を始めた時はずっと簡単だったので、動物愛護家が最近ますます力を増してきたしるしです。研究者はこんな事はまったく馬鹿げていると言いながらも計画書を作っていました。ネズミはまだ問題が少なかったけれど大動物になればなるほどもっといろいろな書類が要求され、細かいケアも必要なようです。実際に実験が終わりペーパーになった時、◯◯大学の動物委員会のガイドラインにそって実験を行ったと書かないと出版社から受け付けてもらえません。皆さんも気をつけて下さい。
 次に実際の動物実験について書きます。実験を始めるにはまずテストを受けなければなりません。100ページくらいのテキストを読んでテストに答えて(宿題のようなものです)それに合格して初めて動物の処置を始める事ができます。手術をしたらその記録や痛み止め等の薬物使用を記録しなければなりません。痛み止めにはなんと麻薬まで使用することもあり、そこまでしなくてもといいのではと皆言っていました。僕の居たビルは6階から9階までが研究室で、10階に動物舎、手術室等がありました。そこでは黒人の大きな男達が働いており、彼等が動物の毎日の世話をしてくれました。最初はとてもとっつきにくく黒人英語で何を言っているかさっぱり分からなかったけれど、仲良くなるといい人達でした。僕の脊損ネズミが調子悪いと朝一番で彼等より電話があり見に来いと言われます。もし重傷なら動物舎のチーフ(獣医)であるミッシェルに見せねばなりません。そして動物がひどく苦しんでいるようなら安楽死させるように求められます。しかしどうしてもラットをあと数日生かしたい時には、彼等の目を盗み自分の実験室へこっそり連れ帰りアニマルICUと称した実験室の片隅で面倒をみていました。
 年に一度どこから来るかしらないけどAnimal commitee(多分彼等はアメリカ中を回っているのだと思います)の視察があります。もしプロトコールと違う事をしていて見つかったりすると研究室全体が閉鎖させられるので皆戦々恐々です。僕も一度ネズミの手術記録を見せるように要求されました。この時は日本語半分の記録を見せなんとか納得してくれて、ほっとました。また学内の動物委員会の視察もあります。偶然、僕の脊損ネズミの一匹が尻尾を自咬していて、これが問題となりさんざん質問されたり、レポートまで要求され参りました。
 友人は東海岸は動物実験に対する圧力はまだましだといっていました。動物愛護家の多い西海岸では動物実験に対する目がきつく、実験動物を解放しようとした気狂い愛護家の動物舎への侵入事件があったそうです。カルフォルニアでは動物実験をやっている事をあまり言わない方が良いとまで言っていました。
 という訳でアメリカではここ数年動物愛護家の力の高まりで、動物実験はなかなか大変になっているようでした。


4. 利用状況

(1)各講座月別登録者数
(2)年間月別搬入動物数(SPF、コンベ)
(3)各講座月別搬入動物数
(4)各講座月別延日数飼育動物数
(5) 月別各種動物ケージ占有率


5.沿革

昭和25年4月 名古屋市立大学設置
昭和45年3月 医学部実験動物共同飼育施設本館完成[昭和45年5月開館]
昭和54年3月 医学部実験動物共同飼育施設分室完成[昭和54年7月開館]
昭和55年3月 医学部実験動物共同飼育施設別棟完成[昭和54年7月開館]
昭和55年4月 第一病理学講座 伊東信行教授が初代施設長に就任
平成元年4月 医学部動物実験施設に名称を変更
平成3年4月 小児科学講座 和田義郎教授が第二代施設長に就任
平成3年5月 新動物実験施設改築工事起工
平成4年11月 新動物実験施設完成
平成4年12月 安居院高志助教授が施設主任に就任
平成5年3月 新動物実験施設開所式
平成5年4月 第二生理学講座 西野仁雄教授が第三代施設長に就任
平成5年5月 新動物実験施設開所
平成9年4月 第一病理学講座 白井智之教授が第四代施設長に就任
平成9年5月  医学部実験動物研究教育センターに名称を変更


6.構成

センター長        白井智之(併任、第一病理学講座教授)

センター主任(助教授)  安居院高志

衛生技師         宮本智美

業務士          西尾政幸

大学院生         成 際明

研究員          鄭 且均、丁 銘

飼育委託     株式会社ケー・エー・シー

ビル管理委託   日本空調システム株式会社


7.平成9年 行事

1月28日  平成8年度 第10回講習会

3月 7日 施設主催講演会

       東北大学医学部付属動物実験施設 教授、笠井憲雪 先生

         「疾患モデル動物とヒト疾患の遺伝的相同性」

3月19日  平成8年度 第11回講習会

3月21日  森 正直氏退職記念パーティー

3月28-30日  施設合同スキー旅行(長野県蓼科高原)

4月16日  平成9年度 第1回講習会

4月21日  平成9年度第1回運営委員会

4月28日  平成9年度第1回運営協議会

5月21日  施設合同歓迎会

5月29日  平成9年度 第2回講習会

6月18日  平成9年度 第3回講習会

7月18日  平成9年度 第4回講習会

7月19-21日  施設合同キャンプ(洞戸キャンピングセンター)

8月28日  平成9年度 第5回講習会

9月24日  実験動物感謝式

9月26日  平成9年度 第6回講習会

10月24日  平成9年度 第7回講習会

10月25日  施設合同登山(岐阜県伊吹山)

11月21日  平成9年度 第8回講習会

12月17日  施設合同忘年会

12月19日  平成9年度 第9回講習会


8.研究成果

 名古屋市立大医学部実験動物研究教育センターを使用し得られた研究成果のうち、1997年中に公表された論文をまとめた。ここには原著のみを掲載し、総説、症例報告、学会抄録等は割愛した。


9.編集後記

 今年も実験動物研究教育センター年報第5号を発行することができました。センターが開所してから5年が経過し、運営も軌道に乗ってきたところです。しかしながら、開所したときにはすべてが真新しかった諸設備も5年が経つとあちらこちらに故障が散発してきており、これからはそういったこととの格闘が新たな仕事として比重を増していくものと予想されます。  昨年度に当センターのホームページを立ち上げました(http://www.med. nagoya-cu.ac.jp/animal.dir/indexJ.htm)。過去の年報もすべてこの中に収めいつでも閲覧できるようにしました。ホームページで閲覧できるようになった年報を見ていますと、これから近い将来にはこのような冊子形式で年報を作る必要性は無くなっていくのではないかと感じました。こうして冊子形式の年報を作り、皆さんのところにお届けするのもあと何回くらいあるのだろうかと考えさせられました。

(安居院)