研究紹介

当教室は、2012年4月に道川誠が教授として着任し、少人数ながらも大学院生を中心とした手作りの研究室として、 ユニークで独創的な仕事をしていきたいと思っております。現在、海外からの大学院生を主体とした研究室となっており、 研究室では研究発表やdiscussionはもちろんのこと、日常会話を含めて英語が“公式”言語となっています。 アルツハイマー病研究に興味のある方、英語環境での研究がしたい方など、興味ある方の参加をお待ちいたしております。

超高齢社会に突入した我が国では、認知症患者数は増加の一途をたどっており、462万人に達し、その予備群は約400万人に 達すると推計されています(2012年厚生労働省研究班)。アルツハイマー病患者数はその過半数を占め、その制圧は、 医学的にも社会的にも急務となっています。こうした要請に応えるため、病態生化学教室では、主にアルツハイマー病の 分子病態解明に関する研究を、以下のようなアプローチから行っております。

1)危険因子ApoE4・脳内脂質代謝変動と脳内Aβ産生・分解・除去との関連

2)糖尿病病態がいかにしてアルツハイマー分子病態と関連するのか

3)エクソソームは、アルツハイマー病分子病態にどう関連するか

4)歯周病や歯牙欠損・咀嚼機能低下とアルツハイマー病分子病態、認知機能障害

5)新規血液診断マーカー開発に関する研究

 

 

 基本戦略

危険因子ApoEと脳内脂質代謝変動

最も強力な危険因子は、脳内脂質代謝に重要な役割を担っているapolipoprotein E(apoE)の対立遺伝子ε4であることが分かっています。 ApoEは脳内脂質代謝にHDL産生とその供給を通して重要な役割を果たしていると考えられていましたが、その作用がapoE3, apoE4で異なること、 脳内脂質代謝変動とアルツハイマー病発症機構との関連等について、道川らは18年間に及ぶ研究から多くの発見をし報告してきました。 その研究成果に基づいた研究戦略を上図に示します。

脳内の脂質代謝、特に細胞膜構成脂質代謝の変化(コレステロール、リン脂質、スフィンゴ脂質などの代謝変動)が、 アルツハイマー病の病因分子であるamyloid βタンパク質(Aβ)の産生に影響すると考えられています。その主な理由は、 Aβの基質であるAPP、APPを2カ所で切断してAβを産生するβ-secretase, γ-secretaseとも膜タンパク質であるためです。 脳内の脂質輸送を司るApoE-HDLはAβの分解・除去に大きな役割を果たすことが知られています。さらに、細胞膜脂質の構成変動は、 Aβ毒性発揮の本態と考えられるAβ重合体形成の場として重要であること、またアルツハイマー病のもう一つの本質的病態であるタウオパチー (神経変性)も脂質代謝に関連するシグナル系との関係と関連することを報告してきました。

ApoE-HDLは、脳内脂質輸送にかかわるだけでなく、 アルツハイマー病原因分子であるAβと結合し、Aβの分解除去に働くことが明らかになり、注目を集めています。また、apoE4を含め、 アルツハイマー病と動脈硬化は共通の危険因子(高血圧、糖尿病など)を持つことが知られていますが、その理由や意義はまだよく分かっていません。

 

糖尿病とアルツハイマー病との関連

新たな視点からの関連性の解析、メカニズム解明研究を開始しました。詳細は今後掲載予定です。

 

Exosomeとアルツハイマー病(ApoE-HDL以外の分泌粒子)

中枢神経系の分泌粒子として、ApoE-HDLがアルツハイマー病分子病態進行・抑制に大きな役割を果たしているとされますが、 これとは別の分泌粒子であるexosomeの存在が知られています。

当研究室では、アルツハイマー病分子病態におけるexosomeの役割の解明に関する研究を開始しています。 密度もサイズも分泌メカニズムも機能もApoE-HDLとは異なる粒子ですが、このexosomeもまた、 アルツハイマー病分子病態進行・抑制に何らかの役割を果たすことが示唆されています。

 

口腔疾患とアルツハイマー病分子病態

数年前から、口腔疾患と認知症に関する研究を行っております。咀嚼機能低下・歯の欠損とアルツハイマー病との関連が、 複数の疫学研究によって指摘されておりますが、両者を結ぶ因果関係の分子基盤は不明です。当研究室では、 咀嚼機能低下を引き起こす2つの病態・原因として、歯の欠損ならびに液状食(キッドダイエット)を取り上げ、 これらがアルツハイマー病分子病態および記憶・学習機能へ及ぼす影響を動物モデルを用いて明らかにする研究を進めています。

すでに「流動食(soft diet)によって誘導される認知機能低下」に関しては、細胞内シグナル伝達系の変動・海馬神経脱落を来して認知機能障害を誘導することを報告しました。しかし、口腔と脳は近距離にあるにもかかわらず、両者をつなぐ病態メカニズムの詳細は不明であり、現在その解明のための研究を行っています。離乳時あるいは老年期において、歯牙欠損やsoft-dietによる咀嚼の低下が誘因となる認知機能障害は、それぞれ脳の発達(小児期)とアルツハイマー病発症(老年期)の予防につながる研究として意義があると考えられます。アルツハイマー病の発症予防や症状緩和に、歯科治療や食生活の改善(咀嚼すること)、咀嚼リハビリテーション等で貢献できる可能性を示せると考えています。

口腔疾患のもう1つの代表的なものに、歯周病があります。私たちは、アルツハイマー病モデルマウスに歯周病を惹起させると、 脳内のAb沈着が増加し、認知機能障害が増悪することを確認し、それが炎症の脳内への波及によるものであることを見出しました。 現在、歯周病治療・口腔ケアによる臨床介入試験を実施しております。

こうした口腔疾患と認知症との関連が明らかになれば、比較的簡便で安価な方法により認知症予防が可能になる可能性がでてくるまた、 重要な研究ではないかと考えています。歯学部からの大学院生の参加も期待しています。

アルツハイマー病の新規血液診断マーカー開発に関する研究

新規血液診断マーカー開発を行っております。詳細は今後掲載予定です。