年報第24号(平成29年11月)

1.挨拶 医学研究科長 道川 誠

 そもそも科学的解析手法の基本は、複雑に相互に関係する自然体系を、原因と結果(因果関係)が明確に解析できるレベルまで単純化させる方法を用いることであり、それによって自然を理解しようとする手法である。生物医学系においても、この手法は有効であり、in vitroでの解析が効力を発揮してきたといってよい。しかし、問題は、要素還元的に得られた知見を再統合しても現実に起こる現象を再現できない(確認できない)ということである。もちろんロケット開発のように物理原理が比較的そのまま現実に応用できてしまう学問領域もあるが、生物学では複雑性が桁違いに大きいのだ。科学研究で得られた知見を人類や社会に還元することが求められている現在、この科学の方法論の弱点を乗り越えるべく複雑系での解析、すなわち動物実験が必要になってきた(多くの場合途中はブラックボックスとなる弊害はあるが)。それは、科学的解析の持つ利点を本質的に失う欠点を持っているものの、現実の複雑系〜個体レベルでの効果を観察するために必要な方法となったのである。すでに科学技術の進歩から得られる情報が、国家戦略や経済に莫大な富をもたらす時代に突入しているためであり、in vivoでの検証が、ヒトへの応用への前段階として必要になっているためである。今後、スパーコンピュータの性能がさらに増し、要素還元的な解析結果の情報が蓄積され、多くの条件設定が可能になるに従って、おそらく動物で検証する必要度が低くなる時代が来ると私は考えている(例えば、現在の気象予報の精度の向上)。それまでは、動物にお世話になる以外にない。


2.年報の発刊にあたって センター長 大石 久史

 昨年11月に、本学に着任し約10ヶ月が経過したところです。 大きなトラブルを起こすことなく新しい体制でスタート できましたことは、前センター長の高橋智先生、利用者の皆様をはじめ、医学研究科はもとより本学の関係の皆様のご協力並びにご支援の賜物です。ここに厚く御礼を申し上げます。
 着任前にいくつかお約束したことに加え、着任後2020年までの3年の間に、センターが中心となってやらなければならないことが、幾つか見えてまいりました。第1に、センターその他施設の運営を通じて、大学全体の適切な動物実験に貢献することです。それには、 各研究科がもつ動物実験に関わる様々な研究資源、機器、人的リソースや技術の情報を統合し、各研究者のニーズにあった効率的な動物実験の実施へのサポートが含まれます。第2に、これまで実施してきた、マウス発生工学的な技術支援を更に高度化することです。昨年度は、 年間計35件の技術支援を行ないました。今後も引き続き、系統の凍結保存や、胚移植、体外移植等を通じて、効率的なセンター運用に貢献するとともに、CRISPR/Cas9法による遺伝子改変マウスの安定的な供給に努めて行きたいと考えています。おそらく、この年報が発表される頃には、私が赴任して1例目のノックアウトマウスが誕生していると思います。来年の年報では、ノックイン、コンディショナルノックアウトのご報告が出来るよう努力してまいります。第3に、研究施設としての機能強化です。これまでのセンターは、飼養保管施設としての役割が主で、動物を使ってしか出来ない実験を行なうには、やや弱い側面があるように感じます。今年度、学長、研究科長ほか関係者皆様のご支援により、X線照射装置と個別換気ケージシステム(IVC)が導入されることが決定しました。今後、骨髄移植や免疫不全マウスを使った実験がより安全に実施できるようになります。引き続き、国内外の研究の状況や、利用者の皆様のニーズを集約しながら、研究施設としての役割を充実させ、本学全体の研究力強化に貢献できればと考えております。第4に、実験動物学を通じた国際交流活動の加速化です。来年夏には、本センターで、 公私立大学実験動物施設協議会主催の技術研修会が予定されております。この技術研修会を機に、海外との交流活動も更に活発になると予想されます。 利用者の皆様には、ご迷惑をおかけすることもあると思いますが、ご理解とご協力のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。
 一方で、今年度9月から、数年ぶりに利用料の改定をさせて頂きました。着任早々にも関わらず、快くご負担をお引き受け下さり感謝申し上げます。今後、出来る限り、利用者の皆様にとって、さらに使いやすいセンターに改善していく所存です。
 最後に、この場をお借りして、いつも丁寧に動物を管理して下さっている株式会社ラボテックの福井リーダーほか皆様、老朽化の目立つ設備に日夜対応して頂いている日本空調システム株式会社の谷本リーダーほか皆様、センター全般にわたってお世話になっている宮本衛生技師、脇本施設管理員ほか職員の皆様に、心より感謝申し上げます。来年、センター開所25周年を迎えますが、これから新たな段階に向かって精進致します。私ども関係者一同、適正な動物実験の実施のために、 一層の努力をしていく所存です。今後とも、ご指導ご鞭撻の程、どうぞよろしくお願い申し上げます。


3. 利用状況

(1)各分野月別登録者数
(2)年間月別搬入動物数(SPF、コンベ)
(3)各分野月別搬入動物数
●マウス
●ラット
●ウサギ
●ハムスター、モルモット
(4)各分野月別延日数飼育動物数
●マウス
●ラット
●ウサギ
●ハムスター、モルモット、マーモセット


4.沿革

昭和25年  4月 名古屋市立大学設置
昭和45年  3月 医学部実験動物共同飼育施設本館完成[昭和45年5月開館]
昭和54年  3月 医学部実験動物共同飼育施設分室完成[昭和54年7月開館]
昭和55年  3月 医学部実験動物共同飼育施設別棟完成[昭和54年7月開館]
昭和55年  4月 第一病理学講座 伊東信行教授が初代施設長に就任
平成  元年 4月 医学部動物実験施設に名称を変更
平成  3年  4月 小児科学講座 和田義郎教授が第二代施設長に就任
平成  3年  5月 新動物実験施設改築工事起工
平成  4年11月 新動物実験施設完成
平成  4年12月 安居院高志助教授が施設主任に就任
平成  5年  3月 新動物実験施設開所式
平成  5年  4月 第二生理学講座 西野仁雄教授が第三代施設長に就任
平成  5年  5月 新動物実験施設開所
平成  9年  4月 第一病理学講座 白井智之教授が第四代施設長に就任
平成  9年  5月  医学部実験動物研究教育センターに名称を変更
平成14年  4月 医学研究科実験動物研究教育センターに名称を変更
平成14年  9月 安居院高志助教授が北海道大学教授として転出
平成15年  4月 宿主・寄生体関係学 太田伸生教授が第五代センター長に就任
平成15年  4月 三好一郎助教授がセンター主任に就任
平成17年  4月 実験病態病理学 白井智之教授が第六代センター長に就任
平成19年  4月 生物化学 横山信治教授が第七代センター長に就任
平成20年12月 病態モデル医学 三好一郎教授が第八代センター長に就任
平成27年  3月 三好一郎教授が東北大学教授として転出
平成27年  3月 実験病態病理学 高橋智教授が第九代センター長に就任
平成28年11月 病態モデル医学 大石久史教授が第十代センター長に就任


5.構成

センター長 大石久史(併任、病態モデル医学分野 教授)
衛生技師 宮本智美
施設管理員 脇本幸夫 西尾政幸
飼育委託 株式会社ラボテック
ビル管理委託 日本空調システム株式会社


6.平成28年度 行事

平成28年  4月14日  平成28年度 第1回動物実験規程講習会
平成28年  6月  1日  平成28年度 第2回動物実験規程講習会
平成28年  6月13日  平成28年度 第1回動物実験委員会
平成28年  6月21日  平成28年度 第1回運営委員会
平成28年  7月11日  平成28年度 第1回運営協議会
平成28年  9月  1日  平成28年度 第3回動物実験規程講習会
平成28年  9月27日  実験動物感謝式
平成28年11月  2日  平成28年度 第4回動物実験規程講習会(基礎自主研修)
平成28年11月10日  平成28年度 第5回動物実験規程講習会
平成29年  1月31日  平成28年度 第6回動物実験規程講習会


7.研究成果

 名古屋市立大学大学院医学研究科実験動物研究教育センターを使用し得られた研究成果のうち、2016年中に公表された論文をまとめた。ここには原著のみを掲載し、総説、症例報告、学会抄録等は割愛した。