年報第13号(平成18年9月)

1.挨拶 医学研究科長 郡健二郎

 2005年度も無事に、そして充実した実験動物教育センターの運営が行われたことに対して、センター長の白井智之先生およびセンター主任の三好一郎先生はじめスタッフの皆様に心より感謝申し上げます。また、運営委員・運営協議会委員の方々のご協力にもお礼申し上げます。
 動物実験は医科学研究にとって必須の手段です。実際に20世紀のノーベル医学・生理学賞の受賞対象となった研究の95%以上で動物実験が重要な役割を果たしているとも言われています。
 一方、インターネット上で「動物実験」を検索しますと、上位には動物実験廃止を訴える団体が並んでいます。しかしながら、ヘルシンキ宣言では「ヒトを対象とする医学研究は、(中略)動物実験に基づかなければならない」と述べられているように、私たちが受ける医療や服用する薬がどのように動物実験に依存しているのか、もし動物実験を中止したら今後どんな状況になるのか、ということを理性的・科学的に理解していただきたいものです。
 ところで昨年は独法化に向けた経費節減への対応に加え、設備・備品の経年劣化に対する維持・更新、感染の発症など、様々な問題がありましたが、いずれも適切に対処いただけたと思っております。今年度からは本学も独法化され、学内外の環境ともにセンターにとっては向かい風が吹くかもしれませんが、スタッフの皆様が一丸となって、動物実験教育センターを円滑かつ効率的に運営し、さらなる実績を積んでくださることを期待します。また、運営委員・運営協議会委員の方々のみならず、学内の皆様にもご協力をお願いする次第です。


2.年報の発刊にあたって センター長 白井智之

 本年報に2005年度の当センターの利用状況、実験動物に関わる諸活動及び研究業績をまとめました。センターを活用した多くの研究の成果が論文として発表されています。このような研究成果は当センターの活動を反映したものと大変うれしく思っています。センター関係各位の日夜たゆまぬ運営と管理のうえに利用者各位のルールに則った利用と協力の成果と言えます。お礼を申し上げます。
 年報の作成は、施設の利用状況、諸活動、研究成果を整理し、評価と反省の材料となるとともに、次なる新しい目標を設定する上で大変励みになっています。年報の作成には研究者各位にご負担を強いていると思いますが、研究成果は実験動物の尊い命の犠牲の上に立って得られた研究成果であり、当然の義務でしょう。
 開所13年を経過しつつある現在、種々の設備に老朽化が認められ、その対応に一層の努力が強いられています。予期せぬ感染も散発的に発生していますが、三好一郎特任教授のきめ細かな対応と指導により大きな損失を出さずに来ています。動物愛護管理法(動愛法)の改訂では3Rを推進するよう求めています。すなわちReduction(動物に代わる代替法での実験)、Reduce(利用する動物の数をなるべく減らす)及びRefinement (できる限り苦痛を与えない)という3点です。疾病は全身の異常から生じると私は考えています。すなわち個体(動物)を用いた研究は個体を形成するすべての器官の総合的な反応の結果をみているものであり、ヒトの疾患を反映した最も重要なものです。しかしこのような動物を取り巻く社会環境の変化に十二分に対応する事が研究の遂行をスムースに運ぶ重要な課題でもあります。無駄な・無理な・不用意な動物実験など、言うまでもなく避けなければいけません。動物愛護管理法にのっとった精神の上に有効な研究方法を十二分に考慮してすすめてほしいものです。関係者の皆様には変わらずご指導、ご助言を賜りますようにお願い致します。


3. 利用状況

(1)各講座月別登録者数
(2)年間月別搬入動物数(SPF、コンベ)
(3)各講座月別搬入動物数
●マウス
●ラット
●ウサギ
●スナネズミ、イヌ、ブタ、モルモット
(4)各講座月別延日数飼育動物数
●マウス
●ラット
●ウサギ
●スナネズミ、イヌ、サル、モルモット


4.沿革

昭和25年4月 名古屋市立大学設置
昭和45年3月 医学部実験動物共同飼育施設本館完成[昭和45年5月開館]
昭和54年3月 医学部実験動物共同飼育施設分室完成[昭和54年7月開館]
昭和55年3月 医学部実験動物共同飼育施設別棟完成[昭和54年7月開館]
昭和55年4月 第一病理学講座 伊東信行教授が初代施設長に就任
平成元年4月 医学部動物実験施設に名称を変更
平成3年4月 小児科学講座 和田義郎教授が第二代施設長に就任
平成3年5月 新動物実験施設改築工事起工
平成4年11月 新動物実験施設完成
平成4年12月 安居院高志助教授が施設主任に就任
平成5年3月 新動物実験施設開所式
平成5年4月 第二生理学講座 西野仁雄教授が第三代施設長に就任
平成5年5月 新動物実験施設開所
平成9年4月 第一病理学講座 白井智之教授が第四代施設長に就任
平成9年5月  医学部実験動物研究教育センターに名称を変更
平成14年4月 医学研究科実験動物研究教育センターに名称を変更
平成14年9月 安居院高志助教授が北海道大学教授として転出
平成15年4月 宿主・寄生体関係学 太田伸生教授が第五代センター長に就任
平成15年4月 三好一郎助教授がセンター主任に就任
平成17年4月 実験病態病理学 白井智之教授が第六代センター長に就任


5.構成

センター長 白井智之(併任、実験病態病理学教授)
センター主任(特任教授) 三好一郎
衛生技師 宮本智美
業務士 西尾政幸
研究員 安居院高志
飼育委託 株式会社ラボテック
ビル管理委託 日本空調システム株式会社


6.平成17年 行事

1月20日 センター主催新年会
1月20日 平成16年度 第7回講習会
3月12日 センター主催講演会
トピックス 「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行規則の一部を改正する省令案(獣医師の届出の事項及び動物の輸入届出 制度等について)」
    二上 英樹 博士 (岐阜大学生命科学総合実験センター動物実験分野 助教授)
講演 1「記憶・学習におけるαカルシウム/カルモジュリン依存性プロテインキナー ゼIIの役割」
    高橋 英機 博士 (エーザイ株式会社 創薬研究開発本部 筑波研究所 研究員)
講演 2「異種心臓移植に臨床的現実性を期待できるか」
    浅野 實樹 博士 (名古屋市立大学心臓血管外科学 助教授)
講演 3「糖鎖は生体内でどのように働くか? −初期発生から疾患まで−」
    山下 匡 博士 (東京大学医科学研究所細胞プロセシング部門 助教授)
3月17日 平成16年度 第2回運営委員会
3月23日 平成16年度 第2回運営協議会
3月24日 平成16年度 第8回講習会
4月 7日 平成17年度 動物実験委員会
4月26日 平成17年度 第1回講習会
5月12日 平成17年度 第1回運営委員会
5月25日 平成17年度 第2回講習会
5月31日 平成17年度 第1回運営協議会6月 28日 平成17年度 第3回講習会
8月19日 平成17年度 第4回講習会
8月31日 センター親睦会
9月27日 実験動物感謝式
11月7日 平成17年度 第5回講習会


7.研究成果

 名古屋市立大学大学院医学研究科実験動物研究教育センターを使用し得られた研究成果のうち、2005年中に公表された論文をまとめた。ここには原著のみを掲載し、総説、症例報告、学会抄録等は割愛した。


8.編集後記

 昨年度改正された動物愛護管理法は,本年6月1日から施行されています。 当センターのホームページにも掲載しておりますが,実験動物に関しては,現行法の実験動物について「できる限り苦痛を与えない」という努力規定に,新たに(1)動物に代わる方法での実験を検討する(2)利用する動物の数をなるべく減らす−の原則を加えました。従って,本研究科の動物実験指針に記述されている3R(Replacement及びReduction,Refinment)が明示された形となりました。環境省より「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛に軽減に関する基準(平成18年4月28日告示)」が示された後,省庁(「研究機関等における動物実験の実施に関する基本指針(平成18年6月1日文科省告示)」,「厚生労働省における動物実験の実施に関する基本指針(平成18年 6月1日告示)」および,行政機関の依頼で策定された日本学術会議から「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン(平成18年6月1日)」等が発表されています。今後は,行政機関の指針と専門家集団(学術会議)が定める詳細指針の両者を盛り込んだガイドラインを遵守した自主規制・管理,すなわち従来からの項目に加え,動物実験実施者・飼育者に対する教育訓練,および,自主規制が適正に行われているか否かを自己点検評価・検証することにより,科学者の創造性を妨げることなく動物実験の正当性・必要性・透明性を高めることが期待されます。研究者自身による自主規制が客観的であり,さらに高い実効性を持っており信頼できることを示し,わが国に相応しい適正な動物実験を発展させるために,今後も深い議論が必要です。我々の責務は重大ですが,その結果として, わが国の動物実験が科学的且つ倫理的にも適正に行われていることを証明できます。
(三好)