第12号(平成17年9月)

1.挨拶 医学研究科長 郡健二郎

 実験動物教育センター2004年度年報が発刊の運びとなりました。センター長の太田伸生先生、センター主任の三好一郎先生はじめスタッフの皆様、運営委員・運営協議会委員の方々には、重要な業務を滞りなく遂行していただき感謝申し上げます。
 医学生命科学研究にとって、動物実験は不可避の研究手段です。とりわけ遺伝子組み換えなどの技術が進歩した現在では、その重要性が高まっています。動物実験教育センターは、環境整備された本学唯一の動物実験共同利用施設であり、少ないスタッフにもかかわらず、本学で行われる動物実験を様々な角度からサポートしております。
 本センターは現在でもフル活動していただいておりますが、今後の研究部門増設に伴い飼育スペースが不足する可能性や、新しい技術・機器の導入、さらには昨年問題になりました感染症対策など、今後強化していく課題も残っています。また独法化に向けて、経費の節減、サービスの維持・向上、さらに製薬企業などとより広い範囲での行動研究を行っていくなど、新しい大学のニーズに合わせたセンターの改革が必要になると思われます。
 最近は、センターのホームページのトップに書かれているように、遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(カルタヘナ議定書)、動物の輸入届出制度の導入、動物愛護管理法の改正など、動物実験や実験動物を取り巻く環境が著しく変化しています。
 2003年度から安居院高志先生に代わってセンター主任となられた三好一郎先生が、本年4月から特任教授となられました。上記に述べたような学内外の環境の変化に迅速かつ適切に対応し、動物実験教育センターが益々の成果をあけていただくことを期待します。また、そのために運営協議会をはじめとする皆様のご協力をよろしくお願い申し上げます。


2.年報の発刊にあたって センター長 白井智之

本年報に2004年度の当センターの利用状況、実験動物に関わる諸活動及び研究業績をまとめました。センターを活用した多くの研究の成果が論文として発表されています。このような研究成果は当センターの活動が少なからず貢献できた結果とセンター長として大変うれしく思っています。センター関係各位の日夜たゆまぬ運営と管理のうえに研究者一人一人の規約に則った利用と協力の成果とお礼を申し上げます。
年報の作成は、施設の利用状況、諸活動、研究成果を整理し、評価と反省の材料とするとともに、次なる新しい目標を検討する上で大変励みになっています。年報の作成には研究者各位に業績の提出等ご負担を強いていると思いますが、実験動物の尊い命の犠牲の上に立って得られた研究成果であり、またそれに対する感謝の念があれば、当然の義務でしょう。
開所12年を経過しようとしている現在、種々の設備に老朽化が迫っており、研究と教育に充実した施設の維持のために、不断の努力を強いられています。予期せぬ感染も散発的に発生しており、三好特任教授のきめ細かな対応と指導により大きな損失を出さずに来られています。実験動物を取り巻く環境は益々厳しさを増しているように思われます。動物愛護管理法(動愛法)の改訂では現行法の実験動物について「できる限り苦痛を与えない」という努力規定に,新たに(1)動物に代わる方法での実験を検討する(2)利用する動物の数をなるべく減らすという原則が加わりました。また平成17年9月1日から「動物の輸入届出制度」が導入され、実験動物の輸入にも大きな規制がかけられました。さらに「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」に従い,遺伝子組換え生物等を譲渡し,提供し,又は委託して使用等をさせるときは,必要な情報を提供しなければならないことになりました。研究者間での授受のみならず,微生物クリーニングのための遺伝子組換え動物の受け入れ届け出書や配偶子保存のための遺伝子組換え動物の受け入れ届け出書、また微生物学的および遺伝学的検査のための遺伝子組換え動物の受け入れ届け出書などです。このような社会環境の変化に十二分に対応する事が研究の遂行をスムースに運ぶ重要な課題です。
今後とも運営協議会の各位をはじめとする皆さまのご協力を戴きますようお願い申し上げます。


3. 利用状況

(1)各講座月別登録者数
(2)年間月別搬入動物数(SPF、コンベ)
(3)各講座月別搬入動物数
●マウス
●ラット
●ウサギ
●イヌ、ブタ、モルモット
(4)各講座月別延日数飼育動物数
●マウス
●ラット
●ウサギ
●イヌ、ネコ、サル、モルモット
(5)その他
コンベンショナル飼育室ラット#4のマウス飼育室への改修

近年,マウスの飼育数が増加し,特にコンベ飼育室は収容能力を越え新規に利用できない状況が続いていることから,予算将来計画委員会により承認された備品費により ラットコンベ飼育室の一つをマウス飼育数に改装する提案が平成17年3月23日 当センター運営協議会で承認された。
主な備品は以下の通り。
1)自動給水ラック ステンレス製 マウスケージ6x5=30個 7台
  但し,現時点でラット用として転用できるものを採用する。
 (なお,平成17年度の予算で耐震設備工事を実施した。)
2)自動給水・オートフラッシングシステム
  この改修工事に伴いコンベ飼育室の使用可能数(収容能力)は以下のように変わる。
  マウス:648→837
  ラット:576→441

平成17年7月27日に設置工事,およびその後の消毒作業がすべて完了し使用開始した。

飼育室改修工事に関する写真

参考資料(学外の方はご覧になることが出来ません)


4.沿革

昭和25年4月 名古屋市立大学設置
昭和45年3月 医学部実験動物共同飼育施設本館完成[昭和45年5月開館]
昭和54年3月 医学部実験動物共同飼育施設分室完成[昭和54年7月開館]
昭和55年3月 医学部実験動物共同飼育施設別棟完成[昭和54年7月開館]
昭和55年4月 第一病理学講座 伊東信行教授が初代施設長に就任
平成元年4月 医学部動物実験施設に名称を変更
平成3年4月 小児科学講座 和田義郎教授が第二代施設長に就任
平成3年5月 新動物実験施設改築工事起工
平成4年11月 新動物実験施設完成
平成4年12月 安居院高志助教授が施設主任に就任
平成5年3月 新動物実験施設開所式
平成5年4月 第二生理学講座 西野仁雄教授が第三代施設長に就任
平成5年5月 新動物実験施設開所
平成9年4月 第一病理学講座 白井智之教授が第四代施設長に就任
平成9年5月  医学部実験動物研究教育センターに名称を変更
平成14年4月 医学研究科実験動物研究教育センターに名称を変更
平成14年9月 安居院高志助教授が北海道大学教授として転出
平成15年4月 宿主・寄生体関係学 太田伸生教授が第五代センター長に就任
平成15年4月 三好一郎助教授がセンター主任に就任
平成17年4月 実験病態病理学 白井智之教授が第六代センター長に就任


5.構成

センター長 白井智之(併任、実験病態病理学教授)
センター主任(特任教授) 三好一郎
衛生技師 宮本智美
業務士 西尾政幸
研究員 安居院高志
飼育委託 株式会社ラボテック
ビル管理委託 日本空調システム株式会社


6.平成16年 行事

1月19日 センター主催新年会
2月10日 平成15年度 第8回講習会
3月16日 センター主催講演会
Genetics of Development and Disease Branch, NIDDK, NIH Staff Scientist 山下 匡 先生
「糖脂質(ガングリオシド)GM3とその基質であるラクトシルセラミドーたった1つのシアル酸の役割は?ー」
4月 16日 平成16年度 第1回講習会
5月10日 平成16年度 第1回運営委員会
5月14日 平成16年度 第1回運営協議会
5月 17日 平成16年度 第2回講習会
5月25日 平成16年度 第1回動物実験委員会
6月 25日 平成16年度 第3回講習会
7月28日 平成16年度 第4回講習会
9月10日 平成16年度 第5回講習会
9月28日 実験動物感謝式
11月9日 平成16年度 第6回講習会


7.研究成果

名古屋市立大学大学院医学研究科実験動物研究教育センターを使用し得られた研究成果のうち、2004年中に公表された論文をまとめた。ここには原著のみを掲載し、総説、症例報告、学会抄録等は割愛した。


8.編集後記

昨年度から動物実験・実験動物を取り巻く状況が著しく変動しています。罰則規定もありますので速やかに対応しなければなりませんが,浸透度は今ひとつの観があります。当センターのホームページでも,緊急連絡として「1遺伝子組換え動物の授受に関わる手続き」「2動物の輸入届出制度について」「3改正・動物愛護管理法(動愛法)について」等を掲載しておりますので,是非 ご覧頂きたいと考えます。
昨年末,定期的モニタリングの結果としてマウス肝炎ウイルス(MHV)感染が発覚致しました。私は前任地で大規模な感染事故を経験しておりますし,利用者と管理者の両面から事故後の回復の困難さも厭と言うほど理解しているつもりです。事故の経緯は当センターのホームページ「MHV感染事故経過報告 (2004.12-2005.3)」に掲載しておりますが,今回の場合,比較的被害が少なく,また順調に微生物清浄化も終了し飼育室を再開することが出来ました。利用者の皆様のご協力を心より感謝申し上げます。一般論になりますが,感染に強い施設するためには,検疫を確実に実施することで病原微生物の侵入を防ぐ,および,日常的に適正な作業導線に従った利用法を遵守することで侵入した微生物の拡大を防ぐ,迅速なアッセイ・同定(塩基配列の決定なども含む)系を持つ,投薬治療・隔離・安楽死・清浄化など微生物と状況に応じた対応を実施する,凍結保存した胚や配偶子を用いて速やかに現状復帰するなどが必要です。それにしても,いつまでたっても同じ様な病原微生物を根絶できないところを見ると,その目的で行われる教育訓練の拙さも根底にある一つの理由なのかもしれません。現在,当センターではPasteurella pneumotropica感染が起きています。既に利用者皆様にはご案内差し上げておりますが,適宜情報を提供して参りますので,ご協力のほど宜しくお願い申し上げます。

(三好)