研究・技術レポート

研究レポート:論文
[公開日:2012年9月10日]

No. 17 Subventricular zone-derived oligodendrogenesis in injured neonatal white-matter in mice enhanced by a nonerythropoietic EPO derivative
Stem Cells 2012 Published online Aug 13. 麻酔・危機管理医学分野助教 加古 英介

背景

新生児期の脳虚血低酸素は脳白質におけるオリゴデンドロサイト及びオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)の細胞死を引き起こし、白質傷害を来たすことが知られている。白質傷害は児に痙攣・麻痺等の生涯にわたる重篤な障害を残すが、現在まで有効な治療法がなく一刻も早い治療法の確立が求められている。一方、近年、脳に内在する神経幹細胞がニューロン・グリア細胞等を再生する潜在的な能力を有することが報告されており、小児の白質傷害後でもOPCが増加していることが分かってきたが、その過程には不明な点が多い。本研究では白質が十分に再生しない原因を明らかにするために、マウスの白質傷害後におけるOPCの増殖・移動・分化を解析した。さらに、造血作用を持たず副作用の少ないエリスロポエチン(EPO)の改良体であるアシアロエリスロポエチン(AEPO)に注目して白質傷害後のオリゴデンドロサイト再生に対する効果の評価を行なった。

方法

生後5日のICRマウスを用い、右総頸動脈を焼灼した後8%の低酸素下に20分間置くことで新生児白質傷害モデルを作製、傷害後の新生OPCの起源と移動様式を明らかとするため、マウスモデルへのBrdU腹腔投与およびDsRedレトロウイルスの脳室下帯への投与を行い、免疫組織学によって解析した。

次に新生OPCが傷害部で正常に分化しているかを明らかとするためOPCを時間特異的に標識できるトランスジェニックマウス(Olig2CreER; Rosa26ECFP)で白質傷害モデルを作成し、傷害後4日目にタモキシフェンを腹腔内投与することで再生期のOPCを特異的に標識し、オリゴデンドロサイトへの成熟度を評価した。

AEPOのOPCの成熟促進効果を解析するため、培養したOPCを用いて効果を判定した。またAEPOの作用機序を明らかとするためエリスロポエチンレセプター(EPOR)のsiRNAを用いてノックダウンを行ない、同様に解析を行なった。次に脳室下帯由来のOPCに対するAEPOの効果を解析する目的でトランスジェニックマウスとDsRedレトロウイルスによる時間部位特異的なOPCの標識を行ない、AEPOを2週間投与し、PBS投与群と細胞成熟度を比較した。さらにAEPOが新生児白質傷害マウスの神経学的な予後に影響を与えるかどうかを評価するため、新生児白質傷害マウスにAEPOを3日間、もしくは2週間投与し、生後4、6、8週目にFoot-fault testを用い神経学的な機能を評価した。

結果

新生児白質傷害マウスモデルでは傷害後5日前後をピークに脳室下帯の後方部分で新生OPCが増加していた。またウイルスによる脳室下帯特異的な細胞標識によってこれらの細胞が傷害部である脳梁に広範に広がっていることが確認された。一方Olig2CreER; Rosa26ECFPマウスによる新生児白質傷害モデルではOPCが傷害部で増加していることが確認されたが、成熟オリゴデンドロサイトに分化している割合が有意に低下していた。

培養系において、AEPOはOPCの成熟を促進した。またEPORのノックダウンでこの効果は消失した。AEPOを上記の傷害モデルに術後5日目から、3日間のみ投与された群では効果がみとめられなかったが、2週間投与した群においては傷害部のOPCの成熟率が上昇した。AEPOは、脳室下帯特異的に標識されたOPCに対しても同様に分化促進効果を示した。また、同様に投与したEPOは著しい造血作用を示すが、AEPOを投与されたマウスではこのような副作用を示さなかった。

AEPOの2週間投与は傷害モデルマウスのFoot-fault testにおける神経学的評価において有意に機能を改善した。

図1
※拡大図をご覧になるには画像をクリックしてください。

考察

部位および時期特異的なOPC標識の解析により、脳室下帯で小児白質傷害後にOPCが産生され、治癒に関与していることが示唆された。一方、免疫組織学的な成熟度評価により、これらの成熟障害が回復を妨げている可能性が示された。培養OPCおよび傷害マウスへの投与実験により、AEPOがEPORを介してOPCの分化を促進することによって、白質の再生を促進することが明らかになった。AEPOは骨髄に対する作用を持たず、小児に対しても高い安全性を持つと予想されるため、実際の小児白質傷害患者への適応できる可能性がある。

研究者 プロフィール

元 神経内科学分野 (現 米国国立衛生研究所 Visiting Fellow、日本学術振興会海外研究員) 和気 弘明
麻酔・危機管理医学分野
助教 加古 英介

略歴とコメント

2001年 信州大学医学部卒業、刈谷総合病院(現 刈谷豊田総合病院)にて研修医・麻酔科医員として6年間勤務した後、名古屋市立大学病院麻酔科へ異動し2008年から同大学院に進学する。大学院では再生医学の澤本教授、金子助教の冷静で熱烈な指導の下、脳の再生を目指し基礎研究に打ち込む。今後の目標としては麻酔・集中治療・ペインクリニック領域の臨床からの視点で、病態からの再生につながるような研究をしていきたい。大学院時代に学んだ研究に対しての厳しい姿勢を保ちつつ。