研究・技術レポート

研究レポート:論文
[公開日:2012年3月1日]

No.16 Crucial role of the cryptic epitope SLAYGLR within osteopontin in renal crystal formation of mice.
(結石マトリックス成分(オステオポンチン)の特異的抗体を用いたマウス腎結石の抑制作用) 腎・泌尿器科学分野 臨床研究医 濱本 周造

研究背景

腎結石の生涯罹患率は増加の一途を辿っており、男性では100人中15人にまで達している。また5年再発率は約50%と高いことから、腎結石の成因の究明と再発予防法の確立は重要な課題である。これまでの結石研究の多くは、すでに形成された腎結石を対象としていたため、結石形成機序の本質を捉えることが困難であった。そこで私たちは、腎結石の初期形成の機序を解明する目的として、電子顕微鏡などにより腎尿細管細胞の超微細構造を調べたところ、カルシウム結晶が、腎尿細管細胞に付着し取り込まれ、成長して結石の核となる像をとらえることに成功した。さらに、腎結石の形成機序の分子機構にかかわるものとして、結石マトリックス成分の1つであるオステオポンチン(OPN)には機能的ドメインとなる2つのアミノ酸配列(カルシウム結合部位細胞接着部位(RGD配列))があることに着目し、「それら2つのアミノ配列を遺伝子組換えにより機能欠失させると腎結石は抑制される」という今までにはない発見をした(Hamamoto S. et al. J Bone Miner Res 2010)。

研究目的

本研究では、このRGD配列の近傍に存在するアミノ酸配列(SLAYGLR)に対するモノクローナル抗体を作成し、腎結石モデル動物、腎尿細管培養細胞において、抗体によりOPNの機能を抑えることで、結石形成を抑制できるかを検討した。

研究方法

〈35B6抗体作成〉OPNのSLAYGLR配列を含んだ合成ペプチドで免疫されたマウスからモノクローナル抗体を作成した。〈In vitro実験〉イヌ遠位尿細管上皮(MDCK)細胞に放射性同位元素(14C)でラベルしたシュウ酸カルシウム(COM)結晶を暴露し、抗体投与による結晶付着能の変化を定量的、形態学的に評価した。〈In vivo実験〉8週齢C57BL/6雄マウスのWT群、抗体投与群、OPNノックアウトマウス群(KO群)を用意し、シュウ酸前駆物質であるグリオキシル酸を腹腔内連日投与した。結晶形成の評価は、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡にて行った。

結果

In vitro実験)尿細管細胞にCOM結晶を暴露すると、細胞に結晶が取り込まれ、形態は膨化し崩壊するものの、OPN抗体投与により、結晶の尿細管細胞への接着、細胞の崩壊が抑制された。(In vivo実験)結晶形成量は、WT群で最も多く、抗体投与により容量依存性に低下した。結晶の微細構造は、WT群では、結晶が整然と放射状に成長し花弁状構造を示しており、KO群では小さな結晶核が不規則に集まる形態を示した。抗体投与群では、結晶は放射状に形成されるも、内部が細かく砕けていた。透過型電子顕微鏡による尿細管細胞の構造は、WT群では管腔が拡張し、尿細管細胞に取り込まれる結晶を認めたが、抗体投与群、KO群においては、尿細管腔内に脱落組織は認めるものの、結晶形成は認めなかった。

図1
※拡大図をご覧になるには画像をクリックしてください。

考察

OPNの特異的中和抗体を用い、結晶の尿細管上皮への接着を抑制するとともに、腎尿細管細胞傷害を軽減させることにより、結石形成を抑制することに成功した。今後この研究成果を用い、分子標的治療の臨床応用ができると考えた。

図1
※拡大図をご覧になるには画像をクリックしてください。

論文掲載情報

Crucial role of the cryptic epitope SLAYGLR within osteopontin in renal crystal formation of mice.
Hamamoto S, Yasui T, Okada A, Hirose M, Matsui Y, Kon S, Sakai F, Kojima Y, Hayashi Y, Tozawa K, Uede T, Kohri K.
J Bone Miner Res. 2011 Dec;26(12):2967-77

研究者 プロフィール

耳鼻咽喉科・頭頸部外科 大学院生 愛知県がんセンター研究所 疫学・予防部 リサーチレジデント 川北 大介
腎・泌尿器科学分野
臨床研究医
濱本 周造

略歴

  • 平成13年 名古屋市立大学医学部卒業、腎泌尿器科学分野入局。
  • 平成18年 同大学大学院医学研究科博士課程入学し、大阪大学病態医学との共同研究にて、OPN遺伝子組換えマウスを用いた研究を行う。
  • 平成21年 同大学院博士過程早期修了後は、北海道大学遺伝子制御研究所との共同研究にて、OPN抗体がマウス腎結石を抑制することを証明した。

受賞歴

  • 平成23年9月 第1回The best poster for basic research 2011 EULIS
  • 平成23年4月 第99回日本泌尿器科学会 総会賞
  • 平成23年1月 平成22年度名古屋市立大学医学会賞
  • 平成22年4月 第4回日本泌尿器科学会ヤングリサーチグラント
  • 平成22年3月 第247回東海地方会 優秀発表賞
  • 平成22年1月 第4回わかしゃち奨励賞 優秀賞(愛知県、(財)科学技術交流財団)
  • 平成21年4月 第97回日本泌尿器科学会 総会賞
  • 平成21年3月 平成20年度名古屋市立大学医学研究科 優秀論文賞