研究・技術レポート

研究レポート:論文
[公開日:2011年9月12日]

No.13 ミエリンベーシックプロテインの局所発現を介したミエリン化の制御
Science. 2011 Aug 4. [Epub ahead of print] 神経内科学分野
(現 米国国立衛生研究所 Visiting Fellow、日本学術振興会海外研究員)
和気 弘明

はじめに

ミエリンの形成はオリゴデンドロサイトによって行われ、軸索を何層にも髄鞘化することにより神経伝達速度を50倍まで速めることができる(参考文献1)。またこの軸索のミエリン化には軸索―オリゴデンドロサイト間のシグナル伝達が必要であることが知られている(参考文献2)。しかしながら、この特定の軸索へのミエリン化が神経活動依存性に起こるかどうかはよくしられていない。もしこのミエリン化が神経活動依存性に起こるのであれば、神経活動依存性に神経伝達速度を速めることができ、経験依存性に脳の情報処理や発達を修飾することができる。

結論

そこで本論文では、まず活動伝依存性の軸索からの神経伝達物質放出を小胞依存性と小胞非依存性にわけ、オリゴデンドロサイト前駆細胞の機能的応答を調べた(参考文献3)。 そこでミエリンベーシックプロテインというミエリンを形成するたんぱく質のひとつに注目し、オリゴデンドロサイトがどのように軸索を選定し、taggingするかを調べた。ミエリンベーシックプロテインはそのmRNAが局所に運ばれ、局所でたんぱく質合成されることが知られている(参考文献4)。そこでMBPの局所たんぱく質発現を可視化することによりどのようなメカニズムで軸索が選定されるかを示した。すると活動電位依存性の神経軸索からの小胞性のグルタミン酸放出がオリゴデンドロサイト前駆細胞に発現するグルタミン酸レセプターを介し、局所のFyn kinaseの活性を促すことにより局所蛋白発現を促進し、軸索を選定することによりミエリン化を引き起こすことがわかった。

おわりに

これらのことより、MBPの局所発現すなわちここではミエリン化を促す最初のイベント(タギング)は活動電位依存性があり、これらの活動電位により軸索は優位に選定されることがわかった。このことより活動電位はミエリン介して、神経回路を修飾できる可能性を示した。

医療応用の可能性

多発性硬化症に代表されるミエリンがかかわるような疾患の治療法に役立つ可能性があります。

この研究はNIHのR. Douglas Fieldsの研究室で行われました。研究に携わった方々及び私の留学に際し、ご協力いただいた方々に心から謝意を表します。特に神経内科の諸先生方には感謝を申し上げます。

  • 参考文献1. F. K. Sanders, D. Whitteridge, J Physiol 105, 152 (Sep 18, 1946).
  • 参考文献2. K. A. Nave, Nature 468, 244 (Nov 11, 2010).
  • 参考文献3. R. D. Fields, Y. Ni, Sci Signal 3, ra73 (2010).
  • 参考文献4. L. S. Laursen, C. W. Chan, C. Ffrench-Constant, J Cell Biol (Feb 28, 2011).

図1:活動電位依存性ミエリンベーシックプロテインの局所発現

活動電位依存性ミエリンベーシックプロテインの局所発現
※拡大図をご覧になるには画像をクリックしてください。

軸索活動電位依存性の放出される小胞性依存性のグルタミン酸の放出はNG2陽性細胞に発現するグルタミン酸レセプターを介し、Fyn kinaseの活性を促し、ミエリンベーシックプロテインの局所発現を促す。

図2:ミエリン化される軸索

ミエリン化される軸索
※拡大図をご覧になるには画像をクリックしてください。

論文掲載情報

Control of Local Protein Synthesis and Initial Events in Myelination by Action Potentials.
Wake H, Lee PR, Fields RD.
Science. 2011 Aug 4. [Epub ahead of print]

研究者 プロフィール

元 神経内科学分野 (現 米国国立衛生研究所 Visiting Fellow、日本学術振興会海外研究員) 和気 弘明
神経内科学分野
(現 米国国立衛生研究所
Visiting Fellow、
日本学術振興会海外研究員)
和気 弘明

略歴とコメント

2001年 名古屋市立大学医学部卒業、第二内科入局
2003年 神経内科入局。同大学大学院医学研究科博士課程入学、自然科学研究機構 生理学研究所にて特別共同研究員として鍋倉淳一教授のもとで研究に参加する。
2007年 同大学院博士課程修了、博士(医学)
その後、戦略的創造研究推進事業(CREST)研究員を経て、神経内科に一時帰局したのち現職。
神経内科の観点からさまざまな研究にとりくんでいます。基礎研究から疾患の治療に役立てるような研究ができることを目指しております。
現在留学中で、アメリカの自由さを気ままに楽しんでおります。