研究・技術レポート

研究レポート:論文
[公開日:2011年9月12日]

No.12 Genome-wide association study identified ITPA/DDRGK1 variants reflecting thrombocytopenia in pegylated interferon and ribavirin therapy for chronic hepatitis C
ゲノムワイド関連解析に基づいたC型慢性肝炎ペグインターフェロン・リバビリン併用療法中の血球減少に関連したITPA/DDRGK1遺伝子多型の同定
Human Molecular Genetics 2011, Published online Jun 23 ウイルス学分野 教授,
名古屋市立大学病院 中央臨床検査部 部長
田中 靖人

背景・目的

C型慢性肝炎に対する標準治療であるペグインターフェロン・リバビリン(PEG-IFN/RBV)併用療法は日本人で最も多い1型高ウイルス量の難治例では著効率は50%にも満たない上に、発熱、倦怠感、血球減少などの副作用が必発である。特に、血球減少により薬剤減量や治療中止を余儀なくされ、治療効果が低下することが報告されている。したがって、治療前に血球減少を予測できれば薬剤投与量を調節することで、より高い治療効果が期待できる。本研究では、貧血や血小板減少に関連する宿主因子をゲノムワイド関連解析(GWAS)により同定し、その臨床的特徴を明らかにしている。

方法

2007年から2010年にかけて、全国14施設の肝臓専門施設の協力を得て(ヒトゲノム倫理委員承認、書面上での同意)、PEG-IFN/RBVを施行されたHCV-1 高ウイルス量患者から合計303検体を採取した。Affymetrix Genome-Wide Human SNP Array 6.0にて約90万SNPsを決定し、貧血や血小板減少の有無によりGWASを実施した。得られた結果を検証するため、別のコホートから444検体を収集し、確認試験をTaqMan PCR法などで実施した。

結果

1)治療4週目に血小板減少が3万以上とそれ未満で比較した結果、20番染色体に位置するDDRGK1遺伝子のSNP (rs11697186)が血小板減少に最も強く関連していることがわかった(P=8.17×10-9; OR=4.6;図1)。別のコホートでも検証された(P=5.88×10-10, OR=4.6)。2)治療4週目にHb減少が3g/dl以上とそれ未満で比較した結果、同じSNP (rs11697186)がリバビリンの副作用としての溶血性貧血にも関連していた(P=3.29×10-10; OR=0.06)。別のコホートでも検証され(P = 3.86×10-16, OR=0.02)、マイナー群(ヘテロ含む)では4週での重度貧血はほとんど見られなかった(5/179, 3%)。3)DDRGK1遺伝子の近傍にはinosine triphosphatase (ITPA)遺伝子が存在し、その機能的SNPである rs1127354は上述のrs11697186と強い連鎖不平衡にあることがわかった。4)臨床的特徴;4週目の貧血と血小板減少には弱い逆相関がみられた。すなわち、4週目で重度貧血が見られる群では、血小板は1週から4週目にかけて再上昇しており、ITPA major群でも同様の傾向が見られた。治療効果に関しては、ITPAマイナー群の方が、重度貧血に伴うリバビリンの減量が少なく、再燃例が少ない分、著効が得られた(48.8% vs. 37.3%)。

図1:GWAS stage (SNP Array 6.0): 血小板減少例

GWAS stage (SNP Array 6.0): 血小板減少例
※拡大図をご覧になるには画像をクリックしてください。

考察

ITPA SNPによりITPA酵素活性が低下し、ITPが赤血球内に蓄積して溶血性貧血を抑制する。一方、ITPA majorで重度貧血群では血小板の反応性増多が見られたが、この要因として貧血が生じるとエリスロポエチンが増加し、類似した配列を有するトロンボポエチン様の作用をすることが推定されている。実際の臨床では、治療効果を規定するIL28B SNPに加えて、ITPA SNPを測定することにより、副作用の軽減や薬剤投与量をうまくコントロールすることで治療効果の向上が期待される(図2)。

図2:ITPA 遺伝子多型と治療前Hb値及びCcrを組み合わせて、治療中の重度貧血を予測

ITPA 遺伝子多型と治療前Hb値及びCcrを組み合わせて、治療中の重度貧血を予測
※拡大図をご覧になるには画像をクリックしてください。

IL28Bに関連する報告(Tanaka Y, et al., Nat Genet 2009)
http://www.med.nagoya-cu.ac.jp/w3med/research/reports/results/004.html

論文掲載情報

Tanaka Y, Kurosaki M, Nishida N, et al. Genome-wide association study identified ITPA/DDRGK1 variants reflecting thrombocytopenia in pegylated interferon and ribavirin therapy for chronic hepatitis C. Hum Mol Genet. 2011 Jun 23. [Epub ahead of print] PubMed PMID:21659334.

研究者 プロフィール

ウイルス学分野 教授 名古屋市立大学病院 中央臨床検査部 部長 田中 靖人
ウイルス学分野 教授
名古屋市立大学病院
中央臨床検査部 部長
田中 靖人

略歴

  • 1991年3月
    名古屋市立大学医学部 卒業
  • 1999年~2001年
    米国立保健研究所(NIH)留学(Visiting Fellow)
  • 2006年9月~2009年9月
    名古屋市立大大学院 臨床分子情報医学 助教授(准教授)
  • 2008年7月~
    名古屋市立大学病院 肝疾患センター 副センター長
  • 2009年10月~
    ウイルス学分野 教授、名古屋市立大学病院 中央臨床検査部 部長

所属学会等

  • 日本内科学会 認定医、地方会評議員
  • 日本肝臓学会 専門医、指導医、総会評議員、欧文誌編集委員
  • 日本消化器病学会 専門医、指導医、学会評議員、国際委員、学術研究助成選考委員
  • 日本臨床検査医学会 専門医、評議員

厚生労働省班研究

  • 平成20-21年度. 厚生労働省肝炎等克服緊急対策研究事業:テーラーメード治療を目指した肝炎ウイルスデータベース構築に関する研究(代表)
  • 平成22-24年度. 厚生労働省肝炎等克服緊急対策研究事業:ウイルス性肝炎に対する応答性を規定する宿主因子も含めた情報のデータベース構築・治療応用に関する研究(代表)

コメント

平成21年10月1日からウイルス学分野及び肝疾患診療室、中央臨床検査部(兼務)を担当しています。主要な研究テーマは、「肝細胞置換キメラマウスを用いた肝炎ウイルス感染モデルの確立とその応用」ですが、最近では「肝炎ウイルス感染症においてゲノムワイド関連解析」を実施しています。2009月9月に「C型慢性肝炎に対するインターフェロン治療効果を規定する遺伝要因(SNPs)」を同定しNature Geneticsに掲載されました。現在、この成果が先進医療とし承認され、名古屋市立大学病院他で検査を受けて頂く事ができます。
http://www.med.nagoya-cu.ac.jp/kanen/kanjya.html#senshin
今後も基礎研究から診療の場に応用できる様な研究成果を上げる事を目標にしております。

受賞履歴

授賞学術賞

  • 平成14年度 東海学術奨励賞
  • 平成19年度 APASL Presidential Award (アジア太平洋肝臓学会議、会長賞)
  • 平成19年度 日本臨床検査医学会学会賞 学術賞
  • 平成21年度 武田科学振興財団医学系研究奨励賞
  • 平成22年度 上原記念生命科学財団 研究推進特別奨励賞 等

研究業績

  • HBVの基礎的・臨床的研究(HBV複製モデルを用いた検討)
  • 世界各国における肝炎ウイルスの分子疫学的研究(分子進化学的手法を用いた感染ルートの解明及び拡散時期の推定)
  • 肝疾患におけるゲノムワイド関連解析
  1. Tanaka Y, Kurosaki M, Nishida N, et al. Genome-wide association study identified ITPA/DDRGK1 variants reflecting thrombocytopenia in pegylated interferon and ribavirin therapy for chronic hepatitis C. Hum Mol Genet. 2011 Jun 23. [Epub ahead of print] PubMed PMID:21659334.
  2. Yuen MF, Wong DK, Tanaka Y, et al. Transmissibility of hepatitis B virus (HBV) infection through blood transfusion from blood donors with occult HBV infection. Clin Infect Dis. 2011 Mar;52(5):624-32. Epub 2011 Jan 18. PubMed PMID: 21245155.
  3. Tanaka Y, Nishida N, Sugiyama M, et al. lambda-Interferons and the single nucleotide polymorphisms: A milestone to tailor-made therapy for chronic hepatitis C. Hepatol Res. 2010 May;40(5):449-60. PubMed PMID: 20546329. Review
  4. Honda M, Sakai A, Tanaka Y, et al. Hepatic ISG expression is associated with genetic variation in IL28B and the outcome of IFN therapy for chronic hepatitis C. Gastroenterology. 2010 Apr 28. [Epub ahead of print] PubMed PMID: 20434452.
  5. Tanaka Y, Nishida N, Sugiyama M, et al. Genome-wide association of IL28B with response to pegylated interferon-α and ribavirin therapy for chronic hepatitis C. Nature Genetics 2009 Oct;41(10):1105-9. Epub 2009 Sep 13.
  6. Sugiyama M, Tanaka Y, et al. Direct Cytopathic Effects of Particular Hepatitis B Virus Genotypes in uPA/SCID Mouse with Human Hepatocytes. Gastroenterology 136:652-662, 2009.