研究・技術レポート

研究レポート:論文
[公開日:2011年8月1日]

No.9 Planar polarity of multiciliated ependymal cells involves the anterior migration of basal bodies regulated by non-muscle myosin II.
Development, 2010. 137(18): p. 3037-46. 元 再生医学分野 助教 (現 慶應義塾大学 助教) 廣田 ゆき

研究内容

多細胞生物を構成する細胞は、組織内において前後軸や頂底軸に沿った極性を示す。細胞の極性決定は組織・器官の正常な生理機能を発揮するために不可欠なステップである。脳内においては、側脳室の脳室壁表面に多数繊毛を有する上衣細胞がシート状に存在し、平面極性に沿って整然と同一方向に向かって並びながら、繊毛運動を行うことで脳脊髄液流を発生させている。多数繊毛を有する細胞は脳室の他に卵管・気管に存在し、細胞や液体などの運搬という重要な生理機能を担っているが、その平面極性決定の仕組みは明らかにされていなかった。

私たちは幼若マウス脳室壁のライブイメージング観察により、上衣細胞繊毛の基部である基底小体が分化の過程で細胞の前側に集積し、平面細胞極性を確立することを明らかにした。また、基底小体が細胞の前部に局在するのとほぼ同時期に、繊毛形態が成熟し、一方向への繊毛運動が開始されることも明らかになった。卵管や気管の繊毛細胞ではこのような平面細胞極性はみられないことから、基底小体の細胞内分布によって示される平面細胞極性は脳室上衣細胞に特異的な新規の特徴であると考えられる。次に、基底小体の前方局在を制御する分子機構を明らかにするために、様々な組織の平面極性形成に重要であり、種を越えて保存されているWnt/PCPシグナル経路の関与を検討した。PCPシグナルの中心的なアダプター分子であるDishevelledの機能阻害実験を行ったところ、上衣細胞の繊毛の方向に乱れを生じたが、基底小体の前方への局在は影響を受けなかった。次に、基底小体の前方局在に関与する候補分子として、非筋細胞ミオシンIIに着目した。非筋細胞ミオシンIIは細胞内モーター蛋白質であり、様々な組織で細胞の形態・運動を制御することが知られており、最近では内耳有毛細胞の平面細胞極性を制御することが報告されている。上衣細胞の分化時に、非筋細胞ミオシンIIの活性を阻害剤によって阻害したところ、基底小体の細胞表面での分布が異常になった。一方、このときの繊毛運動を観察したところ、正常な運動がみられた。さらに、RNA干渉法によって非筋細胞ミオシンIIを阻害したところ、基底小体の前方への局在が有意に減少した。これらのことから、上衣細胞繊毛の基底小体の前方局在には非筋細胞ミオシンIIの細胞自律的な機能が必要であることが明らかになった。また、上衣細胞における繊毛の運動方向と基底小体の前方への局在という2種類の平面細胞極性は、独立的な制御を受けて形成されている可能性が示された。

図の説明

上衣細胞の新規の平面極性。脳室壁のホールマウント標本の細胞境界マーカー(紫)、基底小体マーカー(緑)による二重染色。基底小体が上衣細胞の前側(図中の左側)に局在する。

上衣細胞の新規の平面極性

論文掲載情報

Hirota, Y., Meunier, A., Huang, S., Shimozawa, T., Yamada, O., Kida, Y.S., Inoue, M., Ito, T., Kato, H., Sakaguchi, M., Sunabori, T., Nakaya, M.A., Nonaka, S., Ogura, T., Higuchi, H., Okano, H., Spassky, N., and Sawamoto, K. Planar polarity of multiciliated ependymal cells involves the anterior migration of basal bodies regulated by non-muscle myosin II. Development 137(18): 3037-3046. 2010.

研究者 プロフィール

元再生医学分野助教(現慶應義塾大学助教)廣田ゆき
元 再生医学分野 助教
(現 慶應義塾大学 助教)
廣田 ゆき

略歴とコメント

2003年大阪大学大学院医学系研究科修了(医学博士)。慶應義塾大学にて科学技術振興機構研究員、日本学術振興会特別研究員(PD)を経て、2007年より名古屋市立大学大学院医学研究科再生医学分野に勤務。2011年より慶應義塾大学医学部解剖学教室に転任。生き物の精緻な形態形成に感動しながら、なぜその形になったのか理解することを目指しています。


受賞履歴

  • 2010年 本論文の研究に対して名古屋市立大学医学会賞を受賞。