研究・技術レポート

研究レポート:論文
[公開日:2009年10月26日]

No.6 Cyclin A-Cdk1 regulates the origin firing program in mammalian cells.
Proc. Natl. Acad. Sci. 106, 3184-3189 (2009) 細胞生化学 研究員 勝野 裕子

研究内容

生物にとり、遺伝情報を担う染色体DNAの正確な複製(コピー)は生命維持に取り必須な事象であり、染色体DNAの複製は細胞周期のS期に正確に一度だけ行われます。真核細胞は正確な遺伝情報のコピーを担保するために様々な安全装置を持っています。このうち、染色体DNA上における複製開始場所と時期の選択と、複製装置の進行速度の制御は、S期の長さを規定するのみならず、複製過程おける変異の蓄積を防ぐのに重要な役割を果たしていると考えられていますが、その分子機構はほとんど理解されていません。

我々は、チェックポイントキナーゼであるChk1が複製開始場所と時期の選択に必須の役割を果たしていることについてChk1欠損細胞を用いた解析から見いだしました。Chk1を欠損した細胞においてはDNA複製開始点間の距離が短くなり、その結果複製装置の進行が遅くなりました。また通常S期の後期において複製を開始する開始点から、S期前期においても異常に複製が開始することが明らかになりました。Chk1はCdc25脱リン酸化酵素を介して様々なサイクリン-Cdk複合体活性を制御していることが知られており、また複製開始の制御にサイクリン-Cdk複合体が関与していることから、Chk1がある種のサイクリン-Cdk活性を制御することで後期複製開始点からの複製開始を制御していると考えました。しかしながら、哺乳動物細胞においては個々のサイクリンが複数のCdkと複合体を形成するために、いかなるサイクリン-Cdk複合体が複製開始制御に関わっているのかを明らかにすることは困難と考えられました。我々はこの問題を解決するために、サイクリン-Cdk融合タンパク質を発現することで、個々のサイクリン-Cdk複合体の機能解析を可能にしました。これらを用いた結果、後期複製開始点からの複製開始制御はサイクリンA2-Cdk1複合体による特異な活性によるものが明らかとなりました。実際、温度感受性Cdk1変異マウス細胞を用いて、Cdk1の活性が後期複製開始に必須であることも示しました。

以上の結果から、哺乳動物細胞のDNA複製においては時期/位置特異的な複製開始制御が存在しており、とりわけ後期複製開始についてはATR-Chk1-サイクリンA2-Cdk1経路により厳密に制御されていることが分かりました。興味深いことに、哺乳動物細胞においてS期後期に複製される領域には非常に高い変異を認めることから、今回我々が明らかにした制御機構は生物進化の問題、あるいは癌等の染色体不安定症候群の発症等の面からも注目されています。

図の説明

哺乳動物細胞における複製開始制御の模式図

哺乳動物細胞における複製開始制御は大きく二段階で制御されている。単一レプリコンにおいて複製開始点はORCを中心として多数のMcm2-7複合体が存在しており、これらのMcm複合体のどれが選択されて複製を開始するか制御されている。これらのレプリコンはクラスターを作っており、クラスター中のレプリコンはDNA複製期のほぼ同時期に連鎖して活性化する。このクラスターの活性化はBrdU等の取り込みで解析すると、核内においてfociを形成して可視化される。これらのfociも時期/位置の制御を受けている。ATR-Chk1-サイクリンA2-Cdk1は複製開始時期の制御において、Mcm複合体の選択および活性化クラスターの制御のどちらにおいても重要な役割を果たしていると考えられる

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論文掲載情報

Katsuno, Y., Suzuki, A., Sugimura, K., Okumura, K., Zineldeen, D.H., Shimada, M., Niida, H., Mizuno, T., Hanaoka, F., and Nakanishi, M. Cyclin A-Cdk1 regulates the origin firing program in mammalian cells. Proc. Natl. Acad. Sci. 106, 3184-3189 (2009)

研究者 プロフィール

細胞生化学分野 研究員 勝野裕子
細胞生化学
研究員 勝野 裕子

コメント

1976年6月生まれ愛知出身。2001年静岡県立大学・生活健康科学研究科・修士課程を卒業。2002年 名古屋市立大学大学院・医学部医学研究科・博士課程に入学し、現在の生体機能・構造医学専攻、基礎医学・細胞生化学教室、中西真教授の元で細胞周期制御に関する研究を始める。2007年にPhDを取得し、同じく2007年に女児を出産。産後も研究を続け、研究と育児の両立の難しさを体感。現在は研究を休業し、夫の赴任先のメキシコで育児に専念。

趣味:western blotting、育児