研究・技術レポート

研究レポート:論文
[公開日:2009年10月13日]

No.5 ヒト肝細胞置換uPA/SCIDマウスでのHBV遺伝子型間における細胞傷害性の違い.
Gastroenterology. 136: 652-662 (2009) 臨床分子情報医学 研究員 杉山真也

研究の要旨

B型肝炎ウイルス(Hepatitis B Virus: HBV)の遺伝子型(A-H型)の違いにより臨床病態や予後が異なることが知られていましたが、その詳細は不明のままでした。今回の研究では、近年開発されたヒト肝臓を持つ免疫不全マウスを利用し、感染実験下でHBV遺伝子型の違いについて検討しました。その結果、感染初期のウイルス動態に違いがあり、肝傷害の程度も遺伝子型により異なることを見出しました。このヒト化マウスでは肝線維化が観察でき、免疫不全下での線維化モデルとしての有用性もあります。この実験システムを基盤とすることで、小型哺乳動物レベルでHBVが病原性を示す責任領域を簡便に探索できるようになりました。

B型肝炎の背景

1964年にBlumberg博士により、オーストラリア抗原として現在のHBVが発見されました。Blumberg博士はHBVの発見と予防に対する功績で1976年のノーベル医学生理学賞を受賞しました。しかしながら、HBVの発見から40年以上たった今でも感染者数は全世界で4億2千万人、本邦では150万人程度と推定されており、B型肝炎を起因とする肝硬変・肝細胞癌で毎年100万人以上が全世界で死亡しており、世界的な健康問題となっています。

HBVはそのゲノムを用いた分子系統解析により8つの遺伝子型(HBV/AからHBV/H)に分類されており、それぞれの遺伝子型には特徴的な臨床病態があることが知られています。遺伝子型の違いが臨床病態に与える影響について、これまで様々な臨床的検討が行われてきましたが、その違いが生じる原因は明らかとなっていませんでした。研究が進まない原因の一つとして、HBVは感染実験が極めて困難であるという点が挙げられます。株化された細胞やマウスやラット等の小型哺乳動物に感染が成立しないので、HBVの生活環を再現することが難しいためです。

研究手法

そこで我々は上記の問題点を解決すべく、重度免疫不全マウスから作出されたヒト肝臓を持つヒューマノイドマウス(ヒト肝細胞置換キメラマウス)を使用することで、これまで困難であった小型哺乳動物での感染実験を比較的簡便に行うことを可能とし、感染実験下でのHBVの病原性について検討しました。それにより、感染初期のウイルス動態及び短期・長期持続感染後の肝細胞の傷害性の程度について検討しました。

研究成果

細胞培養系で人工的に作製した各HBV遺伝子型のウイルス粒子をキメラマウスに接種し、血清中のウイルス量を測定しました。HBV/Cの複製効率が最も高く、それにHBV/Aが続きました。HBV/Bの複製は非常に低いものでしたが、劇症肝炎に関連するプレコア変異(PC変異)をHBV/Bに導入したところ、HBV/Cと同等の高い複製効率を示しました。ウイルス感染後6カ月後の肝組織像を解析したところ、HBV/C、B_PC群で線維化が見られ、スリガラス様の肝細胞が観察されました。また、HBV/C、B_PC群の肝臓では活性酸素種が高発現しており、ALTやTGF- β の増加、 α -SMA活性化が顕著にみられました。線維化関連遺伝子のTIMP-1, MMP-2, タイプ1コラーゲン遺伝子発現の変動も確認できました。ウイルス感染から3ヶ月後の短期間での検討では、線維化やスリガラス様の変化といった肝傷害は観察できませんでしたが、活性酸素種の発現レベルは既に6ヶ月後のものと同等であり、線維化関連遺伝子の発現も顕著で感染初期から漫然とした傷害が起きている様子が観察できました。

考案と今後の期待

免疫不全下において特定のHBV遺伝子型に感染することで線維化が急速に進行する様子が観察できました。遺伝子型による肝傷害性の違いは臨床像と類似しており、HBV遺伝子型の違いが予後に影響を与える事を実験的に再現できました。また、PC変異を持つことでより高い複製能を獲得し高い傷害性を示したことから、劇症化への関与を伺わせる結果でありました。

これまでは無症候性キャリアが存在することを理由にHBVには直接的な細胞傷害性がないとされてきましたが、今回の検討でHBVの直接的な作用の一端を証明できました。 このHBV感染実験系を利用することで、HBVが持つ病原性を分子レベルで詳細に解析することが期待できます。

本研究は、本学の実験病態病理学講座(白井教授、高橋准教授)、山口大学医学部消化器病態内科学講座、フェニックスバイオとの共同研究による成果です。

図の説明

ヒト肝細胞置換キメラマウスとHBV遺伝子型の違いが肝臓に及ぼす影響の違い

図1)ドナーから提供された肝細胞をuPA/SCIDマウスの脾臓へ注射し、肝臓へ送る。その後、ヒト肝細胞はマウス肝細胞と置換しヒト部分が組織化される。最大で90%前後がヒト化された肝臓が出来上がる。
図2)HBVのゲノムを用いた分子系統解析によりHBVは8つの遺伝子型に分類される。
図3)血清中のHBV-DNA量を示している。各HBV遺伝子型をヒト化マウスへ感染させると感染初期からウイルスの複製が観察できる。遺伝子型により違いがあり、他に劇症肝炎に関連するPC変異を導入すると強力な複製能を獲得した。
図4)ヒト化マウス肝臓内での活性酸素種の発現を観察した。遺伝子型により酸化傷害の程度にも違いがあった。(図は論文より改変引用)。

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論文掲載情報

Sugiyama M, Tanaka Y, Kurbanov F, Maruyama I, Shimada T, Takahashi S, Shirai T, Hino K, Sakaida I, and Mizokami M.

Direct Cytopathic Effects of Particular Hepatitis B Virus Genotypes in Severe Combined Immunodeficiency Transgenic With Urokinase-Type Plasminogen Activator Mouse With Human Hepatocytes.

Gastroenterology, 2009 Feb; 136 (2): 652-62

研究者 プロフィール

細胞生化学分野 研究員 杉山真也
細胞生化学分野
研究員 杉山真也

現職

名古屋市立大学大学院医学研究科細胞生化学分野 研究員

略歴とコメント

2009年3月名古屋市立大学大学院医学研究科博士課程修了(医学博士)。

同年4月より日本学術振興会特別研究員(PD)(中西真教授)

大学院在学中は溝上雅史教授の下でHBV遺伝子型についての研究を行いました。今回紹介した研究成果はそのうちの一つです。

現在は、肝炎ウイルス感染と病態に関わるホスト因子についての研究も行っており、ウイルスと宿主の両側からアプローチし、肝癌撲滅に多少なりとも貢献できればと考えています 。

受賞履歴

  • 2006年 財団法人桜仁会医学研究助成ヒポクラテス賞
  • 2007年 ウイルス肝炎研究財団研究奨励賞
  • 2007年 日本肝臓学会GlaxoSmithKline Award
  • 2007年 名古屋市立大学医学会賞
  • 2009年 第45回日本肝臓学会総会会長奨励賞
  • 2009年 第45回日本肝臓学会総会優秀演題賞