研究・技術レポート

研究レポート:論文
[公開日:2009年10月1日]

No.4 C型慢性肝炎に対するペグインターフェロン+リバビリン併用療法の有効性を規定する IL28B(インターフェロン λ )領域の遺伝子多型(SNPs).
Nat Genet. 41: 1105-1109 (2009) ウイルス学分野 教授 田中 靖人

Genome-wide association of IL28B with response to pegylated
interferon- α and ribavirin therapy for chronic hepatitis C

Yasuhito Tanaka, Nao Nishida, Masaya Sugiyama et al.

Nature Genetics Published online:13 September 2009|doi:10.1038 ⁄ ng.449

C型肝炎の現状

わが国のC型肝炎ウイルス(HCV)感染者は約200万人存在するとされ、我が国における最大の感染症である。HCVは一旦感染すると6~8割が慢性肝炎に移行し、自然に治ることはほとんどなく、多くは肝硬変・肝癌へと進展し、本邦では年間約2万5千人が肝がんで死亡しているのが現状である。

そのHCVの根治治療で、現時点で最強治療であるペグインターフェロン+リバビリン併用療法で根治させることができるようになったが、日本人に最も多いGenotype 1型高ウイルス量の症例では50%程度の根治しか得られず、約20%はペグインターフェロン+リバビリン併用療法が全く効かないのが現状である。

IL28B(インターフェロン λ )領域の遺伝子多型と治療効果

今回の論文では、ペグインターフェロン+リバビリン併用療法が有効な日本人の患者と無効な患者314人に関して、ヒト遺伝子の中で個人差があるとされる約90万箇所を分析した結果、インターフェロン(IFN)の一種であるIL28B遺伝子及びその遺伝子周辺に存在する複数の遺伝子多型(SNPs)が治療無効に関連していることを突き止めた。このマイナーアリル(リスクアリル)を持つHCV患者群は、通常のメジャーアリルを持つHCV患者群に比較して危険率約30倍の確率(P = ~1.00 × 10-32)でペグインターフェロン+リバビリン併用療法で効かないこと、さらに効かなかった人たちはIL28B遺伝子発現レベルが有意に低いことを明らかにした。

実際の臨床において、ペグインターフェロン+リバビリン併用療法の前にこの遺伝子多型(SNPs)を測定することで、根治の見込める患者群を高い確率(的中率85~95%)で選別できるし、効かない人たちからは無用な苦痛や出費から免れることができる(的中率85~95%)。

IL28B遺伝子とは

IL28BはIFN- λ (ラムダ)の一種である。IFN- λ には3種類あり、それぞれIL28A( λ 2), IL28B( λ 3), IL29( λ 1)と呼ばれている。IL28B遺伝子は19番染色体長腕に位置し、約1.5kと非常に小さいが、その詳細な機能は不明である。唯一、IFN- λ は共通のクラスIIサイトカインレセプター(IL-28R)に結合し、インターフェロン誘導遺伝子(ISG)の発現レベルを向上させ、抗ウイルス活性を発揮することが報告されているが、実際の臨床に使用されているインターフェロン α や β に比べて、ISG誘導は弱く(遅く)、今回同定されたIL28B発現レベルを調節する遺伝子多型による影響は不明である。

今後の展望

C型肝炎診療の中で、治療前にこの遺伝子多型を調べることで高い確率で治療効果の予測が可能となり、テーラーメード医療として期待される。このIL28B遺伝子は通常C型肝炎の治療に使用されているIFN- α や β とは異なるIFN- λ の1種でその下流に存在するIFN誘導遺伝子群を誘導して抗ウイルス効果をもたらすので、今後このIL28Bを増強する新規薬剤を開発することで、現在ペグインターフェロン+リバビリン併用療法で効かない人達や効果の不十分な人達も根治が望める可能性がある。現在、肝炎治療の効果的促進(経済的負担軽減)をはかるため2008年4月1日より「B型・C型肝炎患者医療給付事業」がスタートしているが、これらの公費助成も効率的運用が図れることを意味する。

図の説明

19番染色体長腕のIL28A, IL28B領域内の有意なSNPsとハプロタイプの連鎖不平衡地図(LD, Linkage disequilibrium)。特に、IL28B領域の4つSNPs (rs8105790, rs11881222, rs8099917 and rs7248668)は治療無効に強く関連していた 。それぞれのP値は 1.98×10-31 (OR = 25.7; 95% CI = 13.9-47.6), 2.84×10-31 (OR = 25.6; 95% CI = 13.8-47.3), 2.68×10-32 (OR = 27.1; 95% CI = 14.6-50.3) and 1.84×10-30 (OR = 24.7; 95% CI = 13.3-45.8)である。

連鎖不平衡(Linkage disequilibrium、略称LD)とは生物の集団において、複数の遺伝子座の対立遺伝子または遺伝的マーカー(多型)の間にランダムでない相関が見られる。すなわちそれらの特定の組合せ(ハプロタイプ)の頻度が有意に高くなる集団遺伝学的な現象をいう。それらは一般には同じ染色体上にあって遺伝的連鎖をしているが、連鎖していても連鎖不平衡が見られない場合もあり、また例外的に別の染色体上で見られる場合もある。つまり遺伝的連鎖とは別の(連鎖している場合も含む)現象である。

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メディア掲載情報

Genome-wide association of IL28B with response to pegylated
interferon- α and ribavirin therapy for chronic hepatitis C

Yasuhito Tanaka, Nao Nishida, Masaya Sugiyama et al.

Nature Genetics 41, 1105 - 1109 (2009)

[掲載サイトURL]
別ウィンドウで開きますhttp://www.nature.com/ng/journal/v41/n10/full/ng.449.html

研究者 プロフィール

臨床分子情報医学 准教授 田中  靖人
ウイルス学分野
教授 田中 靖人

略歴

  • 1991年3月
    名古屋市立大学医学部 卒業
  • 1999年~2001年
    米国立保健研究所(NIH)留学(Visiting Fellow)
  • 2006年9月~2009年9月
    名古屋市立大大学院 臨床分子情報医学 助教授(准教授)
  • 2008年7月~現在
    名古屋市立大学病院 肝疾患センター 副センター長兼任
  • 2009年10月~
    ウイルス学分野 教授

所属学会等

  • 日本内科学会 認定医、地方会評議員
  • 日本肝臓学会 専門医、指導医総会評議員
  • 日本消化器病学会 専門医、指導医総会(学会)評議員

厚生労働省班研究

  • 平成20-21年度. 厚生労働省肝炎等克服緊急対策研究事業:テーラーメード治療を目指した肝炎ウイルスデータベース構築に関する研究(代表)

教授就任、今後の抱負

平成21年10月1日付でウイルス学分野及び肝疾患診療室、中央臨床検査部(兼務)を担当させて頂くことになりました。これまで、内科医として、主に肝炎患者の診療に当たると同時に、臨床検査専門医として中央臨床検査部の業務に携わって参りました。

私の主要な研究テーマは、「肝細胞置換キメラマウスを用いた肝炎ウイルス感染モデルの確立とその応用」ですが、最近では肝炎ウイルス感染症においてゲノムワイド関連解析を実施しています。9月13日付で「C型慢性肝炎に対するインターフェロン治療効果を規定する遺伝要因(SNPs)」を同定し、Nature Geneticsにオンライン掲載されました。現在、この成果を検証するために全国共同の多施設前向き研究が計画されており、私たちが担う役割は非常に重要であります。基礎研究からトランスレーショナルリサーチを目指して、教育・研究・診療を通じて精一杯努力していきたいと思います。今後ともご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いします。

受賞履歴

授賞学術賞

  • 平成14年度 東海学術奨励賞
  • 平成16年度 上原記念生命科学財団 研究奨励賞
  • 平成19年度 APASL Presidential Award (アジア太平洋肝臓学会議、会長賞)
  • 平成21年度 武田科学振興財団医学系研究奨励賞(臨床)
  • その他12回授賞

研究業績

  • HBVの基礎的・臨床的研究(HBV複製モデルを用いた検討)
  • 肝疾患におけるゲノムワイド関連解析

ご案内

本研究に関する下記の記事について、合わせてご覧ください。

【該当トピックス】 ニュース&トピックス(2009年度):プレスリリース