研究・技術レポート

研究レポート:論文
[公開日:2011年3月28日]

No.3 平成22年度高松宮妃癌研究基金学術賞 受賞報告
実験病態病理学 教授 白井智之
名古屋市立大学 特任教授 津田洋幸

受賞報告

平成23年2月22日公益財団法人 高松宮妃癌研究基金より、 平成22年度の高松宮妃癌研究基金学術賞<基礎部門>を現在本学特任教授として 山の畑キャンパスで研究活動をされている津田洋幸先生とご一緒に共同受賞する栄誉に浴しました。 受賞理由は「遺伝子改変ラットモデルを用いた膵臓がんと前立腺がんの予防、早期診断と治療法の開発」となっています。
高松宮妃癌研究基金は故高松宮妃殿下が昭和8年、母君をがんで亡くされてより、 がん撲滅を強く念願され、がん研究に多大なご尽力いただく中、 昭和43年4月にそれまでに寄せられていた寄付金を基本財産とする財団法人 高松宮妃癌研究基金が発足しました。 妃殿下は平成12年まで総裁としてご活躍なさいました。 その後寬仁親王殿下が総裁を引き継がれ、今日に至っています。 本学術賞は昭和43年度に創設され、がん研究に関する研究で特に顕著な業績を挙げた日本人研究者に対して贈呈され、 推薦された候補者の中から基礎及び臨床部門から各一件を選考するというもので、 大変名誉ある賞であり大変嬉しく思っております。
私2人は共に当大学の故伊東信行名誉教授(元学長)の薫陶を受け、 実験動物を用いた発がん研究に40年以上携わって参りました。 伊東信行先生は昭和60年に本学術賞を受賞されています。


授賞式の様子

私は前立腺がんの研究を主に動物モデルの開発とそれを用いての発がんメカニズム、 予防物質とその作用機構について研究を進めてきました。 その中で近年急増している前立腺がんの研究に欠くことのできないラットモデルとして、 化学発がん物質を投与するラットモデルでは長期間必要であることから、 短期にしかも確実に前立腺がんを発生するモデルの確立を 目指す中でSV40Large T抗原を前立腺で特異的に発現するよう工夫された遺伝子を導入したモデルの作成に成功しました。 遺伝子改変マウス前立腺がんモデルが多数ある中で、ラットの遺伝子改変前立腺がんモデルは世界で唯一です。 このモデルでは15週齢で全例に微小浸潤を伴うアンドロゲン依存性前立腺がんが発生することが判明し、 このモデルを用いることにより、多くの前立腺がん化学予防に有用な薬物・化学物質を明らかにすることが出来ました。 津田先生は難治性の膵臓がんモデルを早期に発症するもですとして、 K-rasおよびH-ras遺伝子を導入したラットを作成し、 選択的に膵管上皮でのみ導入ras遺伝子を活性化する手法により、 選択的にしかも短期間で膵癌(膵管癌)を誘発するモデルを確立され、膵臓がんの初期像、 進展機序の解析、さらに新機抗がん剤の治療効果の評価に有用なモデルと期待されています。

いずれの研究も名古屋市立大学で成し遂げられた成果であり、 これが評価されましたことに感激しています。勿論教室員の日頃の真摯な研究の賜物であり、 大学の関係各位のサポートあっての受賞と感謝申し上げます。


プロフィール

上田龍三教授
白井智之教授

1970年名古屋市立大学医学部卒業、直ちに同大学医学研究科大学院(第一病理学)に入学し、化学発がんの研究を開始した。胃癌を最初に手がけたが、1978年から2年半アメリカミシガン州デトロイトにあるミシガンがん研究所にて化学発がん物質の代謝活性化と発がん標的性について学び、その後の発がん研究の大きな基礎的な糧を得た。帰国後は名古屋市厚生院の病理を担当し、多数の剖検症例を経験し、人体病理の基礎を学ぶ。名古屋市厚生院に勤務すると同時に、大学で研究を続け、前立腺がんの実験病理学的研究を本邦で初めて開始し、研究の柱とした。化学発がん物質であるDMABによるラット前立腺がんモデルを初めて確立すると共に焼けこげ中に含まれ、ヒトが日常的に摂取している発がん性ヘテロサイクリックアミンの一つであるPhIPがラットの大腸癌、乳癌に加えて前立腺にも発がん性を示すことを発見し、ヒト前立腺癌のリスクファクターであることを示した。その間1994年に名古屋市立大学医学部第一病理学の教授に昇任した。2009年から研究科長・医学部長を兼務、2011年3月に定年退職。

主な学会関係としては、日本毒性病理学会(副理事長、元理事長 第24回学術集会会長)、日本病理学会(評議員 秋期特別総会副会長)、日本癌学会(評議員)日本がん予防学会(世話人 第16回大会会長)などを歴任。専門は病理学、化学発がん、特に前立腺がんの研究。

現在 内閣府食品安全委員会 専門委員、厚生労働省医薬食品局 食品の安心・安全確保推進研究中間・事後評価委員会委員、厚生労働省 創薬基盤推進研究事業(創薬バイオマーカー探索研究事業)中間・事後評価委員会委員、独立行政法人医薬品医療機構 専門委員、総務省総合通信基盤局電波環境課 情報通信審議会専門委員を委嘱されている。