
MGFA重症度分類
重症筋無力症の治療指針
胸腺摘出術の適応
何歳以上なら胸腺摘出術を行って良いか
パルスの適応
シクロスポリン、アザチオプリン、プレドニンの3剤少量併用療法
クリーゼの管理

おかされる筋肉により次のような症状が現れます。
| 眼の周りの筋肉 | まぶたが落ちてくる、ものが二重に見える、斜視 シャンプーが目にしみる、目が疲れる、まぶしい |
| 口の周りの筋肉 | ものがかみにくい、のみこみにくい、つばがあふれる、 食べたり飲んだりするとむせる、しゃべりにくい、鼻声になる |
| 顔の筋肉 | 表情がうまくつくれない 笑おうとしても怒ったような顔になる |
| 手足の筋肉 | 持ったものを落す、字が書けない、立てない、歩けない、 階段が昇れない、洗濯ものがほせない、おふろで頭が洗えない |
| 呼吸筋 | 息がしにくい |
心臓や腸の筋肉は侵されません。
重症筋無力症の人の筋肉が弱くなるのは、体の中に抗アセチルコリンリセプター抗体という抗体ができ、
これが筋肉の膜のアセチルコリンリセプターに結合するためです。
アセチルコリンリセプターは、神経からの刺激を筋肉の細胞に伝える役割をしているので、
重症筋無力症の人は神経からの刺激が伝わりにくくなっているのです。
| 正常の人 | 重症筋無力症の人 |
![]() | ![]() |
| 正常の神経筋接合部 | 重症筋無力症の神経筋接合部 |
![]() | ![]() |
| アセチルコリン受容体が十分あるので 神経からの刺激が伝わる |
抗体(Y字のかっこうをしたもの) がくっついていてアセチルコリン受容体 の数がへっているので 神経からの刺激が伝わりにくい |
我々の体は何百万もの抗体を作る能力があり、たとえばカゼをひいたときには、
ウイルスにたいする抗体を作ってカゼをなおすのに使っています。
重症筋無力症の場合は、なぜかわからないけれども自分の体の一部であるアセチルコリンリセプターに対する抗体ができ、
これが病気を起こしているのです。
つまり、自分で自分を病気にしているわけです。
この、自分の体にたいする抗体による病気を自己免疫疾患といい、重症筋無力症もそのひとつです。
重症筋無力症は女性に多いです。
また、胸腺腫を合併することがあります(約24%)。
胸腺腫のある人は男の人も同じぐらいあります
重症筋無力症375例の集計(Masaoka等Annals of Thoracic Surgery 1996)
| 胸腺腫のない人 | 胸腺腫のある人 | |
| 男 | 72 | 48 |
| 女 | 214 | 41 |
いくつか家族内発生は報告されています。また特定のHLA抗原との関連性も指摘されていますが、
抗アセチルコリンリセプター抗体産生そのものは遺伝しません(どの抗体を産生するかは子供が生まれるときリセットされるのです)。
遺伝するとすると、重症筋無力症を含む自己免疫疾患になりやすい素因は可能性があります。
抗アセチルコリンリセプター抗体のない先天性の重症筋無力症という病気は別にあり、
これはアセチルコリンリセプターそのものの遺伝子の異常で、神経筋伝達がうまくいかないものです。
成長してから発症する一般の重症筋無力症とはまったく別の病気です。
また重症筋無力症の母親から生まれる子供に一過性に生じる重症筋無力症の症状は、
胎盤をとおして抗体が移行するためで、この抗体がなくなれば症状はなくなり
子供そのものは重症筋無力症ではありません。
1。筋肉が疲れやすく、休むと回復する
2。筋電図に特徴的な所見がある(waningウェーニング―何回も繰り返し刺激すると反応が弱くなる)
3。血清中に抗アセチルコリン受容体抗体がある
4。テンシロンなどの抗コリンエステラーゼ剤が効く
抗アセチルコリン受容体抗体はこの病気に特異的で、
正常人ではほとんど検出されません(0.2pmole/ml以下)。
この抗体があれば重症筋無力症であると考えられます。
陽性の場合もその値はひとけたから1000を越える人までさまざまです。
1000の人が8の人より重症とは限りません。
しかし、普段20の人が50になるとかなり症状は悪化し、
5ぐらいに下がると楽になることが多いです。
この抗体が陰性で、典型的な重症筋無力症の症状を持つ人も10-15%あります(抗アセチルコリンリセプター抗体陰性の重症筋無力症について)。
しかし、この抗体が陰性であれば、他の神経疾患を注意して除外しなければなりません(特に症状が眼に限られている人)。
治療は、
1.マイテラーゼ、メスチノン、ウブレチド、などの抗コリンエステラーゼ剤(重症筋無力症に使われる薬について)
2.プレドニンなどのステロイド(副腎皮質ホルモン剤)
3.胸腺摘出術
4.血漿交換
5.プログラフ、サイクロスポリン、アザチオプリンなどの免疫抑制剤
6.大量免疫グロブリン療法
などが行なわれます。治療法の選択や、薬の量などは経験のある医師と相談してきめるべきです。
自分で勝手に薬の量をふやしたりするとかえって悪くなることがあります。
治療の効果は人により様々で、抗コリンエステラーゼ剤だけでほぼ症状のない人から、
かなり多量のステロイドを飲まなくてはならないひと、
胸腺摘出術により良くなる人、
胸腺摘出術後もステロイドや免疫抑制剤が必要なひとなどいろいろです。
上記の治療のうち、抗コリンエステラーゼ剤および血漿交換は対症療法で、
重症筋無力症そのものを直すものではありません。
ステロイドや胸腺摘出術は免疫を介して重症筋無力症を改善させると考えられます。
治療により症状がよくなるとともに抗アセチルコリン受容体抗体も低下することが多いですが、
胸腺摘出術後もほとんどの人は抗アセチルコリン受容体抗体はゼロにはならず、
陽性のままです。
胸腺摘出術の重症筋無力症に対する効果は腫瘍などの切除術と異なり「間接的なもの」です。
抗アセチルコリン受容体抗体が術前の半分ぐらいに低下すればかなり症状も改善すると考えられます。
重症筋無力症の症状の増悪、軽快について
重症筋無力症は自己免疫疾患で、
その特徴のひとつとして自然によくなったり悪くなったりすることがあります.
悪くなるような要因をさけることも必要ですが、
経験をつんでくるとある程度自分で薬の量をコントロールできるようになるものです
(しかし、のみすぎには注意してください、特に一日マイテラーゼなどが4錠以上になるのはきけんです).
かぜをひいたりストレスがあったりすると、症状が悪くなることがあります。
呼吸困難のある人は入院するか、症状が悪化したときにすぐ救急車を呼べるようにしておく必要があります。
ひとりぐらしの人は特に気をつけて下さい。
痛み止め、睡眠薬、アミノグリコシド系抗生物質は筋無力症の症状を悪化させることがあります(気をつけなければならない薬)。
重症筋無力症の女の人が妊娠すると一般に症状は少し良くなり、
出産すると少し悪くなる人が多いです。
出産後の発症も多いのです。
しかし、重症筋無力症でありながら元気に出産、育児をされている方も多くあり、
決してあきらめる必要はありません。
主治医とよく相談して希望をもって取り組んで下さい。
その他
重症筋無力症の母親から生まれた子供は
生まれてしばらく重症筋無力症の症状がでることがあります。
これは胎盤を通して子供につたわった抗アセチルコリンリセプター抗体によるもので、
子供自身が重症筋無力症になったわけではないので、
しばらくすると抗アセチルコリンリセプター抗体は消失し、重症筋無力症そのものが遺伝することはありません。
重症筋無力症は難病に指定はされていますが、
現在の医療水準では、医師が注意深く観察していれば、
絶対に死ぬことはありません。
日常生活に支障があれば、気分も暗くなりがちですが、
なるべく外に視野を向け、自分のできる範囲で積極的に社会に出ていく方が気分も良くなり、
闘病にもはりあいがでるものです。
明るくこの病気とつきあってください。
ご注意
血清中の抗アセチルコリンリセプター抗体の価が高い人は献血しないで下さい。
血液をもらった人が重症筋無力症の症状を起こす可能性があります。
私の外来に通院中の重症筋無力症患者さんは約100人おられます。
全国的な多数例の集計とほぼ同じ傾向ですが、私の外来でどのような治療が行われているか、
私の治療方針の概略がわかると思います。
年令別の患者さんの数です。




抗アセチルコリンリセプター抗体陰性の重症筋無力症について
重症筋無力症の患者さんのうち10−15%の方は抗アセチルコリンリセプター抗体が陰性です。
このような方でもテンシロンテストが陽性(抗コリンエステラーゼ剤が効く)、
筋電図などで臨床的には重症筋無力症と診断されることがあります。
実際このような方は、神経と筋肉の接合部に異常があることは間違いないと考えられますが
抗アセチルコリンリセプター抗体が陰性であることから
病態は狭義の重症筋無力症(抗アセチルコリンリセプター抗体陽性の重症筋無力症)とは異なると考えられます。
このような患者さんのうち約70%の方には、筋肉にあるMuSKという蛋白に対する抗体があることが
2001年にNature Medicineという雑誌に報告されました(私の留学していたイギリスの研究室からの報告)。
このような患者さんではやはり抗コリンエステラーゼ剤が効果があり、免疫抑制剤も有効と考えられますが
胸腺摘出術が有効かどうかは理論的に見ても疑問です。
抗MuSK抗体陽性の重症筋無力症患者さんは胸腺腫がありませんし、胸腺の異常も現在のところ報告されていません。
Duke大学での12例の抗MuSK抗体陽性重症筋無力症患者さんの報告(2003年)では7人に胸腺摘出術を行い
いずれも効果がなかったとされています。
このような患者さんに関しては症例も少なく、これから治療方針が固まってくると考えられますが、
胸腺摘出術に関しては慎重であるべきと思っております。
ちなみに、私が留学していた研究室で、抗MuSK抗体の論文を出したところ
(英国でのほとんどの重症筋無力症患者さんをみているところ)では
抗アセチルコリンリセプター抗体陰性の患者さんは胸腺摘出術をしない、とのことです。
われわれも、現在のところ、抗MuSK抗体による重症筋無力症に関する臨床データが確定するまでは
抗アセチルコリンリセプター抗体陰性の重症筋無力症患者さんに対しての胸腺摘出術は慎重に対応しています。
胸腺摘出術が適応になるような重症例に対しては抗MuSK抗体を測定します。
抗MuSK抗体陽性の重症筋無力症に対しては胸腺摘出術は行いません。
抗MuSK抗体が測定されていない抗アセチルコリン受容体抗体陰性の重症筋無力症患者さんに対しては
胸腺摘出術は現在のところ行っていません(2005.9現在)。
2003年にBrainという雑誌にイタリアのグループから37例の抗MuSK抗体陽性(抗アセチルコリンリセプター抗体陰性)
の重症筋無力症患者さんの報告が載りました。
これらの患者さんのうち15例に胸腺摘出術が行われましたが、いずれも効果はなく、
胸腺腫や胸腺の胚中心などの胸腺の異常も見られなかったと報告されています。(Brain 126:2304,2003)

この図のように、重症筋無力症には抗アセチルコリン受容体抗体によるもの(これを狭義の重症筋無力症と呼ぶことにします)と、
(抗MuSK抗体など)別な原因によるものがあります。これらを含めて臨床的な(広義の)重症筋無力症と呼びます。
抗アセチルコリン受容体抗体による重症筋無力症の一部には臨床的には
重症筋無力症であっても検査で抗アセチルコリン受容体抗体陽性とならないものがあり、
このような症例は胸腺摘出術の適応があると考えられます。
これらの症例が抗アセチルコリン受容体抗体陽性とならない理由は
1.抗体があまりに低く、検査の感度以下である
2.抗体の種類が特殊で(IgG1)普通の抗アセチルコリン受容体抗体の検査にひっかかりにくい(Brain 131: 1940-1952, 2008)
3.抗体はあるのだが、筋肉のアセチルコリンリセプターに結合してその結果崩壊してしまい、結果として血中濃度が低い
などが考えられます。
抗アセチルコリン受容体抗体陰性の場合は上記の抗アセチルコリン受容体抗体による重症筋無力症でありながら
検査上、抗アセチルコリン受容体抗体陰性になっている患者さん(上の図で紫色の部分)以外は、
抗MuSK抗体によるもの、その他の原因によるものも、胸腺は病気に関係ないと考えられ、
胸腺摘出術の適応はありません。
抗アセチルコリン受容体抗体陽性で症状のない人(胸腺腫や高齢者などの一部に見られる)はもちろん
胸腺摘出術の必要はありません。
胸腺摘出術(きょうせんてきしゅつじゅつ)は次のような場合に行われます.
1.胸腺に腫瘍がある場合(胸腺腫)
2.重症筋無力症の治療として
重症筋無力症の患者さんの約25-30%には胸腺腫を合併しており、
この場合は胸腺と胸腺の腫瘍を取れば重症筋無力症もよくなります
胸腺腫のない場合は重症筋無力症を治すための手術になります
全ての重症筋無力症の患者さんが胸腺摘出術の対象になるわけではなく
原則として60才以下で、抗アセチルコリンリセプター抗体が陽性という条件を満たす方で
症状が強くて日常生活に支障のある方が良い適応となります
症状が軽い方や、眼だけに限られている方も抗体が高い場合は胸腺摘出術をした方がよい場合も多いです
60才以上で胸腺が萎縮してしまっている方は手術しても症状の改善は望みにくいと考えられます
また60歳以上で胸腺腫のない重症筋無力症の方のかなりの方は(とくに抗Titin抗体陽性の方)
その抗アセチルコリン受容体抗体が産生されるメカニズムが
若い、胸腺腫のない(胸腺に異常があって胸腺摘出術の効果のある)重症筋無力症と少し異なると考えられるため
胸腺摘出術はお勧めできません
一方抗体が高くても症状のない方、非常に軽くて、少しの抗コリンエステラーゼ剤でほとんど症状がない方は
手術する必要はないと考えています
抗コリンエステラーゼ剤は一生飲んでいても後に残るような副作用は見られません
また抗アセチルコリンリセプター抗体が陰性の方は、上記の抗MuSK抗体による症状かもしれません
この場合は胸腺の役割はない、と考えられ胸腺摘出術は適応ではありません。
腫瘍があるから切除が必要な場合と異なり、重症筋無力症に対する胸腺摘出術の効果は間接的なものです。
したがって胸腺腫のない患者さんでは胸腺摘出術の適応は絶対的なものではありません。
胸腺とは
胸腺は胸の真ん中の骨(胸骨)の真下で、心臓の上、
上大静脈、大動脈の前にあるやわらかい脂肪のような臓器です
大人で50g程度のものです
患者さんの胸腺 | |||
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
手術とその合併症について
手術は、全身麻酔で胸のまん中にある骨(胸骨)を2/3から3/4ほど切り、
その下にある胸腺をまわりの脂肪といっしょに取ります(拡大胸腺摘出術).
胸腺腫があればそれも取ります.
手術の傷はむねのまんなかに10−12センチぐらいです

このひとのは10センチです
手術時間は胸腺腫のない場合は皮膚にメスが入ってから皮膚を縫い終わるまで1.5から2時間ぐらい.
胸腺腫が浸潤性(まわりの組織におよんでいるような場合)であれば浸潤している臓器をとり、
必要であれば再建します.
時間もその程度に応じてかかります.
胸腺腫が大きくて大静脈、肺などに浸潤していて取りきるのが難しい場合は、
まずステロイドパルスや放射線療法や化学療法などをしてから手術を考える場合があります。
手術の合併症としては出血、横隔神経麻痺(呼吸がしにくくなる)、
反回神経麻痺(声がかすれる)、胸骨や縦隔の感染などがありますが、
いずれも発生頻度はひくいものです.
胸腺腫のある場合以外は輸血を必要とすることはありません.
重症筋無力症の症状が軽い人は次の日には歩くことが可能です。
ほとんどの人は食事も可能です。
手術の後は胸腺のあった場所にドレーン(管)を入れます.
この管は出血がおさまれば抜きます.
手術の問題はむしろ手術の後の重症筋無力症の症状のコントロールにあります.
手術前に、いきがしにくい、のみこみにくい、しゃべりにくい等の症状のある人は
手術後に呼吸困難が出現し、人工呼吸を必要とすることがあります.
人工呼吸の期間が長引くときは肺炎などの合併症を起こしやすく、
この管理のため、気管切開をすることがあります.
入院期間は、順調であれば術前後あわせて10日から2週間です.
胸腺腫のある場合は術後放射線療法をすることがありこの場合は入院が少し長引きます.
現在胸腔鏡や縦隔鏡を用いた胸腺摘出術が行われていますが、
おおむね倍以上時間がかかり、胸腺を全部取りきれるかどうかが100%確実ではありません。
しかしたとえほんの少し胸腺が残っていても
私の予想では胸腺のほとんどがとれていれば、拡大胸腺摘出術とほぼ変わらない成績が期待できます。
骨を切らない分手術の大きさは少し小さくなり、在院日数も短いです。
胸腺摘出術の効果について
胸腺をとるとその効果は手術後一年ぐらいの間に徐々に現れます.
80ー90%の人が薬を減らすことができ、30ー40%の人は薬がいらなくなります.
癌などのように悪いものを取ったらすぐ治るのとは違い、胸腺摘出術の効果は間接的なので、
取ったのにすぐ治らないではないか、と怒っては困ります
胸腺は免疫を担当しているT細胞を作り出している器官ですが、
大人になるとほとんど脂肪のようになっており、
| 子供の胸腺 | 大人の胸腺 |
![]() | ![]() |
| 正常胸腺 | 重症筋無力症胸腺(白く抜けたようにみえるところが胚中心) |
![]() |
![]() |
副作用について
これらの薬には共通して腎機能障害という副作用があります
もちろん免疫を抑制するため、ウイルスなどの感染に弱くなります
全身性ヘルペスやステロイドパルスを併用するようなときはカリニ肺炎などに十分注意が必要です
その他高血圧、高血糖、手足の震え、シクロスポリンの多毛など上にあげたような副作用があり
全く安心して使える薬ではありません
これらの副作用を防ぐため薬の血中濃度を定期的に測らなくてはなりません
妊娠とシクロスポリン、プログラフについて(大事なお話)
シクロスポリン、プログラフは最終的にNFATという転写因子を抑制します。ところで遺伝子をこわすことにより、ねずみでこのNFATの働きを全くなくしてしまうことが可能です。このようなねずみは、心臓の弁や血管がうまく作られなくて子供が生まれない(胎児で死んでしまう)ことが知られています。シクロスポリン、プログラフが充分効果を発揮すると、このようなねずみと同様な状態になると考えられるので、この薬を飲んでいる間は妊娠しないことが大事です。もちろん非常に少ない量ではこのような効果は少ないと考えられます。
腎臓移植の患者さんなどでシクロスポリン、プログラフを飲んでいて出産した例はたくさんありますが、実際は特定の奇形が多いという報告はありません。
男性が飲んでいてパートナーが妊娠したときに関するデータはほとんどありません
が、胎児が成長する初期に主として影響があると考えられるので、報告されている心奇形に関してはまず大丈夫であろうと考えています。
多くの薬は実は妊娠中は要注意という注意書きがあり、それでもたいては大したことはないだろう、ということで投与されることが多いのですが、シクロスポリン、プログラフに関しては上記の作用機序から
、高濃度になれば、かなり確実に胎児の発達に影響を与えるだろうと考えられます。厚生省により妊婦には禁忌(投与してはいけない)とされています。我々のところではシクロスポリン、プログラフを女性に投与するときは妊娠しないことを条件にご理解願った上で投与しています。
なお乳汁移行があり授乳もさけるべきとされています。
| 私は筋無力症です | I have Myasthenia Gravis. | アイハブ ミアステニア グラーヴィス |
| 息が苦しいです | I cannot breathe. | アイ キャノット ブリーズ |
| 歩けません | I cannot walk. | アイ キャノット ウォーク |
| 病院へつれていってください | Take me to a hospital. | テイクミー トゥ ア ホスピタル |
| 救急車を呼んで! | Ambulance! | アンビュランス |
| 神経専門医に見て欲しい | I need a neurologist. | アイ ニード ア ニューロロジスト |
| プレドニンを3錠飲んでいます | I take prednin, 3 tablets | アイ テイク プレドゥニン スリー タブレッツ |
| マイテラーゼを3錠飲んでいます | I take myterase, 3 tablets | アイ テイク マイテレーズ スリー タブレッツ |
重症筋無力症は完治するのでしょうか(抗アセチルコリン受容体抗体陽性の重症筋無力症について)
抗アセチルコリン受容体抗体が体から全く消えてしまうのを完治とするなら、
この疑問に関してはほとんどの場合は答えは残念ながらNOです。
しかし社会生活がおくれるように症状をコントロールすることはほとんどの患者さんの場合可能です。
重症筋無力症の場合は絶対直してやる、と意気込みすぎるのはよくありません。
しかし、治らないのだ、と悲観するのはもっとよくないことです。
ある程度活動できればそれで満足し、外に向かって出て行って可能なら社会活動をしてください。
こもらないで、明るく病気と付き合うことが大事です。
重症筋無力症の患者さんの中にはステロイドをたくさん使ってでも、症状が全くない状態を望む方があります。
お気持ちは分かるのですが、これはすこし危険を伴っています。
たとえばプレドニンを10錠飲んで症状が全くないとします。
しかしこの状態だと症状をコントロールするのに必要なプレドニンの最低量より多く飲んでいる可能性があります。
それは薬を減らしてみて、症状がでるとか、抗アセチルコリン受容体抗体が上昇するかどうかで分かるわけです。
症状は変遷するので、いま10錠必要でも、半年後には6錠で十分かもしれません。
必要最低限のプレドニンを投与するためには、常に薬を増やしたり減らしたりしなくてはなりません。
それが難しい場合は必要以上の薬を飲むことになり、その副作用で苦しむ場合が出てきます。
私のおすすめは、ほんのちょっと症状がある、状態でコントロールすることです。
症状が強くなれば薬を増量し、軽くなれば減量します。
抗アセチルコリン受容体抗体の値も参考にします。
すこしの症状を許容していただければ、薬の量は必要最小限ですみます。
長期的にはそれが患者さんのためになると思います。
重症筋無力症ではステロイドや胸腺摘出術などの治療の結果抗アセチルコリン受容体抗体が陰性になる方は
実はたいへんまれで、5%以下です(それらの方も抗アセチルコリン受容体抗体が低い(一桁)の方です)。
多くのかたは胸腺摘出術などの治療後10年以上たっても抗アセチルコリン受容体抗体陽性です(値は治療前より低下していることが多いです)。
これはわれわれが一生はしかに対する抗体をもっているのと同様のメカニズムで
なぜか抗アセチルコリン受容体抗体を体はずっと産生しつづけているのです。
その理由はよくわかっていません。
以上のように抗アセチルコリン受容体抗体でみる限り重症筋無力症は完治することは難しく、
抗アセチルコリン受容体抗体ゼロは目標にせず
最低限の薬で日常生活、社会生活を営めることを目標にして病気をコントロールし、付き合っていきましょう。

胸腺腫の22.4%に重症筋無力症を合併しており、
また重症筋無力症の患者さんの24%に胸腺腫の合併がみられます。
このように両者には因果関係があると考えられます。
胸腺腫が重症筋無力症を引き起こす原因となると考えられます。
胸腺腫は肺癌などどくらべると転移しにくい比較的良性の腫瘍で、5年生存率も約80%あります。
これは当教室の前任の正岡昭先生のつくられたステージ分類で
世界中で用いられている標準となっているものです。
| ステージ | 5年生存率(%) | |
| I | 披膜につつまれているもの 組織学的に披膜浸潤がないもの | 81.5 |
| II | 縦隔胸膜、脂肪に浸潤 組織学的に披膜浸潤がある | 85.3 |
| III | 肺、心膜、横隔神経、腕頭静脈、上大静脈など隣接臓器に浸潤 | 79.8 |
| IVa | 胸腔、心嚢等に播種 | 48 |
| IVb | 血行性あるいはリンパ行性転移 |
胸腺腫のなかでも披膜(胸腺腫をつつんでいる膜)につつまれて、
周りの臓器に浸潤(進展)していないもの(ステージ1)
および浸潤が、胸膜にとどまっているもの(ステージ2)はまず確実に手術で治ると考えられます。
周りの臓器に浸潤しているもの(ステージ3)や、
胸膜にばらばらと散らばってひろがっているものや、
リンパ節や血行転移のあるもの(ステージ4)は手術で取りきれないことがあります。
ステージ3のうち、浸潤の程度の軽いものは、
手術でとりきれる可能性が高いので手術が第1選択です。
上大静脈や、大動脈などに浸潤しているものは術前に化学療法または放射線療法を行った上で手術すれば化学療法の効果のあるものは取りきれる可能性があります。
この場合は人工血管などを使うことがあります。
胸腺腫があるとどうして重症筋無力症になるのかはまだわかっておらず、
われわれの最大の研究課題です。現在までの我々の研究を総合すると
胸腺腫で発育するリンパ球は、通常の胸腺で発育するものと異なり
自己抗原に反応するリンパ球が除去されることがないので
これが自己免疫疾患発生に寄与していると考えています。
胸腺腫を合併した重症筋無力症患者さんの重症筋無力症は胸腺と胸腺腫をとれば
胸腺腫のない人と同様改善しますが、その程度は胸腺腫のない人に比べ少し劣ることが多いです。
その理由はよくわかっていません。
胸腺腫のない重症筋無力症の患者さんはどのような原因で重症筋無力症が発症するのかは
現在のところ不明です。
胸腺の異常(胚中心形成)が発症の原因か結果かすらもわかっていません(私は結果ではないかと考えているのですが)。
重症筋無力症の原因抗原であるアセチルコリン受容体が胸腺にあるかどうかもまだ議論があります。
ウイルス等が感染し、それに対する免疫反応が起き、
それがたまたまアセチルコリン受容体に反応することで重症筋無力症が起きるという説が根強くあります。
もしそうだとすると、特定のウイルスとの関連があるべきですし、
免疫学的に考えると特定のHLAとの関連があるはずです。
また大きなアセチルコリン受容体分子のなかでも特定の部位に対する抗体が多くみられるはずです。
これらのことはいずれも実際の患者さんではみられませんので、
ウイルス等による交叉抗原による発症は免疫学的にみて考えにくいと思います。
これらのことを決定的に解明する実験は難しく、研究はゆっくりとしか進んでいません。
しかし、着実にいろいろなことが明らかになっていますので、
いずれある程度の結論が得られることでしょう(われわれが研究している間に起きてほしいものです)。
もし原因がはっきりしても、(それがウイルスによるといったことでもない限り)
治療は現在とそれほど変わるとは考えられません。
アセチルコリン受容体に対する免疫反応だけを抑制することを
私はアメリカで研究していましたが、これは大変難しく、実現は難しいと思います。
したがって、有効な副作用の少ない免疫抑制剤が出現することが望まれます。
これは十分可能性があり、サイクロスポリンによる治療効果が良いことからも
この分野に期待を持っています。
かなり重症の重症筋無力症の家族の方へ
――いざというときの準備と心構え――
重症筋無力症は気をつけていれば死なない病気です
重症筋無力症は最重症で呼吸困難がある患者さんでも、
肺や心臓などの重要臓器が悪いわけではなく、
また筋肉の変化も可逆性(抗体がなくなればもとにもどる)なので、
重症筋無力症があるということで死ぬことはありません。
ただ、息が止まったまま3分もほっておくと大変重症になり、
なくなられる方もでることになります。
そこで、重症の呼吸困難が時々あるような人は注意して観察し、
本当に息が止まっているときはあわてないで、
呼吸を補助することにより死に至るような事故を防げます。
基本的に、医者がみていればなくなることはないといえます。
また、はやめ、はやめの受診をおすすめします。
どんなときがあぶないか
MGFA (Myasthenia Gravis Foundation of America) 重症度分類
| I | 眼筋型 |
| IIa | 軽度全身型 |
| IIb | 軽度全身型で球症状>四肢の脱力 |
| IIIa | 中等度全身型 |
| IIIb | 中等度全身型で球症状>四肢の脱力 |
| IVa | 重度全身型 |
| IVb | 重度全身型で球症状>四肢の脱力 経管栄養 |
| V | 気管内挿管 |
軽度、中等度などの判定が主観なので握力や実際の日常生活の支障の程度を具体的に記載しておくのがよい。
*:胸腺腫のない重症筋無力症患者さんで(60歳以下でも)抗Titin抗体陽性の場合は
非特異的な自己抗体産生の一部として抗アセチルコリン受容体抗体が産生されている可能性があり
(その機序は胸腺腫のある場合と異なるが、結果として多種の自己抗体が産生され、似た結果となる)
抗アセチルコリン受容体抗体産生におそらく胸腺の関与はないと考えられる
(胸腺腫による抗アセチルコリン受容体抗体産生にも胸腺という組織そのものは不要と考えられます)
胸腺腫のない重症筋無力症患者の抗Titin抗体

Somnier et al. Neurology 59: 92, 2002 による
縦軸抗Titin抗体, 横軸 年齢
抗Titin抗体陽性患者はほとんどが60歳以上である。
それ以下の若い重症筋無力症とは免疫学的に抗アセチルコリン受容体抗体産生にいたる機序が異なるようだ。
腎機能障害を早期に診断するため、1月に一度(投与始めと、増量したときは2週に一度)診察し、血中シクロスポリン(FK)、末梢血、BUN、Crnを測定する。採血の朝はシクロスポリンまたはFKを飲まないように伝えること(trough level)。100mg前後の投与量では血中濃度はあまり上昇しないが、もし、200ng/ml(FKで20ng/ml)をこえているようであれば減量する。投与前腎機能正常の患者さんでは血中クレアチニンが1.2を越えないことが望ましい。
私の患者さんで困った副作用としては、血圧上昇、手指の震え、運動失調、発語障害、多毛などがあります。サイクロスポリンの場合、多毛はほぼ必発で、説明をしておくほうが良い。
好中球が減少するならイムランを減量する。
シクロスポリンを投与中にパルスをする場合は感染に注意し、予防的にバクタ4錠分2を投与する。カリニに感染すると致命的となる。全身ヘルペスなどにも注意。全身に広がる場合は入院のうえゾビラックスの点滴を行う。
2000年9月よりFKが、2006年からネオーラルが保険適応になりました(胸腺摘出術後の治療において、ステロイド剤の投与が効果不十分、又は副作用により困難な場合)
この療法は若い女性で妊娠の可能性のある人には慎重に投与すべきです
原則として子供を生まない女性に限ります
薬品情報では妊婦には禁忌とされています
男性においてはFKあるいはシクロスポリンを投与しても
生まれる子供に対する影響はあまりないと思われますがデータはありません
イムランは多量であれば精子にも影響があるので、この療法を行っている間は、男女とも避妊するほうがベターと思われます
呼吸困難をともなう場合は、外来での抗コリンエステラーゼ剤増量は危険なので、まず入院のうえ下記のような管理を行う。呼吸困難のある重症筋無力症患者は入院が原則である。
挿管できる医師が近くにいれば重症筋無力症のクリーゼの管理は比較的安全に行える。
1.注意深い観察下に置く
吸引のある部屋に入院させ、枕元に、挿管の準備をしておく。呼吸が止まってから挿管チューブを探すようではいけない。下記の様な前徴に注意し、1時間に1度は訪室する。抗コリンエステラーゼ剤の増量
クリーゼになるような患者はすでに抗コリンエステラーゼ剤は3錠程度、多い人は4−5錠はいっていることが多い。
これ以上増量するのは、cholinergicとなりかえって危険なことがある。
テンシロンテストはもしこれで増悪すればcholinergicとの診断がつき、治療方針が決まる(抗コリンエステラーゼ剤を中止し、パルスを考慮)が、もしテンシロンテストでよくなっても、抗コリンエステラーゼ剤の治療域がかなり狭くなっており、増量には慎重な方がよい。
ステロイドパルスをするほど重症でないと判断すれば、抗コリンエステラーゼ剤を1錠程度増量して様子をみるのも一法である。これで乗り切って退院できる例もある。
われわれは抗コリンエステラーゼ剤の増量は慎重にし、呼吸困難で入院すれば初期増悪で挿管しなくてはならないことは覚悟してステロイドパルスを行うことが多い。
クリーゼの前徴
要注意
つばがあふれる
食事ができない
首が重くてささえられない
かなりあぶない―頻回のチェック要す、患者にはベッド上安静を指示
吸気時に胸鎖乳突筋が動く
挿管の準備、血液ガスの測定、必要なら酸素吸入
吸気時に腹部がへこむ(シーソー呼吸)
大きな呼吸雑音(分泌物による)
挿管
片肺の呼吸音が聞こえない
(このようなときはねばっても結局挿管となるので、この時点で挿管するのがよい)
動脈血ガス炭酸ガス濃度55mmHg以上
チアノーゼ(ここまで待たないのが良い管理
註.重症筋無力症の呼吸困難は換気不全なので酸素は原則不要だが、酸素により呼吸数がへり、呼吸仕事量がへって乗り切れることがある。
2.挿管したら
気道内を十分吸引し、完全調節呼吸にのせる
プレッシャーサポートなどの補助呼吸はやはりある程度筋肉を疲労させるので、完全に筋肉の休養をさせる。休養により回復するのが重症筋無力症の特徴である。
抗コリンエステラーゼ剤をoff
抗コリンエステラーゼ剤を増量してきていることが多く、過量になって、神経筋伝達はかえって障害されているか、治療域が狭くなっていることが多い。
抗コリンエステラーゼ剤に対する反応性を回復させるため、抗コリンエステラーゼ剤を少なくとも3日間は切る。
鎮静剤はなるべく使わない
調節呼吸に乗せればとたんに楽になり、安心する患者さんが多い。
多くの鎮静剤は筋弛緩作用がありなるべく使わない方がよい。
かならずよくなることを話し、しばらく人工呼吸に依存して筋肉を休ませることを話し、安心してもらう。
ベッド上安静
ステロイドパルス
挿管が必要な重症筋無力症では多くの場合ステロイドパルスの適応がある。
メチルプレドニゾロン1gを点滴。
これを3日間くり返す。
3日目あたりに通常症状の悪化があることをわすれずに。
3.抜管
3日目の朝、(あるいはステロイドパルス終了の翌日)人工呼吸器のチューブを挿管チューブからはずしてみる。
一回換気量が100ml程度ならとても本日は抜管は無理である。
また人工呼吸にのせておく。
一回換気量が300-500ml程度あるなら、抜管を試みる。
胃管挿入し、マイテラーゼ1錠を粉末にして投与する。
分泌物抑制のため、アトロピン0.3mgを同時投与する。
1時間ほどして人工呼吸器をはずす(いきなりはずしてよい)。
患者が呼吸困難を訴えるまではずしておく。
加湿するのが望ましい。
徐々に補助呼吸の条件を下げるなどのウイーニングは不要で、筋肉をつかれさせるだけなのでしないほうがよい。
重症筋無力症は疲れやすいのが病態なのでウィーニングの間に疲れて筋力が落ちてしまう
いざ抜管して自分で痰をださなくてはならないときに疲れた状態はさけたい
2−3時間で疲れるようなら、胃管からマイテラーゼ一日3錠処方して、再び人工呼吸にのせる。
また明日トライする。
半日人工呼吸なしでいけるなら、抜管可能である。
1週間を越えて人工呼吸が必要で、見込があまりないなら気管切開する。
経鼻挿管にかえてがんばることもある。
必ず現在の状態を脱して抜管できることを伝えて患者さんの不安を取り除く