重症筋無力症について


名古屋市立大学第2外科  藤井義敬

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私の外来診察は水曜日です
2010.4.20更新
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もくじ


重症筋無力症について
重症筋無力症の診断
重症筋無力症の治療
抗アセチルコリンリセプター抗体陰性の重症筋無力症について
胸腺摘出術
胸腺摘出術の効果について(なぜ胸腺摘出術が効くのか)
胸腺摘出術の前にステロイド投与が必要かどうか
重症筋無力症に使われる薬について
シクロスポリン、プログラフについて
重症筋無力症の患者さんが気を付けなくてはいけない薬
重症筋無力症は完治するのでしょうか
胸腺腫について
そもそもなぜ重症筋無力症になるのか
かなり重症の重症筋無力症の人の家族のかたへ

医療関係者向け

MGFA重症度分類
重症筋無力症の治療指針
胸腺摘出術の適応
何歳以上なら胸腺摘出術を行って良いか
パルスの適応
シクロスポリン、タクロリムスの使い方
クリーゼの管理


その他のトピック
重症筋無力症は遺伝する?
妊娠、出産と重症筋無力症
重症筋無力症の母親から生まれた子供
重症筋無力症患者さんと献血
外国にいったら
飲み込みやすい食事、飲み込みにくい食事
筋無力症友の会へリンク




Big News!!!

重症筋無力症の患者さんの福本さんが2009年7月31日
アルプスのモンブラン、4800mに見事登頂しました。
酸素の少ない中、普通の人にはとてもできない、脚力、体力を必要とする登山です。
ステロイドも飲みながら、日頃の鍛錬を欠かさず夢をかなえられた福本さんに拍手です。





重症筋無力症について

重症筋無力症(じゅうしょうきんむりょくしょう)は筋肉の力が弱くなる病気で、
特に同じ筋肉を何回も動かしていると力がでなくなってくるのが特徴です。
厚生省の特定疾患(難病)に指定されており、平成17年では全国で13762人の登録があります。
人口が一億2775万人ですので、10万人あたり約11人の登録があることになります。
男女別では女性に1.5-2倍多いとされています。

おかされる筋肉により次のような症状が現れます。

眼の周りの筋肉まぶたが落ちてくる、ものが二重に見える、斜視
シャンプーが目にしみる、目が疲れる、まぶしい
口の周りの筋肉ものがかみにくい、のみこみにくい、つばがあふれる、
食べたり飲んだりするとむせる、しゃべりにくい、鼻声になる
顔の筋肉表情がうまくつくれない
笑おうとしても怒ったような顔になる
手足の筋肉持ったものを落す、字が書けない、立てない、歩けない、
階段が昇れない、洗濯ものがほせない、おふろで頭が洗えない
呼吸筋息がしにくい
おかされる筋肉や、その程度は人により異なります。
しばらく使っていると悪くなり、休むと回復します
夕方に症状が強いことが多いです

心臓や腸の筋肉は侵されません。

重症筋無力症の人の筋肉が弱くなるのは、体の中に抗アセチルコリンリセプター抗体という抗体ができ、
これが筋肉の膜のアセチルコリンリセプターに結合するためです。
アセチルコリンリセプターは、神経からの刺激を筋肉の細胞に伝える役割をしているので、
重症筋無力症の人は神経からの刺激が伝わりにくくなっているのです。

正常の人重症筋無力症の人

正常の神経筋接合部では神経の刺激により神経末端からアセチルコリン(小さい青いたま)
が放出され、筋肉の膜にあるアセチルコリン受容体(ソーセージのようなもの)に結合し
アセチルコリン受容体のチャンネルが開いて(赤くなったソーセージ)刺激が伝わります
アセチルコリンはコリンエステラーゼにより急速に分解されてなくなります
重症筋無力症に使われるマイテラーゼなどの薬はこの
コリンエステラーゼを阻害してアセチルコリンがこの神経筋接合部に多くたまるようにするものです

正常の神経筋接合部重症筋無力症の神経筋接合部
アセチルコリン受容体が十分あるので
神経からの刺激が伝わる
抗体(Y字のかっこうをしたもの)
がくっついていてアセチルコリン受容体
の数がへっているので
神経からの刺激が伝わりにくい

我々の体は何百万もの抗体を作る能力があり、たとえばカゼをひいたときには、
ウイルスにたいする抗体を作ってカゼをなおすのに使っています。
重症筋無力症の場合は、なぜかわからないけれども自分の体の一部であるアセチルコリンリセプターに対する抗体ができ、
これが病気を起こしているのです。
つまり、自分で自分を病気にしているわけです。
この、自分の体にたいする抗体による病気を自己免疫疾患といい、重症筋無力症もそのひとつです。

重症筋無力症は女性に多いです。
また、胸腺腫を合併することがあります(約24%)。
胸腺腫のある人は男の人も同じぐらいあります

重症筋無力症375例の集計(Masaoka等Annals of Thoracic Surgery 1996)
胸腺腫のない人胸腺腫のある人
72
48
214
41

遺伝することはありません。

いくつか家族内発生は報告されています。また特定のHLA抗原との関連性も指摘されていますが、
抗アセチルコリンリセプター抗体産生そのものは遺伝しません(どの抗体を産生するかは子供が生まれるときリセットされるのです)。
遺伝するとすると、重症筋無力症を含む自己免疫疾患になりやすい素因は可能性があります。
抗アセチルコリンリセプター抗体のない先天性の重症筋無力症という病気は別にあり、
これはアセチルコリンリセプターそのものの遺伝子の異常で、神経筋伝達がうまくいかないものです。
成長してから発症する一般の重症筋無力症とはまったく別の病気です。
また重症筋無力症の母親から生まれる子供に一過性に生じる重症筋無力症の症状は、
胎盤をとおして抗体が移行するためで、この抗体がなくなれば症状はなくなり
子供そのものは重症筋無力症ではありません。


重症筋無力症の診断は次のようにして行ないます

 1。筋肉が疲れやすく、休むと回復する
 2。筋電図に特徴的な所見がある(waningウェーニング―何回も繰り返し刺激すると反応が弱くなる)
 3。血清中に抗アセチルコリン受容体抗体がある
 4。テンシロンなどの抗コリンエステラーゼ剤が効く

抗アセチルコリン受容体抗体はこの病気に特異的で、
正常人ではほとんど検出されません(0.2pmole/ml以下)。
この抗体があれば重症筋無力症であると考えられます。
陽性の場合もその値はひとけたから1000を越える人までさまざまです。 1000の人が8の人より重症とは限りません。
しかし、普段20の人が50になるとかなり症状は悪化し、
5ぐらいに下がると楽になることが多いです。
この抗体が陰性で、典型的な重症筋無力症の症状を持つ人も10-15%あります(抗アセチルコリンリセプター抗体陰性の重症筋無力症について)。
しかし、この抗体が陰性であれば、他の神経疾患を注意して除外しなければなりません(特に症状が眼に限られている人)。

治療は、

 1.マイテラーゼ、メスチノン、ウブレチド、などの抗コリンエステラーゼ剤(重症筋無力症に使われる薬について
 2.プレドニンなどのステロイド(副腎皮質ホルモン剤)
 3.胸腺摘出術
 4.血漿交換
 5.プログラフ、サイクロスポリン、アザチオプリンなどの免疫抑制剤
 6.大量免疫グロブリン療法

などが行なわれます。治療法の選択や、薬の量などは経験のある医師と相談してきめるべきです。
自分で勝手に薬の量をふやしたりするとかえって悪くなることがあります。

治療の効果は人により様々で、抗コリンエステラーゼ剤だけでほぼ症状のない人から、
かなり多量のステロイドを飲まなくてはならないひと、
胸腺摘出術により良くなる人、
胸腺摘出術後もステロイドや免疫抑制剤が必要なひとなどいろいろです。
上記の治療のうち、抗コリンエステラーゼ剤および血漿交換は対症療法で、
重症筋無力症そのものを直すものではありません。
ステロイドや胸腺摘出術は免疫を介して重症筋無力症を改善させると考えられます。
治療により症状がよくなるとともに抗アセチルコリン受容体抗体も低下することが多いですが、
胸腺摘出術後もほとんどの人は抗アセチルコリン受容体抗体はゼロにはならず、
陽性のままです。
胸腺摘出術の重症筋無力症に対する効果は腫瘍などの切除術と異なり「間接的なもの」です。
抗アセチルコリン受容体抗体が術前の半分ぐらいに低下すればかなり症状も改善すると考えられます。

重症筋無力症の症状の増悪、軽快について

重症筋無力症は自己免疫疾患で、
その特徴のひとつとして自然によくなったり悪くなったりすることがあります.
悪くなるような要因をさけることも必要ですが、
経験をつんでくるとある程度自分で薬の量をコントロールできるようになるものです
(しかし、のみすぎには注意してください、特に一日マイテラーゼなどが4錠以上になるのはきけんです).

かぜをひいたりストレスがあったりすると、症状が悪くなることがあります。

呼吸困難のある人は入院するか、症状が悪化したときにすぐ救急車を呼べるようにしておく必要があります。
ひとりぐらしの人は特に気をつけて下さい。

痛み止め、睡眠薬、アミノグリコシド系抗生物質は筋無力症の症状を悪化させることがあります(気をつけなければならない薬)。

重症筋無力症の女の人が妊娠すると一般に症状は少し良くなり、
出産すると少し悪くなる人が多いです。
出産後の発症も多いのです。
しかし、重症筋無力症でありながら元気に出産、育児をされている方も多くあり、
決してあきらめる必要はありません。
主治医とよく相談して希望をもって取り組んで下さい。

その他

重症筋無力症の母親から生まれた子供
生まれてしばらく重症筋無力症の症状がでることがあります。
これは胎盤を通して子供につたわった抗アセチルコリンリセプター抗体によるもので、
子供自身が重症筋無力症になったわけではないので、
しばらくすると抗アセチルコリンリセプター抗体は消失し、重症筋無力症そのものが遺伝することはありません。

重症筋無力症は難病に指定はされていますが、
現在の医療水準では、医師が注意深く観察していれば、
絶対に死ぬことはありません。
日常生活に支障があれば、気分も暗くなりがちですが、
なるべく外に視野を向け、自分のできる範囲で積極的に社会に出ていく方が気分も良くなり、
闘病にもはりあいがでるものです。
明るくこの病気とつきあってください。

ご注意
血清中の抗アセチルコリンリセプター抗体の価が高い人は献血しないで下さい。
血液をもらった人が重症筋無力症の症状を起こす可能性があります。



私の外来に通院中の重症筋無力症患者さんは約100人おられます。
全国的な多数例の集計とほぼ同じ傾向ですが、私の外来でどのような治療が行われているか、
私の治療方針の概略がわかると思います。

年令別の患者さんの数です。

このグラフで色のついた部分は胸腺腫のある方です。
胸腺腫のある方は高齢に多く10才以下にはないことがわかります。
10才以下の患者さんが6人おられます。

胸腺摘出術を受けた患者さんの割合です。

外科ですので胸腺摘出術を受けた患者さんがほとんどです。
すべての患者さんに胸腺摘出術をおこなっているわけではありません。
目の症状だけのかた、あるいは抗アセチルコリン受容体抗体が陰性のかたは胸腺摘出術をおこなわずに
様子をみることが多いです。

現在行っている治療法別の割合です。

ステロイドを飲んでいない方が約40%、残りの方はステロイド服用中で
10%の方はステロイドと(プログラフ、ネオーラルなどの)免疫抑制剤を飲んでおられます。
比較的軽症でステロイド、免疫抑制剤を飲んでおられる方も見えるのですが
これらの薬を飲まれたので、ここまで症状の改善があった方々です。

治療法を重症度別にグラフにしてあります。

縦軸は患者さんの人数です。
やはり重症の方がステロイドや免疫抑制剤を飲んでおられる人の割合が多いことが分かります。



抗アセチルコリンリセプター抗体陰性の重症筋無力症について

重症筋無力症の患者さんのうち10−15%の方は抗アセチルコリンリセプター抗体が陰性です。
このような方でもテンシロンテストが陽性(抗コリンエステラーゼ剤が効く)、
筋電図などで臨床的には重症筋無力症と診断されることがあります。

実際このような方は、神経と筋肉の接合部に異常があることは間違いないと考えられますが
抗アセチルコリンリセプター抗体が陰性であることから
病態は狭義の重症筋無力症(抗アセチルコリンリセプター抗体陽性の重症筋無力症)とは異なると考えられます。

このような患者さんのうち約70%の方には、筋肉にあるMuSKという蛋白に対する抗体があることが
2001年にNature Medicineという雑誌に報告されました(私の留学していたイギリスの研究室からの報告)。

このような患者さんではやはり抗コリンエステラーゼ剤が効果があり、免疫抑制剤も有効と考えられますが
胸腺摘出術が有効かどうかは理論的に見ても疑問です。
抗MuSK抗体陽性の重症筋無力症患者さんは胸腺腫がありませんし、胸腺の異常も現在のところ報告されていません。
Duke大学での12例の抗MuSK抗体陽性重症筋無力症患者さんの報告(2003年)では7人に胸腺摘出術を行い
いずれも効果がなかったとされています。

このような患者さんに関しては症例も少なく、これから治療方針が固まってくると考えられますが、
胸腺摘出術に関しては慎重であるべきと思っております。
ちなみに、私が留学していた研究室で、抗MuSK抗体の論文を出したところ
(英国でのほとんどの重症筋無力症患者さんをみているところ)では
抗アセチルコリンリセプター抗体陰性の患者さんは胸腺摘出術をしない、とのことです。
われわれも、現在のところ、抗MuSK抗体による重症筋無力症に関する臨床データが確定するまでは
抗アセチルコリンリセプター抗体陰性の重症筋無力症患者さんに対しての胸腺摘出術は慎重に対応しています。
胸腺摘出術が適応になるような重症例に対しては抗MuSK抗体を測定します。
抗MuSK抗体陽性の重症筋無力症に対しては胸腺摘出術は行いません。
抗MuSK抗体が測定されていない抗アセチルコリン受容体抗体陰性の重症筋無力症患者さんに対しては
胸腺摘出術は現在のところ行っていません(2005.9現在)。

2003年にBrainという雑誌にイタリアのグループから37例の抗MuSK抗体陽性(抗アセチルコリンリセプター抗体陰性)
の重症筋無力症患者さんの報告が載りました。
これらの患者さんのうち15例に胸腺摘出術が行われましたが、いずれも効果はなく、
胸腺腫や胸腺の胚中心などの胸腺の異常も見られなかったと報告されています。(Brain 126:2304,2003)

この図のように、重症筋無力症には抗アセチルコリン受容体抗体によるもの(これを狭義の重症筋無力症と呼ぶことにします)と、
(抗MuSK抗体など)別な原因によるものがあります。これらを含めて臨床的な(広義の)重症筋無力症と呼びます。
抗アセチルコリン受容体抗体による重症筋無力症の一部には臨床的には
重症筋無力症であっても検査で抗アセチルコリン受容体抗体陽性とならないものがあり、
このような症例は胸腺摘出術の適応があると考えられます。
これらの症例が抗アセチルコリン受容体抗体陽性とならない理由は
1.抗体があまりに低く、検査の感度以下である
2.抗体の種類が特殊で(IgG1)普通の抗アセチルコリン受容体抗体の検査にひっかかりにくい(Brain 131: 1940-1952, 2008)
3.抗体はあるのだが、筋肉のアセチルコリンリセプターに結合してその結果崩壊してしまい、結果として血中濃度が低い
などが考えられます。
抗アセチルコリン受容体抗体陰性の場合は上記の抗アセチルコリン受容体抗体による重症筋無力症でありながら
検査上、抗アセチルコリン受容体抗体陰性になっている患者さん(上の図で紫色の部分)以外は、
抗MuSK抗体によるもの、その他の原因によるものも、胸腺は病気に関係ないと考えられ、
胸腺摘出術の適応はありません。
抗アセチルコリン受容体抗体陽性で症状のない人(胸腺腫や高齢者などの一部に見られる)はもちろん
胸腺摘出術の必要はありません。



胸腺摘出術について

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胸腺摘出術(きょうせんてきしゅつじゅつ)は次のような場合に行われます
 1.胸腺に腫瘍がある場合(胸腺腫
 2.重症筋無力症の治療として
重症筋無力症の患者さんの約25-30%には胸腺腫を合併しており、
この場合は胸腺と胸腺の腫瘍を取れば重症筋無力症もよくなります
胸腺腫のない場合は重症筋無力症を治すための手術になります
全ての重症筋無力症の患者さんが胸腺摘出術の対象になるわけではなく
原則として60才以下で、抗アセチルコリンリセプター抗体が陽性という条件を満たす方で
症状が強くて日常生活に支障のある方が良い適応となります

症状が軽い方や、眼だけに限られている方も抗体が高い場合は胸腺摘出術をした方がよい場合も多いです

60才以上で胸腺が萎縮してしまっている方は手術しても症状の改善は望みにくいと考えられます
また60歳以上で胸腺腫のない重症筋無力症の方のかなりの方は(とくに抗Titin抗体陽性の方)
その抗アセチルコリン受容体抗体が産生されるメカニズムが
若い、胸腺腫のない(胸腺に異常があって胸腺摘出術の効果のある)重症筋無力症と少し異なると考えられるため
胸腺摘出術はお勧めできません


一方抗体が高くても症状のない方、非常に軽くて、少しの抗コリンエステラーゼ剤でほとんど症状がない方は
手術する必要はないと考えています
抗コリンエステラーゼ剤は一生飲んでいても後に残るような副作用は見られません

また抗アセチルコリンリセプター抗体が陰性の方は、上記の抗MuSK抗体による症状かもしれません
この場合は胸腺の役割はない、と考えられ胸腺摘出術は適応ではありません。
腫瘍があるから切除が必要な場合と異なり、重症筋無力症に対する胸腺摘出術の効果は間接的なものです。
したがって胸腺腫のない患者さんでは胸腺摘出術の適応は絶対的なものではありません。

胸腺とは
胸腺は胸の真ん中の骨(胸骨)の真下で、心臓の上、
上大静脈、大動脈の前にあるやわらかい脂肪のような臓器です
大人で50g程度のものです

胸骨と胸腺の位置
胸腺を横からみたところ
切除した重症筋無力症
患者さんの胸腺
胸腺の電子顕微鏡写真

普段はT細胞というリンパ球の一種を作り出している免疫の中心臓器です
子供の時は活発に仕事をしていますが、大人になるとほとんど脂肪のようになっています
子供の胸腺にはたくさんリンパ球があります
大人の胸腺ではその数がへっています
重症筋無力症患者さんの胸腺には胸腺腫があったり、胚中心という普通は胸腺で見られない異常があります
このような異常は重症筋無力症と関係があると考えられています
最後の電顕写真の丸いものがリンパ球でそのまわりの編み目様のものが上皮細胞です

手術とその合併症について
手術は、全身麻酔で胸のまん中にある骨(胸骨)を2/3から3/4ほど切り、
その下にある胸腺をまわりの脂肪といっしょに取ります(拡大胸腺摘出術).
胸腺腫があればそれも取ります.

手術の傷はむねのまんなかに10−12センチぐらいです

このひとのは10センチです

手術時間は胸腺腫のない場合は皮膚にメスが入ってから皮膚を縫い終わるまで1.5から2時間ぐらい.
胸腺腫が浸潤性(まわりの組織におよんでいるような場合)であれば浸潤している臓器をとり、
必要であれば再建します.
時間もその程度に応じてかかります.
胸腺腫が大きくて大静脈、肺などに浸潤していて取りきるのが難しい場合は、
まずステロイドパルスや放射線療法や化学療法などをしてから手術を考える場合があります。
手術の合併症としては出血、横隔神経麻痺(呼吸がしにくくなる)、
反回神経麻痺(声がかすれる)、胸骨や縦隔の感染などがありますが、
いずれも発生頻度はひくいものです.
胸腺腫のある場合以外は輸血を必要とすることはありません.
重症筋無力症の症状が軽い人は次の日には歩くことが可能です。
ほとんどの人は食事も手術翌日から可能です。

手術の後は胸腺のあった場所にドレーン(管)を入れます.
この管は出血がおさまれば抜きます.

手術の問題はむしろ手術の後の重症筋無力症の症状のコントロールにあります.
手術前に、いきがしにくい、のみこみにくい、しゃべりにくい等の症状のある人は
手術後に呼吸困難が出現し、人工呼吸を必要とすることがあります.
人工呼吸の期間が長引くときは肺炎などの合併症を起こしやすく、
この管理のため、気管切開をすることがあります.

入院期間は、順調であれば術前後あわせて10日から2週間です.
胸腺腫のある場合は術後放射線療法をすることがありこの場合は入院が少し長引きます.

現在胸腔鏡や縦隔鏡を用いた胸腺摘出術が行われていますが、
おおむね倍以上時間がかかり、胸腺を全部取りきれるかどうかが100%確実ではありません。
しかしたとえほんの少し胸腺が残っていても
私の予想では胸腺のほとんどがとれていれば、拡大胸腺摘出術とほぼ変わらない成績が期待できます。
骨を切らない分手術の大きさは少し小さくなり、在院日数も短いです。
 
 
胸腺摘出術の効果について
 
胸腺をとるとその効果は手術後一年ぐらいの間に徐々に現れます.
80ー90%の人が薬を減らすことができ、30ー40%の人は薬がいらなくなります.

癌などのように悪いものを取ったらすぐ治るのとは違い、胸腺摘出術の効果は間接的なので、
取ったのにすぐ治らないではないか、と怒っては困ります
 
胸腺は免疫を担当しているT細胞を作り出している器官ですが、
大人になるとほとんど脂肪のようになっており、

子供の胸腺大人の胸腺
大人では胸腺をとってもまったく問題はありません.
子供の場合ははっきりしたデータはありませんが、
ワクチンなどに対する反応等からすると3ー4歳以降であれば問題ないと考えられます.

ご注意
胸腺をとってしまったあと、(たとえば白血病などの治療のため)
骨髄移植などを含む治療を受けることはさけた方がよいと思われます
(T細胞を作るのに胸腺が必要なため理論上は効果がないと考えられるのです)
 
胸腺をとることによりなぜ筋無力症がよくなるのかはよくわかっていません.
これを解明しなければ、よりよい筋無力症の治療法もうまれません.
このため当科では摘出した胸腺を使わせていただき、さまざまな免疫学的研究を行っています.

現在までに私たちの研究で明らかになったことをご紹介します
重症筋無力症の原因である抗アセチルコリン受容体抗体が胸腺のなかで産生されています

重症筋無力症患者さんの胸腺からリンパ球を取り出し培養すると、
抗アセチルコリン受容体抗体が培養上清に分泌されてきます。
その量は血清抗アセチルコリン受容体抗体値と相関しています
したがって胸腺摘出術の効果の一部は直接抗アセチルコリン受容体抗体産生細胞を除くことです

重症筋無力症でとった胸腺を見ると、リンパ節などにみられる胚中心が多くみられます。
これは普通は胸腺では見られないもので、B細胞が増殖し抗体産生細胞になったりするところなので、
このことが胸腺における抗アセチルコリン受容体抗体と関連していると思われます。
正常胸腺 重症筋無力症胸腺(白く抜けたようにみえるところが胚中心)
しかし胸腺摘出術後も10年以上にわたって抗アセチルコリン受容体抗体陽性の人がほとんどです

まったくゼロになる人はもともと抗アセチルコリン受容体抗体の低いひとが多く、
全体の1-2%ぐらいしかありません

これは胸腺以外で抗アセチルコリン受容体抗体が産生されていることを示しています

実際に重症筋無力症患者さんの骨髄、リンパ節などのリンパ球を調べてみると
抗アセチルコリン受容体抗体の産生を証明することができます
したがって胸腺摘出術をしても抗アセチルコリン受容体抗体はすぐには下がらないわけです

しかし、胸腺摘出術の効果のみられる患者さんでは実際に1年ぐらいたつと
抗アセチルコリン受容体抗体が下がってきます。それはなぜでしょう?

その理由は次のように考えられています
胸腺では抗アセチルコリン受容体抗体以外の抗体(たとえばインフルエンザとかいったものに対する抗体)産生がほとんどありません。
それに対し骨髄などでは抗アセチルコリン受容体抗体も産生されていますが、
それ以外のものに対する抗体が量的に90%以上を占めています。
すなわち胸腺での抗体産生はかなりアセチルコリン受容体特異的で、重症筋無力症患者さんの胸腺でみられる胚中心はその中で、抗アセチルコリン受容体抗体産生細胞がかなりの割合を占める、特別な胚中心が多いということになります。
したがって胸腺ではアセチルコリン受容体に特別な何かがあるに違いありません。
このような特別な何か、は現在まだわかっていませんが、抗原であるアセチルコリン受容体そのものが胸腺にあり、免疫反応の原因となっているという説もあり、また重症筋無力症の抗アセチルコリン受容体抗体産生は、体の他の部分で最初起こり、その後胸腺にアセチルコリン受容体特異的な胚中心ができるとも考えられ、結論はでていません。

いずれにしろ胸腺ではリンパ球がアセチルコリン受容体に対する反応を起こし、
抗アセチルコリン受容体抗体を産生する細胞になって骨髄やその他のリンパ組織へでていくのではないだろうか、胸腺摘出術をするとそのような細胞の供給が絶たれるので、そのうちに抗体が下がってくるのであろうと考えています。 



胸腺摘出術の術前ステロイド投与について
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胸腺摘出術のまえに大量(20錠程度)のステロイドを投与してから手術する施設があります。
これらの施設の多くでは、手術にはステロイドが必要だと説明されており
術前ステロイドを投与しなくても胸腺摘出術が可能であることが患者さんに説明されていません

ステロイドは免疫を抑制する以外にも多くの作用があり、したがって副作用も多種多様です
特に大量を長期使用した場合は、骨がもろくなる、白内障などもとにもどらない副作用があり
可能なら使用しないでおきたい薬のひとつです
20錠も飲みますと、顔がむくむなどの副作用は必ずおき、またほとんどの方には胃潰瘍の薬、
骨がもろくなるのを防ぐためにビタミンDなどが投与されています
このような大量のステロイドをいったん飲むと、これを止めるまでには普通でも2年ぐらいかかります
その理由は、ステロイドは正常でも副腎皮質でつくられるホルモンで
これを外部から多量に投与すると自分の副腎皮質が休んでしまい
急に外からのステロイドを止めると副腎皮質の機能が追いつかず、様々な症状がでるために
ゆっくりしか減量できないからです
また減らすことにより、重症筋無力症の症状が悪化してまたもとの投与量にもどることもよくあります

このような大量のステロイドは、胸腺摘出術前後の管理を楽にするために投与されます
しかし実際は、症状の軽い人は術前後に人工呼吸などの管理を必要とすることはなく
重症の人でもかなりの人はステロイドを投与しなくても
無事に胸腺摘出術をのりきることができます
したがってほとんどの重症筋無力症患者さんでは胸腺摘出術を無事のりきるためだけに
ステロイドを飲む必要はありません
我々の施設では胸腺摘出術術前にステロイドはなるべく投与しない方針です
これで多くの患者さんが何事もなく退院していかれます

少なくともステロイドを服用しなくても胸腺摘出術が可能であるこを知って欲しい思います




重症筋無力症の治療に用いられる薬について
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ここにある薬の詳しい情報は→ここから薬品名で検索して下さい

1.抗コリンエステラーゼ剤
マイテラーゼ 
白色錠剤 一錠10ミリグラム 真ん中に線が入っている 平たい
メスチノン
ピンク色錠剤 一錠60ミリグラム
ウブレチド
白色錠剤 一錠5ミリグラム
 
投与量  一日 半錠 から 3錠

神経から筋肉へ刺激を伝えるアセチルコリンは
体内でコリンエステラーゼによって大変速く分解されますが、
これらの薬はこの酵素を阻害することにより、筋肉でのアセチルコリンの濃度を高め、
筋肉が収縮しやすくすると考えられます.
言わば、冬の寒い日に、チョークをひいて濃いガソリンを供給し、
エンジンが動きやすくするのと似ています.
 
主な副作用  おなかがごろごろいう、下痢
 筋肉がぴくぴくする、こむらがえり
 つばが多くでる
量が多すぎると、筋肉が次の刺激を受け入れなくなり、
筋脱力が強くなることがあります.
したがって、かってに量を増やしたら危険なことがあります.
一日に3錠以上必要な時は医者に相談すべきです.
副作用をおさえるため硫酸アトロピン(副交感神経遮断剤)をいっしょに投与することがあります。
この硫酸アトロピンは緑内障の人には使えません
 
2.ステロイド剤(副腎皮質ホルモン)
プレドニン オレンジーピンクの小さい錠剤 一錠 5ミリグラム
プレドニゾロン              一錠 5ミリグラム
リンデロン                一錠 5ミリグラム
 等――他にもあります
 
副腎皮質ホルモンは我々が正常でも分泌しているホルモンで様々な作用をもっていますが、
筋無力症に使われる場合は、免疫抑制作用、一時的筋力増強作用などを目的につかわれます.

主な副作用
顔がふくらむ、にきび
多毛、脱毛
骨多孔症、病的骨折、無菌性骨壊死
胃潰瘍
食欲亢進、糖尿病
白内障(手術が必要な例も多く報告されています)緑内障
高血圧
多尿
不眠
筋肉痛、関節痛
副腎皮質機能不全

このように、ステロイドには、いろいろな副作用がありますが、
特に大量を長期飲まないかぎり、がまんできる範囲のものも多いです.
しかし大量(隔日5錠以上)に長期間のめばある程度の副作用は必ず起きるものと思わねばなりません
 
一日おきに投与しているのは、副腎皮質機能不全を防止するためです.
(休んでいる日に、本来の副腎皮質が働く)
特に多量服用している場合は、急に切ると副腎機能不全となりやすく、
中止までに数ヶ月から数年かかることがあります
100mgまで増量されると切るのに平均2年ぐらいかかるようです
全ての重症筋無力症患者さんにステロイドの大量投与をするのは副作用の点から賛成できません
本当に大量のステロイドが必要な人(重症筋無力症の10%以下です)に限るべきでしょう
 
3.ステロイドパルス療法
ステロイド(メチルプレドニゾロン)一日1グラムを三日間点滴
   これを二回以上くりかえすこともあります
 
大量のステロイドの急速な投与により強力な免疫抑制作用と、
早期の筋力改善がほぼ全例に得られます.
抗アセチルコリン受容体抗体も低下することが多いです.
点滴の三日目から四日目にかけて一時的な筋力の低下があり、
このため全身症状の強い人に行う場合は、入院が必要です.
呼吸困難がある人は、人工呼吸が必要になることもあります.
 
ステロイドの副作用はほとんど認められませんが投与中は不眠になる方が多いです.
またプログラフやネオーラルなどの免疫抑制剤を投与中の患者さんにステロイドパルスを行う場合は
感染症に注意をしてバクタを含む抗生剤を併用する方が安全です。
まれな副作用とし経口摂取不良で脱水のある患者さんにステロイドパルスを行い
高血糖による抗浸透圧性の意識障害が出現したことがあります(タクロリムス投与中の方でした)。

一般にステロイドパルスは全身症状や球症状が強く日常生活に支障のあるひとに行います
 
4. 免疫抑制剤――あまり多くの患者さんには使いませんが、
上記の薬でコントロールが難しく
一年に2回以上のパルス療法が必要な患者さんには試してみる価値があります。
しかし、副作用に注意をする必要があります。
 
サイクロスポリン(サンディミュン、ネオーラル)25mg、50mg/カプセル
一日2−6カプセル 2006年から保険適応
あるいはタクロリムス(FK506、プログラフ) 1mg/カプセル(5mgのカプセルもあり)
一日3-6mg、2000年秋から保険適応、2009年より全ての重症筋無力症に適応拡大
主としてT細胞のIL−2産生を抑えることにより免疫を抑制します。
腎毒性があり、定期的に血中濃度を測定し、
腎機能の検査をする必要があります。
免疫を抑制するので感染に弱くなります
その他に多毛(サイクロスポリン)、高血圧、高血糖、肝機能障害、皮膚の発疹、手指の震え、下痢(タクロリムス)などがあります。
子供を産む可能性のある女性には投与できません
男性では作用機序からすると、生まれる子供に対する影響は少ないと思われますが、データがありません
 
アザチオプリン(イムラン)50mg/錠 一日1−6錠
昔から使われている免疫抑制剤ですが、
サイクロスポリンの投与量をへらすため、同時投与することがあります。
白血球減少、肝機能障害、食欲低下などの副作用があります。
増殖細胞に影響を与えるため、卵子、精子とも影響が考えられ
妊婦には投与せず、男女とも避妊するのがよいと思われます
ブレディニンも同様の作用です。
 
3剤併用療法
ステロイド(プレドニン10mg、2錠)
サイクロスポリン(サンディミュン100mg)あるいはFK(プログラフ)3mg
アザチオプリン(イムラン50-100mg,1―2錠)
の3つの薬を少量同時に投与しそれぞれの効果を期待し、
かつ副作用をなるべく少なくするために行っています。


シクロスポリン、プログラフについて
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シクロスポリン、プログラフの作用(すこし難しいお話)
これら2つの薬剤は構造が異なり、投与されたときに体の中の細胞の中で結合する蛋白も異なる(シクロスポリンはシクロフィリン、プログラフはFKBP)のですが、最終的に作用するところは同じで、カルシウムによって制御されているカルシニューリンという蛋白を抑制し、結果的にNFATという一群の転写因子(遺伝子から蛋白を作る指令をだすもの)を抑制すると考えられています。同じ免疫抑制剤のステロイド(プレドニン)はやはり転写因子のNFカッパBというものを抑制すると考えられています(ステロイドはT細胞だけでなく、いろいろな細胞でいろいろな働きをするため、副作用も多様です)。NFATのTの字はT細胞のTで、シクロスポリン、プログラフはある程度T細胞特異的に働き、T細胞によるIL-2などのリンフォカイン(細胞を増殖させたり、B細胞に抗体を作らせたりするもの)産生を抑制することにより、免疫抑制剤として働きます。

副作用について
これらの薬には共通して腎機能障害という副作用があります
もちろん免疫を抑制するため、ウイルスなどの感染に弱くなります
全身性ヘルペスやステロイドパルスを併用するようなときはカリニ肺炎などに十分注意が必要です
その他高血圧、高血糖、手足の震え、シクロスポリンの多毛など上にあげたような副作用があり
全く安心して使える薬ではありません
これらの副作用を防ぐため薬の血中濃度を定期的に測らなくてはなりません

妊娠とシクロスポリン、プログラフについて(大事なお話)
シクロスポリン、プログラフは最終的にNFATという転写因子を抑制します。ところで遺伝子をこわすことにより、ねずみでこのNFATの働きを全くなくしてしまうことが可能です。このようなねずみは、心臓の弁や血管がうまく作られなくて子供が生まれない(胎児で死んでしまう)ことが知られています。シクロスポリン、プログラフが充分効果を発揮すると、このようなねずみと同様な状態になると考えられるので、この薬を飲んでいる間は妊娠しないことが大事です。もちろん非常に少ない量ではこのような効果は少ないと考えられます。
腎臓移植の患者さんなどでシクロスポリン、プログラフを飲んでいて出産した例はたくさんありますが、実際は特定の奇形が多いという報告はありません。
男性が飲んでいてパートナーが妊娠したときに関するデータはほとんどありません が、胎児が成長する初期に主として影響があると考えられるので、報告されている心奇形に関してはまず大丈夫であろうと考えています。

多くの薬は実は妊娠中は要注意という注意書きがあり、それでもたいては大したことはないだろう、ということで投与されることが多いのですが、シクロスポリン、プログラフに関しては上記の作用機序から 、高濃度になれば、かなり確実に胎児の発達に影響を与えるだろうと考えられます。厚生省により妊婦には禁忌(投与してはいけない)とされています。我々のところではシクロスポリン、プログラフを女性に投与するときは妊娠しないことを条件にご理解願った上で投与しています。 なお乳汁移行があり授乳もさけるべきとされています。


重症筋無力症の患者さんが気を付けなくてはいけない薬

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1. 睡眠薬、精神安定剤
セルシン、サイレース、セレナール、ユーロジン、ハルシオン等
これらの薬は筋力を低下させることがあります
 
2. アミノグリコシド系抗生物質
ストレプトマイシン、ゲンタシン、アミカシンなどの主として筋肉注射として使われる抗生物質は筋力を弛緩させる作用があるといわれています
ペニシリン、セファロスポリン系等、主としてのみぐすりとして処方される抗生物質はおおむね大丈夫です
 
3. 消炎鎮痛剤の一部
ボルタレン、インダシン、ロキソニン等
これらは特に重症筋無力症に注意するように記載はありませんが、実際には症状の悪化がみられることがあります
 
4. かぜぐすりの一部
ダンリッチ等
市販薬は、もし飲んで悪化するようであれば、上記の消炎鎮痛剤か、軽い安定剤によるものだと思われます
いずれにしろ症状の悪化がみられれば、中止してください
また一般的にカゼをひくと症状の悪化がみられることが多いです
 
5. 前立腺肥大、排尿障害の薬
ポラキス、等

6. パーキンソン病の治療薬
アーテン、アキネトン、等
 
このほかにも重症筋無力症に投与してはいけないとされている薬はたくさんあり、
これらの薬が実際に重症筋無力症の患者さんに投与されることも多くあると思われます。
多くはほとんど自覚症状の悪化なくすごされるようですが、
もし、重症筋無力症の症状が新しい薬を飲んだ後悪化するようなら、
その薬を中止して主治医に相談してください。
 
一般開業医を受診される場合、あるいは他の病気で手術されるような場合は
もちろん重症筋無力症であることを伝えておくほうがよいとおもいます。
自分の飲んでいる薬のリスト(処方箋)や、抗アセチルコリン受容体抗体の値などをメモしておくとよいと思います。

歯を抜くときなどに使われる局所麻酔剤は、全身に影響がでるほどの大量を使わない限り、局所麻酔剤の副作用で重症筋無力症を悪化させることはないと思われます。ただ処置の際の痛みや不安などで症状の悪化する可能性はあります。

外国にいったら役立ちそうな表現
私は筋無力症です I have Myasthenia Gravis.アイハブ ミアステニア グラーヴィス
息が苦しいです I cannot breathe.アイ キャノット ブリーズ
歩けません I cannot walk.アイ キャノット ウォーク
病院へつれていってください Take me to a hospital.テイクミー トゥ ア ホスピタル
救急車を呼んで! Ambulance!アンビュランス
神経専門医に見て欲しい I need a neurologist.アイ ニード ア ニューロジスト
プレドニンを3錠飲んでいます I take prednin, 3 tabletsアイ テイク プレドゥニン スリー タブレッツ
マイテラーゼを3錠飲んでいます I take myterase, 3 tabletsアイ テイク マイテレーズ スリー タブレッツ
青いところにアクセントがあります
 


重症筋無力症は完治するのでしょうか(抗アセチルコリン受容体抗体陽性の重症筋無力症について)

抗アセチルコリン受容体抗体が体から全く消えてしまうのを完治とするなら、
この疑問に関してはほとんどの場合は答えは残念ながらNOです。
しかし社会生活がおくれるように症状をコントロールすることはほとんどの患者さんの場合可能です。

重症筋無力症の場合は絶対直してやる、と意気込みすぎるのはよくありません。
しかし、治らないのだ、と悲観するのはもっとよくないことです。
ある程度活動できればそれで満足し、外に向かって出て行って可能なら社会活動をしてください。
こもらないで、明るく病気と付き合うことが大事です。

重症筋無力症の患者さんの中にはステロイドをたくさん使ってでも、症状が全くない状態を望む方があります。
お気持ちは分かるのですが、これはすこし危険を伴っています。

たとえばプレドニンを10錠飲んで症状が全くないとします。
しかしこの状態だと症状をコントロールするのに必要なプレドニンの最低量より多く飲んでいる可能性があります。
それは薬を減らしてみて、症状がでるとか、抗アセチルコリン受容体抗体が上昇するかどうかで分かるわけです。
症状は変遷するので、いま10錠必要でも、半年後には6錠で十分かもしれません。
必要最低限のプレドニンを投与するためには、常に薬を増やしたり減らしたりしなくてはなりません。
それが難しい場合は必要以上の薬を飲むことになり、その副作用で苦しむ場合が出てきます。

私のおすすめは、ほんのちょっと症状がある、状態でコントロールすることです。
症状が強くなれば薬を増量し、軽くなれば減量します。
抗アセチルコリン受容体抗体の値も参考にします。
すこしの症状を許容していただければ、薬の量は必要最小限ですみます。
長期的にはそれが患者さんのためになると思います。

重症筋無力症ではステロイドや胸腺摘出術などの治療の結果抗アセチルコリン受容体抗体が陰性になる方は
実はたいへんまれで、5%以下です(それらの方も抗アセチルコリン受容体抗体が低い(一桁)の方です)。
多くのかたは胸腺摘出術などの治療後10年以上たっても抗アセチルコリン受容体抗体陽性です(値は治療前より低下していることが多いです)。
これはわれわれが一生はしかに対する抗体をもっているのと同様のメカニズムで
なぜか抗アセチルコリン受容体抗体を体はずっと産生しつづけているのです。
その理由はよくわかっていません。

以上のように抗アセチルコリン受容体抗体でみる限り重症筋無力症は完治することは難しく、
抗アセチルコリン受容体抗体ゼロは目標にせず
最低限の薬で日常生活、社会生活を営めることを目標にして病気をコントロールし、付き合っていきましょう。



胸腺腫について
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胸腺腫はリンパ球を作っている胸腺の腫瘍です。
胸腺には他の腫瘍も発生しますが、胸腺腫はリンパ球の生成に重要な役割をしている胸腺上皮細胞の腫瘍で、胸腺腫のなかにはたくさんのリンパ球があるのが特徴です。
下の写真は胸腺腫の顕微鏡写真で黒く丸く見えているのがリンパ球です。
このリンパ球は腫瘍ではなく正常のリンパ球です。
リンパ球のまわりに腫瘍化した胸腺上皮細胞があります。

胸腺腫の22.4%に重症筋無力症を合併しており、
また重症筋無力症の患者さんの24%に胸腺腫の合併がみられます。
このように両者には因果関係があると考えられます。
胸腺腫が重症筋無力症を引き起こす原因となると考えられます。

胸腺腫は肺癌などどくらべると転移しにくい比較的良性の腫瘍で、5年生存率も約80%あります。

これは当教室の前任の正岡昭先生のつくられたステージ分類で
世界中で用いられている標準となっているものです。
ステージ5年生存率(%)
I披膜につつまれているもの
組織学的に披膜浸潤がないもの
81.5
II縦隔胸膜、脂肪に浸潤
組織学的に披膜浸潤がある
85.3
III肺、心膜、横隔神経、腕頭静脈、上大静脈など隣接臓器に浸潤79.8
IVa胸腔、心嚢等に播種48
IVb血行性あるいはリンパ行性転移

胸腺腫のなかでも披膜(胸腺腫をつつんでいる膜)につつまれて、
周りの臓器に浸潤(進展)していないもの(ステージ1)
および浸潤が、胸膜にとどまっているもの(ステージ2)はまず確実に手術で治ると考えられます。

周りの臓器に浸潤しているもの(ステージ3)や、
胸膜にばらばらと散らばってひろがっているものや、
リンパ節や血行転移のあるもの(ステージ4)は手術で取りきれないことがあります。
ステージ3のうち、浸潤の程度の軽いものは、
手術でとりきれる可能性が高いので手術が第1選択です。
上大静脈や、大動脈などに浸潤しているものは術前に化学療法または放射線療法を行った上で手術すれば化学療法の効果のあるものは取りきれる可能性があります。
この場合は人工血管などを使うことがあります。

胸腺腫があるとどうして重症筋無力症になるのかはまだわかっておらず、
われわれの最大の研究課題です。現在までの我々の研究を総合すると
胸腺腫で発育するリンパ球は、通常の胸腺で発育するものと異なり
自己抗原に反応するリンパ球が除去されることがないので
これが自己免疫疾患発生に寄与していると考えています。

胸腺腫を合併した重症筋無力症患者さんの重症筋無力症は胸腺と胸腺腫をとれば
胸腺腫のない人と同様改善しますが、その程度は胸腺腫のない人に比べ少し劣ることが多いです。
その理由はよくわかっていません。





そもそもなぜ重症筋無力症になるのか

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この答えはじつはまだ得られていません。
われわれはこれを解明するために日夜研究しています。
現在までにわかっていることをお話しすると、
胸腺腫のある重症筋無力症の患者さんは胸腺腫でのT細胞分化が正常胸腺とは異なるため、
自己抗原に反応するT細胞が成熟してしまうので、いろいろな抗原に対する抗体を作ってしまい、
その一部として抗アセチルコリン受容体抗体が産生されるため重症筋無力症になると考えられます。
骨髄移植のあとに重症筋無力症になる人があるのですが、
似たようなメカニズムによると考えられます。

胸腺腫のない重症筋無力症の患者さんはどのような原因で重症筋無力症が発症するのかは
現在のところ不明です。
胸腺の異常(胚中心形成)が発症の原因か結果かすらもわかっていません(私は結果ではないかと考えているのですが)。
重症筋無力症の原因抗原であるアセチルコリン受容体が胸腺にあるかどうかもまだ議論があります。

ウイルス等が感染し、それに対する免疫反応が起き、
それがたまたまアセチルコリン受容体に反応することで重症筋無力症が起きるという説が根強くあります。
もしそうだとすると、特定のウイルスとの関連があるべきですし、
免疫学的に考えると特定のHLAとの関連があるはずです。
また大きなアセチルコリン受容体分子のなかでも特定の部位に対する抗体が多くみられるはずです。
これらのことはいずれも実際の患者さんではみられませんので、
ウイルス等による交叉抗原による発症は免疫学的にみて考えにくいと思います。

これらのことを決定的に解明する実験は難しく、研究はゆっくりとしか進んでいません。
しかし、着実にいろいろなことが明らかになっていますので、
いずれある程度の結論が得られることでしょう(われわれが研究している間に起きてほしいものです)。

もし原因がはっきりしても、(それがウイルスによるといったことでもない限り)
治療は現在とそれほど変わるとは考えられません。
アセチルコリン受容体に対する免疫反応だけを抑制することを
私はアメリカで研究していましたが、これは大変難しく、実現は難しいと思います。
したがって、有効な副作用の少ない免疫抑制剤が出現することが望まれます。
これは十分可能性があり、サイクロスポリンによる治療効果が良いことからも
この分野に期待を持っています。


かなり重症の重症筋無力症の家族の方へ ――いざというときの準備と心構え――
重症筋無力症は気をつけていれば死なない病気です
重症筋無力症は最重症で呼吸困難がある患者さんでも、
肺や心臓などの重要臓器が悪いわけではなく、
また筋肉の変化も可逆性(抗体がなくなればもとにもどる)なので、
重症筋無力症があるということで死ぬことはありません。
ただ、息が止まったまま3分もほっておくと大変重症になり、
なくなられる方もでることになります。
そこで、重症の呼吸困難が時々あるような人は注意して観察し、
本当に息が止まっているときはあわてないで、
呼吸を補助することにより死に至るような事故を防げます。
基本的に、医者がみていればなくなることはないといえます。
また、はやめ、はやめの受診をおすすめします。

どんなときがあぶないか

こんなときは注意しなくてはなりません。
できればこの段階で急いでかかりつけの医師のところへいってください
このような状態のときは原則として入院するほうが安全です
このような状態の患者さんを一人にしてはいけません
次のようなときは呼吸が止まっています。直ちに人工呼吸をし、救急車を呼んで下さい
救急車に連絡がついても人工呼吸をやめてはいけません。
救急車の人に引き継ぐまで続けて下さい
見ている前でこのようになった場合は、心臓はとまっていないので心臓マッサージの必要はありません
呼吸さえちゃんとさせてやれば心臓は大丈夫です
気がついたら上のような状態で倒れていたという場合は多くは心臓もとまっている状態に近いと思いますが、
まず人工呼吸をして下さい。
あとは救急隊にまかせましょう。
虫の息でも、呼吸をしてさえいれば病院にいくまではもつことが多いです
耳を患者さんのはなに近づけるか、糸くずをはなの穴にかざすと、呼吸していればわかります
人工呼吸をおぼえて下さい
自宅で重症筋無力症の患者さんがなくなるのは、
たんなどがのどや気管支につまって、呼吸ができなくなる場合がほとんどです。
このようなときに人工呼吸ができれば、救急車が来るまでの間、
患者さんを生かしておくことができます。
そのために人工呼吸の方法をおぼえてください。口移し人工呼吸(この方法にかぎります)
うまくいかないとき
吹き込むのに抵抗があって、口のまわりから空気がもれるようだと、うまくいっていません
あごをもう少しもちあげてみてください。
えんりょせずもうすこし口を密着させてください
一回でうまく吹き込めるときのほうが少ないと思います。
あごの位置や口のあて方を調節して一番空気が楽にはいる体勢を作ります
多少空気がもれても、吹き込んだときに患者さんの胸がもちあがっていれば、
空気は一部入っています。そのままがんばってください。
ほんのわずかずつでも空気が入っていると生存できます
患者さんの胸がもちあがらず、空気もはきだされてこないときは、
空気が十分ふきこまれていません。
もう少し強く吹き込んでみてください
のどに、食事の残りとか、つば、たんなどがたまっていると、
人工呼吸がうまくいきません。
これらをティッシュなどで取り除いて下さい。
大量にあるときは掃除機にすきま掃除の管をつけてやるとうまくいくかもしれません。
自治体などで人工呼吸法の講習があるようなら受けておくと役立ちます
消防署などでも講習をうけられることがあります

救急隊が来たら、重症筋無力症であることを告げ、呼吸が止まったので人工呼吸が必要な旨を伝えます。
かかりつけの病院に連れていってもらいますが、遠い場合は近くの救急病院でもいいです
落ち着いてから転院を考えましょう
基本的には重症筋無力症の経験のある病院でないと治療は困難です



以降は医療関係者向けに書かれています。

MGFA (Myasthenia Gravis Foundation of America) 重症度分類

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I 眼筋型
IIa 軽度全身型
IIb 軽度全身型で球症状>四肢の脱力
IIIa 中等度全身型
IIIb 中等度全身型で球症状>四肢の脱力
IVa 重度全身型
IVb 重度全身型で球症状>四肢の脱力 経管栄養
V 気管内挿管

軽度、中等度などの判定が主観なので握力や実際の日常生活の支障の程度を具体的に記載しておくのがよい。


重症筋無力症の治療指針

もくじにもどる

 

 
胸腺摘出術の適応
 
絶対適応
胸腺腫がある(現在筋無力症の症状がなくても)

良い適応(80%以上で症状の改善が見込める)
60才以下でかつ
全身症状(球症状)や眼症状のため日常生活に支障があり
抗アセチルコリン受容体抗体陽性

適応
症状が軽度〜中等度で抗体が高値

60才以上の場合はCT上胸腺が明らかに認められ、上記良い適応、適応の条件を満たすもの

胸腺摘出術は慎重に
抗アセチルコリンリセプター抗体陰性の患者さん(症状が強くても)

抗MuSK抗体による重症筋無力症など、抗アセチルコリンリセプター抗体陽性の重症筋無力症とは
病態を異にし、胸腺摘出術の効果は確認されていないため。
このような患者さんは現在のところ、胸腺摘出術は行うべきでないと考えています。
抗MuSK抗体も抗アセチルコリン受容体抗体もどちらも陰性の方で、
適応の基準を満たす場合は胸腺摘出術を考慮してもよいと考えられます。

胸腺摘出術はすすめられない
  1. 60才以上でCT上胸腺が萎縮してほとんど認められないもの(抗Titin抗体陽性の方は特に*)
  2. 眼症状のみ軽度あるが日常生活に支障はなく抗体陰性
  3. 症状は強いが抗体が陰性でかつ他の神経疾患が疑われる
  4. 重篤な合併症がある(脳梗塞後で麻痺があるなど)
  5. ほとんど症状がない(抗アセチルコリン受容体抗体陽性でも)

*:胸腺腫のない重症筋無力症患者さんで(60歳以下でも)抗Titin抗体陽性の場合は
非特異的な自己抗体産生の一部として抗アセチルコリン受容体抗体が産生されている可能性があり
(その機序は胸腺腫のある場合と異なるが、結果として多種の自己抗体が産生され、似た結果となる)
抗アセチルコリン受容体抗体産生におそらく胸腺の関与はないと考えられる
(胸腺腫による抗アセチルコリン受容体抗体産生にも胸腺という組織そのものは不要と考えられます)


胸腺腫のない重症筋無力症患者の抗Titin抗体

Somnier et al. Neurology 59: 92, 2002 による

縦軸抗Titin抗体, 横軸 年齢
抗Titin抗体陽性患者はほとんどが60歳以上である。
それ以下の若い重症筋無力症とは免疫学的に抗アセチルコリン受容体抗体産生にいたる機序が異なるようだ。

 
術前ステロイドを5錠以上飲んでいる場合は可能なら減量する
呼吸困難、栄養障害が強く術後に挿管の可能性が強いと判断すれば、術前にパルスを行うのもよい(パルスで挿管すればそのまま2―3日後に胸腺摘出術を施行すればよい)
術後のクリーゼは一般のクリーゼの管理に準ず。挿管すればパルスを行う。
 
術後も原則として抗コリンエステラーゼ剤にて管理し、症状の強いものにはプレドニン少量隔日投与を追加、さらに不安定で日常生活に支障のあるものには、入院の上パルス。パルスが年2回をこえ、不安定な症例にはプログラフまたはネオーラルを投与する。
血中濃度でプログラフ5-10ng/ml、ネオーラル80-150ng/mlになるように投与すれば、ほぼ全例に改善が見られる。

プレドニンは隔日5mg(一錠)で開始し、徐々に増量する。5錠以内でないと満月様顔貌、骨の変化、胃潰瘍などかなり副作用がある。1―2錠程度ではめだった副作用はない。投与開始前に副作用について十分説明しておく。また減量に時間がかかること、自分でかってに量を調節してはいけないことを話しておく。
 

何歳以上なら胸腺摘出術を行って良いか

子供の重症筋無力症でも上記適応を満たすような場合は胸腺摘出術が考慮されますが
いったい何歳なら胸腺を全部とってもよいか、という問題です

実は一歳までに行われるはしかなどの予防注射の有効率は非常に高く
ほぼ80%をこえるものが多いのです
T細胞の抗原特異性はランダムに発生するので
はしかに80%の人が反応できるなら、他の抗原にも同様に80%の人が反応できるのです
あるひとりの人がどれぐらいの抗原に反応できるかは
上記データからはわからないのですが
ほとんどの予防接種が有効であることから
おそらく1才までに80%程度の抗原はカバーしていると考えられます
したがって2-3才以降であれば胸腺摘出術を行っても免疫不全にはならない、と考えられます

しかし胸腺摘出術後はT細胞ができないため、骨髄移植は効果がありません
骨髄移植が必要な疾患に罹患したときはこの点を考慮する必要があります

パルスの適応
  1. 全身症状があり、日常生活に支障がある(このレベルは人により異なる)。
  2. 原則として抗アセチルコリン受容体抗体陽性。

呼吸困難が強くなる前に早めに行う方が、挿管の可能性が低いのでよい。
入院の上、メチルプレドニゾロン1g点滴3日間。
パルス開始3―4日目に増悪するので呼吸困難のある症例は挿管の準備をしておき、
患者から目を離さないようにする。
朝調子がよくても夕方挿管されていることはよくある。
挿管後はクリーゼの管理に準じる。
ネオーラルやプログラフ投与中の患者に行う場合はバクタおよび抗生剤を予防投与する。
経口摂取不良の患者にステロイドパルスを行い、高血糖、抗浸透圧により意識障害を起こした経験があります。

シクロスポリン、タクロリムスの使い方
パルスが頻回におよび(年2回以上)、日常生活の著明な障害がある症例は免疫抑制剤を考慮する。
プレドニン10―20mg隔日は続行
シクロスポリン(ネオーラル)100mg(2錠)分2またはFK(プログラフ)3mg(3錠)(夕に一回)
(夕一回投与にしているのはトラフ血中濃度を午前中に採血するから)
上記の量でスタートし、血中濃度(と腎機能)をみながらシクロスポリンまたはFKを調節する。
維持の濃度はシクロスポリン80-150ng/ml、FK5-10ng/mlの範囲で症状に応じてコントロールする。
血中濃度がシクロスポリン50ng/ml、タクロリムス5ng/ml以下であれば
少なくともこの値を越えるまで増量する。
十分血中濃度があるのに効果がなかった例はほとんどない。
症状の重い例では
維持にシクロスポリン250mg、あるいはタクロリムス7mgを必要としている例があります。
維持濃度に達して腎機能も安定していれば、3-6ヶ月に一度の診察にしている例もある。

FK3mgでいきなり20ng/mlを越える例があるので血中濃度測定は必須。
脂溶性の薬剤なので吸収に個人差がある。
脂肪が吸収できないような状況だと濃度も上がらない。
グレープフルーツなどCYP3Aを阻害する食品により血中濃度が上がると言われている(私は経験なし)。
濃度の低い人の濃度を上げるのにグレープフルーツを食べさせるのはコントロールの仕方としては不適切。

腎機能障害を早期に診断するため、
1月に一度(投与始めと、増量したときは2週に一度)診察し、血中シクロスポリン(またはFK)濃度
末梢血、BUN, Crnを測定する。
ネオーラル100mg前後、プログラフ3mgの投与量では血中濃度はあまり上昇しないが、
もし、シクロスポリン200ng/ml、FKで20ng/mlをこえているようであれば減量する。
投与前腎機能正常の患者さんでは血中クレアチニンが1.2を越えないことが望ましい。
私の患者さんで困った副作用としては、
血圧上昇、手指の震え、運動失調、発語障害、多毛(ネオーラル)、下痢(プログラフ)などがあります。
プログラフでは下痢のため続けられず、ネオーラルに変更する例が数例ある
シクロスポリンの場合、多毛はほぼ必発で、説明をしておくほうが良い。

10年以上長期投与すると、高血圧、高血糖、軽度の腎機能障害が見られることが多い。

シクロスポリン、タクロリムスを投与中にパルスをする場合は感染に注意し、
予防的にバクタ4錠分2を投与する。カリニに感染すると致命的となる。
全身ヘルペスなどにも注意。入院のうえゾビラックスの点滴を要した例がある。
免疫抑制剤投与中は易感染性があるが風邪を引きやすくなる例はまれ。
しかしインフルエンザのワクチンは受けた方がよい。

若い女性で妊娠の可能性のある人には慎重に投与し、
投与する場合は必ず避妊をするように指導する。
薬品情報では妊婦には禁忌とされています

男性においてはFKあるいはシクロスポリンを投与しても
生まれる子供に対する影響はあまりないと思われますがデータはありません
ちなみにイムランは多量であれば精子にも影響があるので、イムラン投与中は、男女とも避妊するほうがベターと思われます



クリーゼの管理


重症筋無力症のクリーゼは呼吸困難である。
呼吸困難を伴わなくても全身症状の急速悪化は注意深く経過観察し
呼吸困難を起こす要因がある(下記の前徴のいくつかが見られる)ようなら
早めに入院させるのがよい。
自宅で呼吸停止するとほとんどの場合致命的となる。
帰宅させるなら家人に必ず患者を一人にしないこと、悪化すればすぐ連絡するように注意しておく。

呼吸困難をともなう場合は、外来での抗コリンエステラーゼ剤増量は危険なので、まず入院のうえ下記のような管理を行う。
呼吸困難のある重症筋無力症患者は入院が原則である。

挿管できる医師が近くにいれば重症筋無力症のクリーゼの管理は比較的安全に行える。
1.注意深い観察下に置く
吸引のある部屋に入院させ、枕元に、挿管の準備をしておく。
呼吸が止まってから挿管チューブを探すようではいけない。
下記の様な前徴に注意し、看護師が1時間に1度は訪室する。
つばがうまく飲み込めないときは吸引チューブを渡して自分で口腔内分泌物を吸引してもらうのもよい

抗コリンエステラーゼ剤の増量
クリーゼになるような患者はすでに抗コリンエステラーゼ剤は3錠程度、多い人は4−5錠はいっていることが多い。
これ以上増量するのは、cholinergicとなりかえって危険なことがある。
テンシロンテストはもしこれで増悪すればcholinergicとの診断がつき、治療方針が決まる(抗コリンエステラーゼ剤を中止し、パルスを考慮)が
もしテンシロンテストでよくなっても、抗コリンエステラーゼ剤の治療域がかなり狭くなっており
増量には慎重な方がよい。
ステロイドパルスをするほど重症でないと判断すれば
抗コリンエステラーゼ剤を1錠程度増量して様子をみるのも一法である。
これで乗り切って退院できる例もある。

われわれは抗コリンエステラーゼ剤の増量は慎重にし
呼吸困難で入院すれば初期増悪で挿管しなくてはならないことは覚悟してステロイドパルスを行うことが多い。

クリーゼの前徴

要注意
 つばがあふれる(無理に飲み込ませないで、吐き出すか、吸引チューブで吸ってもらう)
 食事ができない
 首が重くてささえられない
かなりあぶない―頻回のチェック要す、患者にはベッド上安静を指示
 吸気時に胸鎖乳突筋が動く
挿管の準備、血液ガスの測定、必要なら酸素吸入
 吸気時に腹部がへこむ(シーソー呼吸)
 大きな呼吸雑音(分泌物による)

挿管
 片肺の呼吸音が聞こえない
(このようなときはねばっても結局挿管となるので、この時点で挿管するのがよい)
(重症筋無力症の呼吸停止は多くは唾液などの誤嚥による溺死に類似したものです)
(片肺の呼吸音が聞こえないときは、片方の主気管支が分泌物で埋まっており、
  つぎは気管にあふれて呼吸停止となるので、患者が呼吸していても安心してはいけない)
 動脈血ガス炭酸ガス濃度55mmHg以上
 チアノーゼ(ここまで待たないのが良い管理
註.重症筋無力症の呼吸困難は換気不全なので酸素は原則不要だが、酸素により呼吸数がへり、呼吸仕事量がへって乗り切れることがある。

2.挿管したら
気道内を十分吸引し、完全調節呼吸にのせる
プレッシャーサポートなどの補助呼吸はやはりある程度筋肉を疲労させるので
完全に筋肉の休養をさせる。休養により回復するのが重症筋無力症の特徴である。

抗コリンエステラーゼ剤をoff
抗コリンエステラーゼ剤を増量してきていることが多く
過量になって、神経筋伝達はかえって障害されているか、治療域が狭くなっていることが多い。
抗コリンエステラーゼ剤に対する反応性を回復させるため
抗コリンエステラーゼ剤を少なくとも3日間は切る。
鎮静剤はなるべく使わない
調節呼吸に乗せればとたんに楽になり、安心する患者さんが多い。
多くの鎮静剤は筋弛緩作用がありなるべく使わない方がよい。
かならずよくなることを話し、しばらく人工呼吸に依存して筋肉を休ませることを話し、安心してもらう。
ベッド上安静

ステロイドパルス
挿管が必要な重症筋無力症では多くの場合ステロイドパルスの適応がある。
メチルプレドニゾロン1gを点滴。
これを3日間くり返す。
3日目あたりに通常症状の悪化があることをわすれずに。

3.抜管
3日目の朝、(あるいはステロイドパルス終了の翌日)人工呼吸器のチューブを挿管チューブからはずしてみる。
一回換気量が100ml程度ならとても本日は抜管は無理である。
また人工呼吸にのせておく。
一回換気量が300-500ml程度あるなら、抜管を試みる。
胃管挿入し、マイテラーゼ1錠を粉末にして投与する。
分泌物抑制のため、アトロピン0.3mgを同時投与する。
1時間ほどして人工呼吸器をはずす(いきなりはずしてよい)。
患者が呼吸困難を訴えるまではずしておく。
加湿するのが望ましい。
徐々に補助呼吸の条件を下げるなどのウイーニングは不要で、筋肉をつかれさせるだけなのでしないほうがよい。
重症筋無力症は疲れやすいのが病態なのでウィーニングの間に疲れて筋力が落ちてしまう
いざ抜管して自分で痰をださなくてはならないときに疲れた状態はさけたい
2−3時間で疲れるようなら、胃管からマイテラーゼ一日3錠処方して、再び人工呼吸にのせる。
また明日トライする。
半日人工呼吸なしでいけるなら、抜管可能である。
1週間を越えて人工呼吸が必要で、見込があまりないなら気管切開する。
経鼻挿管にかえてがんばることもある。
必ず現在の状態を脱して抜管できることを伝えて患者さんの不安を取り除く

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