肺癌について


名古屋市立大学病院
呼吸器外科
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2012.3.2更新

このページは一般の方むけに、肺癌へどのように対処したらよいかを具体的に解説したものです。

もくじ
肺癌は増えている
肺癌はなおりにくい
肺癌にはこんな症状があります
種類により経過、治療法もちがいます
肺癌の診断
肺癌はこのようにして治療します
イレッサについて
肺癌の手術について(術後障害、術後の生活)
肺癌と診断されたら
もし万が一進行した形で発見されたら
病名を告げるべきか
肺癌を予防するには
肺癌とタバコ



肺癌は増えている

日本における肺癌による死亡は2009年で男49035人、女18548で
全ての癌による死亡の19.6%を占め、男では癌による死亡の第一位となっています。
女性は肺癌は第3位なのですが、増加しつつあり、遠からず第一位になるのは確実視されています。
男性の肺癌の増加傾向は多少頭打ち気味ですが、しばらくは増加が続くと考えられています。

このような肺癌の増加は後述するように、タバコが原因と考えられています。

肺癌は高齢者に多く、20代の肺癌による死者は一年間に日本全体で一人あるかないかです。
年令調整死亡率(モデル人口における死亡率)は肺癌はわずかに減少しています。
日本の人口が高齢化していることが肺癌の増加の主な原因です。



肺癌はなおりにくい
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肺癌はなおりにくい癌です。
まず最初に発見されたときにすでに進行していて手術ができないものが半数以上あります。
手術による治癒率も他の癌ほどよくなく、手術後の5年生存率は全体で50%をやや下回っています。

肺癌の病期と手術
名古屋市立大学のデータ

病期
内容(UICC7の新分類)
手術後の5年生存率** 治療法
IA
腫瘍が3cm以下
リンパ節転移がない
周りの臓器に浸潤していない
89.2%
手術
注.小さい、すりガラス陰影の腫瘍は
治療を要さないものもあると思われます
IB
腫瘍が3cm以上5cm以下で
リンパ節転移がない
周りの臓器に浸潤していない
60.6%
手術
IIA
腫瘍が5cm以下で
肺内のリンパ節に転移がある
腫瘍が5cmから7cmで転移がない
周りの臓器に浸潤していない
50.8%
手術
IIB
腫瘍が5cm以上あり肺内肺門のリンパ節に転移がある
周りの臓器に浸潤していない
腫瘍が7cmをこえるか、胸壁に浸潤しているか、同じ肺葉に転移結節があるがリンパ節転移がない
50.4%
手術
IIIA
縦隔のリンパ節に転移があるか
胸壁に浸潤し、肺内肺門あるいは縦隔リンパ節転移あり
大血管などに浸潤するが転移リンパ節は肺門まで
23.7%
手術
多数のリンパ節の転移がある場合
リンパ節転移が大きい場合は化学療法
IIIB
反対側のリンパ節等に転移
大血管等に浸潤し縦隔リンパ節転移
20.8%
化学療法
または化学療法の後手術
IV
全身転移
胸水に癌細胞がいる
反対側の肺に転移がある
0%*
化学療法、放射線療法
*肺内転移によるものは長期生存もあり

**この生存率は古い分類のときの集計ですがほぼ現在の病期分類と変わらないと思われます

この表をみると明らかに肺癌でも病期の若いもの(進行していないもの)は手術により治癒する可能性が高いことがわかります。
小さいすりガラス陰影などは進行が緩徐で治療しなくても生命に影響のないものも混ざっていると考えられます。
また一方、肺癌が進行していれば、手術でなかなか取りきれないことを示しています。
喫煙者の場合は肺癌の進行が非喫煙者の癌に比べて速く、CTによる検診で早期発見することの意義が認められます。


肺癌の症状
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われわれが手術する肺癌患者さんの多くは無症状で、レントゲンで発見された人が多いです。
症状のある人は一般的にいって進行している人が多いのですが、腫瘍が小さくても太い気管支にできれば、
咳、血痰等の症状は出やすくなります。
この場合は気づかれやすいので、早期で発見されやすいと言えます。
腫瘍が進行すれば、気管支を圧迫したり、肺炎を起こしたり、またまわりの臓器を侵したり、
はなれた臓器に転移を起こし、それによる症状が見られます。

肺癌の症状の主なものは次のようです。

せきがつづく
たんがふえた
たんに血が混じる(血痰)
胸が痛い
背中が痛い
息切れするようになった
声がかすれるようになった
肩や、腕が痛い
体重がへった
熱が下がらない

血痰は別として、これがあれば肺癌である、という特徴的なものは少ないです。
肺癌の種類
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肺癌には主に4つの種類があり、それぞれ特徴があります。

肺癌の種類 特徴 頻度
腺癌 増えている
女性肺癌の75%
非喫煙者の女性の腺癌では
上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異のあるものがある
肺のはしのほうにできる
51.4%
扁平上皮癌 タバコと関係が深い
男性に多い
太い気管支にできやすい(はしのほうにもできる)
せき、血痰などの症状がでやすい
28.9%
小細胞癌 タバコと関係が深い
進行が速く転移しやすい
化学療法が効果がある
12.5%
大細胞癌 未分化癌、除外診断的名称 5.3%

上記のうち、小細胞癌は特に進行が速く、手術の対象となることが少ない癌です。
したがって肺癌を小細胞肺癌とそれ以外(非小細胞肺癌)にわけて治療が行われています。

肺癌の診断
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肺癌の診断は下記のような手順で行われます。肺癌の診断を確実にするためには、
腫瘍組織を一部とって病理診断することが必要ですが、腫瘍が小さいときや、
場所がやりにくいところにある場合は、必ずしも全例で可能ではありません。

1.レントゲン写真、CT、MRIなど画像によるもの

肺の末梢(はしのほう)にある腺癌は画像でかなりの確率で診断できます。
確定的ではありません。
腫瘍であるかどうかの情報を得るため、あるいは
リンパ節転移の有無を調べるのにPETスキャンと呼ばれる方法が使われることがあります。

2.喀痰細胞診
痰にでてくる癌細胞を顕微鏡でみるもの。
2−3割の症例ではこれで癌であることがわかります。
手術が必要な患者さんの場合は手術に関連した情報を得るために、入院後下記気管支鏡検査が必要になることが多いです。

3.気管支鏡
口または鼻から直径6mmぐらいのファイバースコープを気管支まで挿入して観察し、腫瘍が直接見えればこれを一部パンチし、あるいは腫瘍が見えなくてもX線透視下で腫瘍に向かってブラシをつっこみ、細胞を一部かきとって顕微鏡で診断します。
局所麻酔しますが、せきこみ、やや苦しい検査です。
外来で行う検査ですが、この検査をうける場合はだれかに付き添ってきてもらう方がいいです。
生検すれば検査後すこし痰に血が混じったりすることが多いです。
わずかであれば心配ありません。

右上葉の入り口です。ここの気管支粘膜を生検鉗子でかじったところです。そのあと少し出血していますが問題ありません。
右端はこの患者さんに右上葉環状切除を行ったあとの気管支鏡像です。
気管支を縫った糸が見えています(画像の上の端のほう)。

4.経皮針生検

X線透視下あるいはCTを見ながらで皮膚の表面から肺の腫瘍に向かって針をいれ、組織を一部取って病理診断するもの。
肺をとおって腫瘍まで針が通る場合は、針を抜いたあと空気がもれて気胸(肺が縮むこと)になることがあります(10%ぐらい)。
気胸の程度が強ければ、針で空気を抜いたり、管をいれる場合がありますがまれです。
この検査には入院が必要です(1-2日)

5.試験開胸または胸腔鏡による生検(切除)
上記の方法で診断がつかない場合、入院のうえ全身麻酔をかけ
開胸または胸腔鏡を用いて腫瘍の全部または一部を切り取って、迅速病理診断をおこなうものです。
手術の一種です。
良性の場合はそれで終了。
悪性の報告があれば、そのまま肺切除術に移行することが多いです。
したがって手術をうけるつもりで手術場に入るわけです。

6.その他の検査
全身転移がないかどうかの検査
頭のCT(MRI)
腹部エコーまたはCT
骨のシンチ(省くこともあります)
最近はPETを行って腹部や骨のCTを省くこともあります
PETは全身の検索が可能で、腫瘍にグルコースが集まることを利用したもので
リンパ節転移、全身転移があるかどうかの判定の補助に用います
最近はPETとCTを同時に撮影するPET/CTも多く用いられます
PETでは脳転移は診断できません(脳には普通に多くのグルコースがあつまるため)


手術にたえられるかどうかを決定する検査
肺機能の検査
肺を全摘するばあいは、肺動脈のブロックテストを行う施設もあります。

いずれも必要な検査ですが、数が多いのでけっこう大変です。


肺癌の治療
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肺癌の治療には、手術、化学療法、放射線療法、免疫療法、遺伝子療法等があります。
現在は手術、化学療法、放射線療法が単独あるいは組み合わされて用いられています。

肺癌の治療は癌がどれぐらい進行しているかで異なります。
非小細胞肺癌であまり進行していないもの、特にリンパ節転移のないものは、まず手術です。
癌を体の外に取り出すことほど確実に癌をなくす方法はありません。
したがって、手術でまず確実に癌を取りきれると判断され、患者さんが手術に耐えられる場合は手術がすすめられます。

肺活量が少ない、高齢である、など手術が適切でない場合は放射線療法が早期の小さい癌には有効です。
この場合は何らかの方法で(針生検や気管支鏡など)細胞を取って診断をつける必要があります。

小さいすりガラス陰影の肺癌は進行が遅いため、場合により手術しなくても、その肺癌では死なないことも十分考えられます。
またこのような癌が胸痛などの症状を現すには長期間かかります。
患者さんの年齢や、考え方、生き方(哲学)により、副作用のある治療や手術はしない、という選択肢もあります。

手術が適当と判断される場合は、とくにすりガラスの部分が少ない癌は手術はなるべく早くするほうがよいです。
2−3か月でもほっておくと進行して手術ができなくなる場合があります。

縦隔のリンパ節に転移がある場合は議論がわかれていますが、腫大したリンパ節が大きくなく、1つしかなければ手術してもよいでしょう。
縦隔リンパ節転移が複数あるいはリンパ節が大きいばあいは、予後がよくありません(上の参照)。
転移が確実かどうか確認して(縦隔鏡あるいはPETスキャン)化学療法、あるいは放射線療法(あるいは両方)をするのがよいでしょう。
そのうえで手術ができるかどうかあらためて検討します。
最近の化学療法は進歩しており、よく効いて手術可能となる症例があります。
まれですが、術前の治療により手術時には癌細胞が残っていない症例もあります。

遠隔転移(脳、皮膚、骨、遠くのリンパ節等)あるいは胸に水がたまっていて、
そこに癌細胞がいるようであれば、手術はしない方がいいです。
手術により癌がとりきれる可能性がないからです。
この場合は化学療法、放射線療法を行います。
あるいはなにも行わず、痛みなどの症状をとり、自然の経過にまかせるという考えもあります。
手術はもちろん化学療法でもそれにともなう障害は必ずみられるものだからです。

胸壁に浸潤し、胸の痛みがある場合は癌は進行しているのですが、
リンパ節転移が無い場合は比較的手術の経過がよく、手術すべきです。

小細胞癌の場合は進行が速いので、手術の対象にはなりにくいです。
リンパ節転移がない場合のみ、手術の適応になります。
この場合も、小細胞癌であることがわかっていれば、先に化学療法を行う場合が多いです。
化学療法は非小細胞癌にくらべて良く効きます。

免疫療法、遺伝子療法、温熱療法などは肺癌に対しては現在も実験段階です。
理論的にもこれが有効であるという根拠に乏しいと考えられます。


イレッサ(Gefitinibゲフィチニブ)について

2004年に抗癌剤の一種のイレッサの有効性とEGFR(上皮増殖因子受容体)の遺伝子の変異が関連しているという論文がでて話題になりました。
名古屋市立大学第二外科からも佐々木、藤井が共著者に名をつなれていますが、この報告以来イレッサの効果とEGFRについて多くの研究がなされました。

現在までわかっていることの要点をまとめると

現在可能となっているEGFR遺伝子の変異の検査方法では変異のない人でもイレッサの効果があることがあるので
イレッサの投与前に全員にEGFR遺伝子の変異の検査が進められているわけではありません
しかしEGFR遺伝子の異常がある人はイレッサの効果が、変異のない人にくらべて期待できることは確かです

EGFR遺伝子の異常以外にもイレッサの効果に影響を与えるものがある可能性があります
イレッサと似たタルセバ(Erlotinib)にも上記のことがほぼ言えると考えられます

EGFR遺伝子の変異とは異なる、染色体の異常(転座)によりALKという遺伝子が活性化して起きる腺癌があることが報告されました(2007年)。
このALK遺伝子に関わる染色体転座による腺癌にはALKの阻害剤(クリゾチニブ)が高い効果を示します。


肺癌の手術
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肺癌に対する手術は、肺をとる大きさで分類しています
片肺をすべてとる 肺全摘
肺葉をとる 肺葉切除
肺をすこし取る 肺部分切除、区域切除


患者さんが切除に耐えられれば(手術後も十分な肺機能があるなら)肺葉切除と縦隔リンパ節をできるだけとる(郭清といいます)のが日本での標準です。


右上葉の肺癌に対し右上葉切除をし、そのあとの気管支の穴を糸で縫ったところです
たいていは合成樹脂の吸収されない糸を用います
この穴は自動縫合器を使い、金属のホッチキス(ステープラー)で閉じることもあります
肺を取ったあとの空間は、残りの肺が少し膨らむのと、横隔膜があがって残りの肺全体が移動してそのスペースを埋めますが、それでも残ったスペースには水がたまります。

肺癌が気管支の比較的太いところにある場合は気管支形成術が必要なこともあります

右上葉の入り口にある肺癌を右上葉、右上葉気管支と、気管支の根っこで太い気管支の一部を含めて切除し、輪切りになって残った気管支どうしを縫い合わせたところです。
右上葉の管状切除(スリーブ上葉切除)といいます
この時は糸は吸収されてしまうものを使います
糸で縫ったところを手術後に内側からみた気管支鏡の写真をみてください

小さな腫瘍でも、上葉、中葉などの肺葉の単位でとらなくてはなりません。
もったいないような気がしますが、肺癌の手術のほとんどはこれです。
その理由は肺癌をできるだけ確実に取るためです

肺を少しだけとる手術は高齢の方や、肺機能の十分でない方におこなわれていますが、再発率が少し高いという報告があります
最近増えてきている早期の肺癌では肺葉切除以下の小さい手術が増える傾向にあります


1cm以下の早期肺癌の場合は最近は、区域切除、部分切除も行われます
この場合は胸腔鏡で行われることもあります(VATS、バッツ)

肺葉は肺を構成している単位で、右肺に3つ、左肺に2つの肺葉があります。


したがって右の肺葉切除では(大体)肺活量の6分の1,左では4分の1が失われることになります(下の表参照)。これに耐えられるかということになります。

おおざっぱな目安としては、同年代の人と同様に動くことができ、1階から3階まで普通の人におくれずにあがれれば肺葉切除はほぼ大丈夫です。
5階まであがれれば全摘可能でしょう。
2階まであがるのに、はーはー言っているようだと肺葉切除は不安です(手術を決定するまでに十分な検査が必要です)。
平地を歩くのに息切れする人は肺葉切除はできないです。

入院すれば手術前に肺機能の検査をして、術後の肺機能を予測して手術に耐えられるかどうかを決めます。

標準的な肺葉切除の場合は、入院期間は約10-20日、手術時間は約3時間、手術関連死亡率は0.9%
輸血はしないのがほとんどです。
手術による死亡のおもなものは、肺気腫など肺機能傷害のある人、心臓病、糖尿病などの合併症のある人です。
合併症のない若い人(60才までの人)の標準肺葉切除は手術で死亡する危険性はほぼゼロに近いと考えられます。

腫瘍が周囲の臓器に浸潤(進展)している場合は手術が大きくなり、手術時間、入院期間、手術の危険性(全摘で7%)も大きくなります。
人工心肺を使い、心臓を一時とめて手術するようなものもあります。
このような大きな手術は、リンパ節などに転移がなく、手術により腫瘍が取りきれるものである場合に限られます。

皮膚切開は肩甲骨の内側から脇の下を通って乳頭の下近くまで30-40cmの切開が以前は行われましたが
現在は大抵の施設で12-15cmぐらいの小切開で、筋肉の切開も少ないので
術後の回復は早くなりました
肋骨と肋骨の間を開かないで内視鏡だけで肺を取る場合も増えてきました。
やや時間がかかり、危険性も少し増しますが手術の侵襲、術後の痛みは小さく、快復も早いです。
術後数ヶ月たてば手術の傷の大きさによる日常生活への影響は差がなくなってきます。

順調に経過すれば、退院後2−3か月で仕事復帰が可能な人が多いです。
肺葉切除であれば、ほぼ手術前に近い運動が可能で、ゴルフなどの軽い運動は問題ありません。
もともと肺機能が悪い方は、それに応じて運動制限が生じることがあります。

退院直後は毎月、その後順調であれば、半年に一度ぐらいの外来での経過観察(レントゲン写真等)が必要です。

片肺を全部とれば肺機能の低下により、手術のあと運動しにくい(息切れする)人もあります。
適度に運動して肺活量等を良好に保てば、肺癌になっても手術が受けやすいといえます。

とる肺の量に応じて肺活量の低下は異なりますが、大体のめやすは次のようです

手術の種類 肺活量の低下率
右上葉切除
14%
右中葉切除
10%
右下葉切除
29%
右上中葉切除
24%
右中下葉切除
38%
右肺全摘
52%
左上葉切除
24%
左下葉切除
24%
左肺全摘
48%

これは肺の亜区域の数から計算したもので、実際の値は患者さんにより異なりますし、
腫瘍により気管支の閉塞があるような肺を取る場合は、この表の率よりは低下率は少なくなることがあります

肺切除をすれば、肺活量が減ること以外に手術のせいで次のような障害がありえます。

痛み 手術中はもちろん麻酔が効いていて痛くありません
術後も痛み止めの麻酔(背中のチューブによる硬膜外麻酔)や注射、
飲み薬を使うのでコントロールできる人が多いですが
その程度は人により異なります
退院後も数ヶ月痛みが続くことがあります
一般に術後の疼痛があっても重要な合併症が起きていることはまれで
担当医は術後の患者さんが疼痛を訴えられても心配しないことがほとんどです。
出血 大きな手術ほど多い傾向があります。
手術前に貧血がない場合、普通の肺葉切除では輸血はしません。
肺炎 痰が十分だせないときなどに起きます。
場合によっては気管切開、人工呼吸などが必要になることもあります。
肺気腫などの合併症をもった人に多いです。
このような合併症を減らすため、たばこをやめることが必須です。
術後の痛みは鎮痛剤などで抑えて咳をし、積極的に離床して歩いていれば合併症は少ないです。
また術前に十分運動や呼吸訓練をしておくと、合併症が少なくなります。
階段を3階まで昇るのに途中で休まなくてはならないような人は合併症の確率が高くなります。
入院したら自主的に階段の上り下りをするなどして体と肺をきたえましょう。
肺からの空気漏れ
(肺瘻)
術直後は肺からの空気漏れは多いです。半数近くは少し空気が漏れるものです。
術後空気漏れがつづき、胸腔ドレーンが長期間抜けないことがあります。
2週間以上続くものは肺癌手術の1.6%です。
まれに長期化すると膿胸になる可能性があります。
肺の端からでている空気はあまり害が無く、肺が縮まらなければそのまま経過をみることもあります。
気管支断端のほころび
(気管支断端瘻)
肺を切除してその後の気管支を糸で縫う(あるいはホッチキスでとめる)のですが、様々な原因で閉鎖したはずの気管支が開いてしまうことがあります。
胸の中にたまっている液(黄色ー赤みがかったオレンジ色)が咳とともに口からでます。
反対側の胸にその水を吸い込まないように、ドレーンを入れる必要があります。
大抵の患者さんは発熱など感染症状とともに膿胸に移行し、やっかいな合併症です。
肺癌手術の0.4%程度の発生率です(2008年の手術統計より)。
術後早期であれば、開いてしまった気管支の断端をもう一度縫うこともあります。
膿胸 胸の中に細菌が感染して膿がたまるものです。
気管支断端のほころび、長時間手術等が原因です。
ドレーンを入れて抗生物質投与で治ることもありますが多くは治療は長期間かかります。
胸に穴をあける開窓術を行って毎日ガーゼ交換が必要なこともあります。
最終的に胸の中がきれいになれば、気管支断端瘻の閉鎖、膿胸になっているところを埋める手術が考慮されます。
声がかすれる
(嗄声)
リンパ節をとるときに、声を出す神経を傷つけるもので、左側に多く発生します
乳糜鏡 リンパ節をとるときなどに、腸で吸収された脂肪を運んでいる胸管という管やその枝をを傷つけたときに起きます
胸に水がたまり、その水には多くの脂肪が含まれています
絶食で様子を見ますが、時には手術(胸管をしばる)が必要なこともあります。
肺癌手術の0.8%に発生しています。
間質性肺炎増悪 肺癌手術の0.5%と発生率は低いものの、発生すると40.5%の人が死亡する、肺癌手術後死亡の原因の26%を占め、最多です。もともと間質性肺炎をもっている人はこの危険性を覚悟して置く必要があります。


術後補助療法について


Ia期の場合は術後の化学療法や放射線療法は行われないのが普通です。

Ib期ではUFTという飲み薬が予後を改善するというデータに基づいて勧められることが多いです。

II期もリンパ節転移陽性の時は何らかの補助療法が勧められます。

III期の場合は再発率も高く、術後の化学療法すすめられています。

明らかに、腫瘍が残存した場合は化学療法あるいは放射線療法を行っておく方が良いでしょう。
補助療法をする場合は入院が1−2ヶ月余分にかかります。



肺癌と診断されたら
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肺癌です、と言われたらショックを受けることと思います。
しかし上記のように早期のもの、特にリンパ節転移のない肺癌は手術でなおる可能性が高く、決して悲観する必要はありません。

肺癌にもいろいろあるわけですから、あわてず、まず、受け持ちの医者に対して次のことを確認しましょう。

1.診断について

組織をとって診断がついているか
レントゲンで肺癌を疑われてもそうでない場合も多いです。
また痰などによる細胞診(ばらばらの細胞で診断したもの)はやや不確実ですので、できれば組織を一部とる診断方法が確実です。
あまり小さい腫瘍の場合は診断が困難で、レントゲンでかなり疑わしい、あるいは腫瘍が明らかに増大している場合は、診断のつかないまま手術をせざるをえないことがあります。

2.どの程度進行しているか

肺癌は進行度合い、とくにリンパ節に転移しているかどうかで大きく予後が違います。
局所の進行具合、リンパ節への転移の有無を確認してください。
CT、MRIでリンパ節転移を調べ、頭のCT、腹部のCTやエコーで全身転移の有無を検索します。

手術の必要な場合

リンパ節転移のない肺癌はほとんどの場合手術でなおる可能性がありますので、
化学療法などは行わず、手術するのが一般的です。
そのため、肺機能が手術にたえられるかどうか検査が必要です。
手術の術式(肺葉切除か、全摘か、小さい手術か)を質問し、
術後どれぐらいの肺活量が残るか質問し、
術後の運動制限についても質問しておきます。
高齢で小さいすりガラス陰影などは進行が緩徐で経過を見ることも選択肢です。


手術を受ける病院の選択

普通の肺葉切除であれば危険性も少なく、肺の手術をある程度こなしている病院であれば大丈夫です。
呼吸器外科の看板がかかっていればより安心です。
肺癌の手術は年間50例あれば多い方、一般の病院では20例ぐらいの場合が多いと思われます。
気管支形成術や、上大静脈に浸潤している、等の拡大手術が必要な場合は
年間100例程度以上の施設で手術されるほうが安心です。
人工心肺を回して大動脈を切除するような手術は大学病院か、大病院がマンパワーがあり、適していると思います。

最近は、先生はこの手術を何例ぐらいやられましたか、とはっきり聞く人もあります。
病院は選べますが、術者を選ぶことは現実的には難しいです。

病院をうつりたいときは、そのことをはっきり主治医に伝えて、紹介状を書いてもらい、レントゲン写真を貸してもらいます。
最近はほとんどの場合、さほど機嫌を損ねずに貸してもらえます

セカンドオピニオン

主治医の説明が不十分、納得できない、というときは
情報をなるべく集めた上でセカンドオピニオンを求めることがよい場合もあります。
とくに進行癌で治療に選択肢がいくつかあるばあい、拡大手術が必要な場合などです。
インターネットの情報も豊富ですがその利用は(データの信頼性も含めて)難しい面があります。
また多くの場合はレントゲン写真等がないと情報が不十分ですから、
本当に迷ったら、CT写真など、なるべく多くの情報を主治医から借りて
呼吸器外科をもつ大学病院や大病院に受診をするのがよいと思います。


もし万が一進行し、手術ができない形で発見されたら
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遠隔転移等があり、手術が適していない場合、選択肢としては、

1.化学療法あるいは放射線療法をするか、
2.肺癌に対する治療はせず、痛みなど症状をとる治療のみ行うかです。

一般的にいって、手術ができないような肺癌のばあいは、
化学療法によって腫瘍が治癒したり、大きく寿命が延びることはまれだと考えられます。
ただし、骨の痛みなどは放射線療法で一時的に症状が軽くなることがあり、個々の場合に応じて判断が必要です。

手術も含めて治療は必ず何らかのマイナス面をもっています。
手術では痛みや、肺機能の低下がありますし、化学療法では、(一時的ですが)吐気、おう吐、脱毛、白血球減少などがあり、いずれも生命の危険性も数%あります。
根治の可能性がない場合、その治療でもし半年寿命が延びるとしても、そのため1ヶ月入院し、ある程度の痛み、苦しみを伴う治療をうける価値があるかどうか、自らの価値観にてらして考えるべきでしょう。

手術が適していない肺癌の場合は、多くは診断後の余命は半年から1年ぐらいで、場合により2年以上にわたることもあります。
一般的には現在症状がなくても半年ぐらいの間には何らかの症状の出現があり、1年後には状態が悪化する可能性が高いので、良好な社会生活ができるのは普通は半年から一年ぐらいでしょう。
肺機能等の面で手術に耐えられないと判断された場合、腫瘍が小さくてリンパ節転移もないようなときは、手術しなくても5年ぐらい生きられる方が10-20%程度あります。

なおらないだろう、と判断されれば、覚悟を決め、残された社会生活を有意義に過ごすことに方向転換をすることが、この腫瘍に対するよりよい対処方法だと思います。

なぜ自分がこのような目に、と反問することもあるでしょう。
家族に、自分につらくあたってしまうこともあるでしょう。
しかしこの問いに対する答えはないのです。
自分と家族がこれからいっしょに過ごせる時間が有意義なものになるように努力しましょう。
自分が苦しいのだからと、家族に苦しみを転嫁しても楽になるものではありません。
今の自分があるのは家族のおかげです。
これまで自分をささえてくれた家族に対する感謝の気持ちが大切です。

痛み等が出現すると冷静ではいられませんが、モルヒネなどの麻薬を用い、痛みのない状態で最後を迎えることができるように医学も進歩してきています。
またそのための専門病院もありますので手術が適さないと判断された時点で将来のことを考えて判断してください。

漢方や民間療法、温熱療法、遺伝子療法、免疫療法では現在のところ肺癌を治癒させることは難しいです。
新しい治療法の中では血管新生抑制療法が癌をコントロールする(治癒はしないが―これを tumor dormancyとよんでいます)可能性があり、私は個人的には期待しています。
免疫療法の一部にはこのような血管新生抑制を介しての効果を持っているものがあると考えられます。
これら新しい治療法が確立するにはまだ時間が必要です。


病名告知について ―家族へのアドバイス
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多くの場合、病名を告げるほうがよいでしょう。
うそをつかなくてすみますし、医療側と患者さん、また家族と患者さんの関係がスムースになります。
また患者さんが治療を受け入れるのが容易になります。
悪性腫瘍であることを告げずに、手術あるいは副作用のある化学療法が必要であることを納得させるのは大変です。

病名を告げないのは、患者さん本人が病名を知りたくないという希望をもっているときなどに限った方がよいでしょう。
家族の方の判断で、この人は癌だとわかると落ち込むに違いないからというので病名に関してうそを言うのは本人の希望を無視することにもなりますし、その後の家族関係を悪化させる原因にもなりえます。
診断がつく前に、癌だったら知らせて欲しいかどうか、それとなく聞いておくのもよいでしょう。
自分で判断のできる人であれば、自分の病気を知りたいと思うのが普通です。自分の場合を考えるとそうでしょう。
自分は知りたいけど、家族の癌は本人に知らせたくないという人が多いのです。
基本的には本人の意思を尊重することです。

患者さんの希望を無視して病名を告げないことに明らかな利益があるのは限られていますが、次のような場合が考えられます。

患者さんが高齢で、癌が手術をすれば治癒する可能性が高い場合(小さくて、リンパ節転移もない)。
この場合は術後患者さんは癌であることを知らない方が、再発するのではないかという不安を感じずにすみます。
しかし、ステージIでも1−2割の再発はあるので、若い人の場合はやはり告知するのがよいと思われます。

逆に、手術等の治療をしてもまず効果が期待できないほど進んでいる場合。
この場合は多くは症状がありますし、残りの寿命があまり長くないと考えられるので、ショックを与えないことに意義があるとも考えられます。
ただし、どうしてこんな症状がでるのだ、と悩んで疑心暗鬼になっていた人が、告知されてすっきりするということも経験されます。


最近は告知を原則にしている病院が多いので、家族に相談なく告知されることもあります。
どうしても告知して欲しくない場合は、診察の前にでもあらかじめ担当医に告げておく方がいいです。
あまりおすすめできませんが、本人の希望がある場合などです
癌であることを告げるにしても、悪性の腫瘍であるというほうがすこしやさしく聞こえます。
このあたりは主治医の経験と人柄による部分です。
また、進行度、予後などを告げるかどうかは個々のケースにより判断されるべきでしょう。
肺癌の予防
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タバコを吸わない、タバコの煙に近づかない、の一言です。
あとは自動車の排気ガスのないところに引っ越すぐらいでしょうか。

以前は鉱山や建築現場等でのアスベスト(石綿)が重要でしたが、現在は禁止されています
アスベスト吸入から胸膜中皮腫などの発生までには平均でも30-40年かかるのでこれからしばらくはこのような腫瘍が増えると思われます。
しかし、古いビルなどではアスベストが使われているものがあるかもしれません。
それとわけがわからなくても、刺激臭のあるものは吸い込まない方がよいのは確実です。

食品で肺癌との関連がはっきりしているものはありません。

お茶など肺癌になりにくいという報告があるものがありますが、科学的に認められたものはありません。


肺癌とタバコについて
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肺癌はタバコと深い関係があります。

喫煙率
全体 55% 13%
肺癌患者 95.2% 38.9%

特に扁平上皮癌と小細胞癌に関連が深いとされています。
男性肺癌患者はほとんどが喫煙者です。
女性は非喫煙者の肺癌も多く、配偶者の喫煙や環境要因が原因として考えられています。
2万人規模の調査で、肺癌で死亡する確率はタバコを一日20本以上すっている人は、すわない人にくらべ、約9ー10倍であるとされています。
また癌は遺伝子異常により起きるのですが、喫煙者の肺癌にはタバコの煙にふくまれる発癌物質によると思われる異常が多く見つかっています。
またタバコを吸う男性の妻は肺癌にかかりやすいというデータもあります(1.16-1.53倍)。
イギリスやアメリカでは男性の肺癌は頭打ちになっていますが、これは喫煙率の低下と関連していると考えられています。
これは政府の努力によるところが大きいです。
日本は政府による禁煙運動は全く行われておらず、禁煙後進国です。
一方女性の喫煙率は低下がおくれており、このことと女性の肺癌がまだ増加しつつあることとが関連していると考えられています。

タバコが全くなくなれば、肺癌は80%減ると考えられています。

フィルターは大きな粒子は除去しますが、発癌物質は除くことができず肺癌の予防にはなりません。

パイプを吸う人は肺癌の危険があまり高くないと言われており、これはパイプでは煙をあまり肺の奥まで吸い込まないからだと思われます。

もちろん環境汚染等、タバコに関係のない原因で起きる肺癌もあります。

タバコを吸うと肺癌の危険性は増しますが、禁煙すると危険性の増大は止まります。
しかし、いったん変化した遺伝子はもとにもどらないので、肺癌になる危険性はゼロにはならず、全くすったことのない人とくらべると危険性は高いままであとの人生を送ることになります。
特に青少年に喫煙をさせないことの重要性がここにあります。

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