診療のご案内

 

肝臓外科

原発性肝がんは、内科的治療のラジオ波焼灼療法(Radiofrequency Ablation: RFA)や 肝動脈塞栓術(Transcatheter Arterial Chemoembolization: TACE) などと手術的治療を効果的に組み合わせて、根治を目指して治療を行っております。

術前のCT、MRIなどの画像診断、血液検査結果などにより、肝切除のリスクを判定し、安全な手術術式の選択を行っております。肝硬変を有する肝細胞がんで残肝機能のため切除が困難な症例でも、開腹下ラジオ波焼灼療法を行うなど、積極的に治療を行っております。

転移性肝がんは、大きさ、個数に関わらず、可能な限り積極的に切除を行っています。特に大腸がんからの肝転移については、術前・術後の抗がん化学療法を併用する事で切除率を向上させ、術後の再発を防いでいます。肝切除においては、ERBE社高周波手術装置 (VIO System) を導入し、術中出血量の軽減を図っております。

 

胆道外科

胆嚢がん、胆管がん、十二指腸乳頭部がんに対しては、胆道がん診療ガイドライン2007年版に沿って、エビデンスに基づいた診療を行っております。術前のCT、MRIなどの画像診断からがんの進展形式を予測し、肝予備能を考慮に入れた適切な肝切除とリンパ節郭清を行い、QOLの向上と良好な予後を達成しています。また良性の胆石症、急性胆嚢炎については、腹腔鏡下胆嚢摘出術を第一選択とし、必要に応じて、緊急での対応も行っております。

 

膵 癌

膵がんについては、膵がん診療ガイドライン2009年版に準拠し、Stage IからStage IVaに対して、進行程度に合わせた標準的手術を行っています。また進行がんに対しては、徹底的なリンパ節廓清、門脈合併切除も積極的に行い、根治性の高い手術を目標としております。通常は膵頭部がんに対しては、亜全胃温存膵頭十二指腸切除術(SSPPD)を採用しております。当科では、膵頭領域腫瘍に対しての膵頭十二指腸切除術を年間約20例施行しております。膵がん切除後には、ジェムシタビン、TS-1による術後補助化学療法を行い、転移再発を予防しています。切除不能進行・再発膵がんに対しては、減黄処置とともに、胃空腸吻合術などのバイパス手術によりQOLの改善をはかり、緩和ケアチームと共同して、快適な在宅療法に向けて患者指導を行っています。また膵管内乳頭粘液性腫瘍 (Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm: IPMN )に対しても、ガイドラインに従い手術適応を決め、切除を行っています。腫瘍の部位、大きさによっては、縮小手術も導入しています。

 

慢性膵炎

慢性膵炎は、難治性の腹痛・背部痛に難渋する疾患であり、薬物治療や内視鏡による膵石破砕術や膵管孔開放術でも効果の得られない症例を対象に手術を行っています。教室では、膵組織を温存した上で膵管を開放し、膵管空腸吻合による膵液の完全内瘻化および膵頭神経、膵周囲神経切離術を附加し、疼痛の完全除去と内分泌・外分泌機能の温存を達成しています。代表的な手術方法として、Frey手術(膵頭部くりぬき、膵管開放、膵管空調側々吻合)やDu Val手術(膵尾部切除、膵管空腸端々吻合)などを膵石の部位や膵管拡張の程度に応じて施行しております。

また急性膵炎後の仮性膵のう胞に対しても、内視鏡的なドレナージが不可能な症例に対しては、膵のう胞・空腸吻合や、のう胞・胃吻合を行っております。

 

重症急性膵炎

急性膵炎全体の死亡率は、わが国の全国調査では7%で、重症急性膵炎の死亡率は22−27%です。このように、急性膵炎は良性疾患でありながら、一旦重症化すると、予後の極めて高い疾患です。膵内で活性化した膵酵素により自己消化が始まると、活性化膵酵素により全身に炎症性のサイトカインが産生され、心、肺、腎などの重要臓器に障害を起こし、MOFから死に至ります。
重症急性膵炎の治療にあたっては、いかに早期の重症化を予知し、進行を食い止めるかが極めて重要です。

急性膵炎重症化のパターン

急性膵炎の重症化のパターンを見ますと、重症急性膵炎のほとんどは発症後2週までの早期に重症化すると考えられます。発症後2週以内に軽快したのち重症化しないものはこのまま治癒の方向を辿りますが、重症化が2週以降まで遷延するか、あるいは2週以降さらに悪化する場合は予後が極めて悪く、とくに、急性膵炎発症後2週までに重症化し、一旦軽快したのち、再重症化した場合は救命が極めて難しいです。
いいかえれば、重症急性膵炎では発症後2週間の早期の対策が明暗を分けるといっても過言ではありません。

重症度判定

重症急性膵炎は早期に正確な診断を下し、適切な治療を始めなければなりません。Stageが、2、3、4と進むにしたがって死亡率は10%、30%、67%と増加し、その進行は極めて速くなります。Stage2以上の重症急性膵炎は集中治療の要する疾患であることを認識し、CHDFなどの血液浄化療法の行いうる設備の充実した医療機関で治療を開始します。
治療の開始にあたっては、厚生労働省の急性膵炎重症度判定基準にもとずき、重症度を正確に判定します。

膵壊死範囲の把握

膵壊死の程度は治療方針を決める上で重要であり、壊死の範囲が広がると感染性膵壊死から敗血症に進み、極めて予後が厳しくなります。
とくに、壊死性膵炎は、膵実質に出血壊死をみとめ、造影CTでは、壊死の範囲がくっきりと描出されます。

重症急性膵炎の治療

重症急性膵炎治療の成功の鍵は発症から2週間の治療によるといっても過言ではなく、入院と同時に、直ちに適切な治療を積極的に開始することです。

1.保存的集中治療

重症度判定基準がStage2(重症I)で、かつ 造影CTで膵壊死の見られない場合は、まず、保存的集中治療を行います。

1)疼痛対策

疼痛に対しては、非ステロイド系消炎鎮痛剤を投与し、疼痛のコントロールが難しい場合には、ペンタゾシンやモルヒネを用います。

2)循環管理

急性膵炎の輸液管理でもっとも大事なのは血圧と尿量の維持です。 輸液量を制限すると重要臓器障害は悪化の一途を辿るようになり、多臓器不全を招来します。高齢者では、スワンガンツカテーテルによるモニタリングを行ないながら循環管理をします。

3)呼吸管理

重症急性膵炎では、疼痛に加へ、横隔膜挙上による呼吸抑制、大量輸液と相まって早期から胸水の貯留、無気肺や肺水腫がおこり、感染や肺血症を合併するとARDSになります。
出来るだけ早い時期から、マスクや経鼻管で、これで十分な酸素化が得られない場合には、NPPVを行います。この方法でも十分な酸素化が得られない場合には、気管内挿管を行い、気道内圧を高めるとともに喀痰の排泄を促します。

4)膵の安静

膵に対する刺激を抑えるために、絶食とし、胃管による、胃内の減圧を図るとともに酸分泌を抑えるためにH2ブロッカーを投与します。

5)トリプシンインヒビターの投与

膵から血中に逸脱する蛋白分解酵素の活性を抑制する目的で経静脈的にFOY、 FUT、ウリナスタチンなどのトリプシンインヒビターを投与します。

6)抗菌剤の投与

重症急性膵炎では、膵壊死は感染性膵壊死となり、腸管は麻痺し、菌血症となります。したがって、膵炎の早い時期から膵組織移行にすぐれた抗菌剤の投与を行います。

7)腸管内クリーニング

腸管内の除菌、腸管運動の促進に加え、経腸栄養を目的に経鼻的に上部空腸に栄養チューブを挿入し、抗菌剤を投与します。

2.特殊療法

特殊療法は、保存療法に加えて、急性膵炎の病態をより積極的に除去する方法であり、Stage2であっても造影CTで膵壊死のみられるものおよびStage3、4が対象となります。

1)内視鏡的乳頭切開術

膵炎の原因が総胆管結石のかん頓である場合には、膵炎の発症早期に緊急の内視鏡的乳頭切開術(EST)により採石を行います。乳頭切開術により採石が出来ない場合にはや内視鏡が出来ない場合には、PTCD(経皮経肝胆道ドレナージ)をおこないます。

2)膵酵素阻害剤持続動注療法

CTで壊死性膵炎と診断された症例に対してカテーテルを腹腔動脈や上腸間膜動脈に留置し、発症2日以内にベッドサイドでFUTなどのトリプシンインヒビターを持続動注する方法です。感染に対しては、12時間ごとに抗生剤イミペネムを加えます。

3)腹膜還流

腹膜還流の目的は、重症急性膵炎の腹水中の膵酵素などの毒性物質の除去です。

4)持続的血液濾過透析療法 (CHDF)

血中のサイトカインなどの持続的除去と水分バランスや電解質、酸塩基平衡の補正を目的とした方法で、重症急性膵炎と判定されれば、直ちに始めると効果的です。

3.手術療法

急性膵炎の早期重症化例に対する手術は、特殊療法を含めた保存的治療が無効な感染性膵壊死におこないます。非感染性膵壊死に対しては、手術よりも動注療法の方が合併症や予後の点からもはるかに優れています。膵膿瘍に対しては動注療法とともにエコーガイド下あるいはCTガイド下穿刺ドレナ−ジが原則です。
手術としては、膵壊死部とともに膵周囲の脂肪壊死組織を可及的に除去するネクロセクトミーを行ない、洗浄用ドレーンを留置し、術後に洗浄をおこないます。
壊死組織が残存する場合には、開放創とし、術後に壊死組織のデブリードマンをベッドサイドで繰り返し行います。

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