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松尾先生の米国留学記

MD Anderson Cancer Center 留学記

2006年9月から2年間、米国テキサス大学、MD Anderson Cancer Centerに研究留学しました。

MD Anderson Cancer Centerとは?

MD Anderson Cancer Center (MDACC)という名前はよく聞きますが、あまりよく知られていないのではないでしょうか。MDACCはテキサス大学の一施設ですが、アメリカNo.1、つまり世界No.1規模の癌センターです。テキサスメディカルセンターは、MDACCを中心として多数の医療施設によって構成されており、街全体が医療施設といった感じです。全米中はもちろん、世界中の患者さんが最新の治療を求めてヒューストに集まってきます。
MD Andersonは人の名前でMonroe Dunaway Andersonさんです。彼は昔、綿花工場で巨額な富を得たものの癌を患い、それをきっかけに多額の寄付を行い1942年に癌センターができました。その後どんどん規模が大きくなり、現在のアメリカNo.1にまでなりました。その多くは寄付金が中心で、ビルが建つたびに、多額の寄付をした人の名前がビルの名前に付けられます。寄付という制度は、日本では馴染みが薄いようですが、アメリカでは非常にさかんです。“分け与える”という宗教観の違いなのかもしれません。MDACCでは “Making Cancer History”というスローガンのもと、基礎から臨床にいたるまで、癌撲滅の歴史に名を残そうと日夜スタッフは努力しています。

研究生活

私は、Dep. of Gastroenterology, Hepatology, and Nutrition のSushovan Guha , MD, PhDのラボで膵癌の血管新生とそれにかかわるケモカインの働きについて研究しました。
彼は、MDACCへ私が留学する半年前に新しくラボをオープンしたばかりで、私の最初の仕事はラボの立ち上げとそれを軌道にのせるというなかなか大変な役回りでした。それでも、自分が日本の大学にいた頃に行っていたpreliminary dataを元にMDACCとコラボすることが決まり、何とか半年くらいたつと軌道に乗ることができました。
ボスはインド人で、私には非常に優しくしてくださり、私のたどたどしい英語にも、嫌な顔をすることなく、わかるまで話を聞いてくれました。ただ、彼は普段はクリニックに勤務して、彼のオフィスは離れた別の建物にあるため、データのやりとりなどは電話で説明することが多く、それには随分苦労しました。
最初の研究は、膵癌と間質におけるケモカインの役割で、膵癌由来のCXCL8/IL-8と間質由来のCXCL12/SDF-1aがco-operativeに膵癌血管新生を亢進させることをまとめました。他の主な仕事としては、CXCL8のreceptorであるCXCR2の中和抗体が、膵癌血管新生を抑制することをin vitroおよびin vivoで確認しました。これをもとに MDACCではさらに、抗CXCR2抗体療法の臨床試験が始まろうと準備されています。

おわりに

治安も気候も悪いヒューストンではたくさん苦労もしました。何といっても、帰国がまじかにせまったころ、ハリケーンがヒューストンを直撃、ヒューストン中の電気が2週間近くにわたって停電し、加えて私のアパートは一週間、水も出ませんでした。帰国前に球場で観戦しようと楽しみにしていた、ヒューストンアストロズ(松井)vs シカゴカブス(福留)の試合も当然中止となり、ちょっぴり悲しい思いでとなりました。それでも、やはり日本では味わえないような楽しいこともたくさん経験でき、有意義なアメリカ留学であったと思います。ヒューストンやアメリカ文化などの紹介については、また改めて書かせていただこうと思っております。

松尾 洋一

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