漏斗胸

近藤知史
名古屋市立大学大学院医学研究科
腫瘍・免疫外科 講師
名古屋市立大学病院   
小児外科 部長
近藤知史
 お問い合わせはここ

もくじ

漏斗胸ってなに?

なにか機能的な問題があるの?

漏斗胸の治療にはどんなものがあるの? 年齢によって違うの?

手術するかどうかはどうやって決めるの?

いつ手術すればいいの?

どんな手術方法なの?

私たちの漏斗胸手術(名市大二外法)

NUSS法(ナス法)について

漏斗胸手術はどれぐらい大変なの?

漏斗胸手術の合併症

手術のきずあとは?

漏斗胸手術後の再陥凹について

術後アンケート調査結果



“漏斗胸ってなに?”

漏斗胸とは,胸の左右の真ん中でおなかとの境界あたりにくぼみ(陥凹)がある状態です.
生まれたときから陥凹のある子もあれば,後になって徐々に陥凹が現れてくる子もいます.
漏斗胸は家族内に多発することがあり,そのような場合は遺伝性であると考えられます.但し遺伝形式ははっきりしません.

漏斗胸の原因
1.前胸部の肋軟骨(肋骨は背骨からはじまり,湾曲しながら前下方に向かいますが,途中から軟骨というやや柔らかい”骨”になっています.)が,おそらく胎児期の後期で一時的に一部の肋軟骨(陥凹の形状から考えると第4肋軟骨〜第7肋軟骨と思われます)が,接続する肋骨よりも速く成長するために肋骨と肋軟骨との間に長さのアンバランスが生じ,その結果として真ん中の胸骨が左右両方から押されて陥凹するか突出します.陥凹すれば”漏斗胸”になり,逆に突出すると”鳩胸”になります(図1,2,3).
この肋骨と肋軟骨の成長の一時的な差はDNAの一部に制御されると思われ,これが1つ目の漏斗胸の原因で,最も影響が大きいと考えられます.
しかしこのDNAの持つ特徴は単純に遺伝する形式でないか,あるいは他の因子に強く影響されるために,家系内で3代連続してみられたり,一人のみであったりということがあります.
2.胸郭(胸のこと)の内部では呼吸運動のうちの吸気によって強い陰圧が発生するため,前胸壁は陰圧によって常に引き込まれて陥凹しやすい状況にあります.
乳児期に咽頭扁桃の肥大やアデノイド増殖症などによる上気道狭窄のために強いいびきや無呼吸が見られると,この胸郭内の強い陰圧によってまだ脆弱な前胸壁が引き込まれて陥凹します.
これが漏斗胸の2つ目の原因と考えられます.またこのために鳩胸より漏斗胸が多いものと思われます.
3.外来で漏斗胸の子どもたちを観察していると,息を吸う際に全く雑音が聞かれない(吸気時の気道に狭い部分がないということ)のに,剣状突起(胸骨のもっとも尾側にある小さな骨の出っ張りのことで,通常この位置で陥凹が最も深いことが多い)の部分が上がってこなかったり,逆にむしろ陥凹する例を経験します(息を吸うと胸が大きくなるので,普通は胸骨も剣状突起も前方に上がってきます).
漏斗胸の手術をしていると,横隔膜から剣状突起の裏側に連続する線維束が非常に強力であることに気づくことがあります.
息を吸うことによって横隔膜が尾側に下がると,この線維束が剣状突起を牽引しますが,通常は吸気によって胸郭が膨らむ方が強いので剣状突起は前方に上昇します.
しかしこの線維束が非常に強力で横隔膜からの強い牽引力を剣状突起に伝えると,吸気時の胸郭の拡張より剣状突起への牽引が強く働くため,剣状突起が陥凹します.
これが漏斗胸の3つ目の原因です.このタイプは数が少ないと考えています.
このように3つの原因が様々な程度に絡み合って漏斗胸が形成されると考えられます.またこれら原因の違いによって陥凹の形状も異なると考えられます.


漏斗胸の陥凹の形状
1.生下時からみられる漏斗胸の陥凹は,剣状突起を中心として3つの角が鈍な三角形をしていることが多いです.このタイプは肋骨と肋軟骨の成長のアンバランスが主な原因と考えます.その影響が強く出ると肋軟骨が急に強く屈曲するため,前胸部にお椀が埋まったような形状となることもあり,このような形状では陥凹はとても深くなります.年月が過ぎてもあまり変化してこないことが多いと思います.この形状はカップ型とも言われます.
2.胸郭内の陰圧や剣状突起への牽引が前面に出ると,すり鉢のような形状となると考えます.幼小児期から影響を受けると比較的深いすり鉢型となり,カップ型に近い状態となるものもあります.後述のように,年齢と共に浅く広くなっていくと,やがて次に述べる皿型に変わっていきます.
3.年長児や大人の漏斗胸の形状は,多くが皿型です.広く浅い陥凹です.
4.年長女児に多いのですが,胸の上の方からおなかまで縦に溝があるような形状で,ハーフパイプのような形です.数が少ない上,この状態で来院されるため元がどんな形状だったのかがわからないので,このタイプの原因はよくわかりません.印象としては,体型がすごく細くて肋骨も肋軟骨も強度が少ないのではないかと思っています.

漏斗胸の陥凹は上記のうち,カップ型,皿型,ハーフパイプ型,が基本ですが,漏斗胸の複数の原因の関わりぐあいにより,またその時の年齢によってそれぞれの基本型が混ざり合った形状となると考えています.

時間経過と漏斗胸
漏斗胸の小児を診療していると多くは生後早期から陥凹がみられ,その後一旦は少し深くなる,あるいは変わらない状況が3歳頃まで続き,その後の成長に伴って陥凹は少しずつ広く浅くなります.
これは,肋骨と肋軟骨の成長のアンバランスが自然に改善する,あるいは扁桃肥大やアデノイド増殖などの幼小児特有の状況が自然に改善することに加えて,胸郭の強度(硬さ)が年齢と共に増えてくるためと考えています.
まれではありますが,もともと陥凹が浅い人の中にはほとんど陥凹がみられなくなるケースもあります.
しかし多くは,陥凹は徐々に浅くなるのですが胸郭も硬くなってくるので,やがてこの変化は止まります.
一方,男児で小学校高学年になる頃から前胸部がでこぼこしてきたり,陥凹が現れることがあります.思春期の成長スパートに伴って肋骨と肋軟骨の成長のアンバランスが現れるものと考えています.これもDNAの制御によるものです.赤ちゃんは,出生の1か月くらい前から急に成長して大きくなります.この急激な成長は思春期早期の身長のスパートと似ています.肋骨と肋軟骨の成長のアンバランスは,成長が急激に進む時期にのみ現れるものと考えると納得がいきます.
また時間の経過とともに,陥凹の中心がだんだん右に偏っていき,右側が急峻で左側はなだらかといった非対称の胸壁になっていくことがあります.心臓のもっとも強大な左心室が陥凹の左側を背側から押し上げ続けるからではないかと考えています.

漏斗胸と体型,脊柱側弯
漏斗胸の子どもたちの多くは(大人も),やせ形で胸板が薄いという体型をしています.
筋肉の付きもあまり良いといえる方ではなく,猫背の人が多く見られます.
また多くの漏斗胸の人には,様々な程度の脊椎の側弯(背骨の横曲がり)が伴います.その大多数は日常生活に支障が起きるような状況にはなりませんが,全身の骨や軟骨の異常に伴って漏斗胸が現れるタイプの少数の人では強い脊柱側弯が現れることがあり,小児期から治療が必要です.
以前に私たちの教室で,漏斗胸の人たちと正常胸壁の人たちの間で脊椎の側弯の頻度を調べたことがありますが,側弯は漏斗胸の人たちに多かったという結果が得られました.

        図1.正常胸郭                 図2.漏斗胸胸郭

 

                図3.漏斗胸

 

“なにか機能的な問題があるの?”

ある程度の陥凹を持った例においては,前胸壁の陥凹により,心臓が押されて,左にかたよります.すると心臓に押されて,その部分の肺がふくらみにくくなります.
これが幼少時には風邪にかかりやすい,また風邪を引くと肺炎になりやすいといったことと関連していると考えます.
しかしこの上気道炎の易感染性に関しては,年齢の増加に伴い(通常3歳過ぎる頃から)目立たなくなってきます.
また前胸壁の陥凹や,もともと胸が薄いといったことによって肺活量はその分少ないだろうと予測されます.
外来診療において,漏斗胸のお子さんが友達に比べて体力が無い,とおっしゃる親御さんは時々あります.
幼小児期には,体力の限界まで運動をすることはほとんど無いと思われますが,小学校高学年や中学になるとそのようなこともあるでしょう.
そういった場合に,やや少ない肺活量や陥凹する前胸壁に押されて膨らみにくい心臓によって運動の限界が少し低く出る人があると思われます.
しかし心肺機能は運動で鍛えれば上がることも事実であり,漏斗胸だから心肺機能が低いままだ,ということはないと考えます.

心臓は押されて位置が変わっています.
普通と心臓の位置が違うため,心電図検査を行うと不完全右脚ブロックという心電図波形が現れることがありますが,心臓の位置が少し違うためだけであることが多いと思います.
心臓の機能自体が低下することはまれだと思われます

思春期後期に,前胸部の違和感や,なんとなく苦しい,と訴えて来院される方があります.我々の診療経験ではその数は多くはありません.
そのような方達の肺機能検査や心機能検査を行ってみても,とくに異常を認めませんでした.
程度の差はあれ陥凹によって肺や心臓に圧迫があることは間違いないので,微妙な圧をそのように感じるのではないかと考えています.
心肺機能に問題が無いとわかった後からも来院される方はありません.

以上のように、漏斗胸の子供の心肺機能に“まったく問題ない”とは断定できませんが,機能低下のある例はほとんどないと考えます.
日常生活においては,普通の子と何ら変わりなく飛びはねて成長していく子がほとんどです.
したがってこんなに元気なのに手術?と迷ってしまうことにもなるわけです.

“漏斗胸の治療にはどんなものがあるの? 年齢によって違うの?”

1.欧州の大人の漏斗胸の人で,手術は受けたくないが治したいと思って考案した治療器具があります.医療器具とは認められていますが,現在まだ健康保険の適用はできないので比較的高額です.
大きな吸盤で,前胸部に貼り付けて胸壁との間の空気を抜くことで陥凹を持ち上げます.子ども用と大人用があります.子ども用は4歳頃から使用するとされています.
まだ胸郭が硬くなってくる前であれば,その効果を望める可能性はあります.我々の診療経験では,期間は短いのですが効果のみられる子とみられない子があります.
効果のみられない子は,おそらく前述の漏斗胸の原因のうち横隔膜からの線維の牽引という因子がとくに強いのではないかと考えています.
大人でも効果があると述べる論文があります.CT画像では吸引によって前胸部の皮下組織が厚くなっているだけにも見えます.皮下に詰物をしたような形ですが,見た目の陥凹は改善しています.
2.手術です.歴史的に,漏斗胸には大変多くの手術術式が考案され実践されてきましたが,最終的にはラビッチ法をもとにした胸骨挙上術に落ち着いてきました.
我々の手術法はラビッチ法の流れを組む胸骨挙上術で,持ち上げた前胸壁が術後に落ち込みにくいように,自分自身の肋軟骨を橋渡しして支えとする,”肋軟骨ブリッジ法”といわれるものです.
やがて世の中には,陥凹する前胸壁の裏側に入れた強大な金属バーで陥凹部分を押し上げるNUSS法が現れ,そのわかりやすさのために全世界の外科医に支持されています.
手術については後に詳述します.
3.漏斗胸の原因が,いびきや無呼吸などの上気道狭窄である場合,幼児期に喉の手術を受けた後に漏斗胸が自然に改善する例があります.
我々の検討では,上気道狭窄以外に原因がない場合には,上気道狭窄の手術を受けた後に漏斗胸の自然改善が望めると考えています.

“手術をするかどうかはどうやって決めるの?”

漏斗胸の手術適応の決定は外見上の異常を本人がどれくらい気にするかが一番大きな要因です.
通常は,幼稚園の年中くらいから人と前胸部が違うということを,他の子どもに指摘されて意識しはじめるようです
何度も同じことを言われ続けるうちに嫌になってしまいます.場合によってはいじめをうけて,本人の性格が内向的になるといった指摘があります.
幼稚園のときは,内心気にしてはいるが手術が怖いので,「大丈夫,何ともない」という子が多いと思います.
しかし最近は,小学生の2年くらいになると,手術は怖いけど治したい,と言う子も増えてきていると思います.

我々はこの観点から漏斗胸の手術適応を考えています.
純粋に心肺機能の低下の点から医学的に手術が必要な例はゼロではないでしょうが,まれです.
したがって本人自らが治したいと意志表示をしない限りは,原則として経過観察を続けます.
前述のように,幼児期から小児期・思春期にかけて,陥凹はごくゆっくりと浅く広くなることが多いからです.
しかし一部の,陥凹の深いタイプ,陥凹の偏りが強いタイプなどでは,我々自らの治療経験に基づく治療結果予想をお話しし,その時点での判断をご家族ににゆだねることは行います.
お子さんの変形がどの程度のものか,どれぐらいの矯正効果が望めるか,我々の外来を受診していただければ,適切なアドバイスをさしあげることができます.

ここで注意を要することは,漏斗胸の子どもは胸が扁平なことが多く,これは後述のどの手術でも治すことは困難だということです.
胸が薄いということが主な不満の原因であれば,手術はすべきではありません.
通常,手術では真ん中のへこんだ部分だけを治すことができますが,胸のうすさは術前と変わりないからです.

また女性の場合は,乳房が発達してくれば胸の中央の多少の陥凹は男性に比べて問題になりにくいと思われます.従って,女児の場合は男児よりも手術に適する例は少ないと考えています.

手術をするかしないかの決定の参考にするため”見た目”の変形に客観的基準を設けています.
それには胸郭のCT画像をもとに計測して算出した数字(勾配率D/W)を主に用いています.
勾配率とは,陥凹の最深部を通るCT横断面において,前胸部の左右の最突出部を結ぶ直線(W)と,Wから陥凹の底に降ろした垂線(D)を引き,D/Wを計算して求めます.
この検査は,3歳を過ぎた頃から始め,1年に1回施行していきます.勾配率(D/W)は,深くて狭い陥凹では大きく,浅くて広い陥凹では小さくなります.
通常,陥凹は年齢とともにゆっくりと,浅く広くなっていきますので,勾配率(D/W)は徐々に小さくなっていきます.


胸郭測定法

         図4.胸郭計測法


この値が,小児では0.15を超える場合に,より積極的に手術を考慮しています.この値を決めた理由は,このあたりから見た目に陥凹が目立つと感じられるからです.
しかし本人・ご家族ともに積極的であるならば,よくお話をしたうえでこの基準をやや下回っていても手術をすることはあります.
一方,基準は越えていても本人,あるいはご家族があまり乗り気でない場合は,さらに追跡期間を延ばして様子をみていきます.

“手術はいつがいいの?”

以前は小学校入学前に手術して矯正することをおすすめしていました.幼保の時期と異なって高学年の子たちがいる小学校では,いわゆる”いじめ”が起きやすいと感じていたからです.
またこの時期はまだ胸郭が軟らかいために手術が行いやすく,合併症も少なくて矯正効果も良好です.
しかし多くのお子さんの術後経過をみていると,術後の比較的早期に再度陥凹が起きてくるケースが認識されました.
術後でも年齢とともに胸郭は硬くなりますのでそのうち再陥凹は止まりますが,胸郭が軟らかいうちに手術をすると術後の再陥凹が起きやすいのではないかと考え,現在は8〜9歳で行っています.
一方で年齢が上がるにしたがって胸郭が大きく硬くなってくるため,手術が大きくなります.また中学生くらいになると人工のささえ(ストラット)が必要になります.
この場合は,ストラットを抜くための追加の手術が必要になります.(現在はストラットを入れるような年齢での漏斗胸の手術は行っていません.当院の形成外科に紹介しています)
漏斗胸の人たちは,もともと肋骨の強度が少ない状況が多いと思われ,そこに思春期以降に始まるいわゆる大人のいびきによる胸郭内の陰圧も加わるので,術後の前胸壁の状況は様々です.

“どんな手術方法なの?”

漏斗胸の手術法はいろいろあります.
おおざっぱに言って,前述の,陥凹する胸骨を持ち上げる”胸骨挙上術”と,へこんだ胸壁をとりはずしてひっくりかえす”胸骨翻転術”があります.

胸骨翻転術(あまり行われていません).
翻転術は陥凹した胸骨と周囲の肋軟骨を含む胸壁を切離して左右をひっくり返してもとの場所に縫合するもので,へこんでいた部分が盛り上がることになります.
私たちの経験からは,“見た目”を矯正する手術にしては,翻転術は手術が大きすぎると考えています.
また傷も大きくなります.
漏斗胸の手術は前述のように“見た目”を気にして行う手術なので,術後の傷痕はできる限り小さくまたきれいな方が良いことは当然です.

胸骨挙上術はラビッチという人が始めた手術が広く行われてきています.
我々の行っている手術はこの胸骨挙上術のひとつです.

ラビッチ法のもともとの術式を次に述べます

変形した軟骨を切除(第3から第7〜8肋軟骨まで)
胸骨の裏面に割をいれ,楔状の(軟)骨を埋め込んで胸骨の変形を矯正
左右の第2肋骨を胸骨の外側でそれぞれ離断し、胸骨側の軟骨を肋骨側の軟骨の上に重ねて縫合(ラビッチ固定)
というものです。

この方法では切除した軟骨の部分は骨の支えがないため,術直後はふにゃふにゃの状態が続きます.数ヶ月すると硬くなってきます.
その間は,呼吸の際にふにゃふにゃの胸壁が逆に動いて呼吸困難となるため,金属の細い板(ストラット)などの人工物を用いてふにゃふにゃの胸壁を支える必要があります.
このストラットは術後半年以降に全身麻酔で取り除きます.

われわれはこの手術を改良し,術直後から胸壁の固定が良好な「
名市大二外法(肋軟骨ブリッジ法」を工夫・完成し,これを用いてきました.
症例も200例を重ね,論文,学会などでも発表してきました.
この方法を自信をもっておすすめします.

私たちの漏斗胸手術(肋軟骨ブリッジ法)

昭和63年の夏から行っている,私たちの漏斗胸手術です.
この方法は永い時間をかけ,いろいろな工夫を重ねながら完成されたもので,他の方法に比べて術直後の胸壁の固定が十分で,なおかつ術後長期の矯正効果も良好です.

皮膚の傷は陥凹の中心を通る約8cmの縦傷です.
左右とも3番目から7番目までの肋軟骨を一部切って短縮します(軟骨膜は残します.また軟骨は後に再縫合します).
ラビッチ法のように切除したままにしないで、残った軟骨を胸壁の固定に使うように工夫したものです.
8番目の軟骨は通常はその先端の数cmを切除短縮します.

     図2.漏斗胸胸郭(再掲)           図5.左右両方の第3から
                                第8肋軟骨を胸骨から切離
                                したところ

胸骨を真ん中あたりにおいて横に切断し,胸骨の一部を切除して少し短くします.
この工夫も,かっちりした胸壁の固定に役立っています.

    図6.胸骨の,第4肋軟骨の下から      図7.尾側の胸骨周囲を剥がして     図8.頭側の胸骨背面で,第2と
     第6肋軟骨の上までを切除・短縮       挙上                      第3肋軟骨の間に割を入れ,
                                                         胸骨を前方に折り曲げて挙上

両側の4番目あるいは5番目の肋軟骨どうしを,少し短縮してから真ん中で縫い合わせて生体ブリッジとします.

    図9.両側の第4肋軟骨を真ん中で
     縫合して生体ブリッジを作成

このブリッジに乗せるように,横断した頭側の胸骨と尾側の胸骨とを縫い合わせます.
これで胸骨はブリッジに支えられてほぼ平らとなり,再陥凹しにくくなります.

    図10.ブリッジの前方で,頭側と
     尾側の胸骨を縫合再建

あとは短くした3番目から7番目までの肋軟骨のそれぞれを,胸骨側に残った少しの肋軟骨に縫いつけます.

    図11.左右の第3から第7肋軟骨を
     胸骨側に縫合再建

肋骨を切除するだけのラビッチ法とくらべ,胸壁の固さが術直後から十分にあります.
糸を外に出さないようにして傷を縫合し,テープで固定します.
糸が体外に出ませんので,抜糸はありません.

手術時間は3時間強で,出血は80mlから120mlくらいです.輸血は必要ありません(この手術で輸血したことはありません).
通常,術翌日の午後には歩行をはじめます.
術後は傷が痛みますが,その程度は個人差が大きいです.痛みは,解熱・鎮痛の坐薬でコントロールできますが,もう少し強い鎮痛薬を用いることもあります.
また風船をふくらませて肺が縮まないようにします.この風船訓練は術前から行います.
術後はなかなか風船が膨らみませんが,時間とともに膨らむようになります.膨らませた回数を記録しています.目標は100回です.ほとんどの子たちはこの目標を超えます.
退院は術後8日目にします.
このときは小走りするくらいは,皆平気でしています.
術後1ヶ月間は一般的な運動を制限しますが,胸壁のプロテクターなどはしません.
その後2ヶ月間は前胸部に衝撃の加わることはしないようにしています.術後3ヵ月が過ぎて以降ははまったく自由です.
術創をできるだけきれいにするために,術後約半年間(創部のピンク色が消えるまで)テープによる固定と,薬剤の服用をすすめています.
肋軟骨ブリッジ法では,手術はこの1回だけです.異物を用いないので後に抜くための手術は必要ありません.


 図12.(再掲) 漏斗胸術前 中央よりやや右に陥凹の中心がみられます.このくらいの陥凹ですと,中等度あたりの漏斗胸です.

 

図13.漏斗胸術後7日目 傷の長さは,この状態で約7cmです.まだ傷の下が腫れているので盛り上がっているように見えますが,時間とともに平坦になっていきます.

 

図14.漏斗胸術後6ヶ月 傷の腫れも一段落し,ピンクの色が付いていた傷痕が白くなったころです.テープ固定を続けているため皮膚がやや光って見えます.術直後の腫れがひいてわずかに陥凹していますが正常範囲内です.

“NUSS法(ナス法)について”

NUSS法とは,U字型の強大な金属バー(NUSS bar)を陥凹胸壁の裏側に入れ,ひっくり返すことで凸になったバーのてっぺんが前胸壁を押し上げることによって陥凹を修正する方法です.
この方法が世に出るまで漏斗胸の手術は,外科医が外科医の責任において,患者さんに全身麻酔がかかっている間に陥凹の矯正を行うものでした.
しかしNUSS法では,全身麻酔がかかっている間に外科医が比較的短時間で小さな傷から体内に入れたU字型NUSSバー自身が,ひっくり返した直後から外科医の手を離れて前胸壁を押し上げます.
漏斗胸に対してそれまで外科医自身が行ってきた役割を,体内に入れた金属バーに任せたという点で,漏斗胸治療の考え方がまったく異なります.
陥凹を治すという言わば”手術”が,NUSS法では全身麻酔が覚まされた後も続きますので,患者さんにとっては当然とてつもない痛みがあります.そのため,硬膜外麻酔という鎮痛手段が必須です.
子どもで硬膜外麻酔ができない場合,術後にベッド上で泣き叫んでいると,知人の医師から聞いたことがあります.今は静脈経由の鎮痛を行いますが,子どもは気持ち悪がることが多く,いやがります.
子どもの体は時間とともに大きくなりますから,金属バーを入れたら後に抜かなければなりません.現在はおおよそ2年後に全身麻酔下に手術で抜去をすることが多いようです.
NUSS法は,このように最低2回の手術が必要です.
NUSS法ではNUSSバーという異物を用いますので,感染の危険性があります.抗生剤が有効でなければ,せっかく入れたバーを手術で抜かなければならないこともあります.

“漏斗胸手術は子供にとってどれぐらい大変なの?”

手術を受けた子についてですが,やはり子どもなりに大変だったと考えていることが多いだろうと思います.
この件に関して術後に詳細に問診した経験はありませんが,ある兄妹で,兄が著明な漏斗胸で妹は比較的軽度であった例において,兄に術後外来において尋ねてみたことろ,妹に手術しないほうがいいよといっていた例がありました.
しかし,子供達はけっこうたくましく,体調が戻ってくればまったく元と同じようにとびまわっています.

“漏斗胸手術(肋軟骨ブリッジ法)の合併症”

創下水瘤: 皮下の剥離面積が大きい手術なので滲出液がたまることがあります.針で抜きますが,痛くはありません.
創感染: 滲出液がたまると創感染が起こることがあります.感染が起きると浸出液がたまらなくなるのにやや時間がかかります(まれです).
術後無気肺: 術直後は傷が痛いため,十分深呼吸ができず、肺のふくらみが悪くなります.
ひどくなれば肺炎や胸膜炎をおこしますが、痛み止めを使い、またふうせんをふくらませたりして予防します.
部分的な無気肺で処置の必要のないものはこの手術後半数以上のひとに見られます.
傷の痛みがとれ,元気に歩くようになれば自然に改善します.

“漏斗胸手術(肋軟骨ブリッジ法)のきずあとは?”

傷の大きさは,へこんでいた部分の上から下までを縦に走る約7cmです(手術時の切開よりやや小さくなります).
体が大きくなると,傷もいっしょに長くなります.
ムカデの足や地図の線路のような横のすじはつきません.
術直後は傷は一本のほそいすじです.

しかし前胸部は比較的傷が広がりやすく,術後何年もしてから幅の広いケロイド状の瘢痕(はんこん)になることがあります.
いったんケロイドになるとこれを切除してもまた再発することが多いです
薬を飲んだり,テープをはったりしてこれを予防するようにしています(上の写真をみてください)
これまでこの手術のあとでケロイドになったのは,術後の傷のテープ固定と薬の服用を途中でやめてしまった人だけです.

“漏斗胸手術(肋軟骨ブリッジ法)後の再陥凹について”

漏斗胸術後は術直後とくらべると,時間がたつにつれ若干の陥凹がみられることが多いです.
術直後は特に傷のはれなどがあって実際より盛り上がっていることが多く,はれがひくとともに若干陥凹してきます.
またどんな手術方法にしろ,人工物を用いて胸骨を長年にわたって支えてやらないかぎり,ある程度の陥凹はさけがたいものです(NUSS法でも2年間のバー留置後の抜去でも再陥凹があります).
人工物を長期間にわたって身体内に留置固定するのは,体が成長する小児ではできません.そこで成長に伴って長くなる自家肋軟骨ブリッジが役に立ちます.
この再陥凹は,多くは程度の軽いものです(正常の方でも胸の中央は少しは陥凹している方は多いです).我々から見て再手術の必要のある方はごくまれです.
しかし中には,通常の範囲を超えて再陥凹する人もごく少数ですがありました.理由は,体格が小さいために胸郭が軟らかすぎた,肋骨の硬さが通常の漏斗胸の人より足りなかった,というものです.

術後アンケート調査結果

平成11年4月に,以下の無記名はがきアンケート調査を,肋軟骨ブリッジ法手術を受けた本人と保護者に行いました.

1.現在前胸部に陥凹があると思いますか?    a.思う b.思わない c.わからない

2.術前より改善したと思いますか?       a.思う b.思わない c.わからない

3.術後,陥凹が徐々に進んでいると思いますか? a.思う b.思わない c.わからない

4.手術の傷痕は小さいと思いますか?      a.思う b.思わない c.わからない

5.手術の傷痕がきたないと思いますか?     a.思う b.思わない c.わからない

6.傷の痛みはありますか?           a.ある b.ない   c.わからない

7.手術の後,より積極的になったと思いますか? a.思う b.思わない c.わからない

8.手術をしてよかったと思いますか?      a.思う b.思わない c.わからない

9.ほかの人にも手術を勧めますか?       a.勧める b.勧めない c.わからない

10.全体の満足度を5段階であらわすと?

1大変満足 2満足 3どちらでもない 4不満がある 5大変不満

11.何かご意見があればご記入下さい.

有効回答は138例,67.4%でした.結果は以下のとおりです.

アンケート結果1

アンケート結果2

漏斗胸の治療は,患者さんの年令、性別、変形の程度、期待できる矯正の程度、術後の創痕などを総合的に考えて決めなくてはなりません.
これらを担当医から納得できるまでよくお聞きになり,担当医とのよい信頼関係のうえで手術を決断してください.

なにかご質問、ご相談がありましたら、直接外来(月曜と金曜の午前)へおこしくださるかメールをお寄せ下さい.

私たちの手術法”肋軟骨ブリッジ法”を中心として,そこに到る歴史を含めて 故 正岡 昭 先生が海外の雑誌に投稿しています.よろしければご覧下さい.

2016.5.1修正
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