習慣流産・不育症グループ〜習慣流産・不育症のみなさんへ〜
名古屋市立大学では1980年から習慣流産の研究を行ってきました。妊娠できない不妊症に対して、妊娠はするけれど流産・死産によって生児が得られない場合を不育症といいます。3回以上連続する流産を習慣流産といい、私たちは代々“習流”と呼んでいます。
私たち大人が癌や脳梗塞などのいろいろな病気で死亡するのと同じように胎児もいろいろな病気で亡くなります。習慣流産も多角的な原因の結果として起こっています。習慣流産はまだ分からないことが多く、そのために研究分野であり、産婦人科医師によっても説明が異なり不安になることも多いと思われます。みなさんにこの病気を理解していただくために名古屋市立大学を受診された不育症患者さんから得られたデータにもとづく情報を掲載しました。すべて、医学雑誌の厳しい審査を経てエビデンスとなった情報です。習慣流産は決して絶望的ではなく85%以上の患者さんが出産にいたっています。残念ながら流産を繰り返した患者さんが流産を避けることは困難です。流産と向き合いながら、出産を目指すことが大切です。
杉浦真弓
[掲載日:2010年3月24日]
目次 ※各リンクをクリックしてご覧下さい。
1.不育症・習慣流産の定義と疫学
妊娠はするけれど流産・死産を繰り返して生児を得られない場合を不育症といいます。日本では流産は妊娠22週未満の娩出と定義されていますが、大多数は妊娠10週未満の早期流産です。流産は妊娠の最大の合併症であり約15%おこります。これは女性の加齢とともに増加するため、今の日本の妊娠女性の年齢から推定された頻度は15%です。40歳を過ぎると50%が流産するというデータもあります。名古屋市立大学の患者さんも年齢が時代とともに増加しており、不育症の患者さんも増加していることが推定されます(文献1)。Recurrent miscarriageとは3回以上連続する流産(習慣流産)のことをいいますが、2回以上(反復流産)で検査を希望する患者さんもたくさんいます。
不育症の患者さんがどれくらいいるのか、日本で調査をされたことはありませんでした。名古屋市立大学産婦人科と公衆衛生学鈴木貞夫講師が実施した「岡崎コホート研究」によれば、一般集団における習慣流産頻度は1.5%、不育症頻度は6.1%であり、妊娠したことのある女性の41%が流産を経験していることが判明しました。この結果は大変インパクトがあり、8月3日中日新聞、11月13日朝日新聞等の一面に掲載されました。
【参考記事】
「中日新聞掲載記事」
2.不育症の検査と原因
不育症の原因は母体側と胎児側に分けることができます(図1)。母体側に関しては抗リン脂質抗体5-15%、子宮奇形3.2%の頻度でみられます。国際抗リン脂質抗体学会の定義を満たす“本物の”抗リン脂質抗体症候群は5%未満です。内分泌異常は教科書的にも原因と考えられてきましたが実は質の高い研究はあまりありません。
Evidence Based Medicine(証拠にもとずく医療)という言葉はみなさんにはなじみがないかもしれません。1980年代に提唱されましたが、不育症の領域ではまだ証拠にもとづく医療がなされていると言えないところがあります。
臨床研究のエビデンスにはI〜IVまでレベルがあります。
- I メタアナリシス いくつもの無作為割り付け試験を集めて再解析したもの
- IIa 無作為割り付け試験 A薬を投与する群:B薬物なし群を振り分けて次の妊娠の成功率をA群:B群で比較するAが統計学的に有意差をもって成功率が高ければA薬は有効と考える
- IIb 無作為割り付け試験ではないが前むきにA群:B群を比較する
- III 横断研究 ある検査異常が健常人に比べて習慣流産に多い、というような頻度を比較する研究
- IV 権威者の意見 教授の発言が正しいとは限らない、ということ。
Iが一番レベルが高い研究であり、IVが最も低いレベルであることは言うまでもありません。ガンに関してはレベルの高い研究で証明されていない抗がん剤が使われることは恐ろしく、ありえないことですが、不育症は研究者も少なく、レベルI、IIの臨床研究が少ないというのが現状です。また、医師の中にもエビデンスレベルを理解していない人もいることも問題です。エビデンスレベルは比較的新しい概念であり、若い医師の方が大学で習ったのでよく知っていたりします。
免疫異常、血栓性疾患、遺伝子異常、精神的ストレスなどの関与が報告されていますが確実な原因とは言えません。日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会の学術担当者が論文を調べてガイドラインを作成した推奨レベルをA-Cで示します。
一方、胎児側としては夫婦の染色体均衡型転座4.5%が有名です。これを胎児側原因としたのは均衡型では出産でき、不均衡な染色体の胎児のみが流産するからです。また、夫婦の染色体が正常でも胎児染色体異常を繰り返す患者さんが約50%存在すると考えています。日本産科婦人科学会のガイドラインにも記載されていませんが、欧米では私たちの研究も含めて多数の論文があり、間違いなく習慣流産の明らかな原因です。
[図1]

3.抗リン脂質抗体症候群
1952年に血液中の凝固時間を延長させる物質circulating anticoagulantとして報告されたのがLupus anticoagulant(LA)の最初の報告です。1975年にはこの物質と子宮内胎児死亡の関係が報告されました。1980年代にはcardiolipin (CL), phosphatidylglycerol, phosphatidylcholine, phosphatidic acid, phosphatidylinositol, phospatidyethanolamine(PE)に対する自己抗体の測定が盛んに行われ、後に抗リン脂質抗体症候群Antiphospholipid Syndrome(APS)と呼ばれるようになりました。
国際抗リン脂質抗体学会が提唱する抗リン脂質抗体症候群診断基準によれば、
(a) 妊娠10週以降の胎児奇形のない1回以上の子宮内胎児死亡
(b) 妊娠高血圧症候群もしくは胎盤機能不全による1回以上の妊娠34週以前の早産、
(c) 妊娠10週未満の3回以上連続する原因不明習慣流産
を妊娠合併症としています。
現在本邦において検査が可能な測定方法には抗カルジオリピン IgG, IgM, β2GPI依存性抗CL抗体、ラッセル蛇毒RVVTを用いたLA(LA-RVVT), prothrombin抗体、PE IgG, IgMなどがあります。診断基準には中等量以上の抗カルジオリピン IgG, IgM(40GPL, 40MPL以上), β2GPI依存性抗CL抗体、LAが含まれています。これらの検査は精度が高くないために、12週以上あけてもう一度陽性になったら診断することが決められています。
β2GPI依存性抗CL抗体については開発された当時、名古屋市立大学の妊婦さん1125人に調べて、陽性の人に子宮内胎児死亡、子宮内胎児発育遅延、妊娠高血圧症候群(中毒症)が多いというレベルIIの前向き研究を行い、その検査の意義を証明しました(文献2)。
名古屋市立大学の研究室では独自のループスアンチコアグラントaPTT 5倍希釈LA(LA-aPTT)の測定を行い、無治療では53.8%の次回流産率が抗凝固療法によって19.6%に改善できることを確認しています(文献3)。私たちは現在、学会の診断基準にある3種類の抗リン脂質抗体(LA-RVVT、β2GPI依存性抗CL抗体、LA-aPTT)の測定を行っており、いずれか陽性率は約10%であるが、12週間後の再検査で陽性となり診断基準を満たす抗リン脂質抗体症候群は4%でした。
抗リン脂質抗体は膠原病の患者さんに高頻度にみつかることから抗核抗体との関係がしばしば報告されてきました。私たちは抗リン脂質抗体陰性の反復流産患者において抗核抗体の陽性率は健常妊婦よりも高頻度に検出されるが、次回妊娠において流産率は陽性・陰性例において有意差がないことを医学雑誌LANCETに報告しました(文献4)。
抗PE抗体は不育症患者における陽性率が高い(10-15%)ためにこの検査がしばしば行われ抗凝固療法が実施されています。しかし、レベルII以上の研究がないため、名古屋市立大学において原因不明不育症患者369人の凍結保存血清を用いて抗PE 抗体IgGを測定し、次回妊娠帰結について検討しました。抗PE 抗体の陽性率は10.3% (38/369)でした。LA-aPTT, LA-RVVT, β2GPIaCL陽性例に対しては基本的に抗凝固療法を行っており、薬物投与を行わない症例において抗PE抗体が陽性でも陰性でも出産成功率に差はありませんでした。そのため私たちは抗PE抗体の測定の意義が乏しいと考えています。しかし、Yamadaらの妊婦の調査では妊娠高血圧症候群と関係するという前向き研究があり、不育症における意義はまだ検討が必要と考えています 。
4.抗リン脂質抗体症候群の治療
流死産予防としては低用量アスピリン・ヘパリン療法が標準的治療法であり、生児獲得率は70-80%と報告されています。名古屋市立大学では基礎体温から正確に妊娠週数を計算し、妊娠4週からアスピリン内服とヘパリン注射を開始し、妊娠36週0日でアスピリンを中止、ヘパリンは分娩の前日まで持続する方法を行っています。抗リン脂質抗体が陰性で抗核抗体陽性の場合、薬物投与の必要はありません。
国際学会の診断基準を満たさない場合、つまり抗リン脂質抗体が陽性だったけど12週間後に陰性になった場合、流産予防が必要かどうかを調べてみました(文献5)。アスピリン単独投与群と薬なし50.0% (8/16)を比較するとアスピリン投与群の生児獲得率84.6% (44/52)の方が高いことが明らかとなりました。12週間待つのは大変ですが、注射をしなくていいのはとても楽なので2回目を検査する価値はあると思います。
5.夫婦の染色体異常―均衡型転座
染色体はすべての細胞の核の中にあり、ヒトでは46本あります。約3万個の遺伝子を含んでおりこれによって親の形質が受け継がれています。染色体均衡型転座が習慣流産患者に高頻度に見られることは古くから報告されていました。転座とは染色体の2ケ所が入れ代わることをいいます。トータルの遺伝子は変わりないのでそのひとは全く健康で正常な人ですから“異常”ではありません。しかし、卵、精子ができる時だけ遺伝子の不均衡(アンバランス)が起こります。アンバランスを生じた卵、精子は流産します。転座をもつ人がどれくらい流産するかについての報告は長い間ありませんでした。
私たちは1284 組 の反復流産患者の原因精査後の1回以上の妊娠帰結を世界で初めて報告しました(文献6)。相互転座を持つ夫婦47組中15組(31.9 %) が診断後初回妊娠で出産できました。一方、染色体正常夫婦1184組中849組(71.7%)が出産に成功しており、均衡型相互転座をもつ夫婦の流産率が高いことが証明されました。しかし、さらにその後の妊娠を観察したところ、47組中32組(累積生児獲得率68.1 %)がさらなる流産を経験して生児を得ることができました。シカゴのグループは初回妊娠65%、累積成功90%と報告しています。オランダのグループは累積生児獲得率について転座の夫婦83%、染色体正常夫婦84%と報告しており、このグループは転座保因者の予後は正常群と変わらないと結論づけています(文献7)。
先ほどの私たちの研究で、Robertson型転座保因者11人のうち7人が(63.6%) が診断後最初の妊娠で出産しており、これは染色体正常の夫婦と差はありませんでした。FISF法を用いた精子解析で相互転座保因者の精子の46.9% が正常あるいは均衡型である交互分離を示し、Robertson型転座保因者では88%が交互分離を示しており、Robertson型転座は相互転座よりも成功率が高いことが推測できます。
私たちの2004年の報告は約15年間の臨床データであり、既往10回、13回流産歴をもつ患者を含んでおり、検査後に1回流産した後に受診しなくなった患者さんを“失敗“に含めているため、成功率が低くなっています。そこで2003年から2005年の間に多施設共同研究(名古屋市大、名古屋市立城西病院、東京大、大阪府立母子センター内科、慈恵医大、慶応大、国立成育医療センター、東海大、日本医科大、富山大)を行いました(文献8)。2382組の患者のうち85組(3.6%)に均衡型転座がみられました。相互転座に関しては、診断後初回妊娠において63% (29/46組)が生児獲得できました。
個々の患者さんがどれくらい流産するかを予測することはできません。つまり、転座している染色体の位置によって不均衡がどれくらい起こるかが違うからです。なお、9番逆位は正常変異であり流産とは関係しません。
6.染色体均衡型転座に対する着床前診断
2007年から日本でも習慣流産患者の着床前診断が始まりました。体外受精によって得られた受精卵の割球を取り出し、均衡型の受精卵のみを胚移植して流産を防止する技術です。本邦では遺伝性疾患についての着床前診断が優性思想につながるという考えから、慎重に審議されています。日本産婦人科学会は症例ごとに審議をして重篤な遺伝性疾患に限って認めるという規則をつくっています。
着床前診断が社会から批判される理由として、
- 生命の廃棄
- 優生思想につながる
- 自然妊娠が可能な女性に対して体外受精を行う
- うまれてくる児の長期的安全性が不明
という問題があります。
体外受精の合併症としては、
- たくさんの卵を育てるために排卵誘発剤をつかいます。この副作用として卵巣過剰刺激症候群が起こります。これは脱水をおこしては重症例で脳梗塞のために死亡した患者さんがいます。
- 卵をとる採卵は痛みがあるので麻酔を使います。麻酔の種類は流産の手術のときに使うものとあまりかわりません。麻酔には合併症が伴います。
- 採卵のときに腸や血管を針で刺して臓器損傷を起こすことがあります。
ヨーロッパヒト生殖医学会ESHRE PGD Consortiumによれば、着床前診断によって生まれた児の体重は3225gと標準的であり、先天異常は5.8%(47/813)に確認されましたが、これは顕微授精における頻度と同等と考えます。発達に関しては2歳時点では自然妊娠との差はみられていませんが、長い目で見た児への安全性はまだわかっていません。
現在転座保因者に対する着床前診断の出産成功率を示す、症例報告ではない論文は3つあり、採卵あたりの成功率は23.7 %、47.2 %、6.2%です。着床前診断を繰り返して行ったら何%の人が出産できるということはまだ報告されていません。前述のとおり、自然妊娠の診断後初回妊娠成功率は31.9%-65%です。着床前診断によって流産を少し減らすことはできますが、出産ができなかった人ができるようになる、ということは証明されていません。
着床前診断は体外受精が前提なので1回当たりの妊娠率は女性の年齢によって異なり、10-30%であり、数回の体外受精+着床前診断を繰り返して妊娠することになります。オランダのグループによれば自然妊娠による累積成功率は83%であり、着床前診断によってここまで成功できるかどうか疑問ではあります。
7.子宮奇形
子宮奇形の診断のために子宮卵管造影法を行います。3D経膣超音波検査、MRIでもわかる場合がありますが、子宮卵管造影法のほうが子宮底部の観察に優れています。
私たちの1676例の検討では単角単頚子宮、双角子宮、中隔子宮などの子宮奇形は3.2%にみられました。弓状子宮を含めると頻度は高くなりますが、過去の報告からも弓状子宮が流産の原因とは考えません。子宮奇形が診断された患者さんの妊娠帰結を世界で初めて報告しました(文献9)。子宮奇形(双角子宮、中隔子宮)をもつ人と正常子宮をもつ人の診断後初回妊娠成功率は9.5%(25/42), 71.7%(1096/1528, p=0.084)、累積成功率は78%, 85.5%であり、子宮奇形を持つ人の成功率が低い傾向にありました。胎児染色体異常率はそれぞれ15.4%(2/13), 57.5%(134/233, p=0.006)であり、子宮奇形を持つ患者さんは胎児染色体正常流産を起こすことが証明されました。つまり、やはり子宮奇形は不育症の原因であるということです。また、子宮奇形を持つ患者において欠損部分が大きいほど有意に流産率が増加しました(p=0.006)。ただし、手術を施行しなくても78%の患者さんが出産しているという意味でもあります。
産婦人科の教科書にも双角子宮、中隔子宮に対する手術が書かれていますが、手術をした場合としなかった場合の出産率について調べた研究はありません。現在多施設共同のデータを収集していますが、手術は今のところ慎重に考えるべきと思います。
8.内分泌異常
基礎体温表を記録してもらい高温5-9日にProgesterone値(P)測定を行います。黄体機能不全(P<10ng/ml)は23.4%の患者さんにみられました。しかし、これが習慣流産の原因かどうかは結論が得られていません。反復流産患者について黄体機能不全のあるなしでその次の流産率を調べたところ、正常群、異常群ともに変わらないという結果が得られました(文献10)。そのため名古屋市立大学ではホルモン療法は原則として行っていません。黄体機能は毎周期ごとに異なるのでこれだけで評価するのは難しいと思われます。
プロラクチンとはお乳を分泌するホルモンです。これは普段から脳から分泌されており、高プロラクチン血症は排卵障害をひき起こし不妊症と関係することが知られています。高プロラクチン血症が習慣流産を起こすかはまだはっきりしていません。妊娠9週までブロモクリプチンを投与することで成功率が改善できたとする報告がたったひとつありますが、その後それを支持する報告はありません。
糖尿病、甲状腺機能異常は原疾患の治療が流産になります。糖尿病と診断される例は1%程度ですが、妊娠前からインシュリン療法を行うことで6回流産した人が出産に成功しています。軽度の甲状腺機能低下は約10%にみられるが、治療の必要性についてはまだはっきりしていません。しかし、糖尿病や甲状腺疾患は流産だけでなく、その後の妊娠合併症とも関係しますので内分泌内科による治療は必要と考えています。
9.凝固系異常(血栓性疾患)
抗リン脂質抗体症候群は子宮・胎盤の血栓(血がつまること)によって血液の流れが悪くなり流・死産を起こすと考えられています。同じように生まれつきプロテインC、プロテインS、アンチトロンビンという血栓を予防する物質が低下している人が流・死産を起こすかもしれないと考えられました。
しかし、大多数の流産は胎盤ができるうんと前に起こるのであってこの理論はあたらないことが推測されました。名古屋市立大学においてプロテインC、プロテインS、アンチトロンビン、凝固第XII因子の低下と反復初期流産の関係を調べてみました(文献3)。反復流産患者536人についてそれぞれの因子を調べ、各因子の低下した例と正常例についてその後の妊娠帰結を比較したところ、プロテインC、プロテインS、アンチトロンビンについては低下症例も正常例もその後の流産率に差を認めませんでした。そのため習慣流産についてはこれらの検査は必要ないと考えます。ただし、原因不明の子宮内胎児死亡を経験した人は検査する必要があります。
一方、第XII因子の低下は反復流産患者の16%に認められ、低下している症例の80%がその後に流産したのに対し、正常例では23.9%の流産率であり、第XII因子の低下はその後の流産の危険因子であることが判明しました。また、XII因子低下症例に抗凝固療法を行ったところ流産率は12.5%に減少しました。この論文の中でXII因子に関しては症例数が少なく、この結果が本当に正しいかはまだわかりません。同じことを言っている論文が2つありますが、もっと臨床研究が必要です。
10.原因不明習慣流産―胎児染色体異常流産
妊娠の15%に流産が起こり、流産の50-70%に胎児の染色体異常がみられるが、それは偶然起こることであって、習慣流産の原因ではないとして長い間“胎児染色体異常による習慣流産”の存在は無視されてきました。私たちは反復流産患者の1309妊娠について既往流産回数別流産率と胎児染色体異常率を検討しました(文献11)。既往流産回数が増えるに従って流産率は高くなり、染色体異常率は減少しました(表1)。しかし、既往流産回数2-4回では染色体異常流産は50%以上存在しました。反復流産患者においても胎児染色体異常は重要な原因のひとつであることがわかりました。ただし、胎児染色体異常がみられたときの次回妊娠の成功率は胎児染色体正常であった時よりも有意に高率でした(62% vs 38%、オッズ比2.6)。つまり、胎児の異常というのは“いい結果“なのです。
| 過去の流産回数 | 流産率 | 染色体異常率 |
|---|---|---|
| 2 | 23.2 (105/452) | 63.6 (35/55) |
| 3 | 32.4 (149/460) | 59.0 (46/78) |
| 4 | 37.0 (71/192) | 55.3 (21/38) |
| 5 | 48.7 (38/78) | 38.9 (7/18) |
| 6 | 64.1 (25/39) | 28.6 (4/14) |
| 7 | 66.7 (16/24) | 50.0 (4/8) |
| 8 | 70.6 (12/17) | 0 (0/7) |
| 9 | 78.6 (11/14) | 28.6 (2/7) |
| 10 or more | 93.9 (31/33) | 11.0 (1/9) |
流産は女性の加齢によって増加します。胎児染色体異常も女性の加齢とともに増加します。現時点の染色体のG分染法による胎児染色体異常は70%です。最近のマイクロアレイCGH法を用いた研究によれば流産の80%に染色体微細欠失を含む胎児染色体異常がみられたということです。胎児染色体異常をn回繰り返している確率は(0.8)nと推定できます。つまり、平均3回流産歴をもつ習慣流産集団の約51%は胎児染色体異常によるものと考えられます。さらに片親性ダイソミー、メチル化異常といったエピゲノム異常も流産に関与していることが報告され、習慣流産には胎児先天異常によるものが私たちの想像よりもはるかに多く起こっています。
このような患者さんは薬剤投与の必要性はなく、一定の確率で成功できます。私たちの検討で、2回流産なら76%(444/582)、3回70%(83/118)、4回79%(19/24)、5回50%(3/6)の成功率が得られています(論文未発表)。現在報告のある介入の有効・無効についてLancetのseminarが示したエビデンスレベルを表2に示しました(文献12)。
| Level of evidence | |
|---|---|
| 介入のbenefit | |
| 抗リン脂質抗体症候群に対するアスピリン・ヘパリン療法 | Ib |
| 支持的精神療法 | III |
| 血栓性疾患に対するヘパリン療法 | IV |
| 介入のno benefit | |
| プロゲステロン補充 | I |
| イムノグロブリン/ステロイド | Ia |
| 原因不明に対するアスピリン | IIa |
| 受精卵スクリーニング | IIa |
Rai R & Regan L, Lancet 2006
私たちの検討で夫婦染色体異常、子宮奇形のない夫婦の85%が累積成功しています。次回生児獲得率pは
logit(Ps)=3.964-0.0652×(女性の年齢)-0.408×(既往流産回数)
の計算式で推定できます(文献1)。あなたの年齢と今までの流産回数を入力してみてください(ただし、7回以上の場合の計算は正確にできません)。次回の妊娠での出産成功率がわかります。
【ご案内】
名古屋市立大学に受診された患者さんには具体的な次回妊娠の成功率をお話します。
11.原因不明習慣流産に対する着床前診断
欧米では、胎児染色体数的異常流産に対して胚スクリーニングが行われています。Platteauらの報告によると4.46回流産歴のある25人の原因不明の習慣流産患者に着床前診断を行ったところ妊娠継続できたのは25%の人でした。私たちの調査では過去5回流産歴のある患者さんの51%が次回自然妊娠で出産できており、Platteauらも胚スクリーニングの有効性は認められないと言っています。
着床前診断は前述のとおり、生命の廃棄、優生思想を助長するという批判もある技術のため、日本産科婦人科学会は胚スクリーニングは承認していません。
12.原因不明習慣流産に対する免疫療法
人間の体には自分自身と他者を区別して、他者を排除する「免疫」の仕組みを持っています。母体にとって胎児は半分が他者であるにもかかわらず、免疫学的拒絶反応を免れています。Medawar博士は1953年、妊娠を自然の移植成功例として捕らえ、
- 胎児は抗原として未熟であり、母体免疫系に認識されない。
- 子宮は免疫学的に特殊な部位にあり、母体の免疫能は妊娠中低下している。
- 母児間は胎盤によって隔絶している。
といった仮説を提唱しました。この仮説は現在では否定的ですが、それ以来、移植免疫学的手法を用いた研究が積み重ねられ、現在の生殖免疫学の基盤が築かれました。
1981年、原因不明の習慣流産の治療として夫リンパ球による免疫療法が報告されました。当初、夫婦のHLA抗原の一致率が高いほど免疫療法が有効であると推測されました。つまりHLA抗原が類似していると子宮局所で胎児抗原が認識されず、免疫学的妊娠維持機構が成立しないために流産が繰り返されるという理論です。名古屋市立大学も1983年に日本で最初に免疫療法に成功し、習慣流産の分野で有名な施設になりました。その後この理論的根拠は否定されましたが、その後も本邦を含め免疫療法は約20年間行われてきました。しかし、1999年の二重盲検試験(レベルIIa)によって免疫療法は無効であるという結果が示され、米国のFDAは感染、対宿主移植片反応の危険性もあるため、夫リンパ球を用いた免疫療法を「研究目的以外に行わない」ことを勧告しました。私たちもこの結果を重視して、現在免疫療法は行っておりません 。
13.さいごに
当時は3回流産をすると次は100%流産すると私たちも思っていました。その後臨床経験をつんで、そうでないことが判りました。いまでも3回流産した患者さんは次に100%流産すると思っています。流産に詳しくない医師もそのような誤解をしばしばします。流産がショックで避妊をする人もいらっしゃいますが、気持ちはわかりますが、その時間を無駄にすることによって(加齢によって)出産が難しくなっていることも事実です。85%のかたが出産できているのだから、前向きに検査に向かうことは成功の第一歩です。みなさん、がんばりましょう。
14.文献
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