名古屋市立大学大学院医学研究科 産科婦人科|名古屋市立病院 産婦人科 〜不育症・習慣流産治療、出生前診断は全国で先駆けて行っております。〜

習慣流産・不育症グループ〜習慣流産・不育症のみなさんへ〜

名古屋市立大学は、1980年から継続してきた習慣流産研究の実績を評価され、文部科学省から「不育症・ヒト生殖メカニズム解明のための共同研究拠点」の認定を受けました。日本初の不育症共同研究拠点が設立されました。原因解明のために大学を挙げて尽力したいと思います。特に人文社会学など、他分野の研究者のみなさんとの共同研究が期待されています。研究者の皆さんにはより質の高い共同研究をご提案いただくことをお願いしたいと思います。

妊娠できない不妊症に対して、妊娠はするけれど流産・死産によって生児が得られない場合を不育症といいます。3回以上連続する流産を習慣流産といい不育症に含まれます。つまり、原因がどうであれ、2回以上流産していれば不育症ということができます。 私たち大人が癌や脳梗塞などのいろいろな病気で死亡するのと同じように胎児もいろいろな病気で亡くなります。習慣流産もいろいろな原因によって起こります。習慣流産はまだ分からないことが多く、そのために研究分野であり、産婦人科医師によっても説明が異なり不安になることも多いと思われます。みなさんにこの病気を理解していただくために名古屋市立大学を受診された不育症患者さんから得られたデータに基づく研究成果を掲載しました。すべて、医学雑誌の厳しい審査を経てエビデンスとなった情報です。習慣流産は決して絶望的ではなく85%以上の患者さんが出産にいたっています。残念ながら流産を繰り返した患者さんが流産を避けることは困難です。流産と向き合いながら、出産を目指すことが大切です。

名古屋市立大学産婦人科教授
杉浦真弓

[掲載日:2015年7月31日]

目次     ※各リンクをクリックしてご覧下さい。

1.不育症・習慣流産の定義と岡崎コホート研究

不育症の定義:
妊娠はするけれど流産・死産を繰り返して生児を得られない場合
習慣流産:
3回以上連続する流産(不育症に含まれる)
反復流産:
2回以上連続する流産(不育症に含まれる)
流産の定義:
妊娠22週未満の娩出
臨床的流産:
超音波検査で胎のう(妊娠性のふくろ)を確認できる
生化学妊娠:
妊娠反応が出てすぐに消失する。妊娠の60%にみられるとの報告もあり、流産には含めない
不妊症:
妊娠を試みて一年間妊娠できない場合

流産は妊娠の最大の合併症であり約15%に起こります。大多数は妊娠10週未満の初期流産です。これは女性の加齢とともに増加するため、今の日本の妊娠女性の年齢から推定された頻度は15%です。40歳を過ぎると40 %が流産するというデータもあります(図1)。また、不妊症も年齢の影響が大きく、40歳代では64%の女性が妊娠できないことも判っています(図1)。

我が国の性教育は、birth control(家族計画)が強調されてきたため、結婚すれば容易に妊娠できるとの誤解を女性たちに与えてしまったと思われます。不妊症、不育症の知識を正確に教える生殖教育が行われてこなかった歴史があり、多くの女性が加齢によって妊娠能力を失うことを知らずに妊娠を先送りにした結果、子どもを持つことが出来なくなっているという現実に直面しています。

名古屋市立大学産婦人科と公衆衛生学鈴木貞夫教授が実施した「岡崎コホート研究」によれば、習慣流産の頻度は0.9%、不育症の頻度は4.2%でした。また、妊娠したことのある女性の38%が流産を経験していることが判明しました(文献1)。この結果は大変インパクトがあり、2009年8月3日中日新聞(図2)、11月13日朝日新聞等の一面に掲載されました。新聞に掲載された数字は途中経過のために若干異なっており、最終結果が上記の数字です。

[図1:加齢による不妊症・流産の頻度]

[図2]

※記事の詳細はPDFで開きます「中日新聞掲載記事」よりご覧ください。

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2.不育症の検査と原因

不育症の原因は抗リン脂質抗体約10%、夫婦染色体異常6%、子宮奇形3.2%の頻度でみられます(図3文献2)。国際抗リン脂質抗体学会の定義を満たす“本物の”抗リン脂質抗体症候群は約4%です。内分泌異常には糖尿病、甲状腺機能低下症、多のう胞性卵巣症候群が含まれますが、この部分はまだ質の高い研究が限られていてはっきりと不育症の原因となることが確認されていません。

Evidence Based Medicine(証拠に基く医療)という言葉は1980年代に提唱されました。臨床研究のエビデンスには研究方法の質の高いものからI〜IVまでレベルがあります。

  •    メタ解析 いくつもの無作為割り付け試験を集めて再解析したもの
  • Ⅱa  無作為割付試験: A薬を投与する群:B薬物なし群を患者さんの希望ではなく無作為に振り分けて次の妊娠の成功率をA群:B群で比較する。Aが統計学的に有意差をもって成功率が高ければA薬は有効と考える
  • Ⅱb  前方視的研究: 無作為割付試験ではないが、次の妊娠の成功率をA群:B群を比較する
  •    横断研究 ある検査異常が健常人に比べて習慣流産に多い、というような頻度を比較する
  •    権威者の意見 教授の発言が正しいとは限らない、ということ

臨床研究は皆さんが考える以上にお金と研究者の情熱が必要なため、充分あるとは言えません。特にわが国では基礎研究に比較して臨床研究が不十分と言われています。研究成果とは医学雑誌に掲載されているものを言います。医学雑誌にはImpact factor(IF)という偏差値のようなものがあり、IFの高い、質の高い雑誌はより厳しい査読を経て掲載されます。また、一つの研究成果が正しいとは限りません。数多くのエビデンスレベルII以上の論文が存在し、同じような結果が得られた時に初めて「標準的医療」となります。現時点での不育症の標準的原因は、下記の4つです。

  1. 抗リン脂質抗体
  2. 夫婦どちらかの染色体均衡型転座
  3. 子宮奇形
  4. 胎児染色体数的異常

私たちの考えと同様に、Recurrent miscarriage領域のエキスパートであるユタ大学のBranchらはNew England Journal of Medicineという最もレベルの高い臨床医学雑誌において「一般臨床家が行う検査として、抗リン脂質抗体、夫婦染色体、子宮奇形、胎児染色体の検査を推奨する」と述べています(文献3)。また、糖尿病、甲状腺機能の検査については臨床症状があれば実施すると述べています。

胎児染色体検査は健康保険が適用されず、限られた施設でしか検査できないために、初診で来院された患者さんの過去の流産胎児について実施されていることはほとんどありません。そのために、“原因不明”が70%と言うことになります(図3)。しかし、夫婦染色体が正常でも女性の加齢によって増加する胎児染色体数的異常は、きちんと調べれば41%が原因となっていることがわかりました(図3文献4)。胎児染色体正常の真の原因不明は約25%に留まります。

[図3:不育症1676組の原因の分布][図3:胎児染色体検査を含めた原因の分布]

名古屋市立大学で行っている検査を項目別に示しました(表4)。詳細については項目別に解説します。日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会は2006年から産科診療ガイドラインを発表しています(図5)。ガイドラインでは臨床家が実施するべき項目をAもしくはBとしています。CQ204は反復流産・習慣流産に関する記載であり、不育症もこれに該当します。2014年改訂版は私が担当しましたが、すべての学会員のコンセンサスを得て記載されています。ガイドラインでは胎児染色体検査をCとしましたが、どこの施設でもできる検査ではない特殊な検査だからという理由です。血栓性素因、内分泌検査は推奨されていません。

厚生労働省ホームページに平成20-22年度厚生労働省不育症班研究の研究成果が掲載されています。名古屋市立大学も班研究に参加しましたが、多施設登録調査には参加しませんでした。各施設の抗リン脂質抗体の測定方法がばらばらであること、異常を決めるための基準が一定でないことからその研究成果に疑問を感じたからです。この結果はいまだ医学雑誌に掲載されていません。

表4記載されている数字は保険点数です。夫婦染色体を除いて、これらの検査は習慣流産の病名で保険適用されています。保険適用されていない検査をするとすべてが自費となる法律があります。保険適用されていない検査、適用外治療は本来研究的なものです。研究とは研究者が費用を獲得して、患者さんには負担をさせないものです。また、患者さんに説明をしたうえで同意書に署名をすることが厚生労働省「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」で求められています。医師から勧められた検査・治療の中には、臨床研究によって、出産率の上昇が証明されていないものもあります。自費診療を勧められた場合、主治医から説明を求めることをお勧めします。

[表4]
不育症の原因 名古屋市立大学において実施している検査 日産婦 N Engl J Med
抗リン脂質抗体 ループスアンチコアグラント
(リン脂質中和法 290)
ループスアンチコアグラント
(希釈ラッセル蛇毒法 290)
抗β2glycoprotein I・カルジオリピン複合体抗体 (223)
ループスアンチコアグラント (希釈aPTT杉浦法)
A
子宮奇形 子宮卵管造影(518)と超音波検査(530) A
夫婦染色体異常 G分染法(3127) B
(内分泌異常) 糖尿病:空腹時血糖(11)
甲状腺機能異常:TSH (112), FT4 (114)
多のう胞性卵巣症候群
   
(凝固系検査)      
胎児染色体異常 絨毛染色体G分染体 C

[図5:日本産科婦人科学会診療ガイドライン産科編]

【CQ204 反復・習慣流産患者の診断と取り扱いは?】
<Answer>

  1. 3 回以上連続する自然流産を習慣流産と診断する。(A)
  2. 精神的・心理的支援を行いカップルの不安をできるだけ取り除く。(B)
  3. 習慣流産患者が検査を求めた場合以下を説明する。(B)
    1. 加齢と既往流産回数増大は次回妊娠成功率を低下させる。
    2. 特に高齢ではない既往流産が3−4回婦人の場合、次回妊娠が無治療で継続できる率は60〜70%である。
    3. 原因不明流産に対する確立された治療法はない。
    4. 以下の検査を行っても50%以上の症例で原因は特定できない。
  4. 習慣流産原因を検索する場合には以下の検査行う。
    1. 抗リン脂質抗体(ループスアンチコアグラント,抗カルジオリピン抗体,抗カルジオリピンβ2GP1 抗体)(A)
    2. カップルの染色体検査(B)
    3. 子宮形態異常検査(経腟超音波検査,子宮卵管造影,子宮鏡など)(A)
    4. 流産(子宮内容, 流産胎児)物の染色体検査(C )
  5. 抗リン脂質抗体陽性を複数回示した習慣流産患者は抗リン脂質抗体症候群と診断する。(A)
  6. 夫リンパ球免疫療法の有効性については否定的意見が多い。適応を十分吟味し、実施する場合には放射線照射後夫リンパ球を使用する。(A)
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3.抗リン脂質抗体症候群

有用な測定法

  • ループスアンチコアグラント Lupus anticoagulant aPTT凝固時間を用いたもの
    委託可能な検査としてはLAリン脂質中和法(基準値1.59)
    名古屋市立大学では研究室で独自の方法を実施(LA-aPTT杉浦法)
  • ループスアンチコアグラント蛇毒法 LA-RVVT(基準値1.3)
  • β2glycoprotein I 依存性抗カルジオリピン抗体(抗Β2GPI・CL複合体抗体)

1952年に血液中の凝固時間を延長させる物質circulating anticoagulantとして報告されたのがループスアンチコアグラントLupus anticoagulant(LA)の最初の報告です。1975年にはこの物質と子宮内胎児死亡の関係が報告されました。1980年代にはcardiolipin (CL), phosphatidylglycerol, phosphatidylcholine, phosphatidic acid, phosphatidylinositol, phospatidyethanolamine (PE)に対する自己抗体の測定が盛んに行われ、後に抗リン脂質抗体症候群Antiphospholipid Syndrome (APS)と呼ばれるようになりました。

国際抗リン脂質抗体学会が提唱する抗リン脂質抗体症候群診断基準によれば(表6文献5
   *妊娠10週未満の3回以上連続する原因不明習慣流産
   *妊娠10週以降の胎児奇形のない1回以上の子宮内胎児死亡
   *妊娠高血圧症候群もしくは胎盤機能不全による1回以上の妊娠34週以前の早産
を、妊娠合併症としています。1回の子宮内胎児死亡や妊娠高血圧症候群は不育症ではありませんが、次回の同じようなイベントを予防できる可能性があるために、抗リン脂質抗体を測定するべきです。また、抗リン脂質抗体症候群の場合、子宮内胎児発育遅延、羊水過少、血小板減少症を伴うことも特徴です。

[表6]
  抗リン脂質抗体症候群診断基準
臨床所見
  • 動静脈血栓症
  • 妊娠合併症
    • 妊娠10週未満の3回以上連続した原因不明習慣流産
    • 妊娠10週以降の原因不明子宮内胎児死亡
    • 妊娠34週未満の重症妊娠高血圧腎症・子癇や胎盤循環不全による早産
検査所見
(12週間以上の
間隔で2回以上陽性)
  • Lupus anticoagulant 陽性
    (試薬としてaPTTとRVVTの2種類を用いることが推奨されています)
  • (β2glycoprotein I依存性)抗カルジオリピン抗体IgGもしくはIgMが中高力価
  • 抗β2glycoprotein I抗体IgGもしくはIgMが陽性

Miyakis et al. J Thromb Haemost 2006

現在、我が国において委託検査が可能な測定方法には抗カルジオリピン IgG, IgM, β2GPI依存性抗CL抗体、ラッセル蛇毒RVVTを用いたLA(LA-RVVT), aPTTを用いたLA(LA-aPTT)、prothrombin抗体、抗PE IgG, IgMなどがあります。診断基準には中等量以上の抗カルジオリピン IgG, IgM(Harrisの方法40GPL, 40MPL以上、他の方法では99パーセンタイルですが個々の測定ごとに異なります), β2GPI依存性抗CL抗体、LAが含まれています。これらの検査は感染症など一時的に陽性となることがあるために、12週以上陽性が持続したら抗リン脂質抗体症候群と診断することが国際学会によって定められています。

2013年に厚生労働省村島温子研究班において私たちが行った調査によれば、わが国の妊婦健診取扱施設の61.5%の施設が1度しか検査をしていないことがわかりました(文献6)。高齢の患者さんに「あと3か月妊娠するのを待って」というのは忍びないですが、それは不必要な治療をすることにつながります。また、抗リン脂質抗体症候群とは若くして脳梗塞、心筋梗塞を起こす深刻な疾患です。適切に診断してもらうことをお薦めします。

委託検査の問題として「陽性だと流産する」ことが立証されてないものが多く存在することです。凝固時間を測定するLAも抗体の値を調べるELISA法も不安定なものであり、測定条件の違いによって「陽性となる患者さん」が異なってくこともしばしばあります。国際学会では「抗カルジオリピン抗体を99パーセンタイル以上の時に陽性とする」との基準を定めていますが、国内の検査ではもっと低い「10単位以上が陽性」という基準を用いて治療されています。つまり、過剰な治療が行われていることになります。

β2GPI依存性抗CL抗体については開発された当時、名古屋市立大学の妊婦さん1125人に調べて、陽性の人に子宮内胎児死亡、子宮内胎児発育遅延、妊娠高血圧症候群(中毒症)が多いというレベルIIの前向き研究を行い、その検査の意義を証明しました(文献7)。ただし健常人の99パーセンタイルは1.9IUであり、検査会社の定める基準3.5とは異なる基準を用いています。またこの検査はβ2GPI非依存性抗CL抗体を同時に調べて、
「β2GPI存在下抗体>β2GPI非存在下抗体」
を確認して判定することが必要であり、これらが一つの検査なのですが、検査会社は「β2GPI非存在下抗体」を同時測定することを依頼しないと検査を行いません。コストがかかるからでしょう。

名古屋市立大学の研究室では独自のループスアンチコアグラントaPTT 5倍希釈LA(aPTT-LA杉浦法)の測定を行い、無治療では53.8%の次回流産率が抗凝固療法によって19.6%に改善できることを確認しました(文献8)。私たちは現在、学会の診断基準にある4種類の抗リン脂質抗体(β2GPI依存性抗CL抗体、LA-RVVT,リン脂質中和法aPTT-LA、aPTT-LA杉浦法)の測定がベストと考えています。12週間後の再検査で陽性となり診断基準を満たす抗リン脂質抗体症候群は5%未満の頻度であり、本物の抗リン脂質抗体症候群の患者さんはさほど多いわけではありません。

リン脂質中和法と試薬が異なるため、便宜上杉浦法と記載していますが、aPTTを用いたLAは国際学会でも推奨されています(文献9)。

抗リン脂質抗体は全身性エリテマトーデスなどの膠原病の患者さんに約40%にみつかることから、抗核抗体陽性の場合にどうするべきかが議論されてきました。私たちは抗リン脂質抗体陰性の反復流産患者さんにおいて抗核抗体の陽性率は健常妊婦よりも高頻度ですが、次回妊娠において流産率は陽性・陰性例において有意差がないことを医学雑誌LANCETに報告しました(文献10)。抗核抗体陽性の場合に、アスピリンやステロイドが投与されている患者さんがありますが、抗核抗体の測定や薬剤投与は全く必要ありません。

抗PE抗体は不育症患者における陽性率が高い(10-15%)ためにこの検査がしばしば行われ抗凝固療法が実施されています。しかし、レベルII以上の研究がないため、名古屋市立大学において原因不明不育症患者369人の凍結保存血清を用いて抗PE 抗体IgGを測定し、次回妊娠帰結について検討しました(図7文献11)。抗PE 抗体の陽性率は10.1 % (37/367)でした。LA-aPTT杉浦法, LA-RVVT, β2GPIaCL陽性例に対しては基本的に抗凝固療法を行っており、薬物投与を行わない症例において抗PE抗体が陽性でも陰性でも出産成功率に差はありませんでした。そのため私たちは抗PE抗体の測定の意義が乏しいと考えています。

LA-aPTT杉浦法と抗PE 抗体の両方が陽性の症例は8例あり、他の施設ではLA-aPTTを行っていないため、抗PE 抗体IgGの意義を否定するつもりはないですが、抗PE 抗IgG陽性でも無治療で83.3%の人が出産できるということはかなりの偽陽性を含むことを意味します 。

[図7:抗フォスファチジルエタノールアミンIgG]

  陽性 陰性
  抗凝固療法 無治療 無治療
出産率 66.7 % (8/12) 71.4 % (10/14) 76.0 % (127/167)
胎児染色体異常例を除いた出産率 80.0 % (8/10) 83.3 % (10/12) 83.6 % (127/152)

Obayashi et al., J Reprod Immunol 2009

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4.不育症における抗リン脂質抗体標準化の試み

唯一とも言える治療できる病因である抗リン脂質抗体について正しく測定し、正しく治療ができていないことが本邦の不育症医療の問題です。抗リン脂質抗体は測定法が多くあり、独自に検査をしている施設はほとんどなく、委託検査は産科的有用性が明らかにされていません。

産科的有用性とは、
・その検査が陽性の時に抗凝固療法を行うと出産率が上昇する。
もしくは、
・陽性の時に無治療だと出産率が悪い。
ことをいいます。

個々の検査法について産科的有用性が確認されていません。私たちは、委託可能な検査の産科的有用性の確認が急務であると考えました。平成23-25年度厚生労働省北折珠央研究班として、「不育症における抗リン脂質抗体測定法の標準化」の検討を行いました。11種類の検査法について560名の不育症患者さんの協力によって研究を行いました (文献12)。

ループスアンチコアグラント(リン脂質中和法:LA-aPTT、図8)の検査会社の基準値は6.3秒ですが、これを用いると既存の方法で陽性例に含まれます。国際学会が推奨する健常人99パーセンタイル(1.59秒)を用いた場合に産科的有用性が確認されました。リン脂質中和法は欧米では頻繁に用いられていますが、日本ではまだ13%の施設しか実施していません(文献6)。

抗フォスファチジルセリン・プロトロンビン抗体も産科的有用性が確認されました(図9)。しかし、この抗体はまだ報告が少なく、国際学会にも認められていないため、国際共同研究が実施されているところです。

国際学会も推奨する抗カルジオリピン抗体IgGやIgMは色々な基準値で検討しましたが産科的有用性はありませんでした(図10図11)。これについて、産科的にはLAのほうが重要であるという質の高い論文が散見されます(文献13)。

名古屋市立大学の従来法と産科的有用性を持つリン脂質中和法、抗フォスファチジルセリン・プロトロンビン抗体との関係を図12に示しました。リン脂質中和法はLA-aPTT杉浦法と原理は同じですが、試薬が異なるため検出できる患者さんが異なります。両方とも行う必要性があります(図13)。陽性率が低くても産科的有用性の確認された検査を複数組み合わせて検査することで過不足の少ない不育症医療が実現できると考えています。

[図8:リン脂質中和法(LA-aPTT StaClot)]

    成功率 %
(n)
多変量解析 染色体異常
を除いた
成功率(n)
染色体異常を
除いた
多変量解析
OR
(95% CI)
P-value OR
(95% CI)
P-value
StaClot›1.59
99thpercentile
陽性・
無治療
58.8%
(10/17)
Reference   71.4%
(10/14)
Reference  
陽性・
治療
82.4%
(14/17)
4.99
(0.77-32.39)
0.09 93.3%
(14/15)
53.58
(0.938-3061.24)
0.05
陰性 70.7%
(260/367)
1.72
(0.63-4.67)
0.29 79.5%
(260/326)
1.57  
(0.47-5.24)
0.46
StaClot›1.0
98thpercentile
陽性・無治療 59.3%
(16/27)
Reference   66.7%
(16/24)
Reference  
陽性・治療 85.7%
(18/21)
6.84
(1.21-38.61)
0.03 94.7%
(18/19)
32.95
(1.76-616.95)
0.02
陰性 70.9%
(254/357)
1.76
(0.78-3.94)
0.17 80.1%
(254/316)
2.11
(0.86-5.21)
0.11

[図9:抗フォスファチジルセリン・プロトロンビン(aPS/PT)抗体 IgG]

    成功率 %
(n)
多変量解析 染色体異常を
除いた
成功率(n)
染色体異常を
除いた
多変量解析
オッズ比
(95% CI)
P-value オッズ比
(95% CI)
P-value
aPS/PT
IgG ›1.2
陽性・
無治療
50.0%
(5/10)
Reference   50.0%
(5/10)
Reference  
陽性・
治療
73.3 %
(11/15)
2.49
(0.38-16.26)
0.34 84.6%
(11/13)
4.99
(0.58-42.72)
0.14
陰性 71.2%
(264/371)
2.61
(0.73-9.35)
0.14 80.7%
(264/327)
4.48  
(1.23-16.13)
0.02

[図10:抗カルジオリピン抗体IgG]

    成功率 %
(n)
多変量解析 染色体異常を
除いた
成功率(n)
染色体異常
を除いた
多変量解析
オッズ比
(95% CI)
P-value オッズ比
(95% CI)
P-value
CL IgG›23.8 陽性・
無治療
64.3%
(9/14)
Reference   69.2%
(9/13)
Reference  
陽性・
治療
68.4%
(13/19)
1.41
(0.29-6.76)
0.67 72.2%
(13/18)
1.60
(0.27-9.62)
0.61
陰性 70.6%
(274/388)
1.36
(0.44-4.17)
0.60 80.4%
(274/341)
1.83
(0.54-6.17)
0.33
CL IgG›10 陽性・無治療 74.4%
(32/43)
Reference   82.1%
(32/39)
Reference  
陽性・治療 61.1%
(22/36)
0.624
(0.23-1.71)
0.36 68.8
(22/32)
0.56
(0.17-1.87)
0.35
陰性 69.9%
(251/359)
0.81
(0.39-1.67)
0.56 79.7%
(251/315)
0.87
(0.36-2.07)
0.75

[図11:抗カルジオリピン抗体IgM]

    成功率 %
(n)
多変量解析 染色体異常
を除いた
成功率(n)
染色体異常
を除いた
多変量解析
オッズ比
(95% CI)
P-value オッズ比
(95% CI)
P-value
CL IgM›29.9 陽性・
無治療
80%
(4/5)
Reference   80%
(4/5)
Reference  
陽性・
治療
100%
(3/3)
- - 100%
(3/3)
- -
陰性 70.3%
(279/397)
0.56
(0.06-5.21)
0.61 80.7%
(279/349)
1.00
(0.11-9.45)
1.00
CL IgM›10 陽性・無治療 65.9%
(27/41)
Reference   80.7
(279/349)
Reference  
陽性・治療 78.6%
(11/14)
1.87
(0.44-7.93)
0.40 84.6%
(11/13)
1.35
(0.24-7.77)
0.74
陰性 70.9%
(256/361)
1.24
(0.62-2.48)
0.54 80.0%
(256/320)
1.04
(0.43-2.51)
0.93

[図12:リン脂質中和(StaClot)法とaPS/PT IgG抗体]

リン脂質中和法とaPS/PT IgGはどちらも有用な検査法であるが検出する患者が異なる
→両方とも測定した方が取りこぼしが少ない

[図13:aPTT-LA杉浦法とリン脂質中和 (StaClot)法]

リン脂質中和法はaPTT-LA杉浦法と原理が同じであるが一部別の患者も検出している
→理由:試薬の違いによるものである可能性

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5.抗リン脂質抗体症候群の治療

図14:低用量アスピリン+ヘパリン
[図14:低用量アスピリン+ヘパリン自己注射]

流死産予防としては低用量アスピリン・ヘパリン療法が標準的治療法であり、生児獲得率は70-80%と報告されています(文献14, 15)。名古屋市立大学では基礎体温から正確に妊娠週数を計算し、妊娠4週からアスピリン内服とヘパリン注射を開始し、妊娠36週0日でアスピリンを中止、ヘパリンは分娩の3-6時間前まで持続する方法を行っています。トレーニングをしていただくとヘパリンの自己注射は難しくありません(図14)。抗リン脂質抗体が陰性で抗核抗体陽性の場合、薬物投与の必要はありません。

抗リン脂質抗体症候群の国際学会の診断基準を満たす場合には妊娠中のヘパリン自己注射が保険適用されました。適応は抗リン脂質抗体症候群合併妊娠です。この治療が本当に必要な人は不育症の中でもさほど多くはありません。診断基準を満たしていない人は保険が効きません。12週間待つのは大変ですが、診断基準を満たすかどうかは重要ですから基準を守ってください。

診断基準を満たさない場合、つまり抗リン脂質抗体が陽性だったけど12週間後に陰性になった場合、流産予防が必要かどうかを調べてみました(文献16)。アスピリン単独投与群と薬なし50.0% (8/16)を比較するとアスピリン投与群の生児獲得率84.6% (44/52)の方が高いことが明らかとなりました。しかし、このような報告はまだ欧米ではないため、再検討が必要です。

抗リン脂質抗体症候群は妊娠中に血栓症を起こしやすいだけでなく、若年性脳梗塞、心筋梗塞を起こしやすい疾患です。原因が分かったからよかったという疾患ではありません。ご自身が本当に抗リン脂質抗体症候群かどうか主治医に確認しましょう。

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6.夫婦どちらかの染色体均衡型転座

染色体はすべての細胞の核の中にあり、ヒトでは46本あります。約2.5万個の遺伝子を含んでおりこれによって親の形質が受け継がれています。染色体均衡型転座が習慣流産患者に高頻度に見られることは古くから報告されていました。転座とは染色体の2ケ所が入れ代わることをいいます。遺伝子の過不足はないのでそのひとは全く健康で正常な人ですから“異常”ではありません。しかし、卵、精子ができる時だけ遺伝子の不均衡(アンバランス)が起こります。アンバランスを生じた卵、精子は流産します。転座をもつ人がどれくらい流産するかについての報告は長い間ありませんでした。

私たちは1284 組 の反復流産患者の原因精査後の1回以上の妊娠帰結を世界で初めて報告しました(表15文献17)。相互転座を持つ夫婦47組中15組 (31.9 %) が診断後初回妊娠で出産できました。一方、染色体正常夫婦1184組中849組 (71.7%)が出産に成功しており、均衡型相互転座をもつ夫婦は流産しやすいことがわかりましたが、累積的には47組中32組 (累積生児獲得率68.1 %)が生児を得ることができました。シカゴのグループは初回妊娠65%、累積成功90%と報告しています(表16)オランダのグループは累積生児獲得率について転座の夫婦83%、染色体正常夫婦84%と報告しており、このグループは転座保因者の予後は正常群と変わらないと結論づけています(文献18)。オランダの研究は症例数も多く、研究方法も優れており信頼性が高いものです。

先ほどの私たちの研究で、Robertson型転座保因者11人のうち7人(63.6%) が診断後最初の妊娠で出産しており、これは染色体正常の夫婦と差はありませんでした。FISH法を用いた精子解析で相互転座保因者の精子の46.9% が正常あるいは均衡型である交互分離を示し、Robertson型転座保因者では88%が交互分離を示しており、Robertson型転座は相互転座よりも成功率が高いことが推測できます。

私たちの2004年の報告は約15年間の臨床データであり、既往10回、13回流産歴をもつ患者を含んでおり、検査後に1回流産した後に受診しなくなった患者さんを“失敗“に含めているため、成功率が低くなっています。13回流産する患者さんは世界中に探してもそんなに多くないことをお断りしておきます。

そこで2003年から2005年の間に多施設共同研究(名古屋市大、名古屋市立城西病院、東京大、大阪府立母子センター内科、慈恵医大、慶応大、国立成育医療センター、東海大、日本医科大、富山大)を行いました(文献19)。2382組の患者のうち85組(3.6%)に均衡型転座がみられ、相互転座を持つ人は、診断後初回妊娠において63% (29/46組)が出産できました。

個々の患者さんがどれくらい流産するかを予測することはできません。つまり、転座している染色体の位置によって不均衡がどれくらい起こるかが違うからです。なお、9番逆位は正常変異であり流産とは関係しません。

[表15:染色体均衡型転座が原因の習慣流産]

自然妊娠による生児獲得率
  均衡型相互
転座(47)
Robertson型
転座 (11)
正常染色体
(1184)
診断後初回妊娠 31.9 % (15/47) 63.6 % (7/11) 71.7 % (849/1184)
累積生児獲得率 68.1 % (32/47)    

1284 組 の反復流産患者
Sugiura-Ogasawara et al. Fertil Steril 2004


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7.染色体均衡型転座に対する着床前診断

着床前診断をすると出産できるようになるというのは誤解です。流産率は減少しますが、出産できない人が出来るようになる事は証明されていません。

1998年に世界で最初に報告され、2006年から日本でも習慣流産患者の着床前診断が始まりました。体外受精によって得られた受精卵の割球を取り出し、均衡型の受精卵のみを胚移植して流産を防止する技術です。本邦では遺伝性疾患についての着床前診断が優性思想につながるという考えから、慎重に審議されています。日本産婦人科学会は症例ごとに審議をして重篤な遺伝性疾患に限って認めるという規則をつくっています。

着床前診断が社会から批判される理由として、

  • 生命の廃棄
  • 優生思想につながる
  • 自然妊娠が可能な女性に対して体外受精を行う
  • うまれてくる児の長期的安全性が不明

という問題があります。

体外受精の合併症としては、

  1. たくさんの卵を育てるために排卵誘発剤をつかいます。この副作用として卵巣過剰刺激症候群が起こります。脱水のために血栓症を起こし、稀には生命の危機につながります。
  2. 採卵は痛みがあるので麻酔を使います。麻酔の種類は流産の手術のときに使うものとあまりかわりません。麻酔には合併症が伴います。
  3. 採卵のときに腸や血管を針で刺して臓器損傷を起こすことがあります。

ヨーロッパヒト生殖医学会ESHRE PGD Consortiumによれば、着床前診断によって生まれた児の体重は3225gと標準的であり、先天異常は5.8% (47/813)に確認されましたが、これは顕微授精における頻度と同等と考えます。発達に関しては6歳時点では自然妊娠との差はみられていませんが、長い目で見た児への安全性はまだわかっていません。

現在転座保因者に対する着床前診断の出産成功率を示す、症例報告ではない論文は6つあり、採卵あたりの成功率は6.2-47.2 %です(表16)。成功率の違いはそれぞれの論文の患者さんの背景、つまり、年齢、流産回数、染色体核型などが異なるためです。新しい手技である比較ゲノムハイブリダイゼーション法aCGHによる論文も出産率43.8%に留まっています。Fischerらは着床前診断によって妊娠した人のうち87%が出産したと論文の要約で述べています(図17)。しかし、本文をよく読むと192人のうち出産できたのは60人ですから、出産率は31.3%です。習慣流産のエキスパートのStephenson教授やGoddijn教授はこの論文に対する反論の手紙を書いています。著者のひとりMunne氏は臨床医ではなく、着床前診断を商業ベースで請け負っている人です。着床前診断が有効ということが宣伝できれば利益が増えるので“利益相反”がある立場ですが、論文にはその記載はありません。

着床前診断を繰り返して行ったら何%の人が出産できるということはまだ報告されていません。前述のとおり、自然妊娠の診断後初回妊娠成功率は31.9%-65%です。着床前診断によって流産を少し減らすことはできますが、出産ができなかった人ができるようになる、ということは着床前診断が始まって15年たった今でも証明されていません。

体外受精が前提であり、体外受精の妊娠率は女性の年齢によって異なり、20歳代で20%、40歳では8%です(日本産科婦人科学会ART登録データ)。数回の体外受精+着床前診断を繰り返して妊娠に至ることになります。オランダのグループによれば自然妊娠による累積成功率は83%であり、着床前診断によってここまで出産にいたることは難しいでしょう。「転座を持つ患者さんが着床前診断によって出産率が改善できるかどうかはエビデンスが不十分である」ということをメタ解析でも述べられています(図18)。

名古屋市立大学とセントマザー産婦人科医院(北九州市)は染色体転座に起因する習慣流産(反復流産)患者さんを対象として、着床前診断と自然妊娠を選択した患者さんの出産率を世界で初めて報告しました(文献20)。2003年から染色体転座が判明した患者さんに遺伝カウンセリングを行い、着床前診断希望者については学会の承認を得て2006年12月から着床前診断を実施しました。着床前診断希望者の平均年齢が高かったため、35歳未満の均衡型転座に起因する習慣流産患者37名と自然妊娠を選択した52人の出産率などを2014年7月まで調べました。

その結果、初回の着床前診断と自然妊娠ではむしろ着床前診断群の出産率が悪く、累積出産率に差はありませんでした(67.6%と65.4%、表19)。妊娠までの時間もほぼ同じでした(12.4か月と11.4か月)。

しかし、着床前診断群では流産は有意に減少しました(平均0.24回と0.58回)。
その後妊娠に至らない頻度は着床前診断群に多い結果でした(18.9%と3.8%)。

着床前診断群では平均2.46回採卵を行い、平均2.16回胚移植を行い、その費用は7956$[約95万円]でした。この費用について、名古屋市立大学、セントマザー産婦人科医院では体外受精、試薬代を徴収し、技術料は臨床研究であるため無償で行ったため内外の着床前診断平均費用と比較してかなり低額であることを申し添えます。
35歳以上の着床前診断を選択した方は24.3%(9/37)が出産できました。自然妊娠が少数であったため、35歳以上については比較ができませんでした。
この研究は2006年から実施されたため、

  • 生検や診断方法が古い
  • 無作為割り付け試験でないため、両群間のバイアスがありうる
  • 症例数が限られる

という欠点がありますが、現時点で転座に起因する習慣流産患者における着床前診断の比較試験は他にありません。

[表16:相互転座患者の妊娠成功率]
  着床前診断 自然妊娠
  Lim
KC
Otani T Feyereisen Fischer J Fiorentino F Idowu
D
Sugiura M Stephenson M Japan
多施設
Franssen MTM
患者数 43 29 35 192 16 42 47 20 46 157
年齢 31.5 32.7   34.0 37.1 34 29.1   31.0  
流産回数   3.4             3.1  
分娩 14 17 5 60 7 14 15 13 29 131
出産率% 32.6 58.6 14.3 31.3 43.8 33.3 31.9 65.0 63.0  
採卵% 23.7 47.2 6.2 22.1 38.9          
累積
生児
獲得率%
            68.1 90.0   83.0
  Prenat
Diagn
2004
RBM
2006
F&S
2007
F&S
2010
HR
2011
aCGH
F&S
2015
SNParr
ay
F&S
2004
HR
2006
JHG
2008
BMJ
2006

[図17]
図17

[図18]
図18

[表19:染色体均衡型転座が原因の習慣流産患者の着床前診断と自然妊娠によるその後の出産率]
  着床前診断
35歳未満の37人
自然妊娠
52人
オッズ比
(95% CI)*
p-value
診断後初回の出産率 37.8% (14/37) 53.8% (28/52) 0.52
(0.22-1.23)

0.10

累積生児獲得率 67.6% (25/37) 65.4% (34/52) 1.10
(0.45-2.70)
0.83
その後、妊娠しない確率

18.9% (7)

3.8 % (2) 1.19
(1.00-1.40)
0.03
出産に至るまでの流産回数と平均流産回数 9 (0-1)
0.24 ± 0.40
30 (0-3)
0.58 ± 0.78
- 0.02
平均採卵回数 2.46 (2.30) -    

平均胚移植回数

2.16 (1.85) -    
出産に至った妊娠までの月数 12.4 (13.95)

11.4 (10.9)

NS  

双胎の頻度

29.0% (9/31) 5.1% (2/39) 7.57
(1.50-38.26)
0.009
患者あたりの費用 $7,956 U.S.*** -    

Ikuma et al. PLosOne 2015


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8.子宮奇形

手術をすると出産できるようになるというのは証明されていません。

子宮奇形の診断のために子宮卵管造影法と超音波検査を行います(図20)。私たちの1676例の検討では双角子宮、中隔子宮、単角子宮、重複子宮などの子宮大奇形は3.2%にみられました(文献2)。双角子宮と中隔子宮の鑑別のため、MRIを行います。弓状子宮は流産の原因とは考えられていません。

産婦人科の教科書には双角子宮に対する形成手術、中隔子宮に対する子宮鏡下中隔切除術が書かれています。実は手術をしなかったらどうなるかという視点の研究はありませんでした。そこで私たちは子宮奇形が診断された患者さんの手術をしない自然妊娠帰結を世界で初めて報告しました(文献2)。子宮奇形(双角子宮、中隔子宮)をもつ人と正常子宮をもつ人の診断後初回妊娠出産率は59.5% (25/42), 71.7% (1096/1528, p=0.084)、累積出産率は78%, 85.5%であり、子宮奇形を持つ人の出産率が低い傾向にありました(表21)。胎児染色体異常率はそれぞれ15.4% (2/13), 57.5% (134/233, p=0.006)であり、子宮奇形を持つ患者さんは胎児染色体正常流産を起こすことが証明されました。つまり、やはり子宮奇形は不育症の原因であるということです。また、欠損部分が大きいほど有意に流産率が増加しました(p=0.006)。ただし、手術を施行しなくても78%の患者さんが出産できるということは重要なことです。

手術後の出産率を示した論文をに示します(文献21)。いずれも、手術をしなかったらどうか、という対照のない研究です。そこで私たちは多施設共同で手術をした場合、しなかった場合の比較を調べました(文献22)。双角子宮の場合、形成手術をした場合75.0% (9/12)、しなかった場合85.7% (24/28)であり、手術のメリットはありませんでした。中隔子宮の場合、子宮鏡下中隔切除術をした場合86.5% (83/96)、しなかった場合69.2% (9/13)であり、手術のメリットがあるかもしれません。しかし、手術をしない患者さんが少なく、メリットははっきりしていません。欧米で無作為割り付け試験が行われていると聞いています。手術は今のところ慎重に考えるべきと思います。

[図20:子宮形態異常検査]
子宮形態異常検査

[表21:子宮奇形を持つ夫婦の生児獲得率]
  生児獲得率 累積生児獲得率
  子宮奇形 正常子宮 P 子宮奇形 正常子宮 P
  42 1528   41 1528  
1th 59.5% (25/42) 71.7% (1096/1528) 0.084 61.0% (25) 71.7% (1096) 0.133
2th 55.6% (5/9) 60.4% (166/275) 0.772 73.2% (30) 82.6% (1262) 0.119
3th 100% (2/2) 55.0% (38/69) 0.207 78.0% (32) 85.1% (1300) 0.215
4th   22.2% (4/18)     85.3% (1304)  
5th   33.3% (3/9)     85.5% (1307)  
6th   0% (0/6)     85.5% (1307)  
Final       78.0% (32) 85.5% (1307)  

Sugiura-Ogasawara et al. F&S 2010

胎児染色体異常 :15.4 % (2/13)  vs  57.5 % (134/233)

[表22:子宮奇形の手術後の出産率]
  Makino
et al.1992
Candiani
et al.1990
Ayhan
et al.1992
DeCherney
et al.1986
Daly et
al.1989
Lee et
al.2000
Kormanyos
et al. 2006
患者数 71 144 89 103 55 40 94
子宮奇形の種類 弓上子宮
中隔子宮
中隔子宮
双角子宮
中隔子宮
双角子宮
中隔子宮 中隔子宮 中隔子宮 中隔子宮
術式 腹式 腹式 腹式 子宮鏡 子宮鏡 子宮鏡 子宮鏡
適応 反復流産 反復流産
不妊症
反復流産
早産
反復流産 反復流産
早産
反復流産
不妊症
反復流産
出産率 54.9% 65.9%   61.2%   64.3% 35.1 %
累積
54.3 %

Sugiura-Ogasawara et al. Cur Opin Obstet Gynecol 2013

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9.血栓性素因

プロテインC, プロテインS, アンチトロンビン、凝固第XII因子活性の測定は必要ありません

抗リン脂質抗体症候群は胎盤の血栓(血がつまること)によって血液の流れが悪くなり流・死産を起こすと考えられています。同様に先天性プロテインC、プロテインS、アンチトロンビン欠損症という凝固抑制因子が減少している人は血栓症を起こしやすく(血栓性素因)、抗リン脂質抗体症候群と同じ機序で流・死産を起こすかもしれないと考えられました。しかし、大多数の流産は胎盤ができる前に起こるため、この理論では説明できません。抗リン脂質抗体が初期流産にも関与するのは血栓ではなく、胎盤のもとになる絨毛の増殖を阻害するためです。

1990年代に名古屋市立大学においてプロテインC、プロテインS、アンチトロンビン、凝固第XII因子の低下と反復初期流産の関係を調べてみました(文献5)。反復流産患者536人についてそれぞれの因子を調べ、各因子の低下した例と正常例についてその後の妊娠帰結を比較したところ、プロテインC、プロテインS、アンチトロンビンについては低下症例も正常例もその後の流産率に差を認めませんでした。そのため反復初期流産についてはこれらの検査は必要ないと考えます。

一方、凝固第XII因子の低下は反復流産患者の16%に認められ、低下している症例の80% (4/5)がその後に流産したのに対し、正常例では23.9%の流産率であり、第XII因子の低下はその後の流産の予知因子と考えました(文献5)。この論文の中でXII因子に関しては症例数が少ないため、追試が必要と考えていました。

最近、凝固第XII因子活性と遺伝子変異について再検討しました(文献22)。aPTTを用いたループスアンチコアグラントLA陽性の患者さんはXII因子活性が低下することが明らかになりました。前述の研究で「XII因子活性が低い人は流産率が高い」というのはLAの影響をみていたと思われます。そこで、LA陽性の人を除外すると反復流産患者では健常人と比較して遺伝子変異CTが高頻度でしたが、次回妊娠において遺伝子変異もXII因子活性低下もまったく影響しないことがわかりました。

XII因子遺伝子CTタイプの人は流産しやすいと言えます。しかし、それに対して治療をすると出産率が上昇することは証明されていません。流産しやすい遺伝子が約100個近く報告されています。個々の影響はそれほど大きくありません。

XII因子活性は遺伝子型によって活性が制御されています。XII平均活性はCC型126%、CT型89%、TT型65%です。XII活性が80%の人は低くありませんが、CC型であれば低下していることになります。LA-aPTTを測定しないと治療すべき人を取りこぼすことになります。XII活性も遺伝子も測定の必要はありません。

プロテインS活性も遺伝子も同様のことが考えられます。

Branchらの総説も米国胸部外科学会妊娠中の血栓予防ガイドラインも「妊娠合併症を理由として血栓性素因を調べることを推奨しない」と記載しています(文献3)。日本産科婦人科学会診療ガイドラインでは2014年版から血栓性素因を調べることは削除されました。

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10.内分泌異常

基礎体温表を記録してもらい高温5-9日にProgesterone値(P)測定を行い、黄体機能不全 (P<10ng/ml)と診断されたのは23.4%でした。しかし、黄体機能不全のあるなしでその次の流産率を調べたところ、正常群、異常群ともに変わらないという結果が得られました(文献24)。そのため名古屋市立大学ではホルモン療法は原則として行っていません。黄体機能は毎周期ごとに異なるのでこれだけで評価するのは難しいと思われます。

プロラクチンとはお乳を分泌するホルモンです。これは非妊時にも脳から分泌されており、高プロラクチン血症は排卵障害をひき起こし不妊症と関係することが知られています。高プロラクチン血症が習慣流産を起こすかはまだはっきりしていません。妊娠9週までブロモクリプチンを投与することで成功率が改善できたとする報告がたったひとつありますが、その後それを追試した報告はありません。

糖尿病、甲状腺機能低下症が流産を起こすといわれてきました。糖尿病と診断される例は1%程度のため、質の高い研究が不足しています。軽度の甲状腺機能低下は約10%にみられますが、治療の必要性についてはまだはっきりしていません。しかし、糖尿病や甲状腺疾患は流産だけでなく、その後の胎児発育や発達とも関係しますので内分泌内科による治療は必要と考えています。

多のう胞性卵巣症候群という内分泌疾患と流産の関係が報告されています。月経周期が長いことと超音波検査による卵巣の特徴的所見によって診断します。反復流産患者さんの約5%にみられ、糖尿病、甲状腺機能低下症、高プロラクチン血症を伴うことが多いため、これらが一つの原因群である可能性を考えています。ただし、多のう胞性卵巣症候群に対する流産予防はまだ確立されていません。

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11.原因不明習慣流産―胎児染色体異常流産

薬剤投与の必要性はなく、過去の流産が2回なら80%、3回70%、4回60%、5回50%が次の妊娠で出産できます

妊娠の15%に流産が起こり、流産の50-80%に胎児の染色体異常がみられます。女性の加齢によって頻度は上昇します。夫婦の染色体が正常で胎児に数的異常が起こることは“偶然”とみなされ、長い間“胎児染色体異常による反復流産”は認知されていませんでした。1996年にCoulum先生らが、散発流産も反復流産も胎児染色体異常の頻度は同等であるという報告をしました。私たちは反復流産患者の1309妊娠について調べ、既往流産回数が増えるに従って出産成功率は減少し、胎児染色体異常率も減少することを明らかにしました(図23文献25)。しかし、既往流産回数2-4回では染色体異常流産は50%以上存在しました。この研究では夫婦染色体異常の人も含めているため、10回以上でも不均衡転座に由来した流産が存在しましたが、それらを除くと胎児は正常で流産したことがわかりました。

反復流産においても胎児染色体異常は重要な原因のひとつであることがわかりました。ただし、胎児染色体異常がみられたときの次回妊娠の成功率は胎児染色体正常であった時よりも有意に高率でした(62% vs 38%、オッズ比2.6)。つまり、胎児染色体数的異常というのは次回出産の予知因子でもあるわけです。

流産は女性の加齢によって増加します。その原因は、主に胎児染色体異常が女性の加齢とともに増加するためです。染色体G分染法による胎児染色体異常は70%ですが、新技術であるアレイCGH法を用いた研究によれば、流産の80%に染色体微細欠失を含む胎児染色体異常がみられたということです。胎児染色体異常をn回繰り返している確率は(0.8)nと推定できます。つまり、平均3回流産歴をもつ習慣流産集団の約51%は胎児染色体異常によるものと考えられます。さらに片親性ダイソミー、メチル化異常といったエピゲノム異常も流産に関与していることが報告され、習慣流産には胎児先天異常によるものが私たちの想像よりもはるかに多く起こっています。

実際に胎児染色体検査を系統検査の一つとして482組の患者さんの異常頻度を調べてみると胎児異常流産は41%に存在しました(図3文献2)。

2009年に胎児染色体異常に関与するSYCP3遺伝子変異が習慣流産26例中2例に発見されたと報告されました。もし本当であれば、7.7%の頻度であり、夫婦染色体転座よりも高頻度の原因を占めることになります。私たちは原因不明習慣流産101例について追試を行いました。患者1例、対照1例にexon8の657T>C変異を認めましたが、患者さんの過去の流産の絨毛染色体は46,XYと46,XYであったことからこの変異は染色体異常流産と関係しない遺伝子多型(1%以上の頻度の変異)と考えられました(文献26)。SYCP3は「世界初の習慣流産原因遺伝子」と新聞報道されましたが、それは間違いであり、1990年から現在までに100個ほどの習慣流産に関する遺伝子多型が報告されています。関係ないという否定的な論文もたくさんあります。

原因不明の患者さんは薬剤投与の必要性はなく、一定の確率で成功できます。2回流産なら80%、3回70%、4回60%、5回50%の方が次の妊娠で出産できます(図24)。

前述のとおり、胎児染色体異常が確認された人は予後がいいと考えられます。

[図23:既往流産回数別出産成功率と流産児の胎児染色体異常の割合]
既往流産回数別出産成功率と流産児の胎児染色体異常の割合

  2 3 4 5 6 7 8 9 ›10
成功率 347/452 311/460 121/192 40/78 14/39 8/24 5/17 3/14 2/33
染色体異常 35/55 46/78 21/38 7/18 4/14 4/8 0/7 2/7 1/9

Ogasawara et al., Fertil Steril 2000

[図24:薬剤投与のない反復流産患者の生児獲得率]
薬剤投与のない反復流産患者の生児獲得率

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12.原因不明習慣流産に対する着床前スクリーニング

着床前スクリーニングによって出産できるようになるという研究成果はありません
過去2回流産なら80%、3回70%、4回60%、5回50%の方が次の妊娠で出産できます
40歳代でも58%が着床前スクリーニングを実施しなくても出産できます

日本産科婦人科学会は、生命の廃棄、優生思想を助長するという批判があるため、着床前スクリーニングを承認していません。2014年3月から着床前スクリーニングの議論が始まりました。

欧米では、胎児染色体数的異常流産に対して着床前(受精卵)スクリーニングが行われています。Platteauらの報告によると4.5回流産歴のある25人の原因不明の習慣流産患者に着床前診断を行ったところ妊娠継続できたのは25%の人でした。私たちの研究では過去5回流産歴のある患者さんの51%が次回自然妊娠で出産できており、Platteauらも着床前スクリーニングの有効性は認められないと言っています(表25)。
これらの論文の問題点は、

  • 着床前スクリーニングを行わなかったらどうか、という対照の設定がない
  • 年齢と過去の流産回数によって出産率は異なるので、無作為割り付け試験(もしくはそれに準じた科学的な研究方法)が必要だが、そのような研究が報告されていない
  • 原因不明習慣流産には胎児染色体正常流産が含まれるが、それらを除外していない

という点です。

原因不明習慣流産は、2回流産なら80%、3回70%、4回60%、5回50%の方が次の妊娠で出産できます。40歳以上の患者さんでも58%が出産しています(表25右端文献27)。「実施しなかったらどうか」ということを説明されているかが重要です。

高齢不妊女性の着床前スクリーニングの有効性はすでに否定され、習慣流産でも出産率が上昇するエビデンスがなく、欧州ヒト生殖医学会、米国生殖医学会は着床前スクリーニングを臨床的には推奨しないと述べてきましたが、欧米では広がってしまった現状があります(図26)。

一方、着床前診断に関する新たな技術も進んできました。

例えば、採卵後3日目に細胞を採取する方法よりも5日目の胚盤胞から胎盤になる側の細胞を採取する方法の方が妊娠率が高いというものです。ただし、まだ欧米でも普及はしていません。

診断の手技は次世代シークエンサーを用いるとアレイCGHと同等に診断できるようです。これらの技術を用いた研究もすでに5年ほどの歴史があり、出産率が上昇したという論文がいくつか報告されました。注意すべきは、「若い女性、高齢でも多数の採卵が可能な女性、FSH低値、体外受精反復失敗例を除く」などの「予後良好群」を選択している点です。スクリーニングは受精卵を選ぶための技術なので、選べるほど卵子が採取できない女性にメリットがないのは当然です。高齢女性の正常な卵子が、この技術によって突然増加するわけではないですから。着床前スクリーニングに期待する我が国の高齢女性にとって福音になるという証明はまだありません。

名古屋市立大学は日本産科婦人科学会の臨床研究に参加します。

  • 習慣流産(反復流産含む)
  • 不妊症を合併しており体外受精を既に実施している
  • 過去の流産の胎児(胎芽)染色体異常が確認されている

患者さんを対象として、多施設で無作為割り付け試験を3年間で実施し、出産率、流産率などを調べる予定です。

[表25:受精卵スクリーニングによる生児獲得率]
  受精卵スクリーニング 自然妊娠
  Wilding M Platteau et al. Munne S Otani et al. Sugiura-
Ogasawara M
    37歳未満 37歳以上 37歳未満 37歳以上   既往流産5回 40歳以上
患者数 48 25 24 21 37 97 78 43
年齢 35.4 31.5
40.2
32.6 39.5 39.1 32.5 40歳以上
既往流産回数 3.7 4.5
4.9
3.7 4.1   5 2.9
方法 FISH FISH   FISH   CGH    
胚移植           53    
妊娠   9 1     39    
流産       23% 12% 3    
出産率 45.8% 36% 4.2% 47.6% 40.5% 37.1% 51.3% 58.1%
出産率
/妊娠
F&S
2004
F&S
2005
  F&S
2005
  読売
新聞
F&S
2000
AJRI
2009

[図26]

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13.原因不明習慣流産に対する免疫療法

人間の体には自分自身と他者を区別して、他者を排除する「免疫」の仕組みを持っています。母体にとって胎児は半分が他者であるにもかかわらず、免疫学的拒絶反応を免れています。Medawar博士は1953年、妊娠を自然の移植成功例として捕らえ、

  1. 胎児は抗原として未熟であり、母体免疫系に認識されない。
  2. 子宮は免疫学的に特殊な部位にあり、母体の免疫能は妊娠中低下している。
  3. 母児間は胎盤によって隔絶している。

といった仮説を提唱しました。この仮説は現在では否定的ですが、それ以来、移植免疫学的手法を用いた研究が積み重ねられ、現在の生殖免疫学の基盤が築かれました。

1981年、原因不明の習慣流産の治療として夫リンパ球による免疫療法が報告されました。当初、夫婦のHLA抗原の一致率が高いほど免疫療法が有効であると推測されました。つまりHLA抗原が類似していると子宮局所で胎児抗原が認識されず、免疫学的妊娠維持機構が成立しないために流産が繰り返されるという理論です。名古屋市立大学も1983年に日本で最初に免疫療法に成功し、習慣流産の分野で有名な施設になりました。その後この理論的根拠は否定されましたが、その後も本邦を含め免疫療法は約20年間行われてきました。しかし、1999年の二重盲検無作為割付試験(レベルIIa)によって免疫療法は生理食塩水と同等の出産率であり、無効であるという結果が示され、米国のFDAは感染、対宿主移植片反応の危険性もあるため、夫リンパ球を用いた免疫療法を「研究目的以外に行わない」ことを勧告しました。私たちもこの結果を重視して、現在免疫療法は行っておりません。

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14.原因不明反復流産に対する薬剤投与

原因不明の患者さんは薬剤投与の必要性はなく、一定の確率で成功できます。2回流産なら80%、3回70%、4回60%、5回50%の方が次の妊娠で出産できます(図24)。

私たちも過去に原因不明習慣流産に対する免疫療法、アスピリン、ヘパリン、ピシバニール(OK-432)、ステロイドなどいろいろな治療を試みてきました。しかし薬物療法なしと比較して出産成功率が上昇した方法はありませんでした。

私たちの検討で夫婦染色体異常、子宮奇形のない夫婦の85%が累積成功しています。

次回生児獲得率pは

logit(ps)=3.964-0.0652×(女性の年齢)-0.408×(既往流産回数)

の計算式で推定できます(文献27)。あなたの年齢と今までの流産回数を入力してみてください(ただし、7回以上の場合の計算は正確にできません)。次回の妊娠での出産成功率がわかります。

ピシバニールについては、以前私たちは夫リンパ球免疫療法を行った場合と同等であることを発表しました。夫リンパ球が生理食塩水と同等であるのだから、ピシバニールも同等であり、ピシバニール投与後の出産率は70%、投与しなくても70%ということです。

ヘパリンについても同様です。抗リン脂質抗体症候群に準じて、原因不明に対してもアスピリン・ヘパリン療法を行う施設が数多く存在します。まず、抗リン脂質抗体の測定を正しく行うことに尽力するべきです。原因不明習慣流産に対するアスピリン・ヘパリン療法、アスピリン単独、偽薬による無作為割り付け試験の結果、有用性がないことが立証されました(文献29)。

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15.原因不明の原因

1990年から遺伝子多型の研究が行われ、反復・習慣流産関連遺伝子が100個以上報告されています(図27)。遺伝子多型とは1%以上の頻度でみられる遺伝子変異のことです。凝固系のみならず、免疫系、サイトカイン、内分泌系、代謝系の遺伝子多型と関与していることが報告されています。私たちが報告したものをピンクで示しました。

アネキシンA5は胎盤に豊富にあり、凝固を抑制していることがわかっています。このANXA5遺伝子多型頻度が習慣流産患者において健常人よりも高いという論文が4つありました。私たちも同じ研究を行い、SNP5が患者さんにおいて高頻度であることを確認しました。しかし、次の妊娠ではこの変異が有、無の間で、出産率は全く差がないことがわかりました(表28文献29)。したがって、この遺伝子変異を持つ方にヘパリン投与を行う必要はありません。

この例が示す通り、流産に関係する遺伝子はたくさん存在しますが、個々の遺伝子変異があっても必ず流産することを意味しません。遺伝子変異の流産への影響力とその数によって流産しやすさが決まると推測しています。

[図27:不育症に関連する遺伝的要因]
不育症に関連する遺伝的要因

習慣流産との関係が報告されている遺伝子多型
HLA-G、HLA-E、Class II
FV Leiden、FIIG20210A、PAI-1 4G/5G、ANXA5、FXII、FXIII、JAK2V617F、ProteinZ、EPCR A1、β-fibrinogen 、β3 subunit of integrins αIIb/β3 and αV/β3 、a2 subunit of integrin a2b1、TAFI
L-1β、IL-1R、IL-1Rα、IL-4、IL-6、IL-10、IL-12、IL-18、TNF-α、TNF-αR1、TGF-β1、IFN-g、Lymphotoxin-α、KIR、CTLA-4、CD14、CD46、LIF、IGF-2、IGFBPA、VEGF、H19、IDO
ER、PR、AR、PRLR、Chorionic gonadotropin-β5 (CGB5)HPO、ANGPT2
MTHFR、eNOS、ACE, GCCR, ACVR1
CYP1A1、CYP1A2、CYP1B1、CYP2D6、CYP17、CYP19、GSTM1、GSTP1、GSTT1、PAPP-A
Apolipoprotein E、STAT3、p53codon、Acetylcholinesterase
MBL、ARNT
[表28:アネキシンA5遺伝子変異の次回妊娠への影響]
  遺伝子変異あり
T/G or G/G
遺伝子変異なし
T/T
225人の生児獲得率 70.0 % (63/90) 71.9 % (97/135)
治療を受けた39人の生児獲得率 63.2 % (12/19) 65.0 % (13/20)
胎児異常流産を除いた190人の生児獲得率 84.0 % (63/75) 84.3 % (97/115) 

Hayashi et al. Fertil Steril 2013

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16.さいごに

1980年代には、3回流産をすると次は100%流産すると私たちも思っていました。その後臨床経験をつんで、そうでないことが判りました。いまでも3回流産した患者さんは次に100%流産すると思っています。流産に詳しくない医師もそのような誤解をしばしばします。流産がショックで避妊をする人もいらっしゃいますが、その時間を無駄にすることによって(加齢によって)出産が難しくなっていることも事実です。

流産した患者さんは自分を責めたり、自尊心が低下する傾向にあります。しかし、多くは胎児の異常で起こり、少なくとも女性の不摂生で起こるわけではないことを明記しておきます。

流産胎児には染色体が3本のトリソミーがみつかります。図29は名古屋市立大学の反復流産の胎児染色体検査の結果です。流産で見つかる染色体異常は16番トリソミーが最も多く、これは新生児には認められません。ヒトは重篤な場合、生まれることが出来ない運命にあります。この子どもたちは妊娠初期が寿命であり、それが多くの流産の本質です。

85%のかたが出産できているのだから、前向きに妊娠に向かうことが重要です。とても辛いようでしたら、豆柴ダイヤルの心理士さんがお気持ちを伺います。みなさん、一緒に流産を乗り越えましょう。

[図29:流産胎児にトリソミーを認めた染色体番号]

厚生労働省不育症研究班ポスター

豆柴ダイヤル


厚生労働省不育症研究班ポスター
豆柴ダイヤル(名古屋市不育症電話相談窓口のご案内)

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17.文献

  1. Sugiura-Ogasawara M, Suzuki S, Ozaki Y, Katano K, Suzumori N, Kitaori T. Frequency of recurrent spontaneous abortion and its influence on further marital relationship and illness: The Okazaki Cohort Study in Japan. J Obstet Gynaecol Res. 2013; 39: 126-31.
  2. Sugiura-Ogasawara M, Ozaki Y, Kitaori T, Kumagai K, Suzuki S. Midline uterine defect size correlated with miscarriage of euploid embryos in recurrent cases. Fertil Steril 93: 1983-1988, 2010
  3. Branch DW, Gibson M, Silver RM. Clinical Practice: Recurrent miscarriage. N Engl J Med 2010; 363: 1740-1747.
  4. Sugiura-Ogasawara M, Ozaki Y, Katano K, Suzumori N, Kitaori T, Mizutani E. Abnormal embryonic karyotype is the most frequent cause of recurrent miscarriage. Hum Reprod 2012; 27: 2297-2303.
  5. Miyakis S, Lockshin MD, Atsumi T, et al. International consensus statement of an update of the classification criteria for definite antiphospholipid syndrome (APS). J Thromb Haemost 2006; 4: 295-306.
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