行政の取り組み

 

1. 日本国内の状況
 わが国には山梨県甲府盆地、福岡県および佐賀県筑後川流域、広島県福山近郊片山地区の他に利根川下流域、静岡県沼津市、千葉県木更津市小櫃川流域などに流行地が存在した。山梨、福岡・佐賀、片山などでは撲滅対策のための組合を結成し、各地方自治体と連携して対策事業に当たってきた。その後、患者発生の消退や中間宿主貝の根絶などで流行の終息が宣言され、1996年2月19日の山梨県知事による同県内の流行終息宣言をもって、国内の日本住血吸虫症の流行地は消滅した。行政的には今日、すべての対策事業は終了しているが、山梨県など中間宿主貝がなお存在する地域では別途に監視事業が継続して行われている。

 
 

2. 日本の国際医療協力の中の住血吸虫症の位置づけ
 1998年に日本政府がとりまとめた「The Global Parasite Control for the 21st Century」のなかで住血吸虫症は第2群、すなわち有効な防圧法、予防・治療薬などが確立していて、研究の主眼が対策プログラムの実施方法論、実施のための道具類、医学以外の社会学、昆虫学などにもおかれるべき疾患として分類された。しかし実際の途上国での流行地の対策に困難要因が大きく、対策の実効が上がっていない実態が明記されている。

 
 

3. 世界保健機構(WHO)の取り組み
 WHOにおける熱帯病研究特別プログラムにおいて、人類の健康にもっとも重大な脅威となっている感染症の一つとして位置づけられ、さまざまな対策計画が実施されてきた。その後、WHOの機構改変を受けて、住血吸虫病を含む緊急に対応すべき熱帯感染症が見直され、WHOによる住血吸虫症対策研究補助事業が終了した。これによって、流行地における住血吸虫症対策に対する予算が大幅に削減され、これまで進めてきた住血吸虫症の制圧が後退してしまう危険性が生じている。

 
 

4. 地域ネットワークの作成
 東アジアで日本住血吸虫症の流行域をかかえる中国とフィリピンにより、同症の対策を目的にしたアジア地域住血吸虫症対策ネットワーク(Regional Network on Asia Schistosomiasis : RNAS)が、両国と日本・オーストラリアの研究者を加えて結成された。RNASでは対策事業に関する意見交換を主な目的として、ワクチン・診断技術の開発、疫学調査の手法改善などを活発に討論している。