わが国における法医学の歴史は,1888年東京帝国大学に裁判医学教室が開講されたことにその端緒を求めることができる。現在では「法医学」の名称で統一されており, 学会名称も日本法医学会(1914年創立)となっているが, 近年大学院大学化等にともない大学(院)では講座(分野)名に法医学の語を用いていないところもある。
ひろく「人体に関わる提訴における検査・鑑定」を業務とするということができるが, そのすべてを法医学者(法病理学者)がカバーしているわけではなく, 臨床医によりなされるものもある。わが国で法医学者が行う業務の主なものを以下に挙げる。
いわゆる医学鑑定としてはこのほかに精神科医による精神鑑定,臨床医による医療事故・医療過誤に関する鑑定がある。 また法医学は応用医学(社会医学)であるので,さまざまな分野と関連しているが, 法にかかわる医学的諸問題を取り扱うという面からは, 医事法制・賠償医学などの近接領域がある。
わが国の法医学はドイツ法医学の影響を強く受けており,また国内で独自の発展を遂げた部分もあるため,米国のそれとは研究対象およびその枠組みが異なる。 したがって英(米)語名称との対応については若干の議論があるが, 法医学の各分野について米語名称とともに簡単に説明する。
頻繁に使われる名称ではあるがそのさし示す範囲は若干曖昧である。 一般的にはforensic pathology,forensic toxicology, および医療活動のmedico-legalな側面の三者を含むと考えられる。また, forensic sciencesの一分野として扱われることが多い。
死体現象,損傷・窒息その他の外因死および内因死をあつかう。 したがって米語では狭い意味での法医学にはこの語が用いられる。
法的問題を有する事例から得られた試料の薬毒物分析・評価を行う。
従来は法医血清学と呼ばれ,血液型等の遺伝的多型による個人識別を目的としていた。また本邦ではドイツの影響や,国内の歴史的経緯から法医学の一主要分野を形成していた。その後1985年JeffreysによるDNAフィンガープリント法の開発や,1987年MullisらによるPCR法の発表を契機に,DNA多型が検査・研究対象の主流となり現在に至っている。
歯科所見をもとに個人識別等を行うのが主たる目的である。 わが国では従来法医学の一分野とされていたが,近年は独立した分野を形成しつつある。またDNA多型も主要な研究領域となっている。
主たる対象は骨検査であり,歴史的試料も扱う。欧米では physical anthropology の一分野として位置づけられており,本邦においてもその傾向はある。この分野においてもDNA多型検出技術が導入されている。
わが国の医科大学における法医学の系統講義の内容として扱われるのはおおむね上記の分野である。
この語は forensic medicineよりも広い意味で用いられる場合とmedical jurisprudence (medico-legal aspects of medical practice) の意味で用いられる場合がある。 本邦の法医学教室の英語名称はDepartment of Legal Medicineであるところが多いが,これは主としてドイツ法医学の影響によるものと考えられる。
主に死体を蚕食する昆虫の生活環(life cycle)と死体昆虫相の遷移(succession)を指標として,死後経過時間の推定を行う。
参考URI: http://www.forensicentomology.jp/
法律あるいは犯罪に関わる科学全般をさす語。きわめて多岐にわたる分野を包含する。http://www.aafs.orgAmerican Academy of Forensic Sciences (AAFS: アメリカ法科学会)はforensic sciences を次のように定義している。
``Forensic science is the application of scientific principles and technological practices to the purposes of justice in the study and resolution of criminal, civil and regulatory issues.''
またAAFSは11のセクション(Criminalistics, Digital & Multimedia Sciences, Engineering Sciences, General, Jurisprudence, Odontology, Pathology & Biology, Physical Anthropology, Psychiatry & Behabioral Sciences, Questioned Documents, Toxicology)により構成されており,構成員については次のように述べている。
-- Included among the Academy's members are physicians, attorneys, dentists, toxicologists, physical anthropologists, document examiners, psychiatrists, physicists, engineers, criminalists, educators, digital evidence experts, and others.
なお本邦においては「法科学」の呼称についてはその扱いについて議論があり,完全な同意にいたっていない。