蝶ヶ岳山頂(2677m)における急性高山病の酸素投与指針

   --------酸素投与量方法---------

1)SaO2 80-90%では酸素吸入なしで、患者には「深呼吸の指導」のみで対応できる場合が経験的に多い。患者にSaO2モニタを装着し、深呼吸の効果を患者自身が体験的に理解できるように指導すると効果的である。聴診所見で、肺胞ラ音がないことを確認できる場合には、患者自身による深呼吸法の習得が第一選択になる。

2)SaO2が80%未満になる症例では、急性高山病が重症化する危険性を想定して慎重に経過を追う。少量のO2投与を0.5L/minでも有効である。呼吸状態を観察しながら10-15分後にSaO2を再チェックする。酸素投与を継続する場合でも、深呼吸の指導を合わせることで酸素摂取率を格段に改善させる。このレベルでの酸素投与は、酸素投与そのものよりも意識的な深呼吸法の効果が大きいと考えられる。むやみにO2流量だけを増加させて1時間以上も患者をベットに安静放置しても効果は少ない。

(注意)急性高山病で頭痛を伴っている患者は、呼吸が苦しいように見えるので、早急に高濃度の酸素を投与したくなる。しかしCO2ナルコーシスに陥っている患者に対して、急激な高濃度の酸素投与をすると、低酸素の呼吸刺激が消えて、呼吸停止が発生する危険性も知られている。一般論であるが、呼吸不全に対する酸素投与は、少量から開始して慎重に患者の容態を観察していくのが正当な手順である。幸か不幸か蝶ヶ岳ボランティア診療所に用意されている酸素マスクを使う限り、高濃度酸素の投与が難しいので、呼吸停止のトラブルが発生する危険性は低い。これまでの蝶ヶ岳山頂で経験した急性高山病の症例では、山頂まで到達できる正常肺機能を持つ登山客であり、O2流量0.5L/minで深呼吸指導するだけで、十分な酸素投与効果を呈して、SaO2が上昇している。2~3 L/min以上の大量酸素投与の必要性は少なく、少量の酸素投与に、深呼吸法の指導を積極的に取り入れることが推奨される。

酸素投与は、Netmeetingなどで医師の指示を仰ぎながら、現場の学生も積極的に実施できる一般的救急処置と考えます。


三浦 裕
名古屋市立大学蝶ヶ岳ボランティア診療班運営委員長
名古屋市立大学大学院医学研究科分子神経生物学准教授


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更新日 07.Aug.15
名前 Yuaka Miura、M.D., Ph.D.