ホーム > エコチル特集 > 環境と子どもの健康 最前線 > No.8 「自閉症の理論仮説から学ぶ『子育て』の視点」

No.8 「自閉症の理論仮説から学ぶ『子育て』の視点」

自閉症研究で有名なケンブリッジ大学のサイモン・バロン=コーエン教授は、「共感性」と「システム化」という2つの心の働きから、女の子と男の子の特徴、さらには自閉症の子どもの特徴を理解しようとする理論仮説(E-S理論)を提唱しています。子育てにも役立ちそうな理論なので、近年の研究成果を含めて紹介したいと思います。

ママの気持ちを読むのが得意な子ども(共感性の働き)

子どもを観察していると、ママやパパの気持ちを一生懸命感じ取ろうとする子どもの心の働きがわかります。このようなヒトの気持ちに向けられた心の働きを「共感性」と呼びます。例えば、ママの気分、パパの忙しさなどを読み取って、一番遊んでくれそうなおじいちゃんに話しかけている子どもを見ると、共感性が発達しているなと感じます。

私も5歳の娘がいるのですが、ある朝、疲れて寝ている妻に車で駅まで送ってほしいと頼んでみました。すると、娘が布団からそっと顔を出して×印のサインを投げかけてきました。「ママを起こさないで」というメッセージを、ママを起こさないように無言で訴えてきたのです。共感性を大切に育てたいと思ったので、駅まで歩くことにしました。

なぜそうなっているのか? を調べるのが得意な子ども(システム化の働き)

同じようにオモチャで遊んでいるように見えても、「なぜこんなふうに動くのか?」という仕組みを調べようとしている子どもを見かけることがあります。このようなモノの仕組みに向けられた心の働きを「システム化」と呼びます。先日、エコチル調査のイベントで子ども達の写真を撮っていたときのことです。多くの子どもたちは自分がどんなふうに写真に写ったのかを見たくて集まってきます。ところが、1人の男の子が目を輝かせながら夢中になってカメラを触りだしたのです。大きなレンズがどのようについているのかを調べている様子を見て、この子はシステム化が発達しているなと感じました。将来が楽しみな素晴らしい集中力でした。

女の子と男の子

女の子と男の子の遊び方の違いも共感性とシステム化の違いから解釈できるといわれています。バロン=コーエンの調査は、女の子は共感性の得点が高く、男の子はシステム化の得点が高い傾向があることを確かめています。これが正しいとすると、女の子がママの気持ちを演じる共感性の遊び「ママゴト遊び」を好む理由がわかります。男の子がモノの仕組みを作り上げるシステム化の遊び「ブロック遊び」を好むのもうなずけます。先日、私は娘と動物園に行ったのですが、キリンの体があまりにも長くバランスの悪いことに改めて衝撃を受けました。なぜあんなに細長くなってしまったのか?という進化のプロセスに想像をめぐらしていた時です(システム化)。

キリンの雰囲気や可愛らしさを一瞬で感じ取った娘は(共感性)、次の動物エリアに行こうとせかしてきます。このような動物園の楽しみ方の違いを大人と子どもの違いとみることもできますが、共感性とシステム化の違い、さらには男女の違いとみることができそうです。

自閉症傾向の子ども

多くの子ども達は共感性とシステム化をバランスよく育んで大人になっていきますが、中には極端に共感性が苦手でシステム化が得意な子どもがいます。極端に共感性が苦手であることは「人の気持ちになって考えるのが苦手」であること。極端にシステム化が得意であることは「こだわりが強い」とみられる可能性があることを意味しています。これらの特徴が自閉症の特徴と一致することから、極端にシステム化だけが発達した状態を自閉症の特徴とみなす理論仮説(E‐S理論)が成立したのです。自閉症が男性に多いこと(古典的自閉症の男女比=4:1)、さらに男性がシステム化を得意とする傾向があることは、この理論仮説をより確からしいものにしています。ごく一部の子どもの特徴として自閉症を理解するのではなく、誰もが(特に男の子が)持っている心の特徴として捉えたことに、E‐S理論の貢献があると思います。

ホルモンの濃さと子どもの様子を調べたところ..

ケンブリッジ大学の研究

自閉症の特徴を男の子の特徴の延長線上に捉える視点がもたらされたことによって、近年では男性ホルモンが自閉症傾向に影響しているのではないかと考えられるようになりました。ケンブリッジ大学の研究では、羊水検査に使用された妊娠中の羊水を用いて 赤ちゃんが分泌した男性ホルモンの濃さを測定しています。産まれてきた子どもにみられる自閉症の特徴との関連性を調べようというのです。まだ科学的に確かだといえるほどの研究結果は得られていませんが、羊水中の男性ホルモン濃度と自閉症の特徴との関連性が示唆されています(上図)。

エコチル調査が確かめること

物事をよく観察し、基礎的なデータを集めてつくられた理論仮説は、子育てにも役立つ実用的なものに見えます。ただし、最後はそれが本当に正しいのかについて科学的に確かめる必要があります。ケンブリッジ大学の研究成果はいずれも70~230人の子どもから得られたものです。質問票の回答率の低さも(2006年の調査では46%)科学的根拠を弱くしています。

自閉症はエコチル調査が扱う重要な個性のひとつですが、エコチル調査は10万人の調査であることや、皆様のご協力により高い質問票回収率(75~95%)を達成していることから、より確かな知見が得られると期待できます。大変な調査ですがこれからもご協力をお願いいたします。

山田泰行先生