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No.1「落ち着きのない子どもの原因とは?」

最近、テレビ・マスコミなどでも取り上げられることが多くなった「ADHD」という言葉をご存知でしょうか?「授業中に落ち着いて席についていられない子どもの増加」や「学級崩壊」との関連と言ったテーマで、ときどきテレビ番組でとりあげられるのがADHDです。
今回はADHDの特徴と最新の研究内容について、愛知ユニットセンターの山田泰行先生に分かりやすく解説していただきました。

ADHDを知っていますか?

みなさまは注意欠陥多動性障害(ADHD)という言葉を聞いたことがありますか?「授業中に落ち着いて席についていられない子どもの増加」とか「学級崩壊」との関連といったテーマで、ときどきテレビ番組でとりあげられるのがADHDです。ADHDは、「不注意」、「多動性」、「衝動性」という3つの症状で知られていますが、今回はみなさまとADHDについて理解を深めていく中で、その原因にアプローチする最近の研究についてご紹介したいと思います。

ADHDの「不注意」の特徴

ADHDの「不注意」とは、集中力が持続しないという特徴を示します。このような子どもは、1つの遊びに興味が続かないので、(片づけができる年齢になっても)いつも子どもの周りにオモチャがたくさん散らかっていることがあります。学童期以上の子どもでは、TVゲーム、インターネット、オモチャ、カードゲーム…といったように、短い時間で目まぐるしく遊びの内容が変わっていく子もいます。集中力の短さを自覚している子もいます。私が適応支援のため不登校児童の家庭訪問を行っていたとき、子どもから「このブロックで飛行機をつくって」と指示されました。言われるままに飛行機づくりを始めると、わずか数分後には「TVゲームをしようよ」と誘ってきます。そこで私は「ちょっと待って、ブロックを完成させたいから」と言い、あえてブロックに集中する様子を見せることにしました。すると、「ぼくはいつもすぐ飽きてしまうダメ人間だ」と言って彼は自分を責め始めたのです。自分ではわかっているのに、やめられないこともあるのですね。同様に、どれだけ注意されても忘れ物をしてしまう、大切な約束をすっぽかしてしまう、などが「不注意」の特徴といえます。

ADHDの「多動性」の特徴

ADHDの「多動性」の特徴には、授業中に落ち着いて席に座っていられない子どもがよく例にだされます。この特徴は家庭でも見られます。私が関わった子どもの1人は、一緒にテーブルでお弁当を食べていると、あっちをうろうろ、こっちをうろうろして、テーブルの近くに差し掛かって、自分のおにぎりが目に飛び込めば、パクッとひとくち食べる。母親に「イスに座って食べなさい」と言われても耳に入らず、オモチャのところに行き、テレビをチェックして‥‥、またおにぎりが目に入れば戻ってきてパクッと食べる。これが彼の日常の食事の光景のようでした。決してこれは家庭でのしつけの悪さではなく、「多動性」の特徴とみることができます。

ADHDの「衝動性」の特徴

ADHDの「衝動性」には、順番を待てない、他人の遊びを邪魔する、自分のタイミングで話し出す、といった特徴があります。衝動性は授業中の私語の多さや、自分勝手な行動につながるので、学校で目立ってしまうこともあります。ものの善し悪しに関わらず、思いついたらすぐに行動してしまうのです。私がブロックの飛行機づくりに集中しているのに、自分が他にやりたいことが浮かぶと、即座にそれを妨げてくるところなどは衝動性の特徴といえるでしょう。ADHDはこれら3つの症状のいくつかが、7歳前に6カ月以上持続して、2カ所以上の場面(家庭や学校など)でみられる場合に疑われる障害です。

ADHDの原因は何だろう?

それでは、ADHDの原因とは何なのでしょうか?これまで、子どもの家庭環境や教育の質(社会要因)、食事や睡眠(生活習慣要因)などが原因と考えられていたこともありましたが、現在では、多くの研究者が、遺伝や脳神経系の機能不全(遺伝要因)にあると考えています。もちろん、同じADHDの特徴を持って生まれてきたとしても、家庭や教育の特徴によって子どもの社会適応の程度はかわってきます。そのため社会要因や生活習慣要因を軽視することはできませんが、ADHDという障害の発生メカニズムだけを考えたとき、生まれつきの素因の影響が大きいという考え方が主流になってくるのです。

環境中の化学物質がADHDに影響する?

このような中、2010年にハーバード大学の研究グループが「ADHDと有機リン系殺虫剤の尿中代謝物」という論文を発表しました。市販の有機リン系殺虫剤は日本でも広く使用されていますが、人体への影響が極めて低いことで知られています(LD50値※に基づくとカフェインや唐辛子などの食品よりも安全です)。ところがこの研究は、8歳から15歳の子どもの尿に含まれる有機リン系殺虫剤の代謝物(体内に取り込んだ有機リン系殺虫剤のめやす)を調べたところ、この物質が少ない子どもよりも多い子どもの方が、ADHDである確率が2倍も高いという結果を示したのです。ただし、著者自身もこの結果が正しいかどうかの判断は未来の研究に託すとしているように、現段階では本当に有機リン系化学物質がADHDに関連しているのかについてはよくわかっていません。なぜならば、有機リン系化学物質ではなく、塩や砂糖について調べても同じような結果がでてしまうのかもしれないからです。また、遺伝要因の影響力に比べて、この化学物質の影響力が極めて小さいものであるならば、現実的には過度に怖がる必要のない化学物質とみなされるでしょう。このように、多くの課題は残されてはいますが、社会要因でも生活習慣要因でも遺伝要因でもなく、子どもを取り囲む環境要因(環境中の化学物質など)に着目して研究が行われ始めたことが大切であると思います。

エコチル調査に期待されること

エコチル調査は、子どもの健康・発達と環境化学物質の関係を調べることを目的とした大規模調査です。10万人の方にご協力いただきますので、3%程度のお子さんにあてはまるとみられているADHDについても十分に調査を行うことができます。ご協力者いただく方には尿だけではなく、血液やさい帯血(へその緒の血液)、毛髪などもご提供いただきますので、これまでより精密な分析を行うことができます。分量の多い質問票にもご回答いただきますが、社会要因や生活習慣要因についてお聞きしますので、それらと比べて環境要因の影響がどのくらい強いかを比較することもできます。エコチル調査を通して、有機リン系殺虫剤とADHDの真の関連性も明らかにされていくことでしょう。
調査はまだ始まったばかりですが、みなさまのご理解とご協力をこれからもよろしくお願いいたします。

※LD50値:実験動物がとりこんだとき半数が死んでしまう摂取量